後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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閑話休題 2

中央歴1639年12月中旬

 

暮れも押し迫ったクワ・トイネ公国の各家庭では、年末に向けた準備が始まっている頃……

 

 

公国の一角に位置しエルフの聖地で『神森』と言われる『リーン・ノウの森』と言う場所がある。

ここは、ほぼ手付かずで豊かな自然に恵まれており、様々な生きものと植物が生息し、ロデニウス大陸でも屈指の自然森とも言われている。

 

 

この森には『エルフ』と呼ばれる種族が郡を成して村を結成し、森の奥にある『聖地』を守りながら暮らしていた。

 

 

「聖地に人を入れるのは嫌だなぁ~……」

 

 

森の入り口で、『ウォル』と言う名前のハイエルフが呟く。

 

 

「こらウォル!その言葉は、お客様の前では言っちゃダメだよ!今日来る人族は日本国の人なんだから。」

 

 

隣に居た友人の『ミーナ』がウォルの事を注意する。

 

 

 

「分かってるよ……でもミーナ、お前は本当に日本国があの"太陽神の使い"と"星の戦士"達と繋がりがあるかもしれないと本気で思ってるのか?」

 

「うん。私はハッキリと見たのよ。前にマイ・ハーク港で見た日本国の軍艦のマストに掲げられていた旗と、ロウリア戦で活躍した日本国の飛行機械に描かれていた太陽の印は、古文書に記されていた古代絵に描かれている太陽神の旗印と同じだったんだから。」

 

「偶然じゃないのか?だって魔王との戦争があったのは一万年も昔の事だし、太陽神の使いと星の戦士達に関する事も大まかにしか記されていないんだし。」

 

 

 

ウォルが言う『魔王』『太陽神の使い』『星の戦士達』とは、かつてこの世界の神話として語り継がれている、ラヴァーナル帝国が残した『魔王ノスグーラ』とこの世界の種族が連合を組んで戦争を繰り広げていたという伝承の事である。

 

伝承では、種族間連合が魔王率いる魔族にフィルアデス大陸を奪われ、当時は神森と言われ、特殊な力を有するエルフ達が住んでいるこの森に追い詰められた際に、長老達は、エルフ達が崇めていた緑の神に救いを求め、それを受けた緑の神が創造主『太陽神』に祈りを捧げた。

 

彼らの願いを受けた太陽神は、自分の存在と引き換えに異世界から"太陽神の使い"とその盟友の"星の戦士達"と言う二つの戦士達を召喚。

彼等は、ラヴァーナル帝国が保有していたような神の船を使って大地を魔物ごと焼き払い、水中を魚のように進む鉄の鱗を持つ水獣を操り、魔王軍をグラメウス大陸へと押し戻した後に、この世界から去っていたとされる。

 

 

 

今二人が住んでいるこの森は、この時以来、自分達以外の人を森に入れた事は無く、彼らにとっては、これからロデニウス大陸の歴史調査でやって来る日本国の人間達は一万年振りのお客様となる。

 

 

 

「確かにロウリアやパーパルディアを下したとなれば、彼等が太陽神の使いと星の戦士達と何ら関係があるのかもしれないと疑うのは分かるが………」

 

「でも、日本軍がロウリア軍と戦った時の光景は間違いなく太陽神の使いと星の戦士達の戦い方と一緒なのよ。確かめてみる価値はあるわ。」

 

 

 

 

 

 

二人が話していると、目の前の林道の向こうから音が聞こえてきた。

 

 

 

「なんだ?」

 

 

暫くしていると、音が大きくなっていき、段々近づいてくるのが分かる。

 

 

「おい!あれっ!」

 

 

林道の奥から見えてきたのは、茶色に塗られた軍用自動車と、大型自動貨車、8つの車輪をつけてた装甲兵員輸送車が黒い排気ガスを撒き散らしながら、やって来る。

 

 

「まさか………伝承にあった、太陽神と星の戦士達が使っていた鉄鋼馬車っ!?」

 

 

二人が驚くなか、車両隊は入り口直前で停車し、自動車から継ぎ接ぎの作業服を来た東京帝国大学の考古学部と科学部を専攻する名誉教授や、陸海軍技術厰や泰山航空工業から派遣されてきた技術者が7人、クワ・トイネ政府から派遣された立会人が降りてくると二人の前に立つ。

 

 

 

「日本国より参りました、考古調査団代表、帝国大学考古学部の中村と申します。本日はお忙しい中、我々の突然の申し出と来訪、そして神森の調査へのご協力を我々一同、感謝の念に絶えません。」

 

 

中村と名乗った考古学者は二人に挨拶と感謝の言葉を述べて、頭を下げる。

 

 

「は……はい。」

 

 

ウォルとミーナは予想していた日本人の控えめな姿勢に困惑する。二人とも、最初は日本人達が横柄な態度をとってくるかと予想していただけに、その意外性に驚きを隠せなかった。

