後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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久しぶりに紺碧艦隊が登場します。


第31話

中央歴1639年11月23日 アルタラス王国 ル・ブリアス

 

 

現在、この港ではアルタラス王国の国民がロデニウス大陸への疎開のため、日本の輸送船と他国の船に乗り込んでいく。

皆、鞄を片手に次々と船に乗り込んでいき、祖国の行く末を考えながら、船中の人になっていく。

人を乗せた船は次々と港を出港していき、甲板ではどんどん離れていくアルタラス王国を国民達が悲しそうな目と表情で見つめていた。

 

 

 

既に国民のほぼ全ての疎開が完了し、後は王族数名と、パーパルディアとの戦いを決意した軍人達だけを残すのみとなった頃、深夜の城内にはターラ14世とルミエスの二人と、一人の日本人が居た。

 

 

「一緒に行かれないのですね……」

 

「あぁ。ワシはこの国の長として、この城が死に場所と決めている。お前には、ロデニウス大陸へ疎開した国民達を纏めあげる仕事がある。」

 

「私が国民達を…………」

 

「お前になら出来る。それだけの素質がある。ワシは嘘は言わん。」

 

「分かっております……ですが………」

 

 

悲しみの表情の今のルミエスは、アルタラス王国の王女ではなく父を愛する娘である。

早いうちに母親を亡くした彼女には父しか肉親がおらず、その肉親が死ぬかもしれないと言う事実は、今のルミエスには受け入れる事が出来なかった。

 

 

「ルミエスよ……心配するな。ワシもタダで死ぬつもりはない。ワシは国を他国に侵略されるような切っ掛けを作ってしまった最悪の国王として語られるだろうが、せめてそのケジメはつけるつもりだ。」

 

「……」

 

「それに今回の戦争では日本が全面的に協力してくれる手筈になっている。国が盗られても、日本国の人達の優しさに感謝を忘れぬよう、いつか国を取り返す日が来るまでの準備を頼む。」

 

「………………はい。」

 

 

ルミエスはそう呟きターラに抱きつく。

 

 

「すまぬな……こんな不甲斐ない父で。」

 

「いいえ……私にとっては父上は誇りです。」

 

 

別れの挨拶を済ませ、ターラは部屋の奥に居た日本人に視線を向ける。

 

 

「冨嶽殿、娘を頼む。」

 

「はい。お任せください。」

 

 

ターラが冨嶽と呼ぶ日本人とは、スーツに身を包んだ前原だった。

彼は大高からの特命により、ルミエス王女の日本亡命を全面的に手助けをする重大任務を帯びていた。

 

 

「では王女殿下、そろそろ時間です。参りましょう。」

 

「はい。」

 

ルミエスは最後にもう一度ターラに振り返る。

 

 

「…………………」

 

 

そして何も言わずに、前原と共に城を離れていく。

 

 

 

城を出た前原とルミエスの二人は、事前に用意していた馬車に乗り込み港へと走り、小さい桟橋へとたどり着く。

 

「少々お待ちください。」

 

 

前原は立っている木製の桟橋の下に潜り込み、予め用意していたゴムボートを引っ張り出す。

 

 

「少々小さいですが、どうぞ。」

 

「はい。」

 

 

ルミエスはゴムボートの小ささを見て、本当にロデニウス大陸へ行けるのか不安に思いつつ乗り込む。

 

 

「では出します。」

 

 

エンジンを始動させ桟橋を出発し、全速力で港を離れていく。

曇天で月明かりもなく真っ暗な空の下、ルミエスは遠ざかっていくアルタラスの町を見つめ続ける。

 

 

 

「冨嶽殿、私たちはこれからどうやってロデニウス大陸へ行くのですか?」

 

「近くに我が軍の迎えの船が来ています。それに乗って一先ず中継点がある島を経由して我が国へおいで頂いてから、クワ・トイネ王国のダイダル平野に設けられた臨時のキャンプに向かいます。」

 

「はい。ですが……回りに船らしき物は見当たりませんが…………」

 

 

辺りには自分達が乗っている船以外に船は見当たらなかった。

 

 

「ご安心ください。既に船は来ています。」

 

 

前原はそう言って懐から赤外線ライトと信号拳銃を取り出し、最初に空に向かって信号弾を打ち上げ、次に海上に向かって赤外線ライトを照らす。

 

