中央歴1640年 元旦
異世界に転移してから一年が経過した後世日本は、ロウリア王国とパーパルディア皇国との戦争に勝利し、第3文明圏でその発言力と新国家としての基礎を強める中、大高弥三郎は毎年の恒例行事である初日の出の遥拝を紀伊の神山、玉置山にて行っていた。
「………………………」
崖の上で座禅を組み夜明けを待ち続ける大高の前に、東の空から初日の出が上がり、光が大高の体を照らす。
(国家転移から早一年………我が国は転移による困難を潜り抜け一時の平穏を謳歌している。既に我が国は一年足らずで多数の国と国交を締結し、つい先日には。列強ムーとも10000年振りの再開を果たし同盟を組んだ。)
後世日本が転移してからの一年間、大高は何故突如として別世界に国土ごと転移してしまったのであろうかと考える。
(前世界に於て我が国は独国の世界侵略の野望を阻止すると言う大義名分の元、第二次世界大戦に参加したが、この新世界に於て我が国は何を見出だすべきか………この世界はナチスのような極端で暴力的な世界制覇を掲げる国家は存在せず、各国が安定した世界情勢を維持している。だが………我が国は一年の間で安定した世界情勢を揺るがすような事態を起こしてしまった………これは誰が何と言おうと変えようのない事実だ。)
姿を見せた朝日を大高は目を開けて見つめる。
(我が国がこの世界でどのような役目を担わなければならないのか……何を前提に行動すべきなのか……改めて見極める必用がある。今年中に目標を見出ださなければ、我が国はこの世界での存在意義を見失い、再びあの軍国主義の暗黒時代に戻ってしまう……)
大高は心中で、今年中に日本が目指すべき目標を早急に掲げなければならないと考え、再び瞑想に入った。
それから一週間後の1月8日、正月が終わり世間は仕事始めにより、例年通りの慌ただしさを見せ始めた頃。
大高は12月中旬に国交を開設したムー国から招いた駐日ムー国大使『ユウヒ』との新年の挨拶を兼ねた会談のため、ムー国大使館にやって来ていた。
大使館の一室のソファで大高の到着を待っていたユウヒは、扉の前から気配を感じ取り姿勢を正す。
『大高です。』
「どうぞ。お入りください。」
数回のノックがされてから聞こえてきた大高の声に、ユウヒはドアを開ける。
「ユウヒ大使、新年あけましておめでとうございます。」
「こちらこそ、あけましておめでとうございます。大高閣下には御機嫌麗しゅうございます。」
双方とも笑顔で挨拶を交わした後に、早速会談に入った。
「貴国との国交締結から早くも一ヶ月……我が国では貴国との同盟が締結された直後より、国民達は日本に対する友好ムードが日に日に高まりつつあります。」
「それは喜ばしい事です。私と致しましても、貴国の働き掛けで、この世界で一番の国力を持つ神聖ミリシアル帝国との仲介役を貴国が買って頂いたお陰で、今月下旬にもミリシアルからの使節団の受け入れを行い国交開設に関する協議が無事に終了しました。」
今から1ヶ月前の1639年12月25日、日本は神聖ミリシアル帝国使節団の訪問を受けていた。ミリシアル使節団から日本国は、この世界の強国の代表が集まって協議する『先進11ヶ国会議』への招待を受け、そこでミリシアルを含めた他の列強各国との協議を行う事で同意した。
先進11ヶ国会議に招待されるというのは、日本国が列強に名を連ねられるのと同義なため、日本政府は新世界の国々から新たに認められ、外交や国交面でも有利で国益にも大きく影響する事から、先進11ヶ国会議に向けての準備に奔走していた。
「貴国の仲介のお陰で我々は孤独にならずにすみそうです。これも貴国の我が国に対する友好的な証あっての賜物です。本当にありがとうございます。」
「いえ。貴国と我が国はかつての友好国であり、こうして再び出会えたのですから、友人同士となった今、お互いを支え合い、発展を目指して行きましょう。」
「はい。今後ともよろしくお願いいたします。」
穏やかな雰囲気で、続けられた会談は、両国間での技術交流や、輸出入の条約に関する話し合いが行われ、最後にムー国への新年の挨拶が書かれた親書をユウヒに手渡して、会談はつつがなく終了した。
それから更に一ヶ月後の2月1日、帝都東京から離れた中国地方にある広島県呉市の、海軍基地では……
「ようやくこの日が来た………」
海軍基地から瀬戸内海を臨む、埠頭にマイラスの姿があった。
「なぁマイラス、少し落ち着けよ。」
彼の隣に立っていた、友人で戦術士官の『ラッサン』は興奮するマイラスを窘める。
