ア号潜による皇国艦隊発見の報告を受けた、GOCDA各軍は直ちに戦闘態勢に入った。
各地に展開していた旭日、高杉、坂元艦隊からは警戒機が飛び立ち、皇国艦隊の動きの監視を始める。
「長官、哨戒機よりの報告です。確認された皇国艦隊は、アルタラス王国より北東500㎞の地点で4手に別れました。其々の艦隊の動きから推測して、フェン、アルタラス、シオス、そして日本本土に向かって侵攻していると予想されます。」
「4か国に向けての同時強襲攻撃を考えたな。強大な戦力を以て強襲上陸により目的地を制圧する。敵艦隊の規模は?」
「えぇ…ここに向かってきている艦隊は大型と中型の戦列艦30隻と竜母10隻の1個機動艦隊、フェンへ向かった敵艦隊は中型と小型戦列艦の合計20隻と竜母3隻、ロデニウス大陸と日本へ向かった艦隊は大型と中型の戦列艦30隻と竜母5隻、其々の艦隊の後方からは上陸部隊を乗せた揚陸艦が100隻ずつ後続の見込みです。」
「かなりの数だな。兵器の性能から見れば対した事は無いが、向こうは文字通り総力戦を挑んできている。数に任せた力押しで来られると苦戦は免れん。だがそれでも我々は己と友となった同盟国のために恩に答えなければならん。」
「義侠心ですな?」
「そうだ。自分が苦しい時に、より苦しい者に手を差し伸べてこそ真の友が得られる………我々、旭日艦隊はその言葉を胸に戦ってきた。それはこの世界でも同様だ。」
かつて日本海軍の創設と近代化に尽力し貢献した英国の恩に答えるために編成された旭日艦隊の使命は、この新世界でも、転移してまだ日の浅い自国を助けてくれたこの世界の同盟国の恩に報いるため、大石以下の艦隊所属の全ての将兵の心は一致していた。
「よし!我々、旭日艦隊はその持てる戦力を以て敵艦隊を排除する。全艦は直ちに作戦を開始せよ。」
大石の命令は直ちに所属艦全てに伝達され、作戦開始に向けて実行に移す。
「原君、アルタラス王国に向かってきている敵艦隊の位置は?」
「はい。この第1防衛線より北10㎞に位置しています。」
「成る程。このまま敵艦隊が直進すれば機雷原に入るな。第1潜水遊撃艦隊の準備は?」
「既に所定の位置に就いています。敵艦隊の監視をしつつ攻撃態勢を整えています。」
「よし。潜水遊撃艦隊に攻撃準備態勢を暗号で発信。敵艦隊が機雷原を抜けたと同時に攻撃を開始せよとな。」
「了解しました!」
遂に出城作戦の第1段階が実行に移される。
果たして作戦の成否や如何に?
その頃、アルタラス王国へ向かって進撃していたパーパルディア皇国東洋諸国侵攻軍アルタラス・フェン方面総司令官『シウス』は、指揮下にある艦隊を3つに分けて別働隊をフェン王国とロデニウス大陸と日本に、本隊をアルタラス王国に向けていた。
「深夜による夜襲は上陸戦に絶好だな。これなら一週間と掛からずにアルタラスとフェンを落とせるだろう。」
シウスは自分に任された職責の重さと、戦力を見ながら誇らしげに言う。
「しかし夜間による強襲上陸とは、上も張り切ってますね?」
「なにせ皇帝陛下自ら立案した作戦らしい。そりゃ上も張り切るものさ。」
部下に対してシウスはそう答える。
彼は今自分が乗り込む新型戦列艦『パール』の側面に備えられた120門の大砲と艦隊後方から続く上陸軍を乗せた揚陸艦を見て、益々自信をつけていく。
「この最新鋭艦やリージャック将軍率いる上陸軍を以てすれば………」
彼は今後の事に期待しつつ、パールの甲板から夜空を眺める。
だがその数分後、艦隊に突如として異変が襲いかかった。
ズガァァァァァァァァァァァァン!!!!
