後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第66話

中央歴1640年8月30日

 

 

カルトアルパス沖海戦から2週間が経ったこの日、ムー国の隣、レイフォルの首都レイフォリアにあるグラ・バルカス帝国外務省直轄レイフォル出張所では、日本・ムー・ミリシアルの大使3人がグラ・バルカス帝国代表のゲスタの緊急会談と言う名の呼びだしを受けて会談を行っていた。

 

 

「つまり、カルトアルパスの件で我が国に公式の謝罪を要求すると?」

 

「はい。」

 

 

ミリシアル大使はハッキリとゲスタに要求を突きつける。今回の戦闘で一番被害を受けたのはミリシアルであり、零式魔導艦隊を壊滅させたグラ・バルカス帝国に謝罪を要求するのは当然の判断と言える。

 

 

「何故我が国が格下の相手に頭を下げなければならないんだ?」

 

 

だがゲスタは3人が思っていたのとは正反対の回答を述べる。

 

 

「既に我が国は会議で宣戦布告を行った筈だ。そっちが受けた被害に何故謝罪を要求するのか、理解に苦しむ。」

 

「つまり貴国は反省も謝罪もしないと?」

 

「そうだ。」

 

 

ミリシアル大使の言葉にゲスタはアッサリと答える。

ゲスタの、如何にも相手を見下した態度にミリシアル大使は顔を真っ赤にさせる。

 

 

「そもそも我々が貴国らを招いたのは、そんな事を話すためではない。」

 

「そんな事だと!」

 

 

一方的に宣戦布告を行い、自国の艦隊を潰されたミリシアル大使は、ゲスタの態度についに怒りを爆発させた。

だがゲスタはそんな事など無視するかの如く、ある文書を突き付けた。

 

 

「これは…………宣戦布告文書っ!?」

 

「そうだ。我が国はこの場に於てハッキリと宣言する。我が第8帝国はミリシアル、ムー、日本を含めた各列強並びに全世界に対して宣戦布告を布告する。」

 

 

文書には世界共通語で、各列強国や文明国、文明圏外国へ対する宣戦布告を宣言すると書かれていた。

 

 

「貴国は正気か!?全世界を敵にするなど、勝てる訳がない!」

 

 

だがそんな言葉にゲスタは意に介さず、自信満々と言った表情で反論する。

 

 

「勿論正気だし、全世界を敵に回して勝てる自信があるからこその宣戦布告だ。もし今ここで我が国に降ると言うなら皇帝陛下に便宜を図るのもやぶさかではない。」

 

 

 

無論、そんな要求を呑む程3人は愚かではない。

 

 

「ミリシアルとしてはこの要求は呑む事は出来ない。」

 

「ムー国も同様である。」

 

「無論、我が日本国も同じです。」

 

 

3人は要求を突っぱねる。

 

 

「そうか……なら仕方無い。これて我が国は貴様らとは正式に敵国となった。精々自分達が下した判断を後悔するがいい。」

 

 

そう言い放ちゲスタは部屋を去ろうとするが、扉の前で一度立ち止まる。

 

 

「我が国が掲げる正義に於て、日本国は最大の障害となる。日本国は我が国が国民一人に至るまで殲滅してくれよう。それまでは平和を楽しむ事だな。」

 

 

日本国大使の浅田はゲスタの言葉に、何も返さなかった。そしてゲスタは扉を開けて部屋から去っていった。

 

 

 

 

 

浅田は宣戦布告文書は直ちに日本国へ持ち帰り、大高総理と木戸外相に提出した。

 

 

「まさか全世界に対して宣戦布告………これではまるで第3帝国と同じではないですか。」

 

「確かに………全世界に対して宣戦布告を行うのは些か無謀すぎますな。」

 

 

大高と木戸はグラ・バルカスの無謀ともいえる回答に驚くしか無かった。

 

 

「しかもグラ・バルカス大使は我が国を名指しで、国民一人に至るまで殲滅すると言っていたそうです。これは明らかに我が国に対する殲滅宣言です。」

 

「かつてのパーパルディアと同じだ………戦争となった以上は後戻りはできません。我が国もグラ・バルカス帝国との戦争に備えて、準備を整える必要があります。ですが我が国は飽くまで相手を侵略する事なく、戦争による犠牲を極力少なくし、暴力的な手段になるべく頼らず相手を講話の方向へと持っていく姿勢を変える事はありません。今後は同盟国と連携しつつ、平和的解決を模索していかなければなりません。」

 

 

グラ・バルカス帝国に対して日本国も、今後の経過について必要な準備を行いつつ、外交と軍事の面で最善策を模索していく方向で話を進める事となった。

 

