後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第87話

第1次アルー攻防戦に勝利したムー軍は、僅かな損害を負ったが直ぐ様態勢を立て直し、グラ・バルカス軍の再侵攻に備え準備を進めていた。

 

 

「おぉ~………あれが日本軍か。」

 

 

マイカルからキールセキを経由してやって来た、日本陸軍夜豹師団が到着し、第1師団と共に陣地の再構築を行っていた。

丘の中腹には戦車隠匿用の塹壕が掘られ5式改と9式が配置に就き、砲塔部分のみが塹壕から出ている状態で砲を向けている。特に車高が5式改より遥かに低い9式は敵から見れば狙い辛く、殆ど見えないようになっている。

 

丘の後ろには砲兵部隊の155㎜榴弾砲が待機し、自走高射機関砲が空に睨みを効かし、塹壕には更に多くの兵員と武器が配置され、アルーの丘は更に堅固な要塞に変化していた。

 

 

「アーレイ司令官ですか?」

 

「はい。貴方は?」

 

「日本陸軍ムー派遣軍司令官の熊谷であります。」

 

「これは、失礼いたしました。」

 

 

二人は互いに自己紹介を済ませ、司令室で双方の軍の幹部を集めた会議を始める。

 

 

「成る程……敵は戦車を盾にして前進を。」

 

「はい。丘の麓にある対戦車壕とトラップのお陰で第1次攻撃は凌ぎましたが、敵が再びどんな手を使ってやって来るか分かりません。周辺に偵察に出ている偵察隊からの報告によれば、敵師団は北の森の中で態勢を整えつつあるとの事です。」

 

「となると、夜襲を仕掛けてくる可能性がありますな。」

 

「はい。何とか敵の監視を強化しつつ夜襲に備えてはいますが、今日の夜は新月ですから視界が全く効きません。我が軍には夜間戦闘の経験が少なすぎるので夜間戦闘は不利になる可能性が……」

 

「我が軍には最新の夜間装備があります。夜間はそれを活用すれは、少なくとも敵襲には備えられます。」

 

「分かりました。では日没に備えて準備しましょう。」

 

 

 

夕日が西の空に傾いていき、辺りが暗闇に包まれる。

夜豹師団の兵士は3脚を立ててカメラのレンズが付いた箱を取り付け、コードに繋がれた電源装置のスイッチを入れる。

 

 

「こんなので本当に見えるのか?」

 

 

ムー軍の兵士は夜豹師団が持ってきた新型の『暗視装置』を見て、疑問に満ちた表情を浮かべつつレンズを覗き込む。

 

 

 

「すごい……本当に見えるぞ!」

 

 

 

ムー軍の兵士達は交代で暗視装置を覗き込む。

 

 

 

「こんなに暗いのに本当によく見えるな。」

 

「便利なの持ってるな日本軍は……」

 

 

 

中腹の戦車壕でも9式戦車が、砲塔左脇の赤外線投光器を使ってアクティブ暗視装置による夜間警戒を始める。

夜豹師団と、暗視装置を借り受けたムー軍の兵士達は夜通しによる監視を始め夜襲に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、森に逃げ込んだ第8師団は………

 

 

「師団長、本当に上手く行くのでしょうか?」

 

「大丈夫だ。奴等も我々と同様に夜間戦闘には慣れていない筈だ。闇夜に紛れて忍び寄り、奇襲を掛ければ勝てる!」

 

 

ボーグはユグドでは実戦を重ねて昇進した叩き上げの軍人で、夜襲には敵は弱いと言うのも知っていた上で、アルーへ夜襲戦を仕掛けようとしていた。

 

 

「師団長閣下、準備完了しました!」

 

「よし!では作戦を始めよ!」

 

「はいっ!」

 

 

第8師団は隊を再編成し戦車部隊を除く、部隊は闇夜に紛れて音を立てないようゆっくりと森から移動を始める。

 

 

「いいか……音をなるべく立てるな。」

 

 

指揮官は声を押さえ指示を出す。

帝国兵は歩いて足音を抑えるためブーツの底に布やゴムを巻き、歩兵銃に装着している銃剣やボルトの防塵カバーも振動で音が立たないよう取り外している。

 

 

「止まれ………」

 

 

森の入り口の手前まで来ると、その場で伏せて匍匐前進で前進を始める。

 

 

「よし……もう直ぐだ……」

 

 

何とか丘の麓まで到達し、バリケードとして張り巡らされた有刺鉄線を切断し、その隙間から丘に向かって続く斜面へと差し掛かる。

 

 

その時……回りが明るい光に包まれた。

 

 

「何だ?」

 

 

 

上を見ると、白い光弾が浮いていた。

 

 

「照明弾…………いかん!」

 

 

指揮官はその場で立ちあがり、腰に提げていたサーベルを抜いた。

 

 

「全員突撃ぃぃ!!!」

 

 

その合図と共に夜襲部隊全員が一斉に立ちあがり、歩兵銃に銃剣を装着し、突撃を開始した。

だが、それと同時に彼らに向けて待機していた9式の投光器から強烈な光が照射され、砲撃と銃撃の嵐が始まった。

 

