後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第4話

中央歴1639年2月5日 日本国 帝都東京 首相官邸

 

土浦基地での見学を終えた使節団一行は、迎えの車にて首相官邸へと訪れていた。

ヤゴウら使節団は首相官邸内の会議室へと通され、充てがわれた席へと座り、会談相手である大高を待っていた。

 

 

「ヤゴウ殿、貴方は日本国の大高総理大臣をどんな人物だと考える?」

 

「はい。田中殿から教えられた通りの人物なら、恐らく相当に優秀な政治家であると考えられます」

 

「うむ……」

 

 

2人は大高がどのような人物で、どのような人柄なのか、殆ど口頭での説明でしか知らされていないため、緊張で体が強張る思いだ。

 

 

『失礼いたします』

 

 

 

そこへドアをノックする音が聞こえ、ヤゴウ、ハンキ、使節団一行は姿勢を整える。

ドアが開かれると、茶色いスーツを着こなした初老の男が入ってくる。

 

 

 

「クワ・トイネ公国使節団の皆さん、遅くなって申し訳ありません。私が内閣総理大臣の大高弥三郎です。今回はどうぞよろしくお願いします。」

 

 

 

使節団は大高の優しいながらも堂々としている姿を見て少しだけ安心する。

 

 

 

「皆さん、どうか緊張なさらずに楽にしてください。」

 

「は、はい。御気遣いありがとうございます。」

 

 

大高に促されヤゴウは肩の力を抜く。

 

 

「では、早速ですが、両国にとって初となる会談を始めましょう。」

 

 

向かい側の席に座った大高を含めた各省庁のトップ達は早速、ヤゴウ達との歴史的な会談を開始する。

先ずはクワ・トイネ公国との交易と国交樹立に関する協議が始められる。

 

 

「先ず我が国の直近の解決すべき問題として、食料にあります」

 

「食料ですか?」

 

「はい。我が国は転移以前は自給自足による食料自給率は何とか国民を飢えさせない程度には高い水準を維持していました。しかし転移後、前世界とは異なる気候による影響と友好国からの輸入が完全に止まってしまった事により国民の生活に欠かせない様々な物が不足しつつあります。このままでは近い将来に国民が飢えに苦しむ事になります。私は内閣総理大臣として国民にこれ以上の負担を強いる事は出来ません」

 

 

大高の言葉は今、日本が抱えている直ぐにでも解決しなければならない問題であり、同席している他の省庁の面々の表情からもその深刻さが滲み出ていた。

 

 

「聞くところによれば、貴国は農業が非常に盛んだと」

 

「はい。我が国は神のご加護により国内の土地は放っておいても農作物が生え、国民全員がタダで美味い食料を手に入れる事ができ、家畜にでさえも質の良いエサが与えられるのです。」

 

「それは凄い!国民全てがタダで食事を摂る事が出来るとは…………」

 

 

 

大高らはクワ・トイネ公国の食料自給率の高さに驚く。

 

 

 

「我が国としましては国民を飢えさせないために早急に貴国と国交を結び食料自給率の水準を上げたいと考えています」

 

 

大高は輸入品目と輸入数が細かく書かれた書類を手渡す。それを見たヤゴウは少し難しい表情となる。

 

 

「そうですね………正直我々もここに書かれている品目の多さには少し戸惑っています。中には聞いた事のない物もありますし、もしそれらを除く代替品でよろしければ我が国は…………貴国が欲している分を全てを賄う事ができましょう!」

 

 

ヤゴウの言葉に各省庁の代表達が安堵の顔になるが、ヤゴウは付け加えるように続きを話す。

 

 

「ただし……ただしですよ、これ程の量を輸出するにしても、それを定期的に、尚且つ安定して運び出すだけの資材や設備を我が国は保有しておりません。」

 

「成る程……分かりました。我が国が貴国の農作物を買い上げる以上は我々は責任を以て、それらの設備に関する全ての技術を貴国に輸出いたしましょう。我が国からは穀倉地帯における資材運搬のための鉄道、品物を輸出するための港湾設備の整備について我が国が全て負担致します」

 

 

これを聞いたヤゴウとハンキは国が栄える未来が見えた。

 

 

