グラ・バルカス航空隊と空中戦に入った剣閃隊は、デン・セイが持つ性能を最大限に生かしつつ、事を有利に進めていた。
「貰った!」
ナギーは既にアンタレス3機、アンタレス改2機の合計5機を撃墜しており、6機目となるアンタレスに向けて機銃を放つ。
ナギーの乗るデン・セイには30㎜機銃2門と12・7㎜機銃2門が装備されており、零戦とほぼ同じスペックを持つアンタレスの防弾装備では防ぎようはなく、蜂の巣にされた機体は主翼から火を吹いて墜ちていった。
「これで6機か………他の連中はどうだ?」
回りを見ると、他のデン・セイも数で勝るアンタレスを手玉にとり、速度と火力を武器に一撃離脱戦法を徹底していた。アンタレスも必死に格闘戦に持ち込もうとしているが、その前にデン・セイが離脱するか加速するかで振りきられてしまい中々格闘戦には持ち込めないでいる。
そうしているうちにグラ・バルカス航空隊は優位を完全に失い、航空隊は50機中1機も生き残る事なく壊滅した
「よし!制空権を確保っ!!」
ナギーは暗号文でアルー司令部に制空権確保の報告を入れた。
「アーレイ将軍、デン・セイが制空権を確保したとの事です!」
「よし! 敵の地上部隊はどの位置だ?」
「はい。既にここより北に20㎞の森の中です。」
その事を聞いたアーレイ将軍の表情に若干の余裕が出てきた。
「敵は魔の森に嵌まったな………例の戦術を試す時が来た。 」
「日本から伝授されたゲリラ戦術ですな?」
「そうだ。敵は悪夢を見る事になるぞ。」
その頃、アルーの丘より北へ20キロ地点にある森の入り口にまで来ていた第4師団は、何の疑いを持つ事なく森の中へと入っていく。
師団指揮を行う装甲車内でボーグは、味方の航空隊からの通信が来ない事に苛立っていた。
「航空隊からの通信はまだ繋がらんのか?」
「はい。何度も呼び掛けていますが、繋がりません。最後の通信では敵の航空機の奇襲を受けたとありました。それ以降は……」
「原因は?」
「この世界特有の電離層の問題か…或いは全滅のどちらかが考えられますが………」
「いくら敵の奇襲を受けたとはいえ、1機も残らず全滅という事はありえん…………恐らく電離層の問題だろう。そうでなければ説明がつかん。」
この時点でボーグの基には、味方航空隊全滅の報は入っていなかった。
「どうしましょうか?」
「敵の戦力くらいなら味方航空隊なんか居なくても我々だけで殲滅できる。このまま進撃だ。」
「はいっ!」
第4師団は当初の作戦通り、アルーへ向けて進撃を続ける。
既に森の中へと入り込んだ部隊は、叢と起伏の激しい地形に苦心させられながら前へ前へと進んでいた。
「クソ!足場が悪すぎるぞこれは……」
「穴があるかもしれんぞ。ゆっくり進め。」
彼らは普段なら戦車を先頭に進撃するが、森に自生している大木は、日本陸軍の97式中戦車と同じスペックを持つ帝国軍戦車ではそれを薙ぎ倒して前に進めないため、歩兵部隊が先行し、後ろから工兵部隊が戦車が通れる道を切り開きながら進んでいる。
「しかし……いやに静かだな……」
「あぁ……不気味すぎるくらいだ…」
歩兵銃を構えながら若い兵士達は森の静かさに異様な不安感に囚われていた。
その時……
ギャャャャャャャャャャャャャ!!!
味方の兵士の叫び声が聞こえた。
駆け付けてみると、落とし穴に友軍の兵士数人が仕掛けられていた鋭い槍に身体中を貫かれていた。
「全員、回りに注意しながら進め!罠が仕掛けられているぞ!!」
指揮官の軍人が叫ぶと、全員は周囲を警戒しながら、落し穴が無いかと歩兵銃に装着された銃剣で地面を突きながらゆっくり進む。
「うわぁぁ!!!」
また誰かが罠に掛かった。ふと見ると何人かが叢に仕掛けれていたスパイクを踏んでしまい、鏃が足を貫通していた。
「不味い!このスパイクには肥が塗ってある!」
「破傷風になるぞ!衛生兵!衛生兵!」
ムー軍が仕掛けた特製スパイクには肥が大量に塗られており、そこから傷口に雑菌が染み込む事で、故意に破傷風を引き起こすようになっている。
「うわぁ!化け物だ!」
今度は、彼らの目の前に人の背丈の2倍はあろうかと思われる巨大な猛獣6匹が現れ、驚く間もなく彼らに向かって襲い掛かる。
「ギャアアアア!!助けてくれ!」
「クソ!来るな!来るな!来るな!」
運悪く猛獣に襲い掛かられた兵士の何人かが猛獣に補食され、それを止めようとした兵士が歩兵銃を放つが、発砲音に怒り興奮した猛獣は更に暴れ回り、兵士達を追いかけ回す。
「うわぁ!蜂だ!毒蜂だ!!」
誰かが、地面内にあるスズメバチの巣を刺激したのか、数えきれない程のオオスズメバチとキイロスズメバチが襲い掛かる。
「うわぁ!噛まれた!蛇に噛まれた!」
さすがの帝国軍も自然の脅威の前には成す術は無かった。
「クソ!これじゃ前に進めないじゃないか!」
「戦車は来ないのかっ!」
戦車は未だに前に進めず後方で立ち往生したままであった。
その様子はムー陸軍の偵察隊によって監視されており、アルー司令部にも詳細に伝わっていた。
「やはりあの魔の森の脅威には彼らでは太刀打ちできんようだな。」
「えぇ。何せあの森は猛獣や危険生物の宝庫ですからな。我々が仕掛けたトラップと自然の脅威が絶大な効果を上げているようです。」
「これで敵の進撃速度をいくらか遅らせる事が出来そうだ………各員には早めに食事を取らせろ。」
師団各員は早めの昼食を摂り、敵との戦闘に備える。
続く
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