後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第49話の内容を少し変更しました。
ミリシアル使節団との接触について簡単に纏めています。


第51話

柱島泊地から訓練に向けて出港した日本武尊は、瀬戸内海の海上を15ノットで進んでいた。

艦内では大石がマイラスとラッサンを様々な所へと案内していた。

 

 

「ここが本艦の右舷甲板となります。」

 

 

大石は二人を日本武尊右舷甲板へと案内する。

二人の目の前には日本武尊に装備されている、76㎜、127㎜の連装と単装速射砲と、25㎜対空機関砲が針ネズミのように配置されており、各砲にはそれぞれの担当員が訓練前の整備点検を行っていた。

 

 

「凄い数の砲火器ですね。これらは何に使うのですか?」

 

「ここに配置されている機銃と両用砲は主に、対空戦闘や小型艦艇への攻撃に使用します。これらは全て火器官制装置による遠隔操作による管制射撃と、各砲が独自に射撃を行う銃側射撃にて戦闘を行います。」

 

「大石閣下、質問宜しいでしょうか?」

 

 

マイラスが大石に質問を投げる。

 

 

「銃側射撃は分かるのですが、管制射撃とはどう言った物なのですか?」

 

「管制射撃と言うのは、それぞれの砲を統括する射撃指揮装置が目標の観測と捕捉、照準、修正を行い、それらの諸元を指揮下にある各砲へと伝達し射撃を統制するシステムの事です。つまり、管制射撃に於ては、各砲に配置されている兵員は弾丸の装填だけを行い、射撃は射撃管制指揮所が行うのです。」

 

 

大石の説明にマイラスとラッサンは画期的な射撃方法に脱帽した。

 

 

(凄いな……それなら個別照準を行うより、より効率的に戦闘を進める事が出来ると言う訳か。)

 

 

いまだに電子技術が発達していないムー国では、レーダーが実用化されておらず、日本の優秀な電子技術を応用した画期的ともいえる射撃指揮装置の意味をマイラスは瞬時に理解する。

 

 

「成る程………流石に大型艦ともなれば武装の数が半端ではありませんね。射撃管制装置での射撃なら小型艦艇や木造船、航空機は近寄れないでしょう。」

 

「それがそうでも無いんですよ。」

 

 

 

大石から発せられた言葉にラッサンが反応する。

 

 

「どう言う事なのでしょうか?これ程の火器を統括する射撃管制装置があるのに?」

 

「我々が前に居た世界……地球では既に日本武尊のような巨大戦艦は時代遅れのような存在だったのです。」

 

「えぇ!?地球では、このような戦艦を上回る兵器が有ったのですが?」

 

「はい。」

 

「それはどのような物なのでしょうか?」

 

「それは、御二人もよくご存知の物ですよ。」

 

「「??」」

 

 

二人は思考を巡らせて、戦艦に対抗でき、自分達が知っている兵器について考る。

 

 

「申し訳ありません閣下……私には検討がつきません。」

 

「私もです。」

 

「まぁ当然でしょうな………地球では航空技術が著しい進歩を遂げていたのです。」

 

「航空技術………まさか、戦艦に対抗できる兵器とは航空機なのですか?」

 

「その通りです。」

 

 

以外な答えにラッサンが驚く。

しかしマイラスは事前に日本軍が航空機を用いた基本戦術についての情報を受け取っていたため、特に驚きはしなかった。

 

 

「しかし閣下、航空機に搭載できるのは機銃か小型の爆弾程度なんです。とてもですが航空機が戦艦を上回る兵器だとは思えないのです。」

 

「確かに……航空機だけではいくら数をぶつけようと戦艦を沈めるのは非常に困難です………ですが、船の構造上脆い部分は何処だと思いますか?」

 

 

大石の問いにラッサンは船底と答えようと思ったが、何か別の意味があるのかと考え込んでしまう。

見るに見兼ねたマイラスが口を開く。

 

 

 

「地球では航空機に搭載できる、"魚雷"と言う兵器がありましたね?」

 

「流石はマイラス殿」

 

 

魚雷と言う単語を聞いたラッサンはマイラスに詰め寄る。

 

 

「マイラス教えてくれ!魚雷とは何なんだ?」

 

「水中を高速で進む大型の対艦攻撃爆弾の事だ」

 

「水中を高速で進む………………あっ!」

 

 

ようやく魚雷の事を理解したラッサンは、魚雷の使用用途や戦術を理解した。

 

 

「水中から敵艦へと直進し、構造上一番脆い船底を破壊する訳かっ!!」

 

「その通りです。我々の世界では航空機だけではなく、駆逐艦と言う高速の小型艦艇や巡洋艦の搭載兵器として使用されています。」

 

 

ラッサンは魚雷と言う新しいアイデアの事で頭が一杯だった。

 

 

「魚雷があれば兵装搭載量が少ない小型艦艇や巡洋艦でも速度を生かして、戦艦にも充分に対抗できるし、航空機に搭載できれば空から爆弾と魚雷攻撃を同時に行える訳かっ!?こりゃ戦術の幅が広がる!」

