後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第6話

中央歴1639年4月2日

 

 

マイハークの日本大使館を通じて、日本国外務省に届けられたクワ・トイネからの援軍要請と田中大使による意見文書は、木戸孝允外務大臣を通じて大高の基へと届けられていた。

大高は直ぐ様、首相官邸に木戸と、海軍軍令部総長『高野五十六』を招いた。

 

 

 

「総理、失礼します。」

 

「高野さん、お忙しい中、お呼び立てして申し訳ありません。」

 

 

首相官邸を訪れた高野は、大高と木戸が待っていた部屋へと入り、ソファへと腰かける。

 

 

「これで揃いましたな。高野さん、実は貴殿方をお呼びしたのは、昨日クワ・トイネに居る田中大使を通じて、カナタ首相から我が国にある要請が届いたのです。」

 

「ある要請ですか?」

 

「はい。木戸君、高野さんに説明をお願いします。」

 

 

木戸は手にしていた書類を見ながら説明を始める。

 

 

 

「高野さん、クワ・トイネ公国の隣国のロウリア王国の事についてはご存じですか?」

 

「はい、存じています。確か外務省の特使が彼の国に接触を図った際に、体よく追い返されたと聞き及んでいます。」

 

「そうなんです。そんなロウリア王国が此処数週間になって不穏な動きを見せているそうで。近々大規模な軍事侵攻がクワ・トイネとクイラが受ける可能性が高いのです」

 

「それについては旭日艦隊のハギスから大石君を通じて報告を受けております」

 

「クワ・トイネやハギスと東機関からの報告を疑う訳ではありませんが、我々自身が確認した訳ではないのでなんとも判断し難いのです。」

 

「成る程……万が一にもロウリアがクワ・トイネとクイラに侵攻があった場合はどうなるのでしょうか?」

 

 

 

高野の質問に木戸の表情が暗くなる。

 

 

 

「クワ・トイネとクイラは我が国にとっては生命線その物なのです。我が国へと輸出する穀物を育てている西方の穀倉地帯や、クイラ国内の石油プラントを押さえられれば我が国へは食料どころか石油資源すらも入らなくなり……………既に国内に備蓄している分を節約したとしても我が国は1年と少ししか保ちません。」

 

「それは………………」

 

 

 

高野も事の重要さを理解しているだけあり、木戸の説明を聞いて暗くなる。

 

 

 

「万が一に侵攻が実行に移された場合について陸軍では地上戦力による戦闘が主となると予想されていますが、高野さん達、海軍の意見もお聞きしたいのです」

 

「かねてよりハギスからもたらされた情報によりますと彼の国はパーパルディア皇国という国からの支援を受けて海軍戦力に関しては相当数を溜め込んでいるとの事です。彼の国は恐らく地上と同時に海上からの2正面作戦による侵攻を企てていると言う意見が軍令部内での大半の意見で、私も同じ様に考えています」

 

「信玄の解答はどうなのでしょうか?」

 

「信玄の解答もおおよそ同じです」

 

 

後世日本が持つ技術の結晶である信玄型高速電算機による計算でも高野ら海軍軍令部内の意見とほぼ同じ解答を出している。

 

 

「総理、つきましては海に関する情報は"彼ら"が適任かと」

 

 

"彼ら"と言う単語に木戸が反応する。

 

 

「"彼ら"と言いますと……………例によって?」

 

「はい。我が国の影……『紺碧艦隊』です。彼らなら有力な情報を得る事が可能であります。」

 

「成る程、分かりました。海軍に関する事は高野さんにお任せします。方々につきましては私が事前に根回しします。取りあえずは、情報面でロウリアに対して先手を打つ方向で話を進めたいと思います」

 

 

 

そう言って大高は木戸に視線を向け、木戸は鞄の中からある書類を取り出す。

 

 

「総理、これは確か……」

 

「はい。御存知の通り、我が国はクワ・トイネとクイラと両国において技術援助協定締結を予定しております。その協定に調印したと同時に、クワ・トイネ軍との軍事交流と共同訓練と言う名目で陸軍の新設部隊を派遣しようと考えています。その新設部隊については、こちらの資料をご覧ください。」

 

 

差し出されたファイルには赤く『機密』と書かれている。

 

 

「拝見します。」

 

 

 

高野はファイルを開き中を見る。

 

 

 

「夜豹師団………確か、対独戦に備えて編成されていた印度派遣軍の通称でしたな?」

 

「はい。我が国初の機甲師団で、最新鋭の装備と若手の猛者が揃っております。本来の目的とは違いますが、対ロウリア戦を想定して既に編成を終え、訓練に従事しております。」

 

「流石は総理、用意が良いですな。では私は早速、軍令部に戻り作戦を練り上げます。」

 

「お願いします。では木戸君は外交ル-トで多方面から探ってみてください。」

 

「分かりました。」

 

 

 

こうして日本は直ちにロウリア王国に関する情報収集活動を開始した。

 

 

 

 

 

 

この日の会合の日の夜、高野の姿は神楽坂の料亭にあった。

料亭の奥にある一室で高野はある人物の到着を待っていた。

 

 

 

「高野様、お連れ様がご到着なさいました。」

 

