『男を堕とすには胃袋を掴む』。
在り来りな言葉だが、私にとってこの言葉はある種の思い出深い格言となっている。私が思った言葉とは多少何処と無く違うが、これは確かに成程と理解出来る。
『男は母性に弱い』。
母性、つまり包容力。1種の癒し、心の片隅に潜む逆らえない何か。言っちゃえばパイ乙。多少のふくよかな身体、甘えさせてくれる第2者。
男はこれがあればほぼ間違いなく心を許す。心惹かれる。
同級生の男子が、胸が大きい女子に突っかかって行くのは、そこにふくよかなものがあるから。理想郷が見えるからである。
中学生となれば2次元に定着し始めるものが出てくるが、どうしても異性を視線の中に入れ、その中で思春期特有のピンクピンクした妄想劇を頭の中で喜劇のように幕を上げているのだろう。
私自身も見られる側であるので辞めて欲しい気持ちはある。というかその妄想劇に断固拒否したい。
が、やはり相手はふと目線が言ってしまう思春期という耐え難い時期の人達。相手の気持ちに余裕を持てる筈は無いと、私の幼馴染は言う。じゃあ貴方はどうなの?って聞くと、いや別にと素っ気なく返してくる。
そりゃ彼も男である以上ピンクピンクした出来事を妄想して何時か現実にしたいと思っているかもしれないが私としては理解の意志を持ちたいがやはり異性の壁は越えられないかと言って完全に否定はしたくないし肯定もしたくは無いやはり異性という越えられないものがある限り私達は苦難していくのだろうと思いながらもふと隣をチラ見してみる彼はいつもの如く料理雑誌を読んでそこに何かを書き込んでいる私はいつも思うがほんとに彼は異性に興味があるのだろうか彼は暇さえあれば包丁の柄かフライパンか菜箸かボウルか食材を持っているからもはやそれが彼であると認識していたが彼が料理の専門学校事以外にしているのを見たことが無い授業中も料理本を読んでいるしお昼休みも私の前で堂々と料理本を読んでるし帰る時はメモ帳に何かを毎日書いてるし私の剣道の稽古が休みの時は必ず呼んで料理の試食係として呼ばれし彼と料理以外の会話なんでしたことあったのだろうかとふと思うそりゃ年頃の男子異性の前で恥ずかしい事なんて言えないだろうが一時期ジビエ料理がどうとかで鳥の睾丸は美味いのかなんて聴いてきた時は思わず頬を叩きたくなった私は悪くないはずだしかもいきなりパソコンの前に連れていかれ鳥の睾丸の料理の解説を淡々と語って来て心がまるで黒ずんで行くようだったし鹿のな、ナニヅノを買ってきてどうこれ?って目の前に突き出してきた時は背筋が凍ったわまさか人生初のお、お、ォォグフンっを見たのがまさかの鹿のなんて一生忘れないわ………意外と大きかったかな……って何を言ってるの私は!!大体女にそんなもの見せないでよ!!私だって乙女なんだから!!例え他の男子と女子に最初は女だって分かられてなかった私だって乙女なんだから!!はぁ?私は女だ(怒)!!あーもぉーなんかいらいらしてきた!!この前なんかうずらを丸々買ってきて羽根ちぎって捌いてたのを横で見てたら内臓から虫が出てきて叫んだらめちゃくちゃ近付けて来たんだからあの男!!私があれだけ虫嫌いって知っておきながらあの仕打ち!!何よ!!私みたいな女が叫んじゃってごめんなさいね!!色気もない女で悪かったわね!!………えっ、お前は可愛い女だって?………っ、ふんっ。別に機嫌直ってないしそうやってご機嫌取りして来たって私は許さないから………えっ?好きな物食べさせてくれる?………パンケーキが、食べたい、かな?生クリームとフルーツのったやつ…………ーーー。
ーーー尚、無事に機嫌は治っていた模様。
ってこんなこと話してる場合じゃないの!!
……ゴホンッ、話を戻しましょう。
まぁ早い話、何を言いたいのかと言うと。
ーーー彼に少しでも意識して貰うためにはどうしたらいいですか?
尚無慈悲な天使は別用で他の男子に心惹かれてそれどころでは無かった模様。
まだ彼が日本にいた頃の話。
それは剣道の稽古が終わり、シャワーで汗を流してベッドでコロコロと転がっていた時の話。
ーーーピピピッピ、ピピピッピ
充電中の携帯がプルプルと震え着信を鳴らしていた。寝転がったまま携帯を手に取り、画面を覗く。
表示されていたのは幼馴染の彼。私はすぐさま電話に出る。
「も、もしもし?」
思わず裏返った声。顔がかぁっと赤くなっていくのを感じながら枕を胸の中でギュッと抱き締める。聞こえていないようにと願いながら返答を待つ。
『……どした変な声出して』
聞こえていたァ。更に赤くなる顔をよそに思わず悶える。
「なななななんでもないから!!……そ、それで?いきなり電話なんてどうしたの?」
恥ずかしさのあまり誤字の如くなを連呼。だが同時に冷静さをなんとか取り戻す。
『あーいやな?そろそろ稽古終わったのかなーって思ってさ。今どこにいる?』
「稽古は1時間前ぐらいに終わって、今は自分の部屋よ。何かあるの?」
身体を起こしてベッドの縁に腰を下ろす。普段は束ねている髪は今は解いているため、首筋に掠るためこそばゆい。無意識だが髪を掴んで枝毛が無いか弄り始める。
『先週ぐらいに買ったものが届いたