後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第68話

中央歴1640年9月中旬

 

 

グラ・バルカス帝国レイフォル自治区の一角にある、寂れた掘っ立て小屋に設けられた、名前もつけられていない帝国情報局技術部のレイフォル出張所では、数人の技官が詰めていた。

 

その数人のうちの1人である『ナグアノ』と言う若い技官は、今後の世界戦争に備えて各国に潜入している情報諜報員が持ち帰った異世界の軍事力について研究していた。

 

 

「パーパルディアや他の列強国は戦列艦や帆船が主力か………特に特筆すべき点は無さそうだな。」

 

 

机の上に並べられた写真には戦列艦や帆船が映っており、科学大国のグラ・バルカスにとっては推進力に使われている『風神の涙』と言う魔鉱石以外では特に警戒すべき点は見つからない。

 

 

「だが風神の涙は面白そうだな。もし手に入れば空母に搭載して、艦載機の滑走距離が短くできるかも。」

 

 

ナグアノは風神の涙に関する技術について研究の余地が充分にあると、風神の涙に関する書類に判子を押す。

 

 

「さて次は……」

 

 

ナグアノは次の封筒を手に取る。

封筒には中に入っている情報が何処の国なのかを示す番号と、帝国では1級の極秘資料にしか押されない『㊙』の判が押されている。

 

 

「これが日本国の軍事資料か………」

 

 

封筒には、第3文明圏に潜入しているハント達、諜報員が日本の東機関の厳重な監視網を命がけで掻い潜って手に入れた情報が入っている。

 

ナグアノは日本国の資料に関しては特に注意を払っていた。

 

今から1週間前に帝国が列強各国への威嚇目的で潜水艦隊を派遣していたのだが、何故か日本国へ向かった第1潜水艦隊が通信途絶のまま、今に至るも帰還していないとの報告を受けて、ナグアノは日本国が潜水艦にも対抗できる兵器を保有しているのでは無いかと思っていた。

 

 

「……………」

 

 

奮える手で封筒を開けて、中にあった物を取り出す。

 

 

「これは………」

 

 

入っていたのは日本語と大陸共通語で書かれた一枚の新聞記事だった。見出しには、『領海に侵入した不明潜水艦数隻を撃沈!』と書かれた。

 

 

「撃沈っ!?」

 

 

説明文には、日本の領海に侵入した数隻の潜水艦隊が付近を哨戒活動中だった哨戒飛行艇により発見され、付近を航行中だった1個艦隊に攻撃を仕掛けたため、自衛権として潜水艦隊を攻撃したと書かれていた。

 

 

(シータス級は長時間の潜航が出来る筈だ……近くにある中継基地からでも潜航したままで行動できる筈なのに何故見つかった?)

 

 

ナグアノは説明文に記載されている哨戒飛行艇について考える。

 

 

(哨戒飛行艇……上空からなら水上を航行している潜水艦を見つける事は出来ても、水中にある潜水艦までは発見は出来ない。なのに何故見つかった?偶然か?………いや違う!潜航中の潜水艦隊を見つけたという記述から推測するに、目視で発見したのではない。とすると……………まさか!奴等はまさかアレを……)

 

 

彼は帝国がまだユグドに居た時に、帝国技術部がかつて開発案を出したが、予算や、費用対効果が見込めないとして開発まで行けなかった"ある物"を思い出した。

 

 

「磁気探知装置を実用化しているのかっ!?確かにそれなら辻褄は合う………いや、そうとしか考えられない!」

 

 

ナグアノは更に詳しく資料に目を通す。

 

 

 

そこには帝国陸軍が誇る中戦車よりも遥かにその性能を上回る"ゴシキカイ"と言う中戦車、高性能レーダーを装備した警戒機、帝国では構想段階にしかないジェット機、更には帝国内で概念すら無い誘導弾と言う兵器を多数保有している事が写真つきで記されている。

 

 

「こんな兵器を日本は……」

 

 

カルトアルパス沖海戦でグレードアトラスターを大破させた日本国の技術力は、自国よりも数世代は進んでいる事に衝撃を受けたナグアノは呆然自失となる。

 

 

 

「大変だ!これは直ぐにでも上に提出しなければ!」

 

 

ナグアノは直ちに報告書を作成し、上司のバミダルを通じて報告は上げられた。

 

 

 

筈であった……

 

 

 

「こんな資料を上に上げられたら我が社は……」

 

 

帝国郊外のホテルの1室では、帝王府副長官のオルダイカとカルスライン社のエルチルゴがおり、オルダイカはエルチルゴにナグアノの報告書を見せる。

 

 

「私とカルスライン社は大損する事は確実だな。」

 

「閣下、如何いたしましょう?」

 

「まぁ慌てるなエルチルゴ。こう言った報告書は私を通じてカーツ長官から皇帝陛下と議員達に上げられるのは知っているだろう?ならこんな物は無かった事にすれば良いのだ………」

 

 

そう言ってオルダイカは部屋の一室にあった暖炉に報告書を丸めて、放り投げる。

 

 

「これなら報告書は最初から存在しない事になり、私も君も損をせずに済みそうだ。」

 

「成る程……オルダイカ様は悪ですねぇ~」

 

「君程ではないさ………」

 

 

 

ナグアノの訴えが書かれた報告書は結局、議会に提出される事もなく、全て無かった事されてしまった。

 

 

だがこれが後に大きな過ちだった事になるとは、この時点では誰も分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

続く




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