後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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先進11ヶ国篇
第59話


中央歴1640年8月初旬

 

 

第3文明圏が、日本国の影響により他の列強から見ても著しく発展し、グラメウス大陸の解放により訪れた平和を謳歌している頃。

 

 

グラ・バルカス帝国、帝都ラグナの中央官庁街の中央にある帝国議会議事堂では、ある重大な会議が行われていた。

 

 

 

「ではこれより帝前会議を開催致します。」

 

 

司会進行役が会議の開催を宣言し会議が始まった。

 

 

「此度の件についての最終決定について皆の意思を聞きたい。」

 

 

会議場の奥に座っていた、帝王グラルークスはその場に居た者に訪ねる。

 

 

「では外務省から………我が国は間もなく開催される先進11ヶ国会議に出席するにあたり、我が国の意思をハッキリと宣言する事となっています。外務省としては会議に出席させる我が国の代表としてシエリアを派遣する事を内定しています。彼女なら我が国の意思を世界の者共に宣言できると信じています。」

 

「シエリアか………彼女は前世界での実績はあるし、話の通じない野蛮人共の相手には適任だな。よかろう、外務省はその前提で準備を進めてくれ。」

 

「はっ!」

 

 

次にグラルークスは、軍幹部が座っている場所へと視線を移し、白い海軍の制服を着用しているスキンヘッドの軍人に声を掛ける。

 

 

「カイザルよ、海軍の方はどうだ?」

 

「はい。既にカオニア少将指揮の第1航空機動艦隊は訓練を終え、出撃準備を整えております。ご命令があればいつでも……」

 

 

ここに出席している軍人の中でも、彼の放つオーラと貫禄は半端では無かった。

帝国海軍内で彼は『軍神』、帝国臣民の間では親しみを込めて『おやじ』と言われている程の大人物であり、彼の発言力は政府内でも高い影響力を持ち、帝王からの信頼も厚かった。

 

 

 

「貴官が提唱した航空主兵論に余はとても感動している。その理論が正しい事を余や臣民、そしてこの世界の者共に教えてやるのだ。」

 

「はっ!」

 

「それとカイザル、改めて聞くが此度の作戦の真の意味は理解しておるか?」

 

「はい。表向きは各国に我が国の実力を見せるのが目的ですが、この作戦の真の目的は例の日本国の実力を図る事です。」

 

「そうだ。此度の作戦では日本国の艦隊には細心の注意を払い、その実力を図り、今後の戦略立案の貴重な糧とするのだ。」

 

「はっ!」

 

 

 

カイザルが下がり、今度は隣に座っていた女性軍人に視線が向けられる。

 

 

 

「ミレネケスよ、例の"アレ"の準備はどうか?」

 

 

 

妖艶で目尻が釣り上がり、男なら誰もが振り替える程の美貌を持ち、誰もが憧れと恐れを抱く女性。そんな雰囲気を持つ彼女は、帝国監査軍最高司令官の席にあるれっきとした軍人なのである。

 

 

「はい。こちらも既にドックで近代化改装を終え、習熟訓練も終えて待機しています。ご命令があれば……」

 

「よし。他の者、意見はあるか?」

 

 

 

グラルークスの問いに皆が頷き肯定の意を示す。

 

 

 

「では今作戦は余の名に於て、実行の許可を与える!皆、たのんだぞ!」

 

 

 

 

その後、細かい報告を行った後に会議はつつがなく終了した。

 

 

 

 

会議終了後、会議室を退出したカイザルが、海軍本部に戻るため議事堂の玄関前で迎えの車を待っていると、後ろからミレネケスが走って来て声を掛ける。

 

 

「カイザル、ちょっと良いかしら?」

 

「どうした?」

 

「話があるの。ここじゃ人の目があるから………何時もの店で3時に待ち合わせね。」

 

「分かった……」

 

 

二人は一旦そこで別れると、自宅にて私服に着替え、待ち合わせの喫茶店で合流し、店内の一番奥の席へと腰かける。

 

