第52話
日本から西にあるフィルアデス大陸とグラメウス大陸の間に、日本の四国程の大きさの島がある。その島はフィルアデス大陸とは長さ30キロの細長い陸地で繋がっている。
この島には『トーパ王国』と言う国がある。
この国とグラメウス大陸の間にある細い陸地には、かつて大陽神の使いと星の戦士達によりグラメウス大陸へと押し返された魔王軍が、再び侵攻して来ないよう、彼らと人類が手を取り合って作り上げた『世界の扉』と言う巨大な壁が作られている。
この壁に隣接してトーパ王国軍の駐留部隊が常駐する城塞都市『トルメス』があり、何時また魔王軍が攻めてきても良いように備えている。
「はぁ~……………暇だな。」
「全くだ………」
世界の扉からグラメウス大陸方向に目を向ける二人の人影があった。
二人の名前は前者が傭兵『ガイ』と後者はトーパ王国兵の『モア』である。
「しかし毎回思うんだが、魔王のなんて本当に攻めてくるのかね?」
「さぁな………でもグラメウス大陸には凶暴な魔物が沢山いるんだ。特に最近は魔物の数が増加傾向にある。軍も駐留部隊の規模を近いうちに拡大するらしい。」
「へぇ~……じゃあ、俺の給金も増えるかな?」
「多分な。今は何処も人手不足だから多少は金を出しても人材は集めたいだろうさ…………それにしても今日はやけに雲が厚いな………」
空を見上げれば雲が厚く大陽の光が遮られている。
「ん?」
ふと気付くと、グラメウス大陸から妙におぞましく、聞いてて背筋が凍るような、不気味な声のような物が聞こえてくる。
「何だ?」
「おいモア!!あれをっ!!」
ガイがグラメウス大陸方向を指差すと、大地が黒く染まっていき、双眼鏡で見てみると大地を埋め尽くさんばかりのオークやゴブリンが見えてきた。
「オークとゴブリンだ!!それにあれは………」
オークとゴブリン集団の後方からは、巨大な影が複数見えてくる。
「手前の2体はレッドオーガとブルーオーガだ!それに後ろのは………………まさか…………赤竜と魔王ノスグーラだ!!」
「ノスグーラっ!!まさかあの魔王軍を率いていたと言うあの魔王なのかっ!?どうする?」
「決まってるっ!!直ぐに知らせに行くぞ!!」
二人は大急ぎで駐留部隊本部へと急ぎ、騎士長へと緊急報告を行う。
「何だとっ!?本当なのか?」
「はい!間違いありません!魔王ノスグーラ以下の魔王軍がグラメウス大陸方向から接近中です!」
「……………よし!モアとガイは直ちにトルメスに戻り、この事を伝えよ!」
「ですが、今の駐留部隊が150人のみと考えると……それに住民達の避難も……」
「それについては心配しなくていい。町の地下には大陽神の使いと星の戦士達が作り上げたシェルターがある。応援が来るまで住民達をそこに避難させておく。お前達は心配しなくてもいい。」
「はっ!では行って参ります!」
モアとガイがトルメスへ向かった数時間後、世界の扉を魔王軍が突破し、守備隊は全滅したとの報告が王宮へと伝えられた。
トーパ王国 王都ベルンゲン
国王のトーパ16世は突然の事態に、国や軍の重鎮達を集めて緊急対策会議を開いていた。
「しかし何故今になって魔王軍が攻めてきたのか……そもそも、その軍勢は本当に魔王軍なのか?」
「はい。ご存じの通り、今は失われてしまった時間遅延魔法にて保存されていた、勇者ケンシーバのイメージを写した魔写が現存しています。騎士モアの証言と照らし合わせてみた結果、間違い無いと思われます。」
トーパ王国王立大学の教授の話が終ると、今度は外交担当大臣が前に出て、トーパ16世に問う。
「陛下、この件につきましては世界レベルの大危機として各国にお伝えします。よろしいですか?」
「あぁ頼む。だが知っての通り、パーパルディアはもう当てにならんし、ミリシアルは軍の派遣に消極的、ムーは距離的に間に合いそうもない。外務大臣、例のあの国に援軍要請を出してくれ。」
「あの国と言いますと…………日本国ですか?」
「そうだ。ロデニウス大陸のリーン・ノウの森に遺されていた水獣と神の船を甦らせ、そして伝説の大陽神の使いの祖であると言うではないか。魔王軍をグラメウス大陸へと押し返した彼等が来てくれれば、何とかなるやもしれん!」
「では私から、日本大使へ援軍要請に参ります!」
その頃、魔王軍に占領された世界の扉に設けられた魔王軍陣地では、魔王軍を率いる魔王ノスグーラが食事を取っていた。
「今日の食事はこれだけか?数がたったの150とは少なすぎるのではないのか?」
