後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第8話

中央歴1639年4月7日 クワ・トイネ公国 首都マイ・ハーク。

 

 

この日、日本国とクワ・トイネは本格的な技術、民間、軍事交流を円滑に行う事を可能にする『日・ク軍民技術交流協定』を締結し、調印式が行われる。

マイ・ハークの広場に設けられた特設会場で大々的に公開される調印式には大勢の市民や野次馬が集まり、クワ・トイネ側のカナタやリンスイ、クイラ王国側の代表と、協定の発案者である大高の姿があった。

 

 

3国の代表達はそれぞれの協定書にサインをし終え、固い握手を交わした

 

 

「大高総理、これで我が国は貴国と完全な一心同体となった訳ですね。」

 

「はい。今後ともよろしくお願いいたします。」

 

「我がクイラ王国も日本国と出会えて良かったと思っています。私からもよろしくお願いいたします。」

 

 

3国にとって歴史的な調印式が行われた翌日、マイ・ハーク港では事前の取り決め通り、軍事交流と共同訓練を名目に、高杉艦隊の護衛にて、クワ・トイネ軍との合同演習にやって来た日本陸軍の元印度派遣軍改め『鍬十稲派遣軍』を乗せた輸送船が次々と入港していく。

 

上陸用舟艇からは、対独戦用として開発された陸軍の主力戦車『五式中戦車改』が排気ガスを撒き散らしながら陸揚げされていく。

 

 

「おぉ……鉄の塊が動いてるぞ!」

 

「あれが日本の軍隊か……」

 

 

マイ・ハーク港に居た漁師や市民達は陸揚げされていく五式改を見て腰を抜かし、中には「太陽神の降臨じゃ!」「太陽神の復活だ。」と歓喜の声をあげる老人達の姿もある。

 

 

「満員御礼だな……」

 

 

そう呟くのは、この鍬十稲派遣軍を指揮する『熊谷直』元帥(特例により少将より昇進)が、六輪指揮装甲車のキューポラから、クワ・トイネの市民達を見ていた。

 

 

「しかし何故、ご老体達は我々の事を太陽神と言うのだろうか?」

 

「それは、我々の車両に施されてる国旗を見てそう言ってるんじゃないでしょうか?」

 

 

車内に居た部下の一人がそう言って熊谷も「成る程な…」と納得する。

 

 

 

 

陸揚げされた車両は、事前の取り決め通りに、合同演習を行う場所であるギムの町近くにあるダイタル平野に移動する。

 

 

 

「日本軍の方々よく来られた!私は公国軍西部方面師団司令官を勤める『ノウ』と申します。」

 

 

西部方面師団司令部が置かれている城塞都市エジェイにたどり着くと、ノウら西部方面師団幹部からの歓迎を受ける熊谷と派遣軍の面々。

 

 

「はじめまして。私は日本陸軍鍬十稲派遣軍司令の熊谷と申します。今回はよろしくお願いします。」

 

 

熊谷はノウと握手を交わす。

 

 

 

 

この日より数日間、鍬十稲派遣軍と高杉艦隊は、クワ・トイネ軍と対ロウリア戦に備えて演習を開始した。

クワ・トイネ軍は派遣軍の戦闘能力や戦術を研究し、また派遣軍将兵達もクワ・トイネ軍からこの世界の陸戦に関する研究と指導を受け、双方は互いに信頼を重ねねていき、いつでもロウリア戦に備える準備を進めていく。

 

 

 

 

そして事態は、日本とクワ・トイネの予想通りに動いた。

 

 

 

 

中央歴1639年4月11日 クワ・トイネ公国西方 国境の町『ギム』

 

 

ロウリアとの国境にあるこの町では現在、ギムの町を防衛する西部方面騎士団と派遣軍の戦車1個連隊と歩兵2個小隊、車両3個中隊が、町に残っていた市民達の避難誘導を行っていた。

 

勿論これは、表向きは避難訓練とされており、市民達にはロウリア王国侵攻の危険があるとは知らされておらず、市民達も軍からの避難命令に特に疑いを見せる事もなく、車両に乗り込んでいく。

 

 

「モイジ団長、残っていた市民の8割が避難に成功しました。」

 

「分かりました。どうやら予定通りに避難は出来そうですね。」

 

 

そう話すのは、西部方面騎士団の団長『モイジ』と派遣軍戦車隊の指揮をする『瀬戸基』少将の二人だった。

 

 

「瀬戸少将、この度の援軍、まことに感謝している。」

 

「いえ。我々は両国の絆を深めるため、それを邪魔する者を撃退するが任務でありますから。」

 

 

 

ギムの町にやって来てから、両軍の将兵達は市民の避難誘導に全力を尽くす中で、徐々に信頼を寄せていき、今や肩を並べて語り合える程の仲となっている将兵が多数を占めていた。

 

 

 

「少将っ!」

 

 

そこへ偵察隊と兵士が慌てた様子で戻ってくると。瀬戸の元へとやって来た。

 

 

「何事だ!?」

 

「西の方角より正体不明の軍勢が多数、こちらに向かって進軍してきている模様です!その他、多数の航空戦力を備えてるとの事です!」

 

「やはり来たか……よし!熊谷閣下に連絡しろ!我々は直ちに戦闘配置だ!」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

瀬戸の命令を受けた伝令兵は直ちに無線で、ギムに居る各部隊に戦闘準備命令を発令し、派遣軍の兵士と、西部方面騎士団は戦闘態勢を整える。

 

 

「各部隊へ告ぐ!市民の避難が完了するまで我々は西部方面騎士団と合同で殿を勤める!市民達は命に替えても守り抜け!」

 

「我が西部方面騎士団は、日本軍と共同歩調を取るぞ!日頃鍛えた訓練を奴等に見せてやるんだ!」

 

 

瀬戸とモイジは指揮下の部隊に無線越しや大声で士気を上げる。

 

 

 

「少将っ!派遣軍本部より、砲兵部隊の準備が完了したとの報告が入りました!ダイダル基地からも、海軍航空隊が出撃したとの事です!」

 

「航空隊はいつ頃到着する?」

 

「今から10分後には到着できるとの事です!」

 

「10分か………敵がここに到達する時間を考えると、航空隊が到着するまでは我々だけで陸と空の敵を相手にするしかないな……よし!戦車を前衛に敵を待ち構える!戦車隊は直ちに前進っ!」

 

「はっ!」

 

 

 

ギムに到着以来、沈黙していた5式中戦車改30両を擁する1連隊が遂に動き出し、ギムの町の西側にある広い牧草地帯へと展開する。

 

 

「瀬戸少将、我々西部方面騎士団は何をすれば良いのだろうか?我々に出来る事があれば何でも言ってくれ。」

 

「我々戦車隊が敵を食い止めている間、市民の避難をお願いしたい。避難が完了したと同時に貴方方も避難してくれ!殿は我々が勤める!」

 

「だが相手は万単位の軍勢だ!いくらこの鉄の車が凄くても……」

 

「大丈夫だ。我々はこの時のために準備をしてきたんだ。信用してくれ。」

 

「………………分かった!幸運を祈る!」

 

 

モイジは頭を下げて部下を連れて避難誘導のため戻っていった。

 

 

「よし!各車、榴弾装填!」

 

 

5式改の各車の乗員は7糎半戦車砲に対人用榴弾を装填し、砲身を地平線に向ける。

 

 

「さぁ来い…………」

 

 

数分間待機していると、やがて地平線の向こうから砂煙をあげながら近付いてくる軍勢が見えてきた。

 

 

「来たぞ!各車攻撃用意!」

 

 

砲身が迫ってくるロウリア軍に向けられ、砲撃手が照準器で狙いを定める。

 

 

「用意………撃てぇ!」

 

 

合図と同時に5式改30両から一斉に砲撃が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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