後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第32話

伊601艦内の紹介のため、前原は品川を伴ってルミエスを案内する。

 

 

「通路が狭くなっています。お召物を引っ掛けないようにご注意ください。」

 

 

伊601は他の潜水艦に比べて大型ではあるが。例に漏れず水上艦と比べて艦内容積の余裕が少なく、船体をバラストタンクが覆うように出来ているため見た目とは裏腹に艦内は狭い。

先ず前原が最初に案内したのは、艦の心臓とも言える機関室である。

ドアを開けると、機関員達がせっせと働いている。

 

 

「前原閣下!?敬礼っ!」

 

 

前原に気がついた土方機関長の号令で機関員達が前原に対して一斉に敬礼する。

 

 

「あぁ…そのまま作業を続けてくれ。」

 

「はっ!」

 

 

前原に促され機関員達は作業に戻る。

 

 

「ルミエス殿下、ここが本艦の機関室で、人間で言う所の心臓にあたる部分です。そして今、機関員達が取りついているのが本艦の主機関『ワルターエンジン』となります。詳しい性能は軍機になりますのでお教え出来ませんのでご了承ください。」

 

 

ルミエスは一歩前に進み、目の前にある巨大なワルターエンジンを見つめる。

 

 

「これが………この巨大な船を動かしているのですか…」

 

「殿下、よろしければ近くでご覧になられますか?」

 

「よろしいのですか?」

 

「勿論です。土方機関長、殿下の案内を頼む。」

 

「はっ!では殿下、こちらへどうぞ。周りと足元にご注意ください。」

 

 

 

土方の案内でルミエスは機関室を見て回る。

廻りにはエンジンに繋がっているパイプや配管が至る所に走っている。ワルターエンジンの特徴である静粛性により、エンジン音は小さく、近くに来ても嫌悪感は感じない。

 

 

「………以上を以て、本艦のワルター機関によるポンプ式噴射水流推進方は海中での騒音が少なく、敵艦に気付かれる事なく近づく事が可能であります。」

 

「えぇと………つまりそれは、この船は音も立てずに相手に忍び寄るのが可能と言う事なのでしょうか?」

 

「はい。本艦もそうですが、潜水艦と言うのは魚雷と呼ばれる、水中を魚よりも早い速度で進む爆弾を敵船の船底に当てて沈めるという戦い方が可能なのです。」

 

「そう言えば、太陽神の伝説では水獣も海中から魔王軍の船に近寄ってから巨大な槍を突き刺し、刺された船はたちまち粉々にされたとあります。」

 

「確かに、音を立てず忍び寄り、魚雷を見舞うのは水獣と同じ戦い方ですな。」

 

「もしかしたら水獣の正体は潜水艦だったりして……」

 

「もしかしたらあながち間違いでは無いかもしれんぞ。本当に潜水艦なら驚きだが、何故そんな昔に潜水艦があったのか、誰が作ったのかが気になる所だな。」

 

 

 

和やかな雰囲気のもと、次の場所へと案内する。

 

 

「次はどちらへ?」

 

「はい。次は我が艦隊が艦隊たる由縁の場所へとご案内いたします。」

 

 

そう言って通路を今度は艦首側に向かって歩き、ほぼ中間地点にまで来ると、上に向かって一直線の梯子を昇り、一番上のハッチを開ける。

ハッチの向こうには広い空間があり、その中には翼を折り畳んだ2機の雷洋改があった。

 

 

 

「大竹大尉。精が出るな。」

 

「前原閣下!?敬礼っ!」

 

 

 

整備点検を行っていた大竹大尉以下の飛行員と整備員達が前原に敬礼をする。

 

 

 

「邪魔してすまん。皆、張り切っておるか?」

 

「はい。ですが最近、飛ぶ機会が少なくて腕が鈍ってしまわないか心配であります。」

 

「すまない大尉。当分は君達の出番は無さそうだ。」

 