 

 

仮にも戦術士官であるラッサンは魚雷の有効性を理解し、それを駆使した戦術も的確に言い当てる。

 

 

「何でもっと早くこんな兵器のアイデアが思い付かなかったんだ!?これを実用化できれば我が海軍の全ての艦艇に魚雷を搭載し、全ての種類の艦艇に対抗できる最強艦隊が出来上がる……マイラスっ!!」

 

「何だ?」

 

「国へ帰ったら直ぐに上層部へ、この魚雷について報告してくれ!そうしたら直ぐに魚雷の開発を……」

 

「待て待て、落ち着けラッサン。私も最初はそう考えたが、魚雷は我が国ではアイデアすら無かった兵器なんだぞ。いきなり何も無しで魚雷を開発しろだなんて無茶苦茶だぞ。」

 

「だったらユウヒ大使を通じて日本政府へ魚雷のサンプルを……」

 

「それも考えたが、今は我が国と日本国とでは軍事に関する技術交流協定は未だ準備に入ったところなんだ。仮に協定が結ばれたとしても日本が魚雷を提供してくれるとは限らない。仮に魚雷のサンプルが提供されても、我が国で実戦配備できるのは数年以上先の話だ。」

 

 

それを聞いてラッサンは膝をついて落ち込む。

 

 

「数年以上先…………それじゃ…それじゃ……」

 

 

無論、彼が魚雷をこんなに欲しているのは理由があった。

今、ムー国の隣国であるレイフォルを滅ぼしたグラ・バルカス帝国と言う脅威が迫りつつある中、ムー国は軍備増強を図っているが、戦艦グレード・アトラスター以外にも、多数の艦艇を保有しているグラ・バルカス帝国海軍の艦隊にムー国の工業力と海軍戦力では対抗できる術は無い。ムーは知恵を絞り、何とかしてグラ・バルカス軍に対抗できる新兵器のアイデアを模索しているが、成果は芳しくなく、戦艦の増備と改良、戦術を改めるしか出来ていないのが現状である。

 

しかしそこへ、グラ・バルカス帝国と同等かそれ以上の科学技術力を誇る日本国が現れた事により、ムー政府や軍部は日本国を味方に率いれ、その進んだ科学力を取り入れようと必至で、ラッサンの魚雷に対する期待は大きかった。

 

 

 

だがその分だけに、ラッサンの落ち込みは半端ではない。だがそんなラッサンを大石は慰めの言葉を掛ける。

 

 

「そんなに落ち込まないでください。私は政治に詳しくはありませんが、大高首相は貴国との友好について非常に重要視しています。もしかしたら希望はあるかもしれませんよ。」

 

「……………分かりました。閣下のお言葉と、大高首相の思いを信じましょう。」

 

 

 

何とか立ち直ったラッサンはゆっくりと立ち上がり、大石に頭を下げる。

 

 

「では次に参りましょう。」

 

 

大石は再び艦橋へと戻り、今度はエレベーターで第1艦橋上にある射撃指揮所へと案内された。

 

 

「ここは本艦の射撃指揮所です。ここでは主砲の射撃管制を行います。」

 

 

目の前には日本武尊の巨大な射撃指揮装置があり、それを取り囲むように木島砲術長以下の砲術員が装置に取り付けられている照準眼鏡を覗き込み、指揮装置を操作するためのハンドルの点検を行っている。

 

 

「紹介しましょう。彼は本艦の砲術長を勤める木島です。」

 

 

大石の紹介を受けた木島砲術長が二人の前で直立不動の敬礼をする。

 

 

「砲術長の木島であります。本日の砲撃訓練では日本武尊自慢の主砲の射撃をとくとご覧ください。」

 

「ありがとうございます。」

 

「我々も勉強させて頂きます。」

 

 

その後、艦内を一通り回ったらマイラスとラッサンは、昼食を挟んで、いよいよ今回の日本武尊の航海訓練の最大の見せ場である砲撃訓練の視察のため、第1艦橋上の防空指揮所へと来ていた。

 

 

「いよいよだな……」

 

「あぁ………日本の最新鋭艦の実力を目にする時が来た。」

 

 

二人は大石の隣で、主砲射撃を今か今かと待ち続けていた。

 

 

『総員教練戦闘配置に就けっ!』

 

 

艦内に戦闘配備のアナウンスが流れ、乗員達は駆け足で各々の配置につく。

 

 

「対水上戦闘、教練射撃用意!」

 

「戦闘、左砲戦、目標左45°の曳船の引く標的!測的始め!」

 

「了解!目標追尾開始っ!!」

 

 

防空指揮所上の射撃指揮所の測距儀が左へ回転し、標的へ向けての測的が開始される。

 

 

「砲術長、派手なのを頼むぞ。」

 

「了解!」

 

 