突然聞こえてきた爆音と共に、右を走っていた100門級から巨大な水柱が上がった。
「フィシャヌス爆発っ!」
「何だとっ!?何が起きたんだ?」
「分かりませんっ!突然爆発したとしか……」
直後、回りにいた大小の戦列艦から連続して次々と爆発が起き、炎と煙が上がっていく。
「クソ!何処かに敵艦隊が潜んでいるかもしれん!艦隊を散開させて周辺を警戒しろ!」
「了解っ!」
艦隊はその場で散開するが、戦列艦に襲い掛かる爆発は止まず、むしろ徐々に広がっていく。
「フィシャヌスが轟沈っ!」
「何っ!?」
最初に爆発攻撃を受けたフィシャヌス級1番艦のフィシャヌスが炎上しながら沈んでいく。
「竜母ミール、ガナム、マサーラ停止っ!」
続けて、艦隊の航空戦力を担う竜母にも爆発が及び、それぞれ左右に傾斜しながら、鈍い破壊音と共に崩れていく。
「クソ!どうなってるんだ?」
シウスは知らなかった。
今艦隊が居る場所が、日本海軍が事前に仕掛けた大量の機雷で埋め尽くされた機雷原に嵌まっている事を。
海底から伸びるワイヤーで繋がれた接触信管式の大小様々な機雷の爆発を受けた戦列艦は、戦艦の船底に大穴を開ける程の威力がある機雷の爆発に耐えきれず、次々と数を減らしていく。
「進め!兎に角、全速力でここを突破するんだ!」
敵艦隊による夜襲と勘違いしていたシウスは、艦隊を単縦陣にさせ、強引に機雷原の突破を試みる。
「爆発、収まりました。」
「よし。このまま単縦陣を維持して前進する。」
何とか機雷原を突破した艦隊は、一息つきつつも更に前進を開始する。
だが既に、艦隊に向けて次の刺客が待ち構えていた。
「敵艦隊、機雷原突破しました。」
「よし。全艦、発射管に油槽魚雷と点火魚雷装填っ!」
既に艦隊を取り囲むように展開していた第一潜水遊撃艦隊は、次の一手を打つ。
「油槽魚雷、点火魚雷装填と発射用意完了。」
「油槽魚雷発射っ!」
潜水遊撃艦隊全艦から一斉に油槽魚雷が放たれ、艦隊の周囲より高速で迫った油槽魚雷は、事前に設定された位置に近づくと内部から大量の石油や可燃性の油を撒き散らし、周囲を油の海に変えていく。
「点火魚雷発射っ!」
続いて発射された点火魚雷も前方に向かって直進し、油膜で覆われた海面で浮上すると、内蔵の時限信管のタイマーが作動する。
5………4………3………2………1………0!
タイマーの針が0を指した瞬間、点火魚雷を中心に空気と気化していた油に点火し、海面の油膜に引火すると、一気に燃え広がり、艦隊を包み込む。
「今度は何だっ!」
「海が…海が燃えています!」
シウスは、海面が突然燃え始めるという謎の事象に唖然となる。
いきなり海が燃えはじめ、火が次々と味方艦や後方の揚陸艦にも燃え移っていく。
「アチチッッ!!」
「助けてくれぇぇっ!!」
「燃える!燃えるっ!」
外板に鉄板が貼られていた生き残りの戦列艦2隻とパールはなんとか水兵達が消火に当たっているが、木造の揚陸艦は油槽魚雷の油を吸い込んでいたせいで消火する間もなく、一気に燃え上がり、乗っていた陸軍兵が次々と炎に焼かれ、海へと飛び込んでいく。
「目がぁぁぁぁぁぁっ!!」
「目が見えねぇよ!どうなってるんだよ!」
「息が……息が……」
無論飛び込んだ兵士達は海面に浮かんでいた油にまみれ、失明したり、油を鼻や口から飲み込んで息が出来ずに呼吸困難となる。
「こんな事が…こんな事が………」
シウスは自軍が見えない敵によって、戦う前に全滅していく姿を見て茫然自失となる。
「最強のパーパルディア皇国が………艦隊が………」
やがて彼が乗り込むパールにも火の手が迫り、一気に燃え広がる。
「司令っ!他の艦は炎上っ!戦闘と航行不可能!本艦も危険です!ご指示を…………」
既に部下からの報告も耳に入らず、シウスの意識と肉体は炎の中へと消えていった。
この後、アルタラス王国侵攻部隊は、日本海軍潜水艦隊用新戦術『火遁戦術』による油槽魚雷と点火魚雷による攻撃で、アルタラス・フェン王国侵攻軍総司令官のシウスとリージャック将軍以下の上陸部隊3000と共に、アルタラス王国に到達する前に全滅した。
続く
次回は坂元艦隊視点よりお送りします。
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