後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第86話

森から何とか抜け出せた第4師団は、戦車部隊と合流し、森を出た所のアルーへ北10キロの地点にまできていた。

 

 

「クソ!ここまで来るのに何人の兵士が死んだ?」

 

「はっ!50名程です。」

 

「負傷者は?」

 

「150名です。うち80名が重傷を負い戦闘不能、残りは応急処置にて何とか戦えます。」

 

「よし!あの丘を何としても墜とすぞ!」

 

 

 

 

 

ボーグの命令で、歩兵、戦車、砲兵が一斉にアルーへ向けて進撃を開始した。

後方に居た砲兵部隊の曲射砲と野戦砲による砲撃から始まり、戦車隊を盾にした歩兵が待機する。

 

 

 

「来たぞ!地面が3分に敵が7分!地面が3分に敵が7分!」

 

 

 

塹壕に控えていたムー陸軍兵が土嚢に作られた銃丸から歩兵銃の銃口を突き出し、日本から輸入したブローニング重機関銃とZB26軽機関銃に弾を装填し銃口を向ける。

 

 

「師団長!各員、配置完了!」

 

「よし!敵の砲撃が止まるまで絶対に攻撃を行うなと各部隊に確認をとれ。」

 

 

 

帝国軍からの砲撃は激しく、アルーの丘に砲撃音が木霊する。ムー兵は砲撃に耐えつつ、攻撃開始の合図を待ち続ける。

 

 

「止まった?」

 

 

 

砲撃が止み、辺りが静かになる。

 

 

 

「来たぞ!敵戦車だ!」

 

 

 

戦車部隊と歩兵部隊が一斉に突撃を開始した。

 

 

 

 

「射撃用意!いいか?敵戦車が罠に掛かったら撃つんだぞ!」

 

 

ムー兵が一斉に銃を構える。

30両の帝国軍戦車隊は、歩兵の盾になりながらゆっくりと突き進む。

 

 

「よし!もう直ぐだ!」

 

 

 

ムー軍の指揮官が罠が張り巡らしてある地点の目印に敵が何も気付かず向かってくる様子を見て、興奮する。

 

 

 

「頼む……気付いてくれるなよ…」

 

 

そう祈りつつ敵を凝視する。

そして、敵戦車が目印を通過した瞬間、地面が突然陥没し、戦車は深い大穴へと落ち込んだ。

 

 

 

「やめろ!押すな!押すな!」

 

「止まれ!止まるんだ!」

 

 

 

全速力を出していた他の戦車は急停止出来ず、前に居た戦車に激突し次々と穴へと落ちていく。

 

 

「クソ!対戦車壕だ!」

 

「なんて深さだ!」

 

「助けてくれ!」

 

 

 

穴に落ちた戦車の乗員は慌てた様子で戦車から這い出して、壕の上に居た歩兵に助けを求める。

 

 

 

「撃てぇぇぇ!!!!」

 

 

 

控えていたムー軍による一斉攻撃が始まった。

丘の塹壕から始まった銃撃は、対戦車壕に居た戦車兵と、塹壕に近づいていた歩兵部隊の兵士を撃ち抜いていく。

 

 

「よし!砲撃開始っ!!」

 

 

同時に、丘の上に居た砲兵部隊の臼砲と野砲、丘の中腹の迫撃砲部隊による砲撃も開始され、帝国軍の頭上に砲弾が降り注ぎ、爆発で帝国兵ごと地面を耕していく。

 

 

「うわぁ!」

 

「クソ!応戦だ、応戦!!進めぇぇ!!」

 

 

帝国軍も負けじと歩兵銃に銃剣を装着し、銃撃をしながらアルーの丘へ向けて走り出す。

 

 

「第8帝国万歳ぃぃ!!」

 

「皇帝陛下万歳ぃぃ!!」

 

 

帝国兵は喉が枯れる程の大声で叫びながら、走る速度を緩めない。だが突撃一辺倒な進撃の前に、帝国兵は次々と凶弾に倒れ、砲撃に吹き飛ばされながらも、その場にある岩に隠れたり、地面を匍匐前進しながら進み続ける。

 

 

「撃て!撃て!弾幕を絶やすな!」

 

 

ムー陸軍も向かってくる敵兵に対して銃撃を加え続ける。日本から輸入したブローニングM2重機関銃が削岩機のような重苦しい発射音を上げて帝国兵の体を粉砕し、M1919軽機関銃が弾幕を張り巡らし、ボルトアクション式歩兵銃が狙撃にて帝国兵を一人ずつ倒していく。

 

 

「グァァ!!」

 

「俺の腕がぁ!!腕がぁ!」

 

 

銃弾を受けて負傷した帝国兵は皆、腕や足などをもぎ取られたり、身体中に銃弾を受けて倒れていく。

 

 

 

「連隊長殿っ!弾幕が激しくて進めません!」

 

「クソ!砲兵は何をしてるんだ!」

 

 

後方では砲兵も砲撃を行っているが、機動力を重視した第4師団には重い臼砲や威力のある野砲が配備されておらず、機動力に優れ、人力で操作できる機動野砲しか配備されていないため、撃っても丘そのものには対したダメージは与えられない。

 

 

 

と、その時……

 

 

 

突然、帝国軍部隊が居る場所に強烈な爆発が起き、強烈な爆風が襲い掛かった。しかもそれは一つだけではなく、同時に複数の爆発が起きる。

 

 

「な、何なんだ?」

 

「おい!あれ!」

 

 

誰かが指差した方向を見ると、丘の真上には、目を疑うような2つの巨大な砲塔があった。その砲塔からは20メートルはあろうかという長い砲身が2本突き出ており、2基4門の砲口は真上を向いていた。

 

 

「なんてデカイ砲なんだ………」

 

 

これこそ、アルーに配備された火砲の中で最大を誇る大要塞砲である。

バルチスタ沖海戦で鹵獲されたヘラクレス級戦艦コルネフォロスから取り外された主砲塔を流用したその砲は、ここアルーの丘に2基運び込まれ、切り札的な存在となっていた。

 

 

 

「撃て!」

 

 

 

再び41㎝砲から榴弾が放たれ、丘の麓に居た第4師団の歩兵や戦車、更には後方に居た砲兵部隊をも粉々に吹き飛ばした。

 

 

「クソ!撤退だ!撤退せよ!」

 

「撤退っ!撤退っ!」

 

 

自分達の不利を悟った帝国軍の生き残りの兵士達は丘から離れていき、森の中へと消えていった。

 

 

「やったー!!!」

 

「やったぞ!!」

 

 

敵が撤退したのを見ていたムー兵は大喜びで、はしゃぎ回る。

 

 

「師団長、敵部隊は撤退しました!」

 

「うむ。これも作戦通りだな。取り敢えずは援軍到着までの時間は稼げたが、これからはもっと厳しい戦いになりそうだ。」

 

 

 

アルー第1次攻撃攻防戦はムーの圧倒的勝利で終わり、グラ・バルカス帝国陸軍第4師団は歩兵2個連隊、戦車1個連隊、砲兵2個連隊を失う大損害を受け一時的に森の中へと撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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