後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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閑話休題 3

調査団一行はドーム状となっている神殿の更に奥、地下へと通じる入り口から入って行く。

 

 

「なんか不気味ですね……」

 

 

地下へと続く石の階段を下りながら、中村は辺りを見回す。天井からは地下水の水滴が滴り落ち、地下独特の湿気により壁や地面は濡れており、滑らないように慎重に降りていく。

 

 

「ここは神話の時代には地下道により海と繋がっていたのです。太陽神の使い達は、出現した北の海岸からこの奥にある窪地に目をつけて、水獣の棲みかを作ったと言われています。」

 

「今はどうなっているのですか?」

 

「神話の時代から現代に至るまでに起きた自然現象による土砂崩れと、地震による地殻変動で今は海との繋がりは完全に断たれています。そのため水獣の棲みかは巨大な地底湖となっているのです。」

 

「成る程……(となると、水獣の正体はやはり…)」

 

 

中村達は水獣の正体について大方の検討は付いていたのだが、まだそう判断するのは早計として、敢えて口には出さずに居た。

 

 

 

「あれです……あの扉の向こうに水獣が安置されています。」

 

 

やがて最下部にたどり着き、大きな鋼鉄製の扉が現れる。

 

 

「ウォルさん、この扉は金属で出来ているようですが、あまり錆が見られませんね。それに最近、開けたような形跡が見られますが……」

 

「はい。我々は毎年、水獣に祈りを捧げるために年に一度はこの扉を開けているのです。それにこの扉も時間遅延魔法によって作られた当時の状態を保っているのです。」

 

 

ウォルの言う通り扉の表面には錆は殆ど見られず、鍵となっている鎖を繋いでいる南京錠も同様である。

 

 

「ではこの扉の鍵を開けます。」

 

 

ウォルは懐から、木箱を取りだし、蓋を開けて中から一つの鍵を取り出し、南京錠に差し込んで回す。

 

 

「開きました。では扉を開けます。」

 

 

南京錠を開錠し鎖を退けると、扉を開ける。

扉の向こうに広い空間が有るのは判るが、真っ暗で殆ど何も見えない。

 

 

「皆様、手にしている松明の火で中を照らしてみてください。」

 

 

言われた通り、松明の火で辺りを照らしてみる。

 

 

すると……………

 

 

 

「!?」

 

 

ぼんやりと、辺りを青白い、人工の物とは異なる自然に近い光が照らし出した。

 

 

「これは我が国の地下において湿気が多い場所に生息する、ヒカリゴケと呼ばれる植物が放つ光です。これは暗闇において僅かな光に反応し青白い光を放つ特徴を持つ我が国独特の植物なのです。」

 

 

空間内の天井や壁に自生していたヒカリゴケは徐々に光量を強めていき、数分で広い空間を照らすのに充分な光量に達し、広い空間に幻想的な光景を写し出した。

 

 

 

 

「おい!あれをっ!!」

 

 

中村が指差した所には、透明な淡水で湖底まで見える地底湖にひっそりと浮かんでいる、黒く巨大な影があった。

 

 

それは誰が見ても明らかに潜水艦と呼べる代物であり、日本海軍でも新型潜水艦向けに研究が進んでいる、葉巻型と呼ばれる水中抵抗を少なくするための形状の船体は後部に向けて細く絞られ、船体中央を軸に大きなスクリュー1本が備えられ、上部には左右から突き出た潜舵が特徴のセイル、艦首には6門の魚雷発射管が備えられている。

 

 

 

 

「これは間違いない……潜水艦です!しかもかなり洗練されている」

 

「成る程……鉄の鱗を持つ水獣とはよく言ったものだ。」

 

 

更に謎が深まる中、中村達の調査団と海軍技術廠の技術者はウォルとミーナに許可を取り付け、目の前の謎の潜水艦に乗り込もうとする。

海軍技術廠技術者の軍人2人が先に安全確認のため、セイルに備えられた梯子を伝ってセイル上へと昇っていき、見張り所へと入る。

 

 

「どこかに中へ行くためのハッチがある筈だが…………」

 

「これじゃないか?」

 

 

床にあったハンドル付きのハッチを見付け、ゆっくりとハンドルを回してロックを解除し、重いハッチをゆっくりと開ける。

 

 

「少尉、ここから中へ入れるな。行くぞ。」

 

「はい。」

 

 

技術大尉と技術少尉の肩書きを持つ海軍技術者二人は中へと続く梯子を伝って、艦内へと降りていく。

 

 

「たどり着いたようですが……」

 

「真っ暗ですな…………」

 

 

司令室らしき場所へとたどり着くが、流石に主電源となる発電機とエンジンが動いていないため、上のハッチからの僅かな光を頼りに、照明と思われるスイッチを押しても照明灯はつかなかった。

 

 

「大尉、ここに艦内の見取り図がありました。」

 

 

海軍技術者の一人である若い技術少尉が、ライターの光を頼りに辺りを探っていた所、艦内見取り図を発見した。

 