 

「で、話ってなんだ?」

 

「あなた、情報部から上がってきた報告を見てなかったの? 例の日本軍が持っている巨大戦艦とジェット機の写真。」

 

「飽きる程見た。情報部からの報告を照らし合わせたその上で、この作戦を立てたんだ。」

 

「だからって言って、私んトコ(監査軍)のグレードアトラスターを単艦でカルトアルパス湾に突入させるなんて…いくら日本艦隊以外が野蛮人の艦隊の集りとはいえ、グレードアトラスターでも只では済まないわよ。」

 

「そのための航空機動艦隊だ……グレードアトラスター程の火力と防御力のある戦艦なら日本以外の国の艦隊なら単艦で最小限の被害で蹴散らせる。そもそも今回の作戦は、皇帝陛下の世界制覇の野望の障害となる日本の実力を試すのが最大の目的なんだ。任務の成否によっては今後の我が国の戦略にも大きく影響する事になる。この作戦にはグレードアトラスターが最も適任なんだ。もしグレードアトラスターが被害を受けて撤退するとなれば、航空機動艦隊に脱出を援護させる手筈になっている。」

 

「ハァ~…………アンタは一度言い出したら聞かないんだから………」

 

 

 

ミレネケスはそう言って溜息を吐く。どうやら、カイザルの巌なりな態度には慣れているらしい。

互いに軍士官学校時代の同期でありライバルだったからこそ、各々の性格は理解している。

 

 

 

「さっきの会議では皇帝陛下の前だったから言わなかったけど、正直私は部下に死になさいって命令は出したくないわ……」

 

「俺だって必死で考えたさ。だがいかんせん、情報が不足している中では作戦の立てようがない。今回の作戦は、俺の軍人としての限界なんだ。」

 

「あら、意外ね。貴方の口から限界なんて言葉が出るのは。」

 

「俺は神様でもなければ超人でもない………普通の人間なんだ。」

 

 

 

そこへ店の店員がやって来る。

 

 

「ご注文は何に致しますか?」

 

「そうね………私はサラダセットを頂こうかしら? 勿論貴方の奢りでね?」

 

 

ミレネケスは口を釣り上げ、意味深な笑顔でカイザルに顔を向ける。

 

 

「はぁ……しょうがないな。私はステーキセットとビールを頼む。」

 

「サラダセットとステーキセットにビール1つ……畏まりました。少々お待ちください。」

 

 

店員は注文を受けて厨房に消えていく。

 

 

「ミレネケス、頼む。お前の所のグレードアトラスターを貸してくれ。」

 

「分かったわよ……じゃあ貸し一つね?」

 

「おいおい、ここの昼食代奢ってやっただろ? 貸しは無しで……」

 

「ダメよ。グレードアトラスターと乗員の命を考えると、ここの昼食代じゃ安すぎるわ。そうね………中央デパートで今年出たばかりの服を数着と靴3つで手を打ちましょう。」

 

「服と靴で3000人近い乗員の運命を決めていいのか?」

 

「それはお互い様じゃない? 貴方の立てた無茶な作戦に付き合わされるグレードアトラスターの事を考えると、まだ足りないわ。」

 

 

カイザルはこれ以上、物をせびられては堪らないと思い、降参の意思を示す。

 

 

「解った解った!」

 

「約束よ。さぁ、買う物を決めないと。」

 

 

ミレネケスは鞄からデパートのチラシを見て、カイザルに奢って貰う物のリストに丸を描いていく。

 

 

「女狐……」ボソッ

 

「何か言った?」

 

「別に。」

 

 

とても軍司令官とは思えない緩い会話の中、帝都の空は今日も工業の排煙で暗かった。

 

 

 

 

 

 

 

続く




日本国召喚がアニメ化した場合、声優は私の中ではカイザルの声はささきいさお、ミレネケスは榊原良子、パルキマイラ2号機のメテオス艦長は西村知道のイメージです。

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