後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第88話

夜襲を凌いだアルーの丘に朝日が昇る。夜間の警戒配置についていた両軍の兵達は、日中の兵士と交代し眠りに就く。

その最中、丘の麓や中腹の斜面では、工兵隊の重機や工兵が昨夜の攻撃で開いた穴を埋める作業を行っている

 

 

「うわぁ……こりゃ酷いですね。」

 

 

回りには帝国兵の死体や爆発で吹き飛ばされた体のパーツが散乱し、悪臭も漂っている。

衛生部隊は、遺体を一ヶ所に纏めて身元を特定できる物と武器を回収し、1体ずつ丁重に葬っていく。

 

 

「ここにある遺体は9千近く、爆風で吹き飛んで原型が残っていないのと、森の中でトラップと猛獣に襲われて死んだ者を含めると………1個師団に所属する半数以上の兵士が失われた計算になります。」

 

 

 

司令部で報告を受けた熊谷とアーレイの表情は重かった。

 

 

「分かってはいるつもりですが、やはり敵を殺すのは気持ちのいい物ではありませんな。」

 

「えぇ。彼らとて悪魔でもなければ、化け物でもない。我々と同じ人間だという事を実感させられます。」

 

 

 

二人とも、師団規模の軍団を率いる者として戦争の残酷さは理解している。

無論それはこの場に居るムー軍の兵士や夜豹師団の兵士達も理解している。

 

 

「ですが仕掛けてきたのは向こうです。我が国に土足で踏み入ってきた以上は追い返すのが筋です。」

 

「それは理解しています。」

 

 

 

二人がそんな会話をしている中、森の中に居た第4師団は負傷者の手当てや部隊の再編成が行われ、ボーグも指揮車の無線機でバルクルス基地のガオグゲルに報告を入れていた。

 

 

「……以上が、先の戦闘の結果です。」

 

『…………ボーグ君、君にこの作戦を任せたのは第4師団が精鋭であるからこそだったのだよ。どうやら期待外れのようだな。』

 

「次こそは……!次こそはアルーを陥落してご覧に…」

 

『言い訳は良い!君は本日を以て、第4師団長の任を解く。直ちに基地へと帰還し、今後の処分を待て。』

 

「………り、了解。」

 

 

無線が切られると、ボーグは全身の力が抜ける脱力感に見舞われる。側に居た副官が、そんな様子を見せる彼に気遣って声を掛ける。

 

 

「師団長閣下……」

 

「いや……もう私は師団長ではない。ただの一兵卒に逆戻りだ………基地に戻れば私は本国へ戻り、法廷で重罪となるだろう。」

 

「そんな!師団長閣下は………」

 

「気休めは止してくれ。大事な部下を易々と死なせてしまうような作戦や指揮しか執れない愚かな将に誰もついてはこない。」

 

 

ボーグはそこから一時間近く頬杖をつき、外の空気を吸うため指揮車から出る。

 

 

「!?」

 

 

彼の目の前には、第4師団に所属する部隊の指揮官や兵士達が整列していた。

 

 

 

「師団長閣下!我が第4師団各隊は出撃準備を整えております!ご命令あればいつでも出撃は可能です!」

 

「私はもう貴様らの指揮は……」

 

「いえ!私たちにとってはボーグ閣下が師団長であります!これまで閣下の指揮の基、帝国軍人として戦ってこれた事を誇りに思います!」

 

 

 

歩兵連隊長の言葉に、ボーグはその場を見回すと、その場に居た全ての将兵達の顔が死への覚悟と決意に満ち溢れている。

 

 

「師団長閣下!ご命令をお願いします!どうか我々に敵に一矢報いるためのチャンスを!」

 

「閣下!」

 

「閣下!」

 

 

ボーグはこれ程までに部下から慕われていたのかと思い、目尻が熱くなる。

 

 

「貴様ら……本当に良いのだな?」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

全員が一斉に歩兵銃を片手に持ち上げ、捧げ銃の姿勢を取る。

 

 

 

「よし!では第4師団長として最後の命令を下す!全部隊は直ちに総攻撃に移る!奴等に帝国軍人魂を見せてやるのだ!!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

 

 

ガオグゲルの命令を無視した、第4師団は最後の望みを掛けてアルーへの本格的な総攻撃を決意し、それぞれ北、北西、北東に部隊を3分し、3方向からアルーを攻撃する作戦を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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