後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第58話

中央歴1639年2月7日

 

 

救出作戦を終えた翌日の朝。

今後の行動方針について作戦会議をしていた指揮所に、斥候の海兵隊員が慌てた様子で駆け込んできた。

 

 

「中佐、トーパ王国軍の斥候からトルメスと町の境にある城門へ、魔王が単身で現れたとの報告が入りました!」

 

「何っ!?」

 

 

百田達はテントを飛び出すと、指揮車に飛び乗り現状確認を開始する。

 

 

「現状は?」

 

「はい、目標は現在、トルメス北門に向けて接近中。トーパ王国軍騎士団と、昨日到着した王宮戦闘魔導衆特戦隊が急行しています。」

 

「九鬼司令には伝えたのか?」

 

「はい。現在本隊がこちらへ向かっているとの事ですが、到着には1時間程掛かるとの事です。」

 

「1時間か………」

 

 

これまで判明した情報から、断片的な情報から魔王の戦闘能力を推測するに、トーパ軍では足止めは難しく、師団主力の到着を待ってはいられない。

 

 

「トーパ軍だけでは、おそらく魔王には太刀打ちできん………本隊が到着する前に、何とか魔王と敵の戦力を削っておく必要がある。我々も行くぞ!直ちに全隊に呼集を掛け、準備が出来た隊より順次出撃!」

 

 

 

百田は現場指揮官権限で、トーパ軍と魔王を迎え撃つため戦闘態勢を命じ、先遣隊全隊は急いで戦闘態勢と出撃準備を整え、騎士団の後を追うように南門へと全速力で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、先に魔王を迎え撃っていた騎士団は、百田の予想通り劣勢に立たされていた。

 

 

「人間の分際でこの下種共が!!」

 

 

魔王ノスグーラは身体中から、肉眼で確認できる程のどす黒いオーラを放ち、迫ってくる王国騎士団に向けて黒い炎を放つ。

 

 

「ガァァァァァァ!!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

見た目でも分かる程に強力な炎を浴びた騎士団は、その一撃でその戦力の9割を失った。

 

 

 

「何て事だ……………」

 

「こうなれば我々の出番だぞ!」

 

 

 

騎士団の後方に控えていた、特戦隊所属の10名の魔導師。彼らは前に出ると、持っていた杖を構え、一斉に詠唱を始める。

 

 

「させん!出でよ、エンシェントカイザーゴーレムっ!!!!」

 

 

ノスグーラは持ち前の強大な魔力から、巨大な岩で出来た人形を出現させる。

 

 

 

「エンシェントカイザーゴーレムか……あの岩人形ごと魔王を片付けるぞ!」

 

 

 

特戦隊は目標をノスグーラからエンシェントカイザーゴーレムに変更し詠唱を続ける。

 

 

 

『舞え!風の精霊! 荒れ狂う大地の王! 我らが魔力を糧にその大いなる力を以て、眼前の敵を滅せよ! ドラゴンサンダーストーム!!』

 

 

未知の言語による詠唱が終ると、魔導師達の杖から、雷と強烈な竜巻が混ざった白い何かが現れた。それは竜の形をとり、ノスグーラとエンシェントカイザーゴーレムを呑み込む。

 

 

「おぉぉ~………」

 

 

誰もがそれを見て魔王を倒したかと思った。

だが、そこには無傷の魔王とエンシェントカイザーゴーレムが何事も無かったかのように立っていた。

 

 

「効いてないのか!?」

 

 

特戦隊の魔導師は今の一撃で全員体力と魔力を使い果たし、倒れ込んでいる。

 

 

「やはりその程度か!!もう少し楽しませてくれるかと思ったが………………これで終わりにしよう!」

 

 

ノスグーラとエンシェントカイザーゴーレムは城門に向かって歩き出す。

先頭を歩くエンシェントカイザーゴーレムは身長17メートル。物理的に城門を破壊する事など容易と思われた。

 

 

「駄目か………」

 

 

誰もが絶望した時、城門の向こうから轟音が聞こえてくる。その音は、その場に居た者全員にとって聞き覚えがあった。

 

 

 

ノスグーラはその音に驚愕の表情を浮かべ、歩みを止める。

 

 

 

「馬鹿な………そんな………有り得ない! 何故……何故奴等が………」

 

 

 

重厚な音と共に開かれた城門の向こうより、マフラーから黒い排気煙を排出しながら姿を表した海兵師団先遣隊の5式改が、ゆっくり広場へと出てくる。

 

 

 

「た、太陽神の使いの鉄龍が! 何故?!」

 

 

 

激しく動揺するノスグーラを無視するように、5式改の戦車砲がエンシェントカイザーゴーレムに向けられる。

 

 

 

「猿渡殿! あの種のゴーレムは、胸にあるコアを破壊すれば崩れ落ちます!!」

 