木島は射撃指揮所にて、曳船が曳航する大型標的を目標に、レーダーからの情報を元に追尾と計算を行う。

 

 

「各砲左45°、仰角40°、目標約20000。」

 

 

今度は日本武尊の3基の主砲が左へ向けて旋回し、砲身が目標へ向けて仰角を合わせるため、上下に細かく動く。

 

 

「目標捕捉っ!」

 

「各砲旋回角並びに仰角固定よし!」

 

「各砲、発砲同調回路、発射回路よし!発射準備完了。」

 

『甲板要員は遮蔽物に待避せよ!』

 

 

 

甲板要員達は急ぎ足で遮蔽物に待避し、耳を塞ぎ、口を開ける。

 

 

「警報っ!!」

 

 

艦内と甲板に警報が鳴り響き、全員はその場で身構える。

 

 

「マイラス殿、ラッサン殿、耳を塞ぎ口を開けてください。」

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

 

二人は大急ぎで耳を塞ぎ、口を開ける。

それと同時に警報が鳴り止み、一瞬だけ沈黙が流れる。

 

 

『撃てぇぇっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ズゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木島が引き金を引くと9門の51㎝砲が一斉に火を吹き、雷の何十倍もの轟音と共に、強力な閃光と発砲煙が辺りを包み込んだ。

 

 

「おぉぉぉ~…………」

 

「こ、これは!」

 

 

マイラスとラッサンはラ・カサミが就役する前に行われた砲撃試験に立ち会った時にですら感じた事が無かった衝撃に身体の震えが止まらない。

 

 

「弾着……………今っ!」

 

 

左へ視線を向けると、遥か先の水平線の向こうに9本の水柱が上がったのが見えた。

 

 

 

「全弾、着弾確認っ!目標沈黙!」

 

 

 

標的は日本武尊の主砲の一斉射で破壊され、残骸が海面に浮かんでいる。

 

 

 

「今度は曳航標的機へ向けての対空射撃訓練を行います。」

 

 

 

次に行われる対空射撃訓練に向けて、今度は各対空砲と両用砲による射撃が行われる。

日本武尊に装備されている対空用レーダーが目標の索敵に入った。

 

 

 

「こちら電探室、敵対空目標を探知。方位240°、急速接近中っ!」

 

「対空戦闘用意っ!」

 

 

合図と同時にレーダーと連動した射撃管制装置により対空砲が接近してくる双発爆撃機が曳航する標的へ向けての自動追尾を開始する。

レーダーの動きに全ての対空砲が連動して動き、標的を捉え続ける。

 

 

「凄い。全ての砲が一糸乱れぬ動きをしている」

 

「いやはや……技術の発展には驚かされますな」

 

 

マイラスとラッサンは対空砲の動きに関しても科学者や戦術士官としての役割を理解した上で、必死にその光景を目に焼き付けながらノートにレポートを書き続ける。

 

 

 

「目標、射程に入りました。高度下げましたっ!雷撃態勢です!」

 

「右対空戦闘、撃てぇぇ!」

 

 

 

合図と共に日本武尊の右舷対空砲が一斉に射撃を開始し、自動装填と自動排莢で高速射撃が可能な対空砲から次々と弾幕が打ち上げられる。

大小様々な砲弾が大雨の如く、曳航標的に穴を開けて引き裂いていく。

 

 

 

「何と言う弾幕だ!」

 

「凄い!これ程の弾幕ならワイバーンどころか、我が国のマリンだって近寄れんぞ!」

 

 

 

二人にとっては日本武尊の対空射撃は、幻想的に見えるると同時に、ワイバーンとマリンが次々と撃ち落とされていく光景が脳裏に浮かんだ。

 

 

「目標撃墜っ!!」

 

 

やがて、標的はボロボロになり撃墜判定を受け、対空戦闘訓練は終了した。

 

 

 

 

 

こうして全ての訓練と日程を終えた日本武尊は、柱島への帰路に就いた。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

港に到着した日本武尊から、呆然自失となったマイラスとラッサンが降りてくる。

 

 

「御二人共、本日はご苦労様でした。」

 

「い、いえ……我々も学ぶべき事が沢山ありました。我々一同、日本国と大石閣下のご厚意に感謝いたします。」

 

「これからも我が国とムー国とは友好同士で共に歩いて参りましょう。」

 

 

 

二人は大石と固い握手を交わした。

 

 

 

 

 

そして迎えの車でホテルへ向かっていると、マイラスがラッサンに話し掛ける。

 

 

 

「凄かったな、あの艦は。」

 

「あぁ…艦も凄かったが、大石閣下が振る舞ってくれたコーヒーは旨かった。あんな船とコーヒーが飲めるならまた来たいな。」

 

 

 

二人は大石より振る舞われたコーヒーの味が忘れられなかった。コーヒーを淹れさせたら日本海軍1番と言われる大石のコーヒーの味が忘れられなかった二人は車の窓から見える日本武尊を見つめつつ、ホテルへと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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