「それは残念であります。ところで、今日の巡検には何やらお連れ様がいらっしゃるようで。」

 

「そう言えば紹介してなかったな。こちらはアルタラス王国王女のルミエス殿下だ。」

 

「ルミエスです。よろしくお願いいたします。」

 

 

大竹はルミエスを見て、今回の任務で聞かされていた大事なお客様の事を思い出す。

 

 

「例の大事なお客さまですな?では私共も自己紹介を。」

 

 

 

そう言って大竹達はルミエスの前で整列する。

 

 

 

「紺碧艦隊、航空隊指揮官兼、雷洋改1番機の機長を勤めております、大竹馬太郎大尉であります。」

 

「同じく、雷洋改1番機福操縦士の宮城であります。」

 

「大竹様と宮城様ですね。私はルミエスと申します。お二人はこちらにあるこの大きな鳥に乗っているのですか?」

 

 

ルミエスは目の前にある雷洋改に視線を向ける。

 

 

「はい。我々はこの雷洋改を操り、敵艦隊や敵基地、敵重要拠点となる場所への奇襲攻撃を行うのが任務であります。」

 

「ライヨウと言うのですね。とても大きいですが、何に使う物なのでしょうか?」

 

「はい。コイツは大型の航空魚雷か大型爆弾のどれか1発を抱えて敵艦に攻撃をするための攻撃機と言うもので、時速600㎞を越える速度で飛ぶ事ができる万能機であります。この他にも、姉妹艦である伊501、502、503の3隻には高速の噴式春嵐、伊701には偵察用の星電改と呼ばれる偵察機が搭載されていますから、この艦を含めた我が艦隊はちょっとした航空機動艦隊並みの戦力が揃っているのです。」

 

「まるでパーパルディア海軍の竜母艦隊のようですね。」

 

 

ルミエスの『竜母』と言う言葉に前原が反応し、ルミエスに質問する。

 

 

 

「竜母?……それはもしや、皇国が保有しているとされている竜を搭載した艦船の事でありますか?」

 

「はい、皇国はこの竜母を中心に多数の戦列艦を備えた竜母艦隊を多数運用していると聞いています。私も一度だけその艦隊を見た事があります」

 

 

 

パーパルディアの海軍には、竜母と呼ばれる空母に匹敵する艦船による空母機動艦隊に相当する艦隊を編成しており、この戦術は第3文明圏では、ほぼ無敵と言われる程の画期的な戦術であると説明され、前原はその戦術と運用方法は近代的な空母機動艦隊とほぼ同じであると感じた。

 

 

(向こうにも近代戦術に通じる物がある…これは良い情報が手に入ったな)

 

 

 

この時点で日本は、パーパルディアの軍事力や技術力に関してはある程度把握していたのだが、虎の子である皇国海軍の竜母艦隊の能力や運用思想については機密に守られているせいか、断片的な情報しか手に入れていないため、ルミエスの説明はとても貴重な情報である。

 

 

「殿下、もし宜しければ我々にも、パーパルディア軍の竜母艦艦隊についてお聞かせ願いないでしょうか?」

 

「はい。でも私も詳しくは分からないのですが……」

 

「構いません。断片的な情報でも我々にとっては非常に貴重な物であります」

 

 

 

それから、艦内をある程度案内した後、最後にルミエス専用の部屋へと案内された。

 

 

 

「他の船と比べて少し狭いですが、大丈夫ですか?」

 

「はい。私は昔から狭い場所が好きなので問題はありません。」

 

「そう言って頂けて何よりです。では何かありましたらそちらの電話をお使いください。係りの者が対応いたします。」

 

「何から何までありがとうございます。」

 

 

前原達に礼を述べて、数分間艦内での生活の説明を受けてこの日のルミエスのやるべき事は終わり、疲れた体を小さいベッドに傾け、1分もしないうちに眠気に襲われ意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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