 

キューポラから身を乗り出していた猿渡の真横で、モアがアドバイスを加え、猿渡は「了解!!」と大声で応え、指示を出す。

 

 

「砲手、奴の胸の真ん中にある宝石を狙え! そこが奴の急所だ!! 装填手、徹甲弾装填っ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

装填手は独軍の戦車砲で使われているのと同等の性能を持つ高初速徹甲弾を装填し、砲手は照準器でエンシェントカイザーゴーレムの胸の真ん中を狙う。

 

 

「させん!行けエンシェントカイザーゴーレム!! やつを踏み潰せ! 踏み潰すのだ!!」

 

 

砲撃させまいと、ノスグーラはエンシェントカイザーゴーレムに指示を出す。

動きが停まっていたエンシェントカイザーゴーレムの片足が上がり、5式改の頭上から足を振り下ろす。

 

 

「来るぞ!撃て!」

 

 

だが、踏み潰されるより数秒早く5式改の戦車砲が火を吹き、高初速徹甲弾がコアを一撃で粉砕した。

コアを破壊されたゴーレムは魔力を失い、その場にて粉々に崩落した。

 

 

「やった!岩人形をやっつけだぞ!!」

 

 

猿渡は一撃でエンシェントカイザーゴーレムを倒せた事に興奮する。

だがノスグーラは反対に、怒りで身を震わせていた。その怒りの大きさを表すかのように、全身から黒い魔力が、陽炎のように吹き出している。

 

 

「オノレェェ!! こうなれば我がこの身で直接決着をつけてやろうぞ!!」

 

 

ノスグーラはその場から大きく跳躍し、空中で静止する。

 

 

「まさか………あの黒い炎を出す気か!」

 

 

ノスグーラが空中で黒い炎を手に宿しながら、詠唱を始める。後ろに居た百田は、落ち着いて次の指示を出した。

 

 

「城島、奴にあの、お経みたいなのを読ませるな!」

 

「了解!」

 

 

城門の上で待機していた城島達が、手にしていたバズーカー、携帯噴進弾を上空のノスグーラに向ける。

 

 

「撃て!」

 

 

榴弾と徹甲弾20発が一斉に放たれ、空中の魔王へと殺到する。それを見たノスグーラは慌てて詠唱を中断、シールドを展開するが、その眼前で派手に爆発が起こる。

 

 

「ぐぅっ!!」

 

 

20発近い砲弾に同時に直撃されてはさすがに保たなかったらしく、成形炸薬弾1発がシールドを貫通し、メタルジェットがノスグーラの体に大きな損傷を負わせる。

 

 

「グァァァァァァァ!!!」

 

 

今まで経験した事のない激痛に、ノスグーラは上空から不様に地面へと落下し、痛みから激しくのたうち回る。

 

 

「今だ! 畳み掛けろ!」

 

 

弱っている魔王に向けて海兵達が小銃、短機関銃、軽機関銃、重機関銃を撃ち込み、ダメージを与え続ける。

 

 

「ギャア! グァ! ガァ!」

 

 

次々と体に食い込む銃弾にノスグーラは更にもがき、暴れ回る。

 

 

「あの化け物、まだ死なないぞ!」

 

「擲弾と手榴弾を使え!」

 

 

今度は擲弾筒と手榴弾による攻撃も加わり、ノスグーラは体を爆風と破片によりボロボロに引き裂かれ、やがて動かなくなる。

 

 

「グァ…………コホッ!」

 

 

口から血のような黒い液体を吐き出し、虫の息のノスグーラに百田が近寄る。

 

 

「終わりだ……諦めろ。」

 

 

魔王に向けて拳銃を突き付ける。

 

 

「誰が………下種に………」

 

「もう一度言う………降伏しろ!」

 

「…………誰が人間如きに………降伏など……するものか…………」

 

 

虫の息になっても尚諦める気配のないノスグーラに百田は、拳銃をホルスターに仕舞い、軍刀を抜刀し両手で振り上げる。

 

 

「魔王、最後に言う事はあるか?」

 

「近いうちに………魔帝様が復活するだろう……この世界は蹂躙され、貴様らはすべて魔帝様の奴隷となる…………それまでは楽しく今の平穏を謳歌する事だな…………ハハハハハ!」

 

 

下種な笑いを浮かべるノスグーラに百田は「御免!」と叫び、軍刀を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

その光景を見ていた生き残りの魔物達は、統率を失い、グラメウス大陸へ向け撤退を始める。

 

 

 

「百田殿、奴等をグラメウス大陸へと逃がしては駄目だ!」

 

「どう言う事なんですか?」

 

「奴等がグラメウス大陸に戻ればまた、軍を成して攻めてくる可能性があります!」

 

 

