バルチスタ沖海戦とレイフォル攻撃により、グラ・バルカス帝国は今年度中の第2文明圏への侵攻計画と今後の戦略が大幅に見直される事となり、世界は一時的にとはいえ平和となった。
ミリシアル・ムー・日本などの各国はグラ・バルカス帝国との戦争に備えて、軍の増強と近代化に取り組んでいた。
特に軍の近代化について積極的だったのはムーの方である。
彼の国は3国の中でも近代化が遅れている傾向があり、今後何時グラ・バルカス帝国との戦端が開かれる事となるか分からない以上、軍の近代化は急務となり、ムー政府は列強国としてのプライドを曲げて、ムー大陸内にて自生または養殖されている地球時代から存在する植物や、"一部"の地下資源の輸出の対価として日本の科学力を積極的に取り入れていた。
海軍では、バルチスタ沖海戦で鹵獲したグラ・バルカス帝国第2航空機動艦隊のヘラクレス級戦艦コルネフォロスや、巡洋戦艦改造のボーテス級空母『アークトゥルス』(加賀型空母)、同じく巡洋戦艦改造のコロナボラリス級空母『アルフェッカ』(空母赤城)、その他の巡洋艦や駆逐艦の修理を兼ねて、日本から招いた技術者と共同でリグビエル・ビサンズ社所有のマイルズ造船所で修理を兼ねた調査が行われていた。
「流石はグラ・バルカス帝国だな……これ程の艦船を造船出来るとは。」
情報分析課からリグビエル・ビサンズ社へ出向を命じられていたマイラスは、ドック内で佇むコルネフォロスを見て、素直な感想を述べる。
「全くです…認めたくはありませんが、この艦は脅威です。」
マイラスの横で同じく、調査に参加していたラ・カサミ艦長のミニラルも感想を述べる。
今回の海戦でムーは、既に時代は艦隊戦から航空戦の時代へと移りつつあると認識され、航空戦力の拡充のため日本から輸入した電征の解析と国産化、新型空母と駆逐艦の配備が計画されているため、戦艦の新規建造については不透明になりつつある。
「しかしマイラスさん、この戦艦を本当にあんな奇想艦に改造するのですか?」
「えぇ……この艦……コルネフォロスを私が考えている方法で改造出来れば、戦艦と空母の良い所を生かした新戦術が確立できます。」
マイラスがミニラルにある紙の束を手渡す。
それを受け取ったミニラルは、中身に書かれている内容を見て頭を抱える。
「技術者達の言う事は分からないですよ……」
「そうですか?ミニラル艦長なら分かって頂けるものと思っていたのですが……」
「こんな魅力的な戦艦をわざわざ、後ろ半分を空母に改造するなんて………」
「ミニラル艦長も旭日艦隊に配備されていた虎狼型をご存じでしょ? 徹夜で考えた私なりの航空戦艦改造案なんですよ。」
マイラスは以前に日本を訪れた時に、旭日艦隊所属の虎狼型航空巡洋戦艦に日本武尊に乗艦した時にも匹敵する衝撃を受けた。
ムー国では戦艦は戦艦、空母は空母として建造するという普通の認識があったのだが、日本のように一つ種類の艦に別の種類の艦の利点を組み合わせるという発想にはマイラスは驚かされた。
「もしこれを航空戦艦として実用化できれば、海軍の戦力は新しい道が切り開ける事間違いありません。」
「私としても海軍がより発展できるなら賛成しますが…」
ミニラルは未だに納得できていないといった感じだが、コルネフォロスの改造に絶対の自信を持っていたマイラスの表情を見て、それ以上は何も言わなかった。
一方その頃、マイカル市内にあるリグビエル・ビサンズ社の航空部門がある工場では、日本から輸入した電征Ⅰ型(ムー採用名 デン・セイ)の国産化のための解析が急いで進められていた。
「やはり問題はエンジンか……」
「はい。デン・セイのエンジンはマリンのものより、高精度な上に過給機の複製が大変ですが、機体そのものの国産化は生産ラインが構築できれば来年始めには可能となるでしょう。エンジンは当面の間はノックダウンに頼る事になるでしょうが…」
「いよいよ夢にまで見た全金属単葉機の国産化か……出来れば独自で開発したかったがな。」
「しょうがありませんよ。今から独自で単葉機開発となれば、グラ・バルカス戦には間に合わないです。上も必死なんですよ。」
海軍戦力と航空戦力の拡充に力が注がれているが、陸軍でも1月に日本と締結された技術交流協定の直後から、グラ・バルカス帝国軍の戦力を見据えて、歩兵装備から、車両に至るまでの兵器の更新を行っていた。
「撃てっ!!」
とある陸軍基地では、拳銃の射撃訓練が行われていた。だが、彼らが手にしているのはムーが採用している1630型拳銃(見た目はモーゼルC96に酷似)ではなく、より近代的な大型自動拳銃であった。
「撃ち方やめ!」
教官役の軍人が訓練を終えた兵士を集める。
「どうだ?新しい拳銃の威力は?」
「はい。前の1630に比べてコンパクトで携帯しやすいです。グリップは細身でとても握りやすいですし、装填も楽で扱いやすいと思います。」
彼らが手にしているのは、この世界には存在しない筈のアメリカ製コルトM1911A1である。
「我が国の新しい拳銃に相応しいと思います。」
ムーが計画した陸軍装備の更新計画には歩兵銃や拳銃も含まれており、特に接近戦闘が多いこの世界特有の戦術を持っているムー陸軍は拳銃については小銃と共に重視している。
だが既存の制式拳銃の1630型はモーゼルC96と似通ってる分、重量が嵩む上に、ストリッパークリップ式の装填方法では次弾装填に時間が掛かっていた。
そこに目をつけた日本は、ムー向けの新拳銃として前世界で使用してきていた古今東西、様々な自動拳銃をトライアル用に提供し、厳しい審査の末、生産性、使用弾薬の威力が高く評価された。
過酷な環境下を想定したテストでもガバメントはほぼ確実に作動し、叩きつけようが、砂を掛けようが、水につけようが、泥をつけようが、全く意に介さず作動した。これが決定打となり、ガバメントはムー全軍共通の制式拳銃『1640型自動拳銃』として採用されたのである。
既に採用から半年が経っているが、従来の1630型と比べて構造が単純な事から整備性もよく、45ACP弾の威力、反動の強さも体格の大きいムー人から見れば対した問題とはならないため、新米兵士や熟練兵士からも大いに信頼されていた。
現在はムーの銃器メーカー『コートル社』が主生産を担っているが、来年始めまでに全軍兵士に支給するという計画のため、コートル社の工場では軍からの受注が追い付かず、下請けの工場や、ライバルの『ブロニーグン社』でもOEMでの大量生産が始まっている。
これ等の軍事特需によりムーの経済は鰻登りを続け、失業率も例年より大幅に減った事により治安も良くなり、雇用率も上昇傾向にあり、今やムーは第2文明圏で最も豊かな国となりつつあった。
続く
つい最近マルシンのM1911A1のモデルガンを鑑賞用として購入し、いつか本作品にも登場させたいなと思っていたので、ムーの制式拳銃として登場させてみました。
最後の方に登場するムーの銃器メーカーの元ネタはもう分かりますよね?
皆様からの、ご意見とご感想お待ちしております。