後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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バルチスタ沖海戦篇
第64話


カルトアルパス沖より北500キロ地点の海上で待機していた第1航空機動艦隊は、マグドラ群島での任務を終えた、アルカイド提督指揮下の東征艦隊と合流し、カルトアルパス湾から脱出したグレードアトラスターを待っていた。

 

 

第1航空機動艦隊旗艦の、ヘルクレス級戦艦『ラス・アルゲティ』の艦橋で、カオニアはグレードアトラスターから送られてきた作戦失敗の電文を読んでいた。

 

 

「信じられません………まさかカイザル閣下の作戦が失敗するなんて。」

 

 

側にいたラス・アルゲティの艦長が驚きの声を漏らす。

 

 

「いや、ある意味では成功だ。」

 

「成功……ですか?」

 

「この作戦の本来の目的は、日本の実力を確かめるためにあったんだ。カルトアルパスに集結していた列強国の艦隊を殲滅するのは、カイザル閣下が軍部や政府高官、皇帝陛下を納得させるための建て前に過ぎない。」

 

「しかしそのために払った代償は大きいですよ……」

 

 

艦隊の航空参謀が被害集計を纏めた書類を持って、その場で読み上げる。

 

 

「空母ペガスス、マルカブ、アルゲニブ所属の第1次攻撃隊180機中、未帰還105機、帰還した機体はほぼ損傷し負傷者もかなりの数に登りますが、想定ギリギリの範囲内です。第2次攻撃隊を出しますか?」

 

 

 

航空参謀の質問にカオニアは首を横に振る。

 

 

 

「いや……意味を失った戦いに、これ以上戦力を投入して、失う必要のない損害を受けるのはナンセンスだ。当初の予定通り、グレードアトラスターと合流し本国へ帰還する。各空母には臨戦態勢解除を指示。だが上空警戒は怠るな。」

 

「了解」

 

 

 

航空参謀は不満気な表情になるが、艦隊の指揮権を持つカオニアには逆らえず、そのまま艦橋を立ち去った。

数分後にはカオニアの命令を受け、各空母から上空直掩のアンタレス隊が飛び立っていく。

 

 

 

 

 

 

 

やがて、艦隊の前方より1隻の艦影の姿が見える。

 

 

「来たか…………何っ!?」

 

 

ようやく艦隊と合流したグレードアトラスターを見た、カオニア以下の艦隊将兵は皆驚いた。

 

 

「嘘だろ…?」

 

「あのグレードアトラスターが………」

 

「何があったんだ?」

 

 

距離が縮まる度に克明となっていくグレードアトラスターの惨状は"凄まじい"としか言いようが無かった。

 

 

 

グレードアトラスターの顔とも言える51㎝連装砲は砲身が変形し、砲塔に施された装甲もひしゃげたり穴だらけだった。

 

高層ビル17階の高さにも匹敵する檣楼も、第1艦橋上の射撃指揮所の測距儀が無くなり、防空指揮所も捲れあがって、下の第1艦橋は完全に吹き曝しとなっている。

その他にも高角砲や機銃群は完全にスクラップ、煙突も上から押し潰され隙間から僅かに黒い排気煙が漏れ出し、マストも後ろにある破壊された後部艦橋に乗っかっていた。

速度も、赤子のヨチヨチ歩きと表現できる程に落ち、船体も右に若干傾斜しており、航行不能となっていないのが奇跡である。

 

 

 

「やはり単艦だけで突っ込ませたのは間違いみたいだったな…………」

 

「提督、如何いたしますか?」

 

「艦を接舷させて生存者の確認と負傷者の収容、グレードアトラスターの応急処置に人手を回せ。」

 

「了解。接舷用意!」

 

 

 

艦隊と合流したグレードアトラスターにラス・アルゲティと駆逐艦数隻が囲むように接舷し、医療品を抱えた軍医と衛生兵が次々と乗り込んでいく。

 

 

「来てくれ!重傷者が何人かいるんだ!」

 

「そっちの奴等を優先して手当だ!」

 

「こっちに人手を回してくれ!」

 

 

既に甲板上には、グレードアトラスターの医務室に収容しきれなかった負傷者が寝かされており、軍医達はグレードアトラスターの軍医達と手当たり次第に手当てや、処置を行っていく。

 

 

「第1、第2、第3班は艦内の調査だ!第4から6までは艦橋に行け!」

 

 

ラス・アルゲティの乗員達は班ごとに、宛がわれた場所へと散っていき、4、5、6班の40名は檣楼の後ろにある階段を登り第2艦橋と第1艦橋へ向かっていく。

 

 

「何だこれは……」

 

 

6班のリーダーは吹き曝しとなっていた第1艦橋を見て唖然となる。

 

 

「ん?……負傷者かっ!!」

 

 

リーダは奥に進むと、床に横たわるラクスタルと看病する航海長を発見した。6班の面々は二人が着ていた艦内服の肩に縫い付けられていた階級章見て、慌てて敬礼する。

 

 

「君達は?」

 

「ラス・アルゲティの者です!ご無事ですか?」

 

「あぁ……私は無事だが、艦長が重傷なんだ。直ぐに診てくれ。」

 

「了解!」

 

 

6班の軍医は直ちにラクスタルに駆け寄り、容態を確認する。

 

 

「心拍数、脈は共に正常です。頭部に外傷が目立ちますが、怪我自体は小さいですし、命に別状はありません。」

 

 

軍医の診断にその場に居た者全員が安堵する。

 

 

「ここの医務室では限界があります。とりあえずラス・アルゲティへ収容します。」

 

「頼む。」

 

 

ラクスタルは担架でラス・アルゲティへ収容され、治療を受ける事となった。

 

 

 

一方その頃、檣楼の根本にある司令塔では………

 

 

「…………………」ガクガク

 

 

司令塔内の隅っこで、シエリアは頭を抱えながらうずくまっていた。

彼女は旭日艦隊との戦闘で砲撃音と衝撃、爆発音の連続で、完全に怯えきっていた。

戦闘慣れしているグレードアトラスターの乗員と違い、文官である彼女には、日本武尊との戦闘は精神的にも肉体的にも追い詰められていた。

 

 

 

ガチャン!!

 

 

「!!」ビクッ!

 

 

司令塔の入り口のドアが開かれ、その音にシエリアは体を震わせる。

 

 

「生存者発見っ!」

 

 

入ってきたのはラス・アルゲティの乗員だった。

 

 

「その服は…………外務省の方ですか?」

 

「………」

 

 

シエリアは顔をゆっくりと上げて、一言……

 

 

「あぁ……」

 

 

力なくそう答えた。

 

 

「我々はラス・アルゲティの者です。ご無事ですか?」

 

「何とか………」

 

 

シエリアは立ち上がろうとするが、足に力が入らず、立ち上がれなかった。

 

 

「大丈夫ですか?肩をお貸しします。」

 

「すまない……」

 

 

ラス・アルゲティの乗員の肩を借りてシエリアは司令塔から外へ出る。

 

 

「これは…………」

 

 

シエリアは無惨な姿となったグレードアトラスターを見上げる。彼女は日本武尊との戦闘前は第1艦橋に居たのだが、ラクスタルと計らいで司令塔へと避難しており、吹き曝しとなった第1艦橋を見て、自分が助かったのは運が良かっただけだと痛感した。

 

 

「ラクスタル艦長は?」

 

「生存が確認されました。負傷していましたが、命に別状はありません。」

 

「そうか……」

 

 

 

この後、グレードアトラスターはラス・アルゲティに曳航され、艦隊と共に本国へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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