いつの間にか横に居たアジズと特戦隊の指揮官、モアの三人が血眼になって百田に迫る。

 

 

「では奴等をグラメウス大陸へ返さなければ良いんですね?」

 

「あぁ。奴等は世界の扉より3㎞向こうにある海岸線から海を渡ってやって来たと思われます。グラメウス大陸と我が国の間にある内海を封鎖して分断出来れば……」

 

「しかし今からでは間に合わない………」

 

 

アジズとモアが落ち込む様子を見せる中、百田は余裕の笑顔で指揮車内に戻ると、沖に待機している旭日艦隊へ無線を入れる。

 

 

「こちらモモタロー、敵は鬼ヶ島へと帰っていく。」

 

『了解。』

 

 

 

百田は無線を切り、モアとアジズに声を掛ける。

 

 

 

「これより我々は敵軍とグラメウス大陸の分断作戦を実行します。」

 

「では百田殿……」

 

「はい。王国とグラメウス大陸の間にある内海。そこに待機している我が国の艦隊が、海上から攻撃を行います。」

 

「その言葉……信じても宜しいのですね?」

 

「はい。」

 

「では我々も、それを見届けるため、お伴させて宜しいでしょうか?」

 

「勿論です。では最後の仕上げと参りましょう!」

 

 

 

 

グラメウス大陸へ逃げていく魔物達を追撃するため、百田達は騎士団の生き残りや特戦隊と共に追撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わって、グラメウス大陸とトーパ王国の間にある内海入り口には、既に旭日艦隊が集結していた。

 

 

「長官、前衛艦隊は海峡入り口を確保しました。各空母からも周辺空域と海域の安全確保のため航空隊、全力出撃中です。」

 

 

旭日艦隊の各空母からは航空機が次々と飛び立ち、艦隊直掩と周辺の安全確保を行っていく。

 

 

「よし! 本艦は海岸線に達した敵軍残党を掃討のため突入する! 檣楼に不動明王旗を掲げよ!」

 

 

大石が命じ、日本武尊は海峡へと突入する。この世界に於て、本当の意味で始めての実戦となる日本武尊は、魔王軍とグラメウス大陸分断のために…………

 

 

 

「これより沿岸に接近、15㎞で回頭し海岸線と並進し、砲撃を開始する。」

 

 

 

グラメウス大陸とトーパ王国の間に広がる海峡に達した日本武尊は、その場で回頭し沿岸に向けて主砲による艦砲射撃の準備を開始する。

 

 

 

「長官、海兵師団より『我、敵残党軍を海岸線に追い詰めた』との報告あり!」

 

「よし、砲撃用意!」

 

 

 

日本武尊の51センチ砲9門が海岸に向けられる。

 

 

 

「諸元入力完了。目標、海岸線に到達した敵残党軍!」

 

「砲撃始めっ!」

 

「撃てぇ!」

 

 

3基の主砲から放たれた9発の51㎝砲弾は曲線を描きながら、グラメウス大陸へ逃げようと海岸に集結していた魔王軍に向けて降り注ぐ。

 

 

「弾着…………今っ!!」

 

 

着弾した榴弾が派手な爆発を起こし、周囲に居た魔物どもを粉々に吹き飛ばしていく。

その光景を見ていた海兵師団の観測員と、同行していたモア・ガイ・アジズは、日本武尊の砲撃を見てその破壊力に驚く。

 

 

「これが日本の戦船の力か……」

 

「伝説にあった太陽神の使い達の戦船みたいだ……」

 

「見ろ! あそこに居た魔物が一瞬で吹き飛んだぞ!」

 

 

3人が驚く中、観測員達は日本武尊に着弾修正指示を送り続ける。

 

 

「続いて着弾修正指示、南北2㎞、海岸線から1㎞の間に効力射を要請しています!」

 

「諸元に従い、効力射に移る。砲撃はじめ!」

 

 

日本武尊から次々と放たれる砲撃に、海岸線に居た魔物達は一気にその数を減らしていく。

 

 

 

 

 

 

砲撃開始から1時間後、海岸線に集結していた魔王軍は一匹残らず全て殲滅された。

 

 

「やったのか………」

 

「やったんだな……勝ったんだ!俺たちは勝ったんだ!」

 

「やったぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

一万年もの昔から、人類を脅かしていた魔王と魔物を殲滅した日本武尊と海兵師団達にトーパ軍と騎士団、特戦隊の魔導師達は歓声をあげる。

 

 

 

 

『日本国、伝説の魔王と魔物を滅し、一万年の時を経てグラメウス大陸を解放ス!!』

 

 

 

この報せは直ちに号外として各国へと伝わり、伝説の魔王と魔物を殲滅した日本の名前は一躍世界に轟く事となり、各列強国は日本に対する関心を一層強める事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




トーパ王国篇は終了です。

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