「だがラッサン、今から技術大国である日本の最新鋭艦が見れるんだぞ。これが興奮しないで居られるか?どんな技術が使われているのか、どんな性能を持っているのかが見れるのが楽しみなんだ。何せ政府が日本と一ヶ月かけて交渉してくれて、ようやく見られるんだからな。」
「相変わらずの科学馬鹿だなお前は……まぁ俺も他人の事を言えた義理では無いがな。」
ラッサンもマイラス程では無いが、日本の最新鋭艦が見られるとあって内心、子供のようにワクワクしている。
今この二人がこの場に居るのは、日本とムーとの間で締結された技術交流協定の一環として、日本の造船技術の視察と調査のため、ここ呉に訪れていた。
「お、迎えの船が来たぞ。」
そうしているうちに、沖から迎えの内火艇がやって来た。内火艇は目の前にある桟橋で停まった。
そこへ内火艇の中から海軍第1種軍装に身を包んだ、旭日艦隊参謀の原元辰が現れた。
「ムー国からお越しのマイラス殿とラッサン殿でありますか?」
「はい。」
「そうです。」
「私は旭日艦隊司令長官、大高閣下よりお二人のご案内役を仰せつかりました、原元辰であります。お迎えに上がりました。」
「ご苦労様です。」
「では、当艦隊旗艦へとお連れいたします。内火艇にご搭乗ください。」
原に促され二人は迎えの内火艇に乗り込む。
「では出発致します。」
原の命令で内火艇に居た水兵がエンジンを始動させ、内火艇を桟橋から沖合いに向けて出発させる。
「これより本艇は柱島泊地へと移動し、旭日艦隊旗艦『日本武尊』へと向かいます。」
今回二人が視察に向かうのは、先のフィルアデス戦争で任務を終えて呉に帰投していた旭日艦隊旗艦の日本武尊であり、大高はムーと最初に接触した御園と佐伯がマイラスより聞かされたこの世界独自の砲艦外交を参考に、大高はラ・カサミ級戦艦を見学させて貰った対価として、両国の友好の証と言う大石の提案を受け、技術交流を目的としマイラスとラッサンを日本武尊に招待したのである。
桟橋から出港してから30分して、内火艇は旭日艦隊の停泊地である柱島泊地へと到達した。
「マイラス殿、ラッサン殿、見えてきました。」
原の言葉にマイラスとラッサンは内火艇の中から甲板に出ると、前方に目を向ける。
「あれは………」
「おぉぉ~…………」
内火艇の先には、後世日本の造船技術の粋を集めて建造された、旭日艦隊旗艦、超戦艦『日本武尊』が錨を降ろして停泊していた。
「あれがヤマトタケル………」
「噂には聞いていたが……あの国の戦艦とシルエットが似ているな……」
二人の脳裏には日本武尊が、隣国のレイフォルの首都レイフォリアを艦砲射撃で焦土にしたグラ・バルカス帝国の超戦艦『グレードアトラスター』の写真画像が浮かんだ。
「あの艦もグレードアトラスターとほぼ同種の艦のようだな。」
「みたいだな……だが近くで見ればグレードアトラスターとの共通点は……艦橋形状と砲塔の外観くらいか? 砲の数も同じだが、それ以外は見当たらないな……外観が似ているのは偶然か?」
二人の言う通り日本武尊は、グレードアトラスターと性能が酷似している大和型戦艦を前世から転生した技術者と後世日本の造船技術者が様々なアイデアを結集させ建造した、前世界に於ても最強クラスの戦艦である。
デビュー戦となった独海軍の高速戦艦ビスマルク2世と巡洋戦艦シャルンホルスト戦で、搭載している51㎝砲の一斉射でシャルンホルストを撃沈し、ビスマルク2世にも戦闘不能の損害を追わせて撤退させるなど、華々しくデビューした日本武尊は、その後も独軍との戦闘で旭日艦隊を勝利に導いている。
「マイラス殿、ラッサン殿、これより本艇は日本武尊の右舷へと接舷し、そこから艦へと上がります。」
内火艇は日本武尊の右舷へと接舷し、既に用意されていたラッタルを登り、最上甲板へと昇る。
「捧げ銃っ!!」
甲板に上がると、日本武尊に所属する水兵が整列し手にしていたライフルを身体の前に掲げると一斉に敬礼する。
「ようこそ、マイラス殿、ラッサン殿。」
奥から二人の元へ、この旭日艦隊司令長官『大石蔵良』が出迎えにやって来た。
「本日はよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
二人は大石と固い握手を交わした。
続く
次回はマイラスとラッサンが日本武尊を探訪します。
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