後世日本国召喚 新世界大戦録   作:明日をユメミル

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第89話

ムー軍と夜豹師団の兵士達は、グラ・バルカス帝国軍第4師団の総攻撃に備えて慌てて準備を進めていた。

 

 

「急げ!急げ!急げ!今度の敵さんは本気だぞ!気合いをいれろ!」

 

 

各員は弾薬の補充、戦車は燃料の補充も済ませて各々の配置に就き戦闘態勢を整えつつあった。

 

 

 

「司令、敵部隊の詳細です。」

 

 

熊谷とアーレイは偵察隊から届いた敵情報に目を通す。

 

 

 

「歩兵5個連隊、戦車4個連隊、砲兵多数か………敵はいよいよ総攻撃を掛けてきましたな。」

 

「しかし先の戦闘で半分程減らしたとはいえ、未だ敵は1万を越えています………これを防ぎきるのは至難の業です。」

 

「旭日艦隊に近接航空支援を要請する必要がありますな。」

 

「ならばリュウセイ基地にも要塞砲の着弾観測機を飛ばすように要請しましょう。」

 

 

 

熊谷とアーレイは直ちに旭日艦隊とリュウセイ基地に近接航空支援準備の要請文を出し、旭日艦隊の空母では航空支援のための航空機の発進準備が整えられ、リュウセイ基地からは要塞砲の着弾観測機が飛び立ち、第4師団を迎え撃つ準備態勢を整える。

 

 

「敵部隊の動きはどうなってる?」

 

「はい。敵部隊は全隊を3個中隊に分け、それぞれ北・北東・北西から向かってきています。」

 

「進軍速度は?」

 

「北から接近してくる部隊が最初に接触してくるものと思われます。」

 

「……………となると、まず最初に接触してくる部隊は囮で、我々がその部隊に釘付けになっている隙を突いて、残りの北西と北東の部隊が手薄となっている要塞の左右を挟撃する。」

 

「敵の本命は左右の部隊なのでしょうか?」

 

「恐らくはな…………アーレイ司令、先ずは北東と北西の部隊を叩きましょう。」

 

「相分かった。では要塞砲を使いましょう。」

 

 

 

アーレイ司令は直ちに要塞砲に砲撃命令を入れる。

丘の上にある2基の要塞砲が左右に向き、砲兵員が弾薬庫から榴弾と装薬を砲身に装填する。

既に、リュウセイ基地から到着した着弾観測の複座型マリンに乗っている観測員が、地上に居る別の観測員と連携し諸元の報告を入れる。

 

 

「司令、砲撃準備完了しました!」

 

「よし。では砲撃を開始せよ。」

 

「はっ!」

 

 

アーレイ司令の砲撃開始は直ちに伝達され、砲撃担当員が要塞砲の引き金を引くと、腹の奥にまで響くような轟音と共に2基4門による一斉砲撃が開始された。

 

 

 

 

 

その頃、北西からアルーへと近付きつつあった部隊は……

 

 

「良いか?静かに進め……」

 

 

2個連隊規模の歩兵部隊は忍び足で、戦車もエンジン出力を絞り音を出さないよう前進していた。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

その時、真上から何かが落ちてくるような音が聞こえてくる。

 

 

「なん……」

 

 

直後、辺りが突然爆ぜた。

大量の土が盛り上がり、衝撃波が密集していた歩兵達を一度に大量に吹き飛ばし、土と共に吹き飛ばされた人間の手足が降り注ぐ。

 

 

「砲撃か…!気づかれていたのか!?」

 

「何処からの砲撃なんだ!」

 

 

一瞬で部隊はパニックとなり、何とか態勢を整えようとするが、そんな暇もなく、要塞砲から再び斉射が行われ、部隊に降り注いだ。

 

 

「これでは何も出来ないまま壊滅するぞ!通信兵!通信兵!」

 

 

指揮官が通信兵を呼び出すが、通信兵は既に砲撃に吹き飛ばされて事切れており、通信機も破壊され使い物にならなくなっていた。

 

 

「何て事だ………」

 

「連隊長殿!このままここに居れば危険です!後退する事を進言します!」

 

「いや!後退すれば敵の砲撃の照準に入って余計危険だ!このまま丘へ向けて前進し、砲撃の死角に入る方がいい。仕方ないがこのまま前進するぞ!」

 

「はいっ!全員進め!」

 

 

 

 

中隊員は全速力で駆け出し、何とか敵の砲撃の死角に入るため、丘へと接近する。

だがその間にも要塞砲に加えて榴弾砲による砲撃が続けられ、歩兵や後方の戦車隊にも被害が拡大していく。

 

 

だが何とか、砲撃の死角となる丘の麓までたどり着いた隊は被害を確認する。

 

 

 

「クソ!……1個連隊が壊滅か……」

 

「連隊長殿!戦車隊も先の砲撃で甚大な被害を被りました!我が隊の残存車両は10両のみ!」

 

「8割やられたか………だがここは守りが手薄だ。残りの2割で敵の目を引き付けるぞ!匍匐前進で進め!」

 

 

 

隊は匍匐で前進を開始した。

だが、彼らに悲劇が襲い掛かった。

 

 

「グァっ!!」

 

 

突然、前方から銃撃が始まった。

 

 

「何だ!」

 

「連隊長殿!あれを!」

 

 

指揮官の部下が前方を指差した。

すると、叢を掻き分けるように、数台の戦車が姿を表した。

 

 

「あれは……我が軍の戦車ではないか!!」

 

 

 

現れた戦車は砲塔横と車体前面に描かれたムーの国籍表示を除けば、完全に帝国軍戦車だった。

ムー陸軍第1師団は、最初の攻防戦で対戦車壕に擱座して放棄された帝国軍戦車を鹵獲回収、修理して自軍の戦力として即席の戦車隊を編成していたのであった。

 

 

「奴等、我々の戦車を鹵獲して使ってるのか!戦車には戦車だ! 戦車隊前へ!」

 

 

後方に居た味方の戦車隊が前進し、鹵獲戦車に向けて砲撃を行うが、前面装甲に命中した47㎜砲は呆気なく弾かれてしまった。

 

 

「何だと!何故砲撃が効かんっ!!」

 

 

ムーは本家の戦車部隊との対戦車戦闘が起きた場合に備えて、鹵獲戦車の前面に厚さ25㎜の装甲板を溶接し、その上に土嚢を敷き詰めて簡易的な防御強化を行っていた。

 

 

『よし!このまま砲撃しながら前進っ!』

 

 

ムー陸軍の戦車兵達は即席の訓練しか受けていないが、何とか訓練通りに戦車を操り、帝国軍戦車の砲撃に怯まず、砲撃を続け、次々と帝国軍戦車を破壊していく。

 

 

「クソ!戦車隊は何をやっている!」

 

 

兵士達も歩兵銃や機関銃を使って応戦するが、鹵獲戦車の47㎜砲と57㎜砲による砲撃と、機銃掃射で全て弾かれ、押されていく。

 

 

「連隊長殿!戦車隊が全滅しました!」

 

「クソ!かくなるうえは…………」

 

 

指揮官はサーベルを引き抜き、全員はそれに合わせるように歩兵銃に銃剣を装着する。

 

 

 

「突撃ぃぃぃ!!」

 

 

 

隊は一斉に突撃を開始したが、鹵獲戦車隊の後方から現れたムー陸軍の歩兵隊による機関銃と歩兵銃、戦車砲による攻撃で次々と倒されていく。

 

 

 

「クソ!クソ!クソ!クソォォォォォォ!!!」

 

 

 

指揮官は砲撃と銃撃に晒されながら意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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