ここは中央世界『神聖ミリシアル帝国』の帝都ルーンポリス。
世界中の誰もが認める、他とは隔絶した魔法技術と文明を持つ世界最強の国家である。
人々は尊敬を込めてミリシアル帝国がある大陸を『中央世界』と呼ぶ。
最強国家としての高度な政治体制、広大な土地と優秀な物質の量産技術、優秀な学問体制を持つ帝国は、かつて存在したラヴァーナル帝国の遺跡を解析し、それを自らの技術として取り入れているため、他国とは比較にならない程発展していると言える。
そんなルーンポリス内にある外務省の庁舎では、二人の男が話し合いを行っていた。
「正直予想外だったな……あのパーパルディア皇国が事実上敗北するとは。」
ミリシアル帝国外務省統括官のリアージュと情報局局長のアルネウスが、パーパルディア皇国による公式発表と、密偵からの報告に驚いていた。
「属領の独立容認、東洋諸国に対する公式な謝罪と和平締結、おまけに軍縮と来た………領土も狭い文明圏外にだから驚きだな。」
「どうやら皇国内に於いてクーデターが起きたようで、現皇帝のルディアスが退陣させられた事によるもののようです。どうやらそれに関わっていたのが例の日本国のようです。」
「日本国か………第3文明圏最強国家とはいえそれを下したとなると、列強はパーパルディアに代わって日本国が成り代わるかもな。」
「リアージュ様、これは由々しき事態です。列強を下したとなると、早急に国交樹立を行う必要があります。」
アルネウスの進言にリアージュは顔を曇らせる。
「確かにそう思うが、議員や皇帝陛下が納得されるかどうか……」
「ではこうするのは如何でしょう?」
アルネウスはリアージュに耳打ちする。
「成る程。先進11ヶ国会議に日本国を招待し、それの指導と準備と称して日本国に使節を派遣か………名案だ!早速上に上申しよう!」
後日、ミリシアル政府は日本国に対して使節団を派遣する事を正式に決定し、パーパルディア皇国を通じて日本国へと伝えられた。
その頃、第2文明圏より遥か西にある国が存在する。
『グラ・バルカス帝国』
この国も日本国と同様に突如として現れ、大帝国と呼ぶに相応しい国力と軍事力により、瞬く間に周辺国家を下し、パガンダ王国、そして列強の1つであるレイフォルを1隻の巨大戦艦で陥とした国。
今や日本と並んで世界から注目されつつある帝国の首都『ラグナ』を中央に聳え立つ城の最上階から、見つめる一人の男が居た。
「この世界は我に何を求める?」
帝王『グラルークス』は、今まで起きた事を振り替える。
かつて故郷の星であるユグドと言う惑星で、ライバル国家である『ケイン神王国』と戦争をしていたグラ・バルカス帝国は、ある日に国ごと全く別の惑星に転移し、混乱から立ち直った時に起きた、パガンダ王国による皇族の殺害事件。
それに端を発するパガンダ王国と、それを保護するレイフォルとの戦争で圧倒的な勝利を得た帝国は、今や無敵と言っていも差し支えない程の軍事力を背景に、この世界を統治するという野望を実行に移しつつある。
「全く面白き世界よ。」
そんな野望を抱くグラルークスが居る城から、少し離れた場所にある情報局の建物の一角にある部屋に、ある一人の男が大量の資料と報告書が入った鞄を持って入ってきた。
「閣下、ただ今帰還しました。」
その男は、かつてロウリア王国で諜報活動を行っていたハントだった。
「ご苦労。では早速だがパーパルディア皇国での件について報告を聞こう。」
「はい。」
そう言ってハントは鞄の中身を上司に手渡し、口頭での説明を行う。
「今回は日本国と日本軍に関する情報が新たに手に入りました。フェン王国とアルタラス王国内にある別の諜報員からの報告では、今回の戦争で日本軍は戦艦、空母、潜水艦、航空機を使って有利に進めていたようです。それに関する写真はそちらに。」
「ふむ…………しかし何故日本軍の艦船や航空機は我が軍の物と意匠がこんなにも似ているんだ?偶然とは思えんが……」
「私も同じように思います。ですが日本国の存在が認知されたのは今年の1月初旬であり、我が国と同じく転移国家である可能性が高いと考えられます。恐らく兵器の意匠が似ているのは偶然かと……それと、今回の調査で面白い物が手に入りました。」
「面白い物?」
「きっと驚きですよ。」
ハントはそう言って鞄の中の資料から10枚の写真と資料を取り出して上司に渡す。
「こ……これは………」
「驚いたでしょう?」
「グレード・アトラスターじゃないか!?」
一枚目の写真には、アルタラス王国のル・ブリアス港を見下ろす高台から撮られた旭日艦隊を捉えた写真であり、2枚目には日本武尊の拡大写真だった。
「ん?……よく見れば檣楼や主砲塔の形は似ているが……船腹がえらく張り出してる上に艦首の形が変わってるな?それに檣楼の後ろに煙突も無いし(日本武尊はディーゼル電気推進であり、明瞭な煙突は必要無い)、兵装配置も違う……」
「私もこの戦艦の写真を見た時は驚きましたよ。この写真を撮った奴の話によると、この戦艦は目測だけでも全長260メートル以上、主砲も46㎝と同等かそれ以上かもと言っていました。」
「46㎝砲と同等かそれ以上だとっ!?」
上司は日本武尊の写真を見て唸る。
「他にもこの戦艦以外に多数の艦艇の写真もありますのでご覧ください。」
ハントに促され、上司は日本武尊以外の艦船の写真を見る。
「
「アルタラス王国を含めた東洋諸国での情報収集結果によると、この写真に映っている艦隊は『旭日艦隊』と言う名前だそうで、司令官は大石と言う名前だそうです。」
「どんな人物か分からないのか?」
「流石にそこまでは………噂では戦術と戦略に長けた優秀な軍人との事ですが……」
「う~む………厄介だな。まさかこんな国力や艦隊を持った国が現れるとは。」
上司は頭を抱えてしまう。
「何れは日本国とも一戦交える事になるかもしれん。ミリシアルとムーは兎も角、日本国は一番警戒しなければならないかもしれん。日本国の軍事力と国力に関する情報が少ない今は、下手に事を進めるべきではない。」
「如何致しますか?」
「上に報告するしかないが、果たして頭の硬い連中がこんな報告を聞き入れてくれるかどうか…………」
上司は自国の強さに酔いしれている軍上層部や、議会が報告を素直に受け入れてくれるとは考えていなかった。
「どうすべきか………………ハント、すまないがまた仕事を押し付けてもいいか?」
「構いません。」
「今すぐ、アルタラス王国の支部に戻り日本国に関する情報収集を再開してくれ。」
「了解。」
こうしてハントはまた第3文明圏へ舞い戻る事となったのである。
続く
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