中央歴1639年2月2日 日本国 横須賀港
2日間の船旅で、日本の横須賀港に到着した米利蘭土の甲板からヤゴウとハンキは田中からの説明を受けながら横須賀の町並みを眺める。
「これが日本の都市……」
海上から見える横須賀港は、彼らからすればとんでもないくらいに発展しているように見える。
「この横須賀港は国内において最大規模を誇る港であります。ここには国内の産業を担う様々な工場や造船所が設けられ、我が国が保有する民間船や軍艦の大多数がここで建造されています。」
「田中殿、ここは随分と発展しているようだが、ここが日本国の首都なのかね?」
「いえ。我が国の首都は帝都東京であり、ここは地方都市となります。」
「なんと!?」
ヤゴウは地方都市でこれ程発展しているという説明にただ驚く。
普通地方都市は首都よりも開発や発展が遅れているというイメージを持っており、横須賀港や横須賀市街でこれ程発展しているのなら、帝都東京はどのくらいの規模の町なのか、興味が湧き始める。
やがて、横須賀港の桟橋に接舷した米利蘭土を降りて、外務省から迎えの車に乗り込んだ使節団一行は、横須賀港を離れ、横須賀港市内にあるホテルへと向かう
ホテルに到着しチェックインの後に、田中から今後の事についての説明を受ける。
「えぇ、では明日の予定についてお話しします。明日の午前中は我が国の首都防空を担当する海軍土浦基地にて首都防空飛行団の見学を行います。午後からは帝都東京へ移動し、我が国の首相、大高総理大臣との会談を予定しております。」
「た…田中殿、我々に日本軍を見学させて頂けるのですか?」
「はい。我が国を知っていただくための重要な機会ですので。」
ハンキは元々日本軍の調査を担当しているので、田中には日本軍の見学を依頼するつもりだったため手間が省けて良かったと安心する。
「以上が明日の予定になりますが、何か質問はございますか?」
「田中殿、1つよろしいですか?」
「どうぞ。」
「明日の午後に会談が予定されている貴国の首相は、どういった存在なのでしょうか?」
「はい。我が国における総理大臣とは、国の政治における最高責任者であり、首相を筆頭とした政党を中心に国会が開かれ、日本国憲法が定める規定の下、国民投票で選ばれた様々な政党に属する議員が法律の制定や検討、国家戦略、予算について議論を行います。」
「共和制と民主制なのですね。して、総理大臣と言うのはこの国の王なのですか?」
「総理大臣は政治の最高責任者であり、我が国には『天皇』とお呼びになられる更に上の立場に居る方がおられるのです。」
「では天皇と呼ばれるお方は、政事には関与するのですか?」
「いいえ。7年前までは大日本帝国憲法では、天皇主権という制度があり、細かい説明は省きますが陛下に主権が集中していたのですが、今から1年前に発布された新憲法では、陛下は国の象徴と位置付けられ、陛下と皇族方は首相や国会の承認なしに国の国事行為以外では国政には携われなくなりました。」
「つまり、国政に携わる事を禁止していると?」
「はい。陛下に国の主権が集中してしまえば、それを良いことに独断で暴走する者が現れてしまいます。かつて我が国もそれが原因で泥沼の戦いに引摺りこまれてしまった歴史がありましたから。」
前世界において周辺国との戦争で勝利し続けていた日本軍はその勢いに乗り、隣国の中国に対して天皇の許可を得ず独断行為により満州国を建国し、それに伴って中国国民軍と共産軍との三つ巴の熾烈な戦争に発展してしまったという苦い歴史がある。
「大高総理大臣が掲げる、恒久的な世界平和理論に基づいて、先ずは国民のための政治を行うために様々な政治改革を積極的に行いながら、我が国は世界平和のために行動していました。」
「成る程……大高総理大臣は中々の政治家のようですね。明日に会えるのが楽しみです。」
その後、使節団一行は細かい説明を受け、明日に備えて床についた。
翌日
