フェン側による陰謀により足止めを受けた坂元艦隊は、周囲を警戒していた飛鴎より、西方の海域からパーパルディア皇国のものと思われる艦隊がフェン王国へ侵攻してくるとの報告を受けて、清月の漁網除去作業の援護と外交官の生命を優先とした戦闘態勢を取る。
「司令、フェンの艦隊が出撃していきます。」
ふと坂元が右を向くと、木造の帆船が次々とアマノキから出撃していくのが見える。
坂元の目には、帆による風力推進に頼っているフェン水軍の軍船がとても遅く見える。
「彼らで敵艦隊を抑えられるでしょうか?」
「さぁな。外交官殿からの情報通りなら、少なくとも激戦は必至だろう。」
坂元は不安を抱きつつ、フェン艦隊を見送る。
その頃、アマノキより西方200㎞の海上を、悠々と突き進むパーパルディア皇国監察軍東洋艦隊旗艦となる魔導戦列艦の艦上では、司令官『ポクトアール』が単眼鏡で前方の海上を見ていた。
「ん?………来たか。」
ポクトアールは前方の水平線上より現れたフェン水軍艦隊13隻を発見した。
「フェン王国水軍艦隊は13隻です。」
「13隻か………数や練度、質から見れば我々の敵ではないが、ワイバーンロード隊からの通信が途絶している。もしかしたら新兵器を持っているかもしれん。」
ワイバーンロード隊からの通信途絶はポクトアールの警戒心を最大に上げていた。
「相手を蛮族と侮ってはいかん!相手はフェンだが、我々は奴等を列強艦隊を相手にするくらいの覚悟で、全力を尽くす!」
精鋭のワイバーンロード隊が全て未帰還と言う事実は、皇国史上初めての事であり、彼はフェンが新兵器を開発したのかもしれないと判断し全将兵に対して油断をしないように指示を下す。
「全艦、最大戦速っ!」
艦隊は速力を上げて、迫ってくるフェン艦隊に向けて突き進む。
「軍長っ!パーパルディア艦隊との距離2㎞に接近っ!」
フェン艦隊も東洋艦隊を捉え、戦闘態勢に入る。
「よし!!全船最大戦速っ!例の新兵器を準備しろ…」
「はい。」
この艦隊を取り仕切る水軍長の『クシラ』の命令により艦隊将兵達はオールを必死に漕ぎ始め、今回から投入される新兵器が姿を表す。
「この魔導砲なら奴等の船に対して、充分な効果が得られる筈だ。」
「軍長っ!敵艦隊が旋回を始めました!」
「奴等の攻撃開始の合図だ……全船、魔導砲発射用意っ!」
魔導砲に取り付いた将兵達は砲内に火薬と砲弾を詰め込む作業を始める。
「軍長、発射用意完了しました!」
「よし!撃て……」
その時、パーパルディア艦隊の戦列艦から多数の煙が上がった。
「撃ったのか?この距離を……」
クシラはこの時、敵が砲を発射するためのタイミングを見誤ったのかと思ったが、数秒後には辺りの水面に水柱が上がった。
「馬鹿な!この距離から撃って届くのか!」
予想していたよりも敵の砲の射程距離と命中率の高さに、フェン艦隊はパニックとなる。
その間にも、パーパルディア艦隊からは雨あられのように砲撃が加えられ、フェン艦隊は僅か5分程で戦力の9割を失い、残ったのはクシラが乗り込む船のみとなった。
「こうなったら一矢報いるまで!魔導砲の用意はいいか?」
「はい!」
「よし!全員は直ちに脱出しろ!」
「軍長っ!?」
「どの道奴等には勝てん。死ぬのは私だけで充分だ。急げ!」
「…………はい。」
クシラの副官は乗員達の脱出指揮をとり、甲板から海へ次々と乗員達が飛び降りていき、最後に残ったクシラは松明に火を付けると、魔導砲に近づく。
「よし…狙いはつけた。」
クシラは魔導砲の導火線に火を近づける。
「フェンの底力……受け取れぇぇ!!!!」
クシラはそう叫び導火線に火を付けると、その場から駆けだし海へと飛び込んだ。
無人となった船の上で導火線の火が先端にある発射用の火薬に引火すると、魔導砲から丸い砲丸が撃ち出され、東洋艦隊の1番前にいた中型の旧式戦列艦の舷側に命中した。
命中した砲丸は、魔導砲の砲身が突き出ていた発射口に直撃し、貫通した砲丸は奥にいた2人の水兵に直撃し、その運動エネルギーをまともに受けた水兵の体を貫き、更に奥の壁を突き破り、中にあった食料庫に仕舞われていた野菜入りの麻袋に受け止められる。
「やったぞ!ついに一矢報いてやった!」
海面で喜びの声をあげるクシラの目の前で、自分の船は別の戦列艦から放たれた砲撃により沈んでいく。
「役目は終わったか…………後は任せた………」
「フェン艦隊、13隻撃沈。我が方の損害は前衛の旧式艦右舷への被弾による水兵2名の損失がありましたが、戦闘能力に支障なし。」
「うむ。あの最後の船は中々骨のある奴だったな…」
「はい。蛮族と言えど、尊敬に値します。」
「そうだな………全艦、進路をアマノキへとれ!」
フェン艦隊を始末した東洋艦隊はフェンへ向かって迫っていく。
その頃、アマノキ港より出港した坂元艦隊は沖合いで、飛鴎よりフェン艦隊壊滅を報告を受けた。
「やはり彼等では止められなかったか。」
「長官……では、いよいよ我々が?」
「そのようだ。各艦に戦闘配備を下名っ!各空母には攻撃隊を発艦させるよう伝え!」
坂元は遂に決断を下し、艦隊に戦闘態勢を伝える。
直ちに各空母から、爆装した嶺花と光武による攻撃隊が飛び立っていく。
攻撃隊が飛び立った後に空母を後方に下げ、艦隊は駆逐艦を前衛に単縦陣の態勢をとり、敵艦隊との戦闘に備える。
続く
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