中央歴1639年 4月
日本とクワ・トイネとの国交成立から数ヶ月近くが経過し、既に両国との間では軍民問わずに交流が始まっていた。
特に盛んな技術交流では、クワ・トイネとクイラの両国は日本から輸入した科学技術を応用した技術を基に自国の発展に生かしつつあった。
首都マイ・ハークは以前とは打って変わり、道路整備と鉄道整備が進み、穀倉地帯から首都へと続く町にある駅には黒煙を吐きながら資材や食料品を積載した蒸気機関車が行き交い、アスファルトで塗りかためられた道路にはトラックやバイク、馬車が頻繁に行き交う姿が見受けられる。
無論クイラにもクワ・トイネから鉄道を使って石油や鉱物資源と入れ替わるように食料品や様々な技術力が運び込まれ、両国は建国以来の好景気に沸いていた。
そんな中で、クワ・トイネ公国首都マイハークの日本大使館に、ヤゴウが慌てた様子で駆け込んできた。
「田中大使、ヤゴウ様が至急お会いしたいとの事です」
田中は突然の来客者に驚きつつもヤゴウと会合を行った。
「その節はお世話になりましたヤゴウさん。何やら火急の用事があるとお聞きしましたが?」
「はい……実は隣国のロウリア王国についてなのですが」
「やはり動き出しましたか?」
「はい。ここ数週間でロウリア王国の軍勢の動きが活発になっているようで、遂昨日には我が国への侵攻を見越した準備を開始しているとの情報が入ったのです。」
不穏な話題に田中の表情が険しくなる。
「既に彼の国との外交窓口は閉ざされており、程なくして我が国はロウリアとの戦争になるかもしれません………そうなった場合、都市のいくつかを放棄しなければならないでしょう。その都市の中には貴国に輸出する穀物を作っている穀倉地帯も含まれているのです。もしそこがロウリアに押さえられれば、貴国への輸出は…………」
「ここまで来て………予想はしていたが」
田中は歯を食い縛り、せっかくの努力が水の泡になりかねない事態に曇った表情となる。
「私は貴国で見せていただいた光景を片時も忘れた事はありません…………田中さん!」
ヤゴウは田中に詰め寄り、真剣な表情で訴える。
「単刀直入に申し上げます。貴国から我が国への援軍をお願いします!」
ヤゴウはカナタから預かった文書を田中に手渡す。
「中身を確認致します」
田中は封筒の封を切り中に入っていた文書の中身を確認する。
(カナタ首相をはじめとした公国政治の中心に立つ面々のサイン付きの要請文書か。公国は本気だな)
田中は高度に政治的な問題が絡む軍事要請に頭を抱える。
(現状では、ロウリア王国が仕掛けてくるかもしれないと言う段階だが、本当にロウリア王国が仕掛けてきた場合に穀倉地帯を押さえられれば再び我が国が危機に陥る事は誰の目にも明らかだ……しかし、まだロウリア王国との国交開設の余地は残されている現状ではそう簡単に安請け合いはできないか)
現状、ロウリア王国との国交開設に関しては進展はしておらず、平和路線を進む日本は不確定な状況でロウリアを安易に敵に回すような事は出来ない。
しかしロウリア王国はロデニウス大陸統一という国是があり、裏には大きな黒幕とも言える『パーパルディア皇国』と呼ばれるロデニウス大陸より更に北にあるフィルアデス大陸にある国家の存在が東機関の調査で判明している事から、クワ・トイネ侵攻が現実となれば日本、クワ・トイネ、クイラにとっては政治的にも経済的にも深刻な問題となる。
ロウリアにクワ・トイネの穀倉地帯とクイラの石油プラントや採掘場を抑えられるか、もしく破壊でもされれば2国は勿論、日本とっては本当の意味での死活問題となる。
クワ・トイネとクイラの軍事力に加えて、日本の近代的軍事力が合わさればロウリア王国が目論む野望を阻止に加えて、黒幕であるパーパルディア皇国に対する大きな牽制ともなる。
(現状だとこれしか、クワ・トイネへの軍の派遣の口実にしかならないか)
その場でヤゴウに田中は返事を出す。
「ヤゴウさん。援軍の件につきましては、私が責任を持って本国に届けます。」
「本当ですかっ!!」
「はい。必ず良い返事が持ってこれるように努力しましょう!」
その日のうちに、クワ・トイネ公国からの要請は田中からの意見が添えられた文書と共に日本の大高の元へと届けられた。
続く
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