後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第83話

中央歴1641年6月20日 早朝

 

 

マイカル港では、援軍要請によって日本から派遣された夜豹師団を乗せた輸送船団と旭日艦隊が入港していた。

岸壁からは上陸用舟艇や、運搬艇によって兵員、物資、装甲車、トラックが陸揚げされ、夜豹師団の主力を担う五式改と、この度陸軍に採用された新型戦車も運び込まれていた。

 

 

「これが日本軍の新型戦車ですか……」

 

 

鉄道で輸送される夜豹師団の装備輸送の手続きのためマイカルに訪れていた、北のアルーへの中間地点にある鉄道の町キールセキの町の防衛を担当する、キールセキ防衛隊司令官の『ホクゴウ』が、陸揚げされていた亀の甲羅のような形をした砲塔から突き出た長い砲身を備えた新型戦車を見て、熊谷に呟く。

 

 

「はい。新型の9式戦車『蒙虎』であります。」

 

 

『9式戦車 蒙虎』とは、後世日本の技術を結集して開発された新型戦車である。

日本軍の新戦術に合わせ、前世から転生してきた平成の技術者達の記憶にあった『74式戦車』と、クワ・トイネの神森の神殿で発見された遺跡の中にあった74式戦車の実物を基に、後世日本の技術力で完璧に再現した代物である。

 

この戦車、本来は対独戦に合わせて開発が進められていたが、異世界への転移の混乱による財政の問題と、戦車などの機甲戦力が存在しないこの戦車では過剰性能として開発が凍結されていたのだが、ムーとの国交成立の際にグラ・バルカス帝国が機甲戦力を保有しているとの情報から急遽開発が再開されたのである。

 

当初は開発までに数年ほど掛かると見込まれていたが、神森の神殿から持ち帰られた74式戦車の実物を解析した事によって開発スピードは飛躍的に向上し、技術者達の不眠不休の努力の末に僅か一年で実用化にまで漕ぎ着けたのである。

 

 

 

今回は実戦テストのため、9式の先行量産型20両が5式改と共に派遣軍に配備されていたのであった。

 

 

 

「いやぁ………あそこにある5式改は迫力はありますが、この新型はそれ以上ですな。これならグラ・バルカスに遅れをとる事はありません。」

 

「ですがこの車両は実戦テスト用なので、実際の戦闘ではどんなトラブルに見舞われるか分かりません。やはり頼みとなるのは5式改です。」

 

 

 

夜豹師団への期待大であったホクゴウの評価に熊谷は真剣な表情で答えた。

 

 

「では準備が整ったようなので、輸送準備をお願いします。」

 

「分かりました。」

 

 

陸揚げされ車両と物資は、マイカル駅にある軍が管理する軍機関区へと通され、クレーン車を使って用意されていた貨車に載せられ、兵員は民間用の客車を改造した兵員輸送貨車に乗り込んでいく。

 

 

「全員、搭乗確認っ!」

 

「出発っ!」

 

 

汽笛が鳴らされ黒煙を吐きながら、大型機関車は車両を載せた貨車を引きながら駅を出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後の午前10時。

 

 

アルーより北へ30キロの地点にある、グラ・バルカス帝国陸軍最前線基地『バルクルス基地』では、陸軍第8旅団と第4師団所属の戦車や装甲車が整列し、暖気運転を行い、出撃準備を整えていた。

 

出撃前にカーキ色の戦闘服にヘルメットを着用した兵士達が装備の点検を行っている最中、焦げ茶色の陸軍将校服と略帽を被っている第8旅団長のガオグゲル少将が、部下の第4師団長ボーグ中佐と話をしていた。

 

 

「ボーグ君、帝国陸軍は強い!帝国陸軍はユグドでも、今世界に於ても最強だ!」

 

「その通りであります!」

 

「その中でもボーグ君が指揮する第4師団は我が陸軍で一番の精鋭師団だ。今回のムー国侵攻作戦では君達に掛かっている期待は大きいぞ!帝軍兵士として誇りを胸に、敵を殲滅してみせろ!」

 

「はいっ!」

 

 

 

ガオグゲルはボーグに激励の言葉を述べて、一呼吸置いて更に続ける。

 

 

 

「だがボーグ君、いくら最強の帝軍とはいえ兵士達の精神面を疎かにしては元も子もない。最強師団を率いる上では従来の考えを改める必要がある。そこでだ………耳を貸せ。」

 

 

ガオグゲルの言葉にボーグは耳を寄せ、ガオグゲルは小さな声で話す。

 

 

「なんですと!それは………」

 

 

ガオグゲルの言葉にボーグは驚いた。

 

 

「アルー侵攻作戦に於て発生した難民の扱いについては、私は関知はしないし咎めるつもりもない。ここには前世界のような国際法などないからかな…」

 

 

その詞にボーグは到底軍人とは思えない不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「分かりました。」

 

「よし。では全員に命令を伝えろ!直ちにアルーへ向けて進撃を開始し、敵を殲滅しろ!」

 

「はい!」

 

 

ガオグゲルの命令は直ちにボーグを通じて第4師団全部隊に伝達され、バルクルス基地から第4師団が戦車を先頭にアルーへ向けて出撃を開始し、基地の滑走路からは直掩のアンタレスとアンタレス改が出撃していく。

 

 

 

 

 

 

だが、グラ・バルカス帝国バルクルス基地の状況は、数日前に付近の森の中に潜入していた、ムー情報部の諜報員とアルー警備隊の偵察兵によって監視されていたのであった。

 

 

「よし。直ちに警備隊と統括軍に伝えろ!」

 

「はっ!」

 

 

グラ・バルカス帝国軍の動きは直ちに秘匿通信システムによって、オタハイトの統括軍本部とアルー警備隊、空軍基地に伝えられ、移動中のムー派遣軍と旭日艦隊にも統括軍経由で伝えられた。

 

 

 

 

 

 

続く




ようやく艦隊シリーズで日本陸軍最強の9式戦車を登場させる事が出来ました。
OVAで初めて見た時、『74式っ!?』て思わずツッコンじゃいましたよ。
偶然似ていたのかと思ったら、設定で74式戦車の情報を知っていた前世の技術者達によって作られたと知った時は驚きました。

皆様からの、ご意見とご感想お待ちしております。

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