後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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フィルアデス大戦篇
第25話


中央歴1639年 8月15日 日本 帝都東京

 

前世において太平洋戦争が日本の無条件降伏により終結したこの日、大高と高野は神楽坂の料亭に居た。

 

 

「今年も来ましたな。」

 

「えぇ……………いつの年になっても、この日は前世の事を嫌でも思い出します。ですが今年の8月15日は例年と比べれば、落ち着きません。」

 

「国土ごと別世界に転移するなど、前代未聞ですからな。」

 

 

 

二人は目の前の膳に並べられた料理が入った小鉢をつつきながら語り合う。

 

 

「総理、現在外務省が進めている周辺国との接触に関しては何か進展は……」

 

「はい。今のところフェン王国とシオス王国、アルタラス王国の3国との接触は何とか平穏に進んでいますが、1つだけ懸念すべき国家があるのです。」

 

「その国家とは…」

 

「パーパルディア皇国です。この世界における列強国の一つなのですが、これが相当にプライドの高い国家のようで、接触は出来たのですがどうにも進展は見られません。」

 

 

 

 

『パーパルディア皇国』

 

 

ロデニウス大陸より北に位置するフィルアデス大陸を支配する列強国の1つであり、周辺国よりも遥かに進んだ軍事力と国力を背景に、大陸内のほぼ全ての国家を支配下に置く大国である。

しかし、傲慢で尚且つプライドの高い国民性から自国周辺の国家を下に見る傾向があり、周辺国の国民からは『悪魔のような国』とも言われている。

 

 

 

 

「つい先日も約束していた日に外務省の職員が向かうと『列強国でもないのに、我が国の国民に治外法権を認めないと言うのか!』と門前払いを受けました。少なくともあの国は我々を格下と見ていると言う事です。」

 

「転移してからまだ半年しか経過していませんから、もしかしたら国家としてもまだ認識されていないのかもしれません。もし少し対応を誤ると、戦争に発展する事態になるやもしれませんな。」

 

「だとしたら早急に国交を結ぶ必要があります。せめて両国家間同士での戦争は避けたいと言うのを目標にしなければ。」

 

 

 

 

 

 

 

ロデニウス大陸より北東に位置する陸地に存在する国家『フェン王国』…………

 

 

この国には魔法は無い……

 

 

国民は全て義務教育として老若男女問わず、剣術を学ぶ。日本の侍と同様に剣は自分の魂と教えられ、剣が使えない軟弱者はバカにされる。

 

 

 

「なんと言うか、気が引き締まるな。」

 

 

 

首都アマノキの王城に3人のスーツを着こなした日本人が居た。

彼らは、大高総理の命を受けてフェンに派遣された日本の特使であり、彼等はフェン王国側の軍人数名と外交担当員、家臣と思われる人々達と共に本丸御殿で剣王を待つ。

 

 

 

「それにしてもあの城、我が国の姫路城によく似ています

 

 

聳え立つ王城は戦国時代の城を彷彿とさせる。

瓦屋根、白塗りの壁はまさに日本式の城そのものである。

 

 

「剣王様のおな~りぃ~。」

 

 

その声と共に正座していた家臣や軍人、外交担当員達が一斉に頭を下げ、特使達も同じように頭を下げる。

御殿に入ってきたのは、如何にも殿様と言ったような雰囲気を醸し出すフェン王国の剣王『シハン』だった。

 

 

 

「面を上げよ。」

 

 

 

御殿の上の一段高くなっている御座に座り、皆が頭を上げる。

 

 

 

「そなた達が日本国とやらの特使か?」

 

「はい。私は日本国外務省より貴国へ遣わされました島田と申します。本日はお忙しい中、我々と謁見をしていただく時間を設けていただき、誠にありがとうございます。」

 

「うむ。して、そなた達は何用で参られた?」

 

「貴国と我が国との間で国交を開設したく思い、参りました。先ずはご挨拶とお近づきの印として、我が国の品をお納めください。」

 

 

剣王の前に島田達が持ってきた日本の名産品が並べられる。

 

島根の玉鋼から人間国宝の職人が1から造り上げた日本刀、京都の老舗から取り寄せた最高級の反物、天然の真珠で作られたネックレス、有名な窯元で作られた壺と皿等と陶器類、足踏み式のミシンが用意され、シハンはその中から日本刀を手に取る。

 

 

そしてゆっくりと引抜き、日本刀の刃を見る。

 

 

 

「これは………貴国には我が国の鍛冶職人にも負けず劣らずの腕のよい職人が居るようだ。」

 

 

シハンは日本刀を家臣達にも手渡し、受け取った家臣らは互いに日本刀を眺める。

 

 

「これは凄い………鉄をこんなに薄く伸ばすには相当の労力が要るだろう…」

 

「見てみろ、この剣に使われている金属は恐らく相当純度の高い砂鉄が使われているに違いない。」

 

 

口々に日本刀の評価を述べる家臣達を見て、気を良くしたシハンは、島田達に日本国からの提示条件である通商条約、安全保障条約、渡航に関する条約等の諸々の条件が書かれた書類を確認する。

 

 

「ふむ。これらの条件に関しては余に依存はない、だがしかし我が国は貴国の事を知らない。確かに貴国と国交を結べば、我が国にとっては夢のような技術が手に入れば我が国は安泰だが…………しかし、国ごと転移、鉄で出来た船と言う話は今の状況ではとても信じられない。

先ずは貴国の力を見せてはくれないだろうか?国交を結ぶのはそれからでも遅くはないと思うが?」

 

「剣王様の仰られる通りであります。我が国を知りたいのであれば、我が国に貴国から使者を派遣して頂ければ、誠意を持って歓迎いたします。」

 

「いや、それには及ばない。貴国には水軍として海軍と言う軍隊が居ると聞いている。聞けば海に潜る事のできる潜水艦と呼ばれる軍船があるようだが。」

 

 

この言葉に島田は面食らった。

目の前の男が自分達の海軍の事どころか、この世界では自分達しか保有していない潜水艦の事まで知っている。

 

 

「はい……確かにございます。」

 

「貴国の海軍の中からどんな軍船でも構わない。ここに連れてきてはくれぬか?今我が国には廃棄予定の軍船が10隻程ある。それを敵に見立てて攻撃して、貴国の力の一端を見たい。」

 

「……………」

 

 

この時、島田は迷った。

国交が開設していない国に軍艦を派遣するのは普通なら拒否するのが普通だが、シハンが沖に海軍の軍艦を持って来いと言うのである。

 

 

(剣王シハン………かなり優秀な政治家だな。他国のしかも国交を開設していない国の軍艦を持ってこい……普通なら有り得ないが、この要請を呑む事を条件に国交開設を行う………やはりここでは前世界の常識は通用しないみたいだ。)

 

 

全く想定していなかった要請に島田は軍艦を見せるだけで国交を開設出来るならと、この件について直ぐ様日本へと連絡し、政府は即日、坂元良馬中将率いる坂元艦隊の派遣を決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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