「申し訳ありません魔王様、なにせ餌となる住民達が何処に隠れたのか、未だに見つかっていない物でして。」
「ふん……まぁ良い。これから事を進めれば餌など幾らでも手に入る。」
魔王が言う餌とは、魔物や魔獣が主食とする"人間"の事であり、彼らは今回の戦いで全滅した守備隊の兵士の死体を餌にしていた。
ノスグーラの回りには、餌にされた守備隊兵士達が身に付けていた鎧や武器が散乱している。
「魔王様、此度は何処まで戦いを進めるのでありますか?」
側近のレッドオーガが問う。
「前回は海の向こうにある大陸(ロデニウス大陸)の神森に手を出して失敗したからな………今回はこの大陸(フィルアデス大陸)だけにしておこう。またあの大陽神の使いと星の戦士達を呼び出されでもしたら敵わないからな。」
ノスグーラは記憶にある大陽神の使いと星の戦士達に対して、脳内に多少のトラウマを抱えていた。
「星の戦士達は魔法帝国が使っていた神の船と同じかそれ以上の速度で飛ぶ飛行物体を持っていたし、大陽神の使いは水の中を魚よりも早く進む水獣を持っていた。前回は奴等に我が軍団は完膚なきまでに叩きのめされたが、此度は大陽神の使いも星の戦士達も居ない…………奴等さえ居なければもうこの大陸は取ったも同じだ!たとえ人類が束になろうと我々の勝利は覆らん!」
「ははっ!」
こうして魔王軍の夜は更けていく。
中央歴1640年2月2日
ベルンゲン郊外にある日本大使館にて、トーパ王国の外務大臣ら数名が、日本国大使と会談を行っていた。
「……と言う訳でして、我が国は現在、世界規模の危機に直面しています。伝説の大陽神の使い達の祖と言われる貴殿方しか援軍を頼める国がありません!どうにか、どうにか援軍をお願いします!!」
外務大臣は床に座り土下座で日本大使に頼み込む。
「う~ん…………その魔王というのは知的生命体なのでしょう?話が通じるなら話し合いで何とかならないのですか?」
「話し合いでどうにかなるのなら我々も祖先達も苦労は致しておりません。魔王は話というものが通じない厄介な化け物なのです…………何せ魔王とブルーオーガやレッドオーガ等の魔獣は人間を食料としております。このままでは我が国どころか世界の破滅に繋りかねません! どうか、どうかっ!!」
外務大臣の必死の説得に、日本大使は大高総理が掲げる『新世界への国際貢献として、周辺諸国の平和と安定維持に国益を捨てて行動する』と言う基本方針に従い、トーパ王国からの援軍要請を直ぐ様、本国へと伝える。
場所は変わり、日本国 帝都東京の首相官邸では、トーパ王国からの援軍要請についての緊急会合が行われていた。
「う~む……相手が人間で国家相手ならまだしも、人間を敵対視し、人間を捕食する怪物が相手とは………これは前例が無いだけに判断に迷います。」
「確かに……国相手なら外務省が何とか致しますが、今回はどうにも出来そうにありません。」
大高達は判断に迷っていた。
何せ相手が未知の魔王や魔獣なので、実態が殆ど判明していない相手に軍を派遣するのには慎重にならざるを得ない。
「しかし総理、この援軍要請はある意味では天佑です。」
「どう言う事なのでしょうか?」
「相手はかつて日本人とアメリカ人が使っていた近代兵器と戦ってグラメウス大陸へと押し返されたと聞いています。もし今回の援軍要請に答えれば、少なくとも彼等や周辺諸国の我が国に対する印象が良くなるという、絶大な効果が得られる可能性大と考えます。それに相手には近代兵器が通じますし、今回の軍の派遣で神話の謎について進展があるやもしれません。」
未だにこの世界では新参者の日本。今後の事を考えれば国益に与える影響は図り知れない。
それに大高政権による働きかけで去年施行された、周辺諸国の平和と安定の維持を行うための国際貢献に関する法律『国際平和貢献法』の適用範囲内である。
「確かに………世界平和に貢献するのが基本方針の我が国が、手を差し伸べる事には大きな意味がある。では、今回の件については明日の緊急国会にて議論致しましょう。トーパ王国の罪もない人達に魔の手が延びる前に……」
後日、日本国政府は国際平和貢献法に基づいて、平和貢献と同盟国の国民保護と言う名目で、九鬼鷹常中将率いる日本国海兵師団を先遣隊として派遣する事を決定した。
続く
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