「勿論それだけではこざいません。我々には貴国へ輸出できる物に関してまだ幾つか提案があります」

 

 

 

大高の言葉に2人は驚いた。

 

 

「我が国は科学で発展してきました。その科学の中から貴国の発展に繋げる事が出来る技術があります」

 

 

リストが手渡される。

リストには先の農業関連の技術に加えて、自動車や航空機、近代的な船舶の製造と建造技術に繋がる機械製造や製鉄、冶金、製油、化学薬品に関する様々な技術が記されており、ヤゴウとハンキには正直よく理解出来ない物もあるが、これまで目にしてきた日本の技術力が自国にも手に入るとなればそれを逃がす手はなかった。

 

 

 

「大高総理…………ありがとうございます!では今回の件については私どもが責任を持って首相にお伝えします!」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

この日より一週間後の2月14日、日本とクワ・トイネ、更にクワ・トイネの隣国、クイラ王国との3国間で正式に国交締結が成され、正式に国交樹立された。

この国交樹立を記念して、日本国内では紀元前8世紀にローマで禁止されていた若者同士の結婚を禁止した政策に反対し迫害され獄中死したヴァレンティヌスが死去した日に因んで、『バレンタイン条約』と呼ばれ、後の世にまで語り継がれる事になる。

 

 

 

転移後の混乱を水に流すかのように3ヶ月後にはクワ・トイネ公国が日本への農作物輸出用に買い上げた国営農場や農家らが所有する田園田畑には日本製の農機具や農作機械がエンジンを響かせながら、穀物や野菜などの農作物を収穫していく。

 

 

「凄いぞコレは!あの面倒な収穫がこんなにも早く出来るなんて」

 

「おい!こっちの田園は昼までには終わりそうだ!昼飯の後はこっちの田園を終わらせるぞ」

 

「凄い!倉庫に溜まってたのが一気に消えていくぜ!」

 

 

公国から農作物の買い上げ価格の上昇と増産の指示を受けた農家らは、国から有償で貸与された農作機械を使い、日本人技術者の指導を受けながら、少しでも多く国に買ってもらおうと農作物増産に応えていく。

それに合わせて人が足りなくなったため各農家は農作物を売って得た資金を元手に雇用を募り、職を失ったり、働き口を探していた若者や働き世代を中心に大きな雇用も生まれていく。

 

それに合わせて農家や一般家庭での収入が増えて、経済の動きも以前よりも活発となり、日々の食事に必要となる農作物や加工食品の販売を行う商人や商会による買い上げ量も増えて市場が拡大しそれが更に農作物や他の加工食品増産に繋がり、それらの一部を日本への輸出向けに公国が高値で買い取るという、好循環となっていく。

 

 

 

 

 

 

加えて、クイラ王国でもクワ・トイネに負けない程の変化が起きていた。

 

 

「しかし、こんな物にそれ程の価値があったとはねぇ……」

 

 

ツルハシやスコップを手に、穴を掘っているクイラ人労働者達は自身が彫り上げた、金銀銅とは異なる鉱石を手に驚いている。

 

 

「まぁこっちとしては、利用価値の無かった物がカネに変わるんだから文句はねぇけどよ」

 

「おい、聞いたか?日本じゃコレって希少価値が高いんだとさ」

 

「となると、此処はさながら財宝が自然に成る洞窟か?」

 

 

 

それまでクイラでは金銀銅よりも利用価値が殆ど無く、近隣諸国でも全く価値が付かなかった石油やコバルト等の地下資源の存在が日本側の調査により判明した後から殆ど無価値と思われていたこれらの鉱石や石油を日本へ輸出される様になると価格が一気に跳ね上がり、合わせて鉄鉱石や金銀銅の価値も上がった事からクイラ王国国内には日本企業や王国内の商会が建設・保有するプラントや採掘場が増え、人手不足から新たに雇用も生まれ、そこから経済が回り始める。

 

 

 

両国では既に自動車や鉄道などのインフラが日本側の全面支援で整備され、日本の貨物船を受け入れる港も整備された事により、日本、クワ・トイネ、クイラの間で貨物船の往来が航路が活発となり、3国は経済的に大きく発展していく事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く


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