 

 

「うわぁ!」

 

「クソ!眩しすぎて見えない!」

 

 

夜間に慣れた目には投光器の光は強烈過ぎ、一時的に視界が奪われた帝国兵はその場で目を押さえて足が止まり、銃撃の前に倒れる。

 

 

「怯むなぁ!進め!進め!進め!」

 

 

指揮官は尚もサーベルを振って突撃の指示を出す。

帝国兵達は銃撃を潜り抜けながら、昼間の砲撃で空いた地面の穴へと飛びこみ銃撃を避けつつ、閃光弾の光を頼りに応戦する。

 

 

「よし!各員は穴から穴へと移りながら前進!!」

 

 

指示通り、帝国兵達は穴から穴へと飛びこみ着実に丘との距離を縮めていく。

 

 

「行ける!これなら行けるぞ!」

 

 

巡ってきた幸運に誰もがそう思った。だがその幸運も長くは続かなかった。

 

 

 

戦車部隊の約200メートル手前まで差し掛かった瞬間、丘の裏側にある砲兵部隊からの砲撃が開始され、155㎜榴弾は帝国兵達を次々と吹き飛ばし、銃撃も苛烈となり、前進速度が徐々に落ちていく。

勇敢な兵士の何十人かが穴から飛び出して前にある穴へ向かって走りだそうするが、穴から出た瞬間に蜂の巣され、倒れる。

 

 

「連隊長殿!これでは前進は不可能です!どうしますか!!」

 

「無線機を貸せ!」

 

 

指揮官は小型無線機を使って師団本部に連絡を入れる。

 

 

「こちら夜襲部隊っ!!現在我が隊は敵の苛烈な攻撃に遭い前進は非常に困難です!師団長閣下、直ちに撤退を進言します!」

 

『分かった。今から戦車部隊を援護に向かわせる!』

 

「了解!…………各員、撤退用意!!戦車部隊が撤退援護に到着するまでは何とか耐えろ!」

 

 

 

全員はその場で、戦車部隊が到着するまで穴の中で姿勢を低くし、ひたすら耐える。

 

 

 

「連隊長殿ぉ!戦車です!味方の戦車部隊です!」

 

「ようやく来たか!撤退だ!撤退っ!」

 

 

穴に居た帝国兵は我先にと穴から飛び出して、後方に向かって走りだす。無論背中を見せる彼らには容赦なく機関銃攻撃が加えられ、援護に来た戦車にたどり着けるまでには兵の数は大幅に減っていた。

到着した戦車は歩兵の盾となりながら、目の前の9式と5式改に砲撃を行う。

 

 

 

「何だあの戦車は!車高が低すぎて狙いがつけられん!」

 

 

地形を生かして敵の砲撃を避けるコンセプトで作られた9式は元になった74式と同様に、低い車高を生かして帝国軍戦車の砲の死角となる下方に位置し砲撃を避ける事が出来ていた。

 

 

『各車、任意の目標に砲撃開始っ!撃て!』

 

 

指揮車からの命令により、9式は実戦では初となる対戦車戦闘を開始し、105㎜戦車砲による砲撃を開始した。

 

 

「敵戦車、砲げ………」

 

 

放たれた105㎜対戦車榴弾は、帝国軍戦車の前面装甲を紙のように貫き、車内にある弾薬庫に達すると、瞬時に引火し、乗員共々粉々に破壊していく。

 

 

『4号車被弾っ!』

 

『8号車やられ…………』

 

『こちら12号車!9号と7号が……』

 

 

 

暗視装置に加えて、最新式の弾道計算機とレーザー測距儀を組み合わせた火器管制装置により、9式は昼間でも夜間でも高い命中率を誇る。

 

 

「嘘だろ!最強の我が軍の戦車が……」

 

 

戦車部隊の指揮官は、9式の砲撃で淡々と破壊されていく自軍の戦車を見て愕然とする。

 

 

「クソ!撃ちまくれ!」

 

 

帝国軍戦車隊も応戦するが、いかせん相手が死角に居るため照準ができず、放たれた47㎜砲弾は空しく外れ、御返しとばかりに撃破される。

 

 

「 ………クソ!潮時か?」

 

 

既に夜襲部隊は後方に下がったため、役目を終えたと判断した戦車隊指揮官は後退を指示し、一斉に後退を始めていく。

 

 

「急げ!!早くしろ!」

 

 

後退していく戦車にも、何の躊躇もなく砲撃が加えられ、戦車隊はその数を淡々と減らされていく。

 

 

「グァァァ!!」

 

 

そして、1発の105㎜弾が指揮官が乗っていた指揮戦車に命中し、指揮官の身体ごと粉々に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

この夜戦において、夜襲部隊は僅かな生き残りのみとなり実質壊滅、援護に向かった戦車連隊も指揮官を含め大損害を被り、ボーグの企てはまたもや失敗に終わった。

 

 

 

 

 

続く




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