 

 

「では……神森へご案内致しますので、こちらへどうぞ。」

 

 

 

 

ウォルとミーナの案内で、考古調査団と護衛の陸軍兵士1個分隊10人は森に入っていく。

 

 

 

 

 

そして2時間が経過し、調査団一行は森の奥地にまで足を進めていた。

 

 

「はぁ……はぁ……しかし、この森は不思議ですな。方位磁石は狂ったままで様々な方角を示しますし、どの方向を見ても同じような景色が続いて、目がチカチカしてしまいます。」

 

「ここは神話の時代に、魔王軍の侵攻を食い止めるための最後の砦でしたから、森の声が聞こえる我々でないと迷ってしまうのですよ。」

 

「成る程………まるで富士の青木ヶ原樹海のようですな。」

 

 

中村の言葉にミーナが答え、中村は納得する。

 

 

「しかし、これ程の森を2時間近く歩いているのに、護衛の方々は全く疲れが出ていないみたいですね。」

 

 

護衛の陸軍1個分隊は、重い小銃と装備を担ぎながら平然と着いてくる。

 

 

「今回は政府が我々の護衛として、軍の中から山岳での戦闘に特化した精鋭を着けてくれましたから。」

 

「成る程……練度の高さがよく分かります。」

 

 

二人に褒められ、内心嬉しさがある軍人達は表情に出さず、無表情で周囲を見回しながら歩き続ける。

 

 

 

「見えました!あれです!」

 

 

 

そうしているうちに目的地へとたどり着いた。

先頭に居たウォルが指差した先にあったのは、森の中に不自然に開かれた平地に、草で覆われた石造りのドーム状の建物だった。

 

 

「石造りのドーム状の建物か…………これを作った奴は建築技術の天才だぞ。」

 

「見た所、石の表面には多少のヒビはあるが、殆ど劣化していない。基礎もしっかりしてるぞ。現代建築に匹敵する技術だな………」

 

 

建物を見ながら調査団の面々は手にしていたメモに初見による建物の感想を書き綴る。

 

 

「では皆さん、こちらへどうぞ。」

 

 

建物前にある、鋼鉄製の扉の前にミーナが調査団を集めると、建物についての説明を始める。

 

 

「この中には、私達エルフにとっては無くてはならない大切な宝物なのです。既にご存じかと思いますが、魔王軍の侵攻により、この森に追い詰められた我々の祖先達は緑の神と創造主に祈りを捧げ、遂に魔王軍に対抗できる二つの戦士達が呼び出されたのです。それが、"太陽神の使い"と"星の戦士達"なのです。彼等はその持てる魔導でロデニウス大陸内に居た魔王軍をフィルアデス、最終的にはグラメウス大陸まで押し返し、役目を終えてこの世界から去っていきました。」

 

 

ミーナの次にウォルが説明に入る。

 

 

「しかし彼等には、役目を終えて動かなくなった神の船と鉄の鱗に覆われた水獣が居ました。彼等はこの世界を去る時に、それをこの建物の先と地下にある地下湖に残していきました。祖先達は、今では失われてしまった時間遅延魔法を使い代々それを大切に受け継いでいました。」

 

「伝承では、神の船と鉄の鱗の水獣は共に戦いで自らの血を使い果たし、動かなくなったとあります。」

 

 

 

 

その説明を聞いて調査団と護衛の軍人達の心拍数は緊張感と期待感によって徐々に上がっていく。

 

 

「ワクワクしますね。」

 

「あぁ…何せこの世界の貴重な歴史を目にできるんだからな。考古学者としてこの時程のワクワクするものはない。」

 

 

教授達は子供のようにはしゃいでいるが、技術者達は先程の説明に"妙な違和感"を感じつつも、それを口に出す事はなかった。

 

 

 

「それでは扉を開けますが、その儀式のため少しお時間を頂けますか?」

 

 

調査団達はふたつ返事で了承し、ミーナとウォルは両手を合わせながら神に祈るような仕草で呪文を唱えると扉を覆っていた草木が、まるで生きているかのように動き出した。

 

 

「草木が………」

 

「まるで生きてるみたいだ……」

 

 

調査団達は目の前の光景に目を見開く。

 

 

「おぉ……扉が開くぞ。」

 

 

草木が扉から離れると、扉が音を立てながらゆっくりと開く。

 

 

「では行きましょう。」

 

 

調査団一行は護衛の陸軍兵数人を入り口に残してドームの中へと入っていく。

 

 

 

そして調査団の目の前にエルフ達が宝物と崇める、宝物の一つ目である神の船が現れる。

 

 

「おい………これって………」

 

「まさか……オートジャイロか?」

 

 

それを見た瞬間、教授達よりも泰山航空工業の技術者達が驚きの声を上げる。

目の前の格納庫のように広い場所の左右に置かれた神の船は一種類ではなく複数種類存在した。

 