 

「うむ…………此処はこの艦の指令室だ。向こうから艦尾へと続いているようだ。」

 

「大尉、この発電室と機関室に行けば電源を始動させられるかもしれません。」

 

 

見取り図に記されている発電機室と機械室を指差す技術少尉。

 

 

「よし………ここは二手に分かれよう。少尉は機関室へ、私は発電室へ行く。」

 

「了解。」

 

 

二人は指令室から二手に分かれて艦尾にある機関室と、艦の下の区画にある発電室へとそれぞれ向かった。

 

 

 

「通路が狭いのは共通なんだな」

 

 

 

真っ暗な中、ライターから発せられる火の光を頼りに、潜水艦特有の狭い通路を真っ直ぐ歩き。いくつかの区画を抜けると、機械室前へと辿り着いた。

特にロックはされておらず、ドアノブを手で回して扉を開ける。

中には、まるでつい最近まで使われていたかのような状態を保っている機械類が狭い空間に所狭しと密集している。大尉は機械室の通路を歩いて燃料タンクを探し、それらしい物を発見した。

 

 

 

「………僅かだが燃料が残ってるな。」

 

 

 

燃料タンクに接続されている燃料計の針が僅かだが燃料タンクに燃料が残っているのを示している。機関室に残されていたエンジン始動手順が書かれたプレートを頼りにエンジンを始動させると、艦内にディーゼルエンジンの独特なエンジン音が響き渡る。

 

 

それはまるで、一度は失われていた命が再び吹き込まれ、息を吹き返したかのようだった。

 

 

 

「す、水獣が!」

 

「生き返ったっ!?」

 

 

今まで目の前の潜水艦が動いているのを見た事が無かったウォルとミーナは、ディーゼルエンジン音がまるで心臓の音のように聞こえ、排気口から出てくるディーゼルエンジンの白い排気煙が水獣が息をしているかのように見える。

 

 

「お!」

 

 

暫くして、ディーゼルエンジンにて発電された電気が蓄電池を通じて電気系統を動かし、今まで真っ暗だった艦内の照明灯が光りだした。

 

 

 

「1万年ぶりの復活だな。」

 

 

 

だが残っていた燃料ではそれも数分しか保たず、エンジンは停止し、蓄電池にも蓄えられる程の電気が作れず、照明も消えてしまった。

 

 

 

「教授。この潜水艦は間違いなく日本の物です。艦内の表示も日本語ですし、残されていた海図は日本近海の物でした。」

 

「やはり。太陽神の使いの正体は間違いなく日本人、星の戦士達はアメリカ人だ。それも、我々よりも遥か先の時代のな……」

 

「と言う事は……ここにある潜水艦や航空機は全て未来の産物と言う訳ですな。」

 

 

 

調査団はたった一日目で、この世界の考古学者の誰もが突き止められなかった太陽神の使いと星の戦士達の正体を突き止めたのである。

これはこの世界、ひいてはクワ・トイネ公国にとっては歴史的な大発見とも言える。

 

 

 

「他にこの潜水艦について分かった事はありましたか?」

 

「艦内の資料と表示板に刻印されていた情報から、この潜水艦は、海上自衛隊の第○潜水隊群所属のおやしお型潜水艦『なみしお』と言う名前です。動力はディーゼル機関を主とした電動機推進のようです…………それ以上の事は今後の調査待ちです。」

 

「この潜水艦は生きています。燃料を入れれば動くと思いますよ。」

 

 

大尉は中村に潜水艦について報告し、中村は再び潜水艦を始動させるための燃料がどうにかならないか考える。

 

 

「あの……中村教授。ダイダル基地に燃料の補充と調査用の機材を持ってきてもらうよう要請して、それまではトラックの予備燃料を使いましょう。」

 

「そうだな。」

 

 

中村は、ウォルとミーナに顔を向ける。

 

 

「お二人とも、ここにある戦士達の遺産は我が国にとっても貴重な歴史遺産になるやもしれません。今後は調査の規模を拡大し、調査にご協力願いないでしょうか?」

 

 

中村の問いに二人は互いに顔を合わせ暫く黙り込むと、中村に顔を合わせる。

 

 

「中村様、そして日本の皆様。私たちはここに置かれている歴史遺産のお陰で、こうして再びこの国とそして我々エルフ族が太陽神の戦士達と深い繋がりを持つ貴国と出会えた事を嬉しく思います。」

 

「貴殿方は間違いなく太陽神の使い達の住んでいた異界の国の方達です。今後の遺跡の調査は我々エルフ族が全面的に支援致します。」

 

 

 

二人は中村達と固い握手を交わす。

 

 

 

こうして、今まで謎とされてきた古代遺跡の真相に近づいたクワ・トイネ公国リーン・ノウの森には日本の軍民技術者や考古学者達が集まり、遺跡の更なる調査が開始された。

 

 

 

 

 

 

続く




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