後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第30話

中央歴1639年 8月某日

 

 

日本から遠く離れた第2文明圏最強と言われる『ムー』。

 

魔法を中心とした国家が主なこの世界に於て、唯一科学技術だけで列強の仲間入りを果たした科学立国である。

 

 

この国の陸軍と海軍を統括する統括軍の諜報機関『情報分析課』オフィスでは、世界各国が保有する魔法や科学技術の解析するための資料が集められている。

 

この課に所属する若い技術士官『マイラス』は、隣国のレイフォルがグラ・バルカス帝国を名乗る国家との戦争についての報告書の中で"ある物"に頭を抱えていた。

 

 

 

「こりゃ……不味いぞ………」

 

 

机の上に置かれているこの世界における写真に相当する魔写には、一隻の巨大戦艦が写し出されている。

 

 

「この戦艦がたった1隻でレイフォルを滅ぼした…………何の冗談だよ。」

 

 

写真に写し出されている戦艦は、前世の日本人なら誰もが知っているあの『大和級戦艦』そのものであった。

全長263メートル、満載排水量72000トン、速度27ノット、世界最強と名乗るのに相応しい性能を備えているこの戦艦は、後世日本では建造が中止され存在しない。

 

 

 

だが何故、マイラスはこの存在しない筈の戦艦の写真を持っているのか?

 

 

それは、先程述べたグラ・バルカス帝国が大いに関係しているのである。

実は、レイフォルとグラ・バルカス帝国との戦争でグラ・バルカス帝国を圧勝に導いたとされる『グレード・アトラスター』と言う戦艦がある。

その戦艦の正体を確かめるため、レイフォルに派遣した諜報員が魔写を撮った所、彼の基に届けられたのである。

 

 

「もしこの戦艦がレイフォルを滅ぼしたとなれば……グラ・バルカス帝国の技術力は我が国よりも20……いや30年は確実に先を進んでいる。写真を見ただけでここまで分かるとはな。」

 

 

ムー国にも戦艦はある。

それは『ラ・カサミ』と言うムー国の最新鋭戦艦であり、30㎝砲を4門という強力な武装を備えた攻撃力の高い艦ではある。

日本の軍艦で言う所の敷島型戦艦に相当するが、写真のグレード・アトラスターと比べてもラ・カサミ級では到底歯が立たない。

 

 

マイラスは祖国の行く末を案じつつ、今度は第3文明圏から届いたもう一つの報告と写真に目を通す。

 

 

それはムー本土よりも遥かに離れた日本国と言う国の軍艦と航空機を写した写真だった。

彼の基に届けられた報告書では、日本国の軍艦はどれもラ・カサミ級戦艦を遥かに上回る規模の戦艦を多数保有しており、ロウリア王国との戦争では空母からはムー国では研究段階の全金属製の単翼機や、プロペラを装備していない高速戦闘機が使われたと書かれていた。

 

 

 

 

「これが日本国の戦艦………グレード・アトラスターの程ではないがコイツもデカイな。こっちはナガト、こっちはヒエイと言う名前か。」

 

 

 

報告書と共に添付されていた写真には、坂元と高杉艦隊の戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦が何十枚とあった。

 

 

 

「随伴している中型艦は巡洋艦、小型艦には12㎝級の砲と機銃が載っているな……役目としては艦隊の中で重要とされている艦艇の護衛を目的とした護衛戦闘艦と言う所かな?」

 

 

写し出されている各々の艦の分析をしながら、次に航空機が写し出されている写真に目を向ける。まず最初に目を向けたのは電征の写真だった。

 

 

「こっちの機体は我が国で研究段階にある全金属製の単翼機だな。着陸却が外に出ていないとなると、主翼内に格納するタイプか………確かに飛行中にも外に出ている着陸脚を仕舞う事が出来れば空気抵抗が少なく速度の面では有利だな。それにこっちの機体は胴体は同じだが翼の中央部から折れ曲がっている………なんの意味があるんだ?」

 

 

逆ガル翼と言う発想がないムーでは、電征Ⅲ型の逆ガル翼は不思議で奇妙に見える。

 

 

「それにこっちの航空機は何なんだ?」

 

 

次に手にした写真には光武と光武改が写し出されており、マイラスは航空機に必要なエンジンやプロペラが機首に無いデザインの両機の特徴について、心当たりがあった。

 

 

 

「これはミリシアルが配備しているエルペシオ3と特徴が一致している。だとしたら日本は魔光呪発式空気圧縮放射エンジンに関する技術供与を受けたか?いや、エルペシオ3の速度は510㎞、報告では600㎞は確実に越えていたとの報告がある。だとするとこの機体はエルペシオとは全く異なった技術が使われている可能性がある。」

 

 

マイラスは頭を抱える。

 

 

「こんな物を開発し、実戦投入しているとなると…………全く!この一年で訳の分からない国が現れたもんだな。」

 

 

 

この日、マイラスの日本とグラ・バルカス帝国の技術に関する考察は深夜まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2か月後の11月末

