後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第9話

中央歴1639年4月11日 ギムの町

 

 

「撃てぇ!」

 

 

瀬戸少将の合図と同時に、30両の5式改から榴弾による一斉攻撃が開始され、迫ってくるロウリア軍との戦端が開かれた。

放たれた30発の榴弾は、ロウリア地上軍の前衛部隊に降り注ぎ、着弾と同時に爆発を起こし、ロウリア兵を吹き飛ばす。

 

 

「続いて第2射用意!撃てぇ!」

 

 

続けて放たれた砲撃。

爆風と衝撃波がロウリア兵を次々と吹き飛ばしていく。

 

 

「うわぁ!」

 

「な…何なんだこれは!」

 

「爆裂魔法だ!下がれ!下がれ!」

 

 

 

前衛のロウリア軍の指揮官は5式改の砲撃で、只事ではないと判断し一旦部隊を下がらせる。

 

 

「クソ!何処からの攻撃なんだ!?」

 

「どうしますか!?」

 

「魔信でワイバーン隊による上空援護を要請しろ!」

 

 

指揮官の命令により魔信で、後方に待機していたワイバーン100騎が出撃する。

 

 

 

一方で、戦車による砲撃指示を出していた瀬戸は無線で避難誘導の進捗状況について確認を取っていた。

 

 

「あとどれくらいで避難が終わりそうだ?」

 

『あと5分程です!』

 

「よし!各車に告ぐ!あと5分だ!あと5分で避難が完了する!それまで持ちこたえるぞ!」

 

『『『『『了解!!』』』』』

 

 

瀬戸の指示に、各戦車の乗員達は一層に士気をあげて砲撃に専念する。

 

 

「さて。そろそろ敵さんの航空支援が来る頃だ……ボチボチ隊を後退させるか。」

 

「少将っ!!前方の上空に敵の飛竜多数接近!!」

 

「来たかっ!各車、煙幕を展開し後退っ!!あともう少しで海軍の航空隊が到着する!」

 

 

 

敵地上部隊の目を一時的に奪うため各車両から煙幕発射装置より煙幕弾が発射され、辺りを白い煙が覆い尽くす。

 

 

「全車、砲撃しつつ後退!」

 

 

3速のバックギアを備えている5式改の後退速度は早い。

各5式改は砲撃しつつ、素早く後退していく。

 

 

「何なんだあの白い煙は?」

 

 

ようやく登場したロウリア軍のワイバーン隊100騎を率いる隊長は5式改が展開した煙幕に困惑する。

 

 

「隊長ぉ!あそこに妙な鉄の塊が!」

 

「何っ!」

 

 

部下からの声で下を見ると、巨大な鉄の塊が信じられない早さで後退しながら、鼻先から突き出てる細長い筒を味方の地上部隊に向けている。

 

 

「例の爆裂魔法の正体は奴等だ!全騎、奴等に火炎弾を浴びせろ!行くぞ!」

 

 

隊長騎を先頭にワイバーン隊およそ50騎が一斉に急降下を始める。

 

 

「喰らえ!」

 

 

ワイバーン50騎から同時に火炎弾が放たれ、5式改に降り注ぐ。元々、地上に展開する歩兵部隊を広範囲に焼き払うための火炎弾だが、発射された火炎弾のうちのいくつかが5式改に直撃し、燃え上がった後に動きを停めてしまった。

 

 

「見たかっ蛮族!これが火炎弾による一斉攻撃だ!」

 

「ワイバーンは無敵だ!」

 

「やったぞ!奴等は火達磨だ!」

 

 

攻撃が成功して喜ぶワイバーン隊の竜騎士達だが、攻撃を受けて燃え上がっている5式改は、何事も無かったかのようにまた動き始めた。

 

 

「何だ?効いてないのか?」

 

「そんな馬鹿な……あれほどの火炎弾を喰らって何故生きてるっ!?」

 

 

竜騎士達は信じられないと言った表情で驚く。

 

 

 

 

「ふぅ……危なかったな……」

 

 

瀬戸は車内で安心と言わんばかりに息を吐く。

 

 

「各員、損傷を報告せよ!」

 

『こちら1号車、異常なし!』

 

『こちら7号車、異常なし!』

 

『こちら16号車、異常なし!』

 

 

被弾した車両からは特に大きな損傷を受けたと言う報告は入らず、表面の塗装が焼け落ちた程度の損傷で済んだようである。

 

 

「防火塗料が役に立ったな。」

 

 

実は、鍬十稲派遣軍の各戦車や装甲車、トラックには防火用に開発された防火塗料が塗布されており、これは火に触れる事により塗料が熱を吸収し炎と共に燃え尽きる一種のリアクティブア-マ-となっている。

 

元々クワ・トイネ軍から提供されたワイバーンに関する資料を元に陸軍の戦術研究部が、民間用に開発されていた防火塗料を軍用に改良した物が元となっている。

各戦車はこの塗料を4重にして塗り固めており、複数回の対火炎攻撃用のために備えていたが、その効果は先程のワイバーンによる火炎攻撃の際に遺憾なく発揮したことが証明された。

 

 

「また来たか……」

 

 

ふと上を見上げると、再びワイバーンがこちらに向かって急降下を仕掛けてくる。

今度は確実に敵に攻撃を仕掛けるため、先程よりも低い高度で火炎攻撃を見舞った。

 

 

「やったか!」

 

 

隊長は再び下に目をやるが、またもや防火塗料に防がれ無事な様子の5式改の姿があった。

 

 

「何故だ!何故アレは無事なんだ!何発も火炎弾を喰らってる筈だぞ!」

 

 

竜騎士達は5式改の異様なタフさに驚きを隠せなかった。

そんな中、竜騎士達に向かって刺客が迫ってきていた。

 

 

「隊長!東の空をっ!」

 

「何だ?」

 

 

東の空を見ると、何かが接近してきていた。

 

 

「クワ・トイネのワイバーンか?」

 

 

と一瞬だけそう思った彼であるが瞬間的に何かが違う事を感じた。

彼にとっては聞き慣れない音を響かせ翼を羽ばたかせず飛んでいるソレは彼らに一瞬だけ悩む時間を与える。

 

よく見れば、左右に真っ直ぐ延びている翼を持つソレの後ろを、真ん中から翼が折れ曲がっているソレが続いてくる。信じられない速度で徐々に近付いてくるソレに、彼等は本能的に敵である事を知る。

 

 

 

「全員に告ぐ!アレは敵だ!奴等を叩き落とせ!行くぞ!」

 

 

 

ワイバーン隊100騎は己のプライドに賭けて、ダイダル基地からやって来た海軍航空隊の『電征Ⅱ型』、『電征Ⅲ型』に向かって勝負を挑んだ。

 

 

 

後に「ギム空中戦」と名付けられる戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

続く




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