一連の作業を終えると、次に船底に耳を当てる。

 

 

「……………来た。王女殿下、少し船が揺れます。気をつけてください。」

 

「はい。」

 

 

そう促されルミエスはボートにしがみつく。

 

 

 

 

数分後、突然ボートが大きく揺れ始めた。

 

 

ふと海に視線を向けると海面が徐々に盛り上がり、そこから黒い壁のような物が突然海中から海面へと姿を現した。

 

 

「!?」

 

 

姿を現した壁は塔のような形をしており、塔は下にある木製の板が敷かれた、船に似た形をしている巨大な鉄の胴体の上に乗っかっている。

 

そしてその塔の側面には大陸共通語とは違う『イ601』と大きく書かれている。

 

 

「!!」

 

 

ふと回りを見ると、いつの間にか同じような形の船達が姿を現している。

 

 

「冨嶽殿……これは……」

 

「我が国の影であります。」

 

 

二人の目の前に現れたのは、前原を迎えにやって来た紺碧艦隊だった。イ601の司令塔から入江艦長が姿を表す。

 

 

「お帰りなさい司令官!」

 

「艦長、ご苦労だった。すまんが直ぐに収容してくれ。」

 

「了解。収容作業に掛かれーっ!」

 

 

入江艦長の号令と共に、乗員達が甲板に出ると、二人が乗ったゴムボートを回収し、前原がルミエスをエスコートする。

 

 

「王女殿下、本艦へはこちらから梯子を伝ってお入り下さい。」

 

「はい。では……」

 

 

ルミエスはゆっくりと梯子を降りていき、その後を前原が続き、乗員達が艦内に入っていく。

 

 

「司令、収容作業完了しました。」

 

「潜行用意。」

 

「潜行っ!」

 

 

司令塔に居た前原と入江も艦内に入り、イ601はゆっくりと潜行していき、他の艦も続いて潜行する。

 

 

「トリム戻せ!」

 

「ヨウソロー!深度50、水中聴音機作動。」

 

 

下に向いて前に傾いていた船体がゆっくりと水平に戻っていき、通常航行に入った。

 

 

「凄い……冨嶽殿、この船は本当に水の中を進んでいるのですか?」

 

「はい。この艦は我が国の技術の粋を集めて作られた潜水艦と呼ばれる船です。」

 

「水中を進む船……まるで太陽神の水獣みたい。」

 

「太陽神の水獣?」

 

「はい。かつて神話の時代に、魔王軍を退けたと伝えられる、異界より降臨した太陽神の使いの戦神達が使役していた、水の中を魚よりも早く進み、水中から魔王軍の船を槍で突き刺し沈めた伝説の獣です。」

 

 

 

ルミエスが話した内容に、前原は水獣は潜水艦と似ていると感じる。

 

 

「今、クワ・トイネ公国のリーン・ノウの森の地下にある水中湖にはその水獣が眠っているのです。」

 

「それは、機会があれば見に行きたいものです。………殿下、改めて紹介します。私はこの紺碧艦隊司令を勤めている前原一征です。訳あって偽名を名乗っていた事を深くお詫びいたします。」

 

 

一言謝罪を加えて自己紹介を終えた前原は次に他の者に視線を向ける。

 

 

「そしてこちらに居るのが、この艦の艦長の……」

 

「入江九市と申します。当艦、富嶽の艦長を勤めております。」

 

「私は品川弥治郎と申します。当艦の先任士官を勤めております!」

 

 

 

一人一人、艦橋に居た者の紹介を終えると今度はルミエスが自己紹介を始める。

 

 

 

「皆様、お初にお目に掛かります。私はアルタラス王国国王ターラ14世の娘のルミエスと申します。以後お見知りおきを。ふつつか者で、ご迷惑をお掛けしますが、道中はどうかよろしくお願いいたします。」

 

 

両手でスカートを左右に広げ、優雅な雰囲気で挨拶をしたルミエスを見た乗員達は一斉に敬礼をすると同時に回りの緊張感が少しだけ和らぐ。

 

 

「では士官室をご案内いたします。こちらへ。」

 

 

前原はルミエスに艦内の案内をするため、品川を伴って司令室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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