 

 

ロデニウス大陸より南方の位置に一つの陸地があり、そこには『アルタラス王国』と言う国がある。

この国は文明圏外の国に位置するが、国内の山からは非常に高純度の魔石鉱山が多数存在しており、文明国並の国力を有している。

 

 

王都ブリアスに聳え立つアテノール城では国王の『ターラ14世』が、パーパルディア皇国の大使から突きつけられたある文書を前に頭を抱えていた。

 

 

「正気か?」

 

 

文書には『要請』という名の『命令』とも取れる内容が書かれていた。

 

 

・魔石鉱山シルウトラスをパーパルディアに献上する事

 

・アルタラス王国王女のルミエスを奴隷として皇国へと差し出す事

 

 

と言う、到底受け入れがたい内容が包み隠さずハッキリと書かれていた。

 

 

 

「シルウトラスの献上は国力が落ちる事を意味する。それに娘のルミエスを奴隷として差し出せなど………今まで屈辱ともいえる要求を飲んできたと言うのに、この要求は何なんだ!これでは我が国はパーパルディアの犬のようではないか!」

 

 

 

ターラは事の真相を確かめるため、皇国の大使館へと直接足を運ぶ。

 

 

 

「待っていたぞ、ターラ14世。」

 

 

彼を出迎えたのは、皇国の第3外務局のアルタラス王国担当ブリガスが尊大な態度で待っていた。

 

 

「この文書の事について伺いに来た。」

 

「その内容の通りだが?」

 

「シルウトラスは我が国最大の鉱山だ。」

 

「それがどうしたと言うのだ?鉱山など他にもあるだろ?ルディアス皇帝陛下の意思に逆らうと言うのか?」

 

「そうは言っていない。鉱山については何とかなるが、我が娘のルミエス事だが、これについてはどう言った訳が?」

 

 

 

ブリガスは嫌らしい笑みを浮かべ、優々と話す。

 

 

「ルミエス王女は中々の上玉だろう。俺が"味見"をするだけだ。まぁ飽きたら、奴隷にでも売り飛ばすまでだがな。」

 

 

その発言にターラの脳内に怒りが湧き出す。

 

 

「それはルディアス皇帝陛下の意思なのか?」

 

「貴様、誰に向かって物を言っている?私の意思はルディアス皇帝陛下の意思その物なのだ!」

 

 

ブリガスの呆れるような発言にターラは1歩前に出ると、ブリガスの前に立つ。

 

 

「貴様っ!そこに直れっ!修正してやるぅぅ!!」

 

「何を……グガァ!!」

 

 

ターラはブリガスの右頬を強力なストレートパンチで思いきり力を込めて殴り倒す。

 

 

「貴様っ!殴ったな!?父上にも殴られた事もない俺を殴ったな!!」

 

「殴って何が悪い!!貴様のその傲慢は人を家畜にするっ!人を道具にしてっ!それは人間が人間に一番やってはならない事だ!」

 

「蛮族の王が私に向かって説教を垂れるのか!?それは皇帝陛下に対する………グハッ!」

 

 

 

見苦しい態度を取るブリガスにターラはまた殴り倒し、今度は馬乗りになると、怒りに身を任せて執拗に殴り続ける。

 

 

 

「痛いだろう!だがこれは、これは今まで貴様らが我が国や他国に対して行ってきた事に比べたらまだ足りない!!」

 

「ちょ………やめ…………助けてくれ……」

 

 

既にターラは10分近く殴り続けており、ブリガスの顔面は既に崩壊しており、鼻からは鼻血、口から歯で切った口内の傷から出た血が、顔面の至る所には痣ができ赤く晴れ上がっている。

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ………」

 

「う……うぅ……」

 

 

ようやく冷静となったターラはブリガスを見下しながら、大使館から立ち去り、城へと帰った。

 

 

 

「皇国への文書と共にあのクズを送り返せ!文書には皇国からの要請文を全て断り、国交を断絶すると伝えろ!」

 

 

彼の吼えながら部下達に命令を下す。

 

 

「これから日本国大使の所へ向かう……日本国と締結した安全保障による援軍要請を私が直接要請する。軍には直ぐに戦闘態勢をとるように下命せよ。」

 

 

この瞬間を以て、アルタラス王国とパーパルディア皇国は戦争状態に入った。

ターラの命令により軍は直ちに戦闘態勢に入った。

 

 

同時にターラは国内に居た日本国大使に援軍を要請した。無論日本はアルタラス王国を含めた22ヶ国との間で締結した安全保障条約で定められた『安全保障条約を締結した対象国が戦争状態に入る場合、対象国独自で相手国との戦争が困難と判断され、非戦闘員や民間人に命の危険が迫ると判断された場合は日本国と対象国との協議の上、日本国より援軍を派遣する』と言う条文に従って、直ちに援軍の派遣が決定された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




皆様からのご意見とご感想お待ちしております。


因みにターラ国王がブリガスを殴った時に言ったセリフの元ネタ分かる人いますかね?

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