 

 

 

 

それから数週間後…………

 

 

グラ・バルカス帝国から列強各国に放たれた刺客のうちの1つが、日本に向けて迫りつつあった。

 

 

 

「艦長、確認しました。日本艦隊です。」

 

 

 

沖縄本島から南東に600キロ地点の海中に数隻の潜水艦の姿があった。それは日本海軍所属ではなく、グラ・バルカス帝国海軍第1潜水艦隊だった。

彼らはグラ・バルカス帝国による日本国への威嚇目的で、遠路遥々、中継基地を経由してここまでやって来ていたのである。

 

 

「分かった。」

 

 

艦隊旗艦のシータス級潜水艦『ミラ』に乗り込む、艦隊司令官は、潜望鏡を覗き込む。

 

 

「間違いない………奴等だ。」

 

 

司令官は潜望鏡の遥か向こうに見える艦隊を見て、下衆のような笑みを浮かべる。

 

 

「狩りの始まりだ。まずは手始めに魚雷攻撃を仕掛けるぞ。深度50まで潜航。」

 

 

ミラ以下のシータス級潜水艦はタンクに注水し、深度を下げると横一列に並び、艦首を目標に向ける。

 

 

「魚雷1番から6番装填、発射管注水!」

 

「魚雷装填、発射管注水!発射扉開け!」

 

 

艦首に6門備えられた53㎝魚雷発射管に魚雷が装填され、海水が注水されると同時に発射口が開かれる。

 

 

「ソナー、敵艦隊の動きは?」

 

「エンジン音は変わらず、速度は変わっていません。」

 

 

 

シータス級潜水艦には、前世界ではグラ・バルカス帝国しか潜水艦を備えていなかった関係から、ソナーは備わっているがアクティブ式ではなくパッシブ式しか装備されていないため、相手艦船が放つエンジン音とスクリュー音を探知する機能しか持っていない。

 

 

「魚雷、発射用意………撃て!」

 

 

命令と同時に魚雷が放たれるが、魚雷が発射管から押し出された瞬間に、ソナーが水上からある音を捉えた。

 

 

「艦長!水上に着水音あり!」

 

「何っ!急速潜航!急げ!」

 

 

司令官は慌てて潜航指示を下し、ミラ以下の数隻は艦首を下に向けて潜り始める。

 

 

 

「艦長!直上より突発音!魚雷です!」

 

「何!回避しろ!」

 

「距離30を切っています!間に合いません!」

 

 

その直後、ミラの直上から3発の小型物体が直撃。瞬間に爆発を起こし、水圧で破口より大量の海水が侵入しミラは一瞬で100名近い乗員を道連れにして圧潰、沈没した。

 

 

 

 

 

 

 

『こちら仙狩1、我敵潜とおぼしき物を撃沈せり!』

 

 

 

ミラの沈没地点直上には、日本海軍所属の対潜哨戒機『仙狩』がミラの沈没を確認しており、そこより北の方角を航行していた、東郷対潜駆逐戦隊旗艦の航空巡洋艦『東光』に報告を入れる。

 

 

 

「司令、敵潜水艦撃沈を確認しました!」

 

 

東光に乗り込む艦隊司令官の『東郷兵八郎』は報告を受けて、次の報告を求める。

 

 

 

「敵が放った魚雷は?」

 

「既に回避しました。本艦隊後方を通過しました。」

 

「よし。残りの敵潜は?」

 

「逃走を図っています。追撃しますか?」

 

「あぁ。1隻でも残られると周辺海域の安全に大きく影響するからな。」

 

 

東郷の命令で、既に上空で待機していた仙狩が最新式のKMX磁気探知装置と磁気音響併用誘導魚雷を駆使して、残りのシータス級を次々と撃沈していき、戦闘開始から僅か30分で戦闘は終わった。

 

 

 

「グラ・バルカスは各海域に潜水艦を放って、艦船や民間船を無差別に攻撃しているとは聞いていたが………まさかこの辺にまで出没するようになったとはな。」

 

「今後は対潜哨戒任務を厳重にする必要がありますね。」

 

「あぁ…………各艦は周辺警戒を継続せよ。」

 

 

 

今回の東郷艦隊とグラ・バルカス潜水艦隊との戦闘で、軍令部は周辺海域の警戒を担当する駆逐戦隊や潜水艦隊に向けて即日、対潜哨戒をより厳重にするようとの通達が出された事により、グラ・バルカス帝国は潜水艦による日本への威嚇行動を控えるようになり、海域からはグラ・バルカス帝国潜水艦の姿は消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

続く




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