 

 

まず最初に目についた神の船は、胴体に迷彩柄の塗装が施され、先の方に縦列複座式の座席を被うようにつけられた枠付きのガラス窓、その下に備えられた大口径単装機関砲、頭上には戦闘機の物よりも長くて巨大なプロペラと尾部には一回り小さいプロペラ、胴体左右から突き出た小さな翼には噴進弾と18個の穴の空いたロケット弾発射機を備えたオートジャイロ………

 

その隣には、同じ迷彩塗装が施され、頭上と尾部にも前者とほぼ同じ大きさのプロペラ、左右横に並べられた操縦席に10人程の人員が載せられるくらいのスペースがある貨物室がある中型オートジャイロ……

 

 

更に奥には先程の物よりも巨大な胴体をもち、胴体上の前と後ろに巨大なプロペラ、中には車1台が載せられるくらいの広い空間を持つ貨物室を備えた大型オートジャイロ……

 

 

何れの物は日本の技術者達がよく知っているオートジャイロとおなじ構造を持つ航空機であり、これらには共通して、微かであるが胴体には、日本人しか読めず、この世界にある筈の無い5つの漢字と国籍マークが描かれている。

 

 

 

「陸上……自衛隊………と書いてあるみたいですね。」

 

 

 

中村が漢字を読むと、ミーナが驚きの声を上げる。

 

 

 

「この文字が読めるのですかっ!?この文字は太陽神の使い達が使っていた異界の文字なのです。我々にとっては未知の文字なので誰も読めなかったのですが……」

 

 

そこへ、奥へ先に行こうとして居た中村の助手が慌てた様子で中村に叫ぶ。

 

 

「中村教授っ!!こっちにもそっちとは色違いのオートジャイロと戦闘機らしき航空機がありました!」

 

「何っ!?」

 

 

慌てて助手が居る、色が違うだけの前者と全く同じオートジャイロと航空機に駆け寄る。

 

 

オートジャイロは前者と同じ種類の物だが、その先に鎮座していた灰色の塗装が施された航空機はオートジャイロではなく、プロペラやレシプロエンジンを備えておらず、噴式エンジンを備えた航空機特有の空気取り入れ口があり、可変式のエンジンノズル、一体成形の風防に覆われた操縦席、胴体上を中心に左右へ向かって下向きに伸びる翼に長い主脚………

 

 

そしてこちらにも同じく胴体には、この世界には無い文字と星の国籍マーク書かれている。

 

 

「これは………英語じゃないかっ!?」

 

 

オートジャイロと噴式航空機には同じく、この世界には存在しない英語で『US ARMY』『US MARINE』と描かれている。

 

 

「漢字と英語が書かれている航空機…………後者の航空機は恐らく英語で国籍標示から見てアメリカの物とみて間違いないが……前者は恐らく日本のものだが陸上自衛隊なんて組織は聞いた事が無いぞ………」

 

「いや教授、それよりも何故ここに日本とアメリカの航空機があるのかが重要なんですが……」

 

 

 

調査団一行の空気が重くなる中、ミーナが調査団に話し掛ける。

 

 

「あの…実はこの奥にも太陽神の使いと星の戦士達が使っていた火を吐く鉄の地竜があるのですが、ご覧になりますか?」

 

「「「「「是非っ!!!」」」」」

 

 

彼らが更に奥に進んだ場所には、衝撃的な物があった。

 

 

「これは……戦車じゃないかっ!!」

 

 

そこには、鉄製の車輪に履帯を備えた車体の上に亀のような形をした砲塔から伸びる長い砲身を持った戦車や、前者よりも箱のように角張った砲塔とより強力な砲を備えた一回り大きな戦車が5台程鎮座していた。

 

 

回りには、陸軍の夜豹師団が使っているのと全く同じ外観の8輪のタイヤを備えた装甲車に、6輪のタイヤを備えた車体の上に大口径の機関砲をつけた砲塔を備えた装甲車に、同じ6輪のタイヤを備えた装甲車らしき車、小型の4輪装甲車、アメリカのジープを一回り大きくしたような4輪大型自動車、トラックや戦車回収車も複数あった。

 

 

 

「中村教授………」

 

「うむ。太陽神の使いと星の戦士達は間違いなく、近代兵器を備えた日本とアメリカの軍事組織だったみたいだ。それも今の我が国よりも先の時代の物かもしれん………」

 

 

 

調査団の謎が深まる中、ミーナとウォルの案内で、今度は鉄の鱗を備えた水獣が安置されている地下湖へと通される。

 

 

 

 

 

 

 

続く




水獣の正体については、次の話に持ち越したいと思います。

劇中にでてきた、兵器群の正体は皆様はお分かりでしょうか?

ご感想、ご意見お待ちしております。

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