オタハイト攻撃の任務を受けた、オスニエル率いるイシュタム分艦隊、は逃げるように帰ってきたアンタレス隊のパイロット達からの報告に、オスニエルは手にしていた無線機のマイクを思いきり投げつける。
「艦攻も艦爆も失い、逃げ帰ってきた……」
メイサの艦橋員達は、オスニエルの声から彼が怒り狂っている事を悟り、視線を合わせないようにする。
「レーダー室!敵艦隊の様子はどうなのですかっ!!」
『はい……つい数分前より本艦前方の海域と空域が広範囲に渡ってノイズが走っています。』
「ノイズ? 原因は?」
『現時点では不明ですが、恐らくこの世界特有の電離層による問題かと。』
「こんな大事な時に……まぁ敵がどんな戦力を投入してこようとイシュタムに負けは有り得ません。このまま前進です。」
メイサ以下の巡洋艦と駆逐艦は速力を維持しながら、突き進む。
この時、イシュタム各艦のレーダーがムー艦隊を捉えられなかったのは、ラ・ナガトによるある秘策によるものだった。
時系列はやや遡る。
「1号機、カタパルト固定よし!」
ラ・ナガトの第3、第4砲塔の間にある飛行甲板では、2基あるカタパルトに、2機の複葉水上機が固定作業と発進準備が行われていた。
「射出用意よし!」
「射出用意………今っ!」
カタパルトから打ち出された、複座型マリンを水上機に改造したシーマリン2機は、ラ・ナガト前方、高度200メートルに位置すると、突然大量のアルミ箔がばら蒔かれる。
海風に乗ったアルミ箔は、数分でラ・ナガトを覆い尽くすように広がり、回りは幻想的な風景に早変わりした。
「艦長、これで敵の目を誤魔化せますかね?」
「あぁ。これぞ名付けて千里眼封じだ。」
アルミ箔はレーダー電波を乱反射する特性がある。それを日本から得た知識で知っていたミニラルはそれを利用し、敵のレーダーから身を隠すと同時に撹乱する作戦を取り、それは見事に成功した。
時系列は再び戻る。
ラ・ナガトのレーダーが遂にイシュタム分艦隊を捉え、ミニラルは覚悟を決める。
「いよいよだな……」
「はい。」
「この1戦にムーの命運が掛かっている。この戦闘、何としても勝たなければ………無線室、敵艦の無線の周波数は割れているか?」
『はい。直ぐにでも繋げれます。』
「よし、繋いでくれ………では、敵を煽ってやるか。」
ミニラルは無線マイクを手に取り、電源ボタンを押し込むと、相手に話し掛ける。
「こちらムー国統括海軍所属、戦艦"ラ・カサミ"。接近してくる敵艦、応答せよ。」
数秒の沈黙の後、返答が返ってきた。
『こちらはグラ・バルカス帝国海軍第52地方隊イシュタム、旗艦メイサ艦長のオスニエルです。わざわざ自分から無線交信を仕掛けてくるなんて自殺志願者ですか?』
「いやいや。我々は自殺を志願しに来た訳ではない。わざわざ貴艦隊に位置を知られるのを覚悟で無線交信を仕掛けたのは、貴艦隊に警告を送るためだ。」
『警告? 警告されるのはそちらの間違いでは?』
「いや間違いではない。現在本艦は貴艦隊……イシュタムを既に補足している。こちらには充分に迎撃できる戦力がある。それも今、オスニエル艦長が乗り込んでいるオリオン級戦艦をも簡単に葬る事ができる代物だ。」
『笑わせないでもらえますかね。貴国のラ・カサミ級戦艦はオリオン級に比べれば紙より脆い……つまりミニラル艦長が乗り込んでいるラ・カサミでは我々には勝てないのですよ。』
オスニエルはミニラル達がラ・カサミ級戦艦に乗っていると完全に信じ込んでいる。それを聞いたミニラルは口を吊り上げて微笑む。
「そんな事を言っていいのかな?後悔する事になるぞ。」
『後悔するのはそちらですよ。本来ならイシュタム全艦を以て叩きのめしてあげる所ですが、我々に対して強気になれる貴方達の意気に免じて、私が乗り込むメイサが単艦で相手をしてあげましょう。』
「それは光栄ですな。では一戦交える事を楽しみにしています。」
ミニラルは無線を切る。
「敵を引摺り出す事に成功した。作戦通りだ。」
「敵は本当に1艦で来ますかね?」
「来るさ……あのオスニエルと言う人物の性格を考えれば必ず一人で来る。」
そこへレーダー室から報告が入った。
『敵艦隊より、大型艦が接近っ!』
「予想通りだ。では、ムー海軍始まって以来の、戦艦同士の艦隊戦に行こう。」
ラ・ナガトは速度を落とし、ラ・カサミの最大戦速と同じ速度で向かってくるメイサに向かって突き進む。
続く
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