オタハイトを出港したラ・ナガトの艦橋でミニラルは、現状の確認を行っていた。
「首都防衛艦隊の現状はどうだ?」
「敵航空機による猛攻の中、何とか踏ん張っているようですが、押されています。」
「改装したとはいえ、速度を上げて、対空火器を増設した程度では限界か………本艦はあとどれくらいで現場海域に到着できる?」
「あと30分程です。」
「よし!機関出力最大っ!両舷最大戦速っ!」
日本製のガスタービンエンジンが唸りをあげ、軟性ゴム皮膜で覆われ水流抵抗が極限まで低減されたラ・ナガトは、戦艦とは思えない加速で一気に速力を上げる。
「おっと!」
「凄い加速だな………これがガスタービンエンジンの力か……」
ミニラル達がラ・ナガトの速力に眼を丸くする中、第1艦橋上の測距儀に設置された日本製のレーダーが、周辺の空域と海域を探索する。
『こちらレーダー室!対空、対水上目標を探知!』
「方位と距離は?」
『方位右15°、距離50000。』
「水上と対空目標の数は?」
『水上15隻、対空目標40機。水上目標は友軍艦と思われます。』
ミニラルは水上目標の数に違和感を感じた。
「確か、出撃した首都防衛艦隊は旗艦のラ・カサミを含めて22隻だったな? 7隻喰われたか……」
「状況は最悪のようだ。よし!現場海域に飛び込むと同時に対空戦闘だ。」
「了解!対空戦闘配置っ!」
『対空戦闘配置につけ!!!』
戦闘配置のラッパが鳴り響くと、全乗員が配置に就き、主砲塔と副砲には砲術員、対空砲と機銃へ射撃員が配置に就く。
測距儀と射撃統制装置の動きに対空砲と機銃が連動し、動作確認が行われ準備が整う。
『対空戦闘用意よし!』
「了解……艦長、各部配置完了。」
「よし。このまま現場海域に向けて突入っ!」
10分後、ラ・ナガトは現場海域に到着した。
『左35°、敵航空機30機、突っ込んでくる!』
「主砲対空弾、砲撃はじめ!」
合図と同時に第1主砲と第2主砲が火を吹き、4発の対空砲弾が撃ち出され、接近してくる敵航空機群の直前で近接信管が作動すると同時に炸裂し、封入されていた大量のゴムの塊がマグネシウムにより着火され、広範囲に飛び散る。
『初弾、敵航空機10機撃墜を確認っ!残り20機、急速接近っ!』
「電波妨害弾発射っ!」
敵機が対空砲と機銃の射程距離に入ると同時に、電波妨害弾が発射され大量のアルミ箔がばら蒔かれる。
「各対空砲、攻撃開始!」
射撃統制装置による自動照準で対空砲と機銃が収められた砲塔が動きだし、射撃を開始する。
「いいか!高速の敵機を追おうとするな!各砲は受け持ちのエリアに徹底的な弾幕を張るんだ!」
射撃統制装置を預かる砲員達は、日本で学んだ対空迎撃戦術に伴って、各砲が受け持つエリアに向けて弾幕を張るように照準する。
『ちくしょう!!弾幕が激しすぎて近付けない!』
敵艦攻は魚雷を投下しようと左右から近づいた瞬間に、弾幕攻撃に晒され次々と撃墜されていくか、魚雷を捨てて回避する。
『左右が駄目なら!』
雷撃を諦めて、死角となる真上からの急降下攻撃を仕掛ける。
『敵機直上より降下!』
「よし来た!例の回避戦術をやるぞ。見張り員、敵機の爆弾倉の開閉の瞬間を見逃すなよ!」
『了解!』
この日のために練りに練った戦術を試すため、ミニラルは覚悟を決める。
『敵機直上、突っ込んできます!』
「取り舵一杯っ!バウスラスター全開っ!」
ミニラルの号令で操舵手が勢いよく舵輪を回し、隣に居た航海員がスラスターレバーを操作すると、ラ・ナガトは左に向けてスライドを始めた。
『何だとっ!?』
『敵艦が横に!!』
艦攻2機のパイロットは慌てて操縦桿を手前に引いて、引き起こしをしようとするが、爆弾を抱えたままだったため重量によって機体は失速し、3機とも海面に激突した。
『敵機海面に墜落っ!!』
「針路戻せ!」
だが矢継早に見張りから報告が入る。
『右上方より敵機2機接近っ!!』
「取り舵一杯!」
右上方から接近してきた2機に体しても取り舵を取り、投下された爆弾を見事に回避した。
『敵弾、左舷海面に着弾っ!続いて後方上空より4機接近っ!急降下っ!』
「そう来たか………なら!!」
ミニラルは艦内用通信マイクを手に取る。
「後部ロケット砲、準備いいかっ!」
『いつでもどうぞ!!』
すると、ラ・ナガトの艦尾に装備されていた箱形の28連装ロケット発射装置8基のうち2基が接近してくる敵機に向けられる。
「撃てぇ!」
瞬間、2基の発射装置から56発のロケット弾による一斉射撃が開始され、向かってきた4機を木端微塵に吹き飛ばした。
「やったぞ!」
「スゲェ!!機銃より当たるぞ!!」
乗員達はミニラルの考えた戦術が正しかったと実証され、歓喜に沸いた。
「やはり装備したかいがありましたな。」
「うむ!このラ・ナガトには8門を装備したからな。」
ミニラルが編み出したというこの回避戦術は、重たい爆弾と魚雷を装備した敵攻撃機や雷撃機が爆弾と魚雷を投下しようと爆弾倉が開いた瞬間を狙って艦を回避させるものである。
これがあれば、敵攻撃機は爆弾を投下直前に回避されたら、機体を引き起さなければならない必要に迫られるが、重い爆弾や魚雷を抱えたままだと引き起こしができないため爆弾を捨ててから引き起こしをしなければない、
彼は以前、バルチスタ沖海戦にて運よく鹵獲されたリゲル型雷撃機やシリウス型爆撃機の構造を見て、ラ・ナガトが就役するまでに徹夜で考え出したのである。
「この戦術なら、どの航空機が近寄ろうが攻撃はさせん。確かに航空機は戦艦や軍艦にとっては脅威だが、それは爆弾や魚雷があってこそだ。それされ避ければ、さして脅威にはならん。」
「なるほど……さすがは艦長です!」
そうしているうちに敵機は、左上方からやって来る。
「見ろ……あの敵機は、本艦が取り舵ばっかりするから、今度は面舵を取ると思っているらしい。どうやらツキは我々にありそうだ!」
その後もミニラルは、回避戦術を駆使し雷撃機と艦攻を全て撃墜し、残ったアンタレスを追い返し首都防衛艦隊の窮地を救う事に成功した。
「予想より被害が大きいな。」
首都防衛艦隊の被害は、戦艦2、装甲巡洋艦5の7隻沈没と、残りの艦も被害甚大で、まともなのは旗艦のラ・カサミを含めて数隻の巡洋艦しか残っていない。
「接近してくる敵艦隊に対抗できるのは本艦のみという事になるな。」
ミニラルは首都防衛艦隊は戦闘不能と判断し、艦隊司令官のブレンダルの許可を得て、単艦でイシュタム艦隊に挑む事を決意する
続く
今回のラ・ナガトの戦闘シーンは、『不沈戦艦紀伊』が元ネタです。
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