使節団一行の姿は、茨城県土浦市にある土浦航空基地にあった。
「おぉ!これは…」
使節団一行の目の前には、小さな翼が装着された尖った機首に、後方に配置されたエンジンとプロペラと言う変わった特徴を持つ航空機が鎮座している。
「田中殿、あの飛行機械はマイ・ハークを飛んだと言う鉄龍なのか?」
「いえ。件のアレは『仙空』と言う哨戒飛行艇であります。今目の前にあるのは我が国の本土防空を担う『蒼莱』と名付けられた航空機です。後の説明はこちらの軍人が行います。」
田中と交替して現れた、基地に所属する解説役の軍人が蒼莱の説明に入る。
「では、この蒼莱についてのご説明をさせて頂きます。この蒼莱は我が国が本土防空のために開発した局地戦闘機でありまして、主に高度10000メートル以上の超高高度での運動性と速力を重視して設計されています。」
「10000メートルっ!?このソウライと言う飛行機械はそんな高さにまで上がれるのか?」
「はい。」
「因みに速度は?」
「そうですね…………高度9000メートル付近なら700キロ程になります。」
ハンキは言葉がでなかった。
彼が知るワイバーンは出せて350キロが限界で、高度1000メートルを過ぎると空気が薄く、温度が急激に下がるため、高高度での長時間の空中戦はベテランの龍騎士でもやらないのが普通である。
だが目の前の蒼莱は、高高度性能と速度性能がワイバーンとは比較にならない。
恐らく勝負しようとしても、上昇して逃げられるのがオチである。
「そろそろ訓練飛行の時間です。蒼莱の飛行する場面をご覧になってください。」
予め用意されていた来賓席に通される使節団一行は、目の前の滑走路に駐機されていた蒼莱に目を向ける。
「回せぇ!」
操縦席に乗り込む蒼莱のパイロットが合図を出すと、沈黙していた蒼莱の過給器付き東式梅型発動機が唸りを上げ、二重反転式8枚プロペラが勢いよく回り出す。
「うっ…」
プロペラの回転で発生する風圧とエンジンの熱風が来賓席にまで到達し、ハンキは一瞬たじろぐ。
やがて蒼莱の車輪止めが外され、キャノピーが閉じられると、蒼莱はゆっくりと自走し滑走路の端にある離陸位置につく。
「それではこれより訓練を開始します!」
一分後、蒼莱は離陸位置から一気に加速し滑走路の中央辺りで機首を上に向けて離陸した。
「おぉ……なんと言う上昇速度じゃ…」
ハンキは空に向かって信じられない速度で上昇していく蒼莱に驚き、唖然となる。
やがて蒼莱は空の彼方へと消えていった。
「…………………」
ハンキは絶句する。
「ご覧ください!先程離陸した蒼莱が戻ってきます。」
「え?もうなのか?」
上昇し姿が見えなくなっていた蒼莱が降下しながら戻ってくると、時速500キロ近い速度で飛行場上空を大きく旋回しつつ、左右へのロール回転や急旋回、急上昇といった飛行技術を披露する。
「では次に射撃訓練に入ります。滑走路の北にある標的をご覧ください。」
示された方向を見ると、巨大な一枚の鉄板があった。鉄板の真ん中には大きく目玉のような模様が描かれている。
待機していた蒼莱は標的に向かって機首を向け、ギリギリまで接近すると、機首の57㎜機関砲から砲弾が飛び出し、標的に命中する。
「それでは標的をご覧ください。」
運び込まれた標的を見るとハンキは愕然とした。
(こんな分厚い鉄板に大きな穴が…)
重爆撃機の胴体に大穴を開ける57㎜機関砲は、分厚い鉄板を易々と貫通していた。
(日本国の力恐るべし…………もしあのソウライと我が国のワイバーンが戦えば間違いなく敗北だ……)
ヤゴウの脳裏には、蒼莱に撃墜されていくワイバーンの姿が写った。それと同時に二人は日本国とは敵対してはならないと直感した。
(これは…本腰で掛からないと、我が国の未来と運命を左右しかねない。)
続く
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