 

襖の向こうから女将の声が聞こえ、「通してくれ」とひと言だけ言うと、ゆっくり襖が開かれる。

 

 

「お久しぶりです総長。」

 

 

そういって入ってきたのは、片手に絵の具やキャンバスが入った鞄を持ち、日除けの帽子を被った見るからに絵描きの格好をした1人の男だった。

 

 

 

「よく来てくれたな前原君……いや、幽霊と呼ぶべきか?」

 

 

高野が幽霊と呼ぶこの男こそ、日本海軍の秘匿潜水艦隊『紺碧艦隊』の司令官である『前原一征』である。

 

 

「ハハハ……総長もお人が悪い。」

 

「気に障ったなら謝る。まぁ座ってくれ。」

 

「はい。では失礼します。」

 

 

前原と呼ばれた男は、高野の手前に置かれた膳の前に座り、迎え合わせになる。

 

 

「まぁ、先ずは一杯やってくれ。」

 

「はい。」

 

 

高野が徳利を手に、前原は御猪口を差し出す。徳利から注がれた日本酒を前原は一気に飲み干す。

 

 

 

「総長、粗方の予想はつきますが、私をお呼びになったのは如何なるご用件で?」

 

「あぁ。実はな。貴様の艦隊に任務を与えるために、命令書と説明をするためにな。」

 

「任務でありますか?戦闘……もしくは諜報任務でしょうか?」

 

「後者だ。これが命令書と作戦司令書だ。」

 

 

前原はそれを受け取り中身を確認する。

 

 

「ロウリア王国……総長、この国について一体何を調べたら宜しいのですか?」

 

「あぁ。実はな………」

 

 

高野はクワ・トイネからの援軍要請が来た理由と、ロウリア王国の不穏な動きについて説明した。

 

 

「確かにロウリア王国がクワ・トイネとクイラに侵攻し、両国が敗北するような事になれば我々にとっては国家存亡の危機となりますな。」

 

「うむ。現時点では兆候があるだけで確実な情報は無い。だがクワ・トイネ側からの話では、ロウリア王国はここ数年のうちに、この世界の列強国からの支援を得て軍事力を飛躍的に上げているらしい。それは陸でも海でも例外ではない。」

 

「では我々はロウリア王国の海軍戦力についての情報と、監視を行えばよろしいのですね?」

 

「そうだ。肝心の作戦名については既に考えてある。」

 

「それはどのような?」

 

 

前原の質問に高野は少しだけ笑みを浮かべて、一枚の半紙を取り出す。

 

 

 

「作戦名は『水遁』だ。」

 

「水遁………成る程、我々を忍者と例えた訳ですな?水に潜って敵を調べるのは忍者の得意とする所ですから。」

 

「気に入ってくれたか?」

 

「はい。大いに気に入りました。」

 

「それは良かった。少し在り来りかなと思ったが、気に入ってくれて何よりだ。」

 

 

上機嫌な高野の表情は直ぐに真剣な表情になる。

 

 

「この任務、決してロウリアに気付かれないように気を付けてくれ。勿論クワ・トイネや、いまだに接触出来ていない周辺国にもだ。」

 

「承知しました。」

 

「では、固い話はここまでにしよう。せっかくだから、ゆっくり楽しんでいってくれ。」

 

「了解。」

 

 

 

翌日、高野と別れた前原は東京駅から横須賀にある小さな港へと向かい、迎えを待っていた。

そこへ一人の男が近寄ってくると、小さな声で前原を呼び止める。

 

 

「前原閣下、大竹です。お待ちしておりました。」

 

 

この大竹を名乗る男は、航空機を運用する紺碧艦隊の飛行隊指揮官を勤める『大竹馬太郎』特務大尉である。

彼は前原を紺碧艦隊と日本本土を往来させるための任務を担い待機していたのである。

 

 

 

「大竹大尉。早速だが直ぐに飛べるか?」

 

「はい。こちらに用意してあります。」

 

 

呼ばれる男に付いていった先の人目につかない入り江には、海上を浮かんでいる1機の航空機の姿があった。

 

 

「久しぶりだな。コイツの姿を見るのは。」

 

 

緑色に塗装された、双発の水上機を見て前原は懐かしそうに言う。

 

 

「この『雷洋改』の見た目はかつての『雷洋』そのものですが、エンジンは電征Ⅲ型のターボプロップに載せ替え、プロペラも6枚翼の二重反転プロペラに変わっていますから、よりパワフルに生まれ変わっていますよ。」

 

「頼もしい限りだ。」

 

 

この『雷洋改』の元となった『雷洋』とは、かつて紺碧艦隊で運用されていた双発水上攻撃機であり、照和20年の紺碧艦隊が噴進弾や噴式戦闘機を搭載する改装工事が行われるまで航空隊の指揮官機として活躍していたのである。

対独戦に於いては既に旧式化していた事により退役していたが、その高い汎用性と拡張性を生かして、開発元の『泰山航空工業』で新装備のテスト機として運用されていたのである。

 

 

「では、行きましょう。乗ってください。」

 

「分かった。」

 

 

2人は雷洋改に乗り込み、そのまま入り江を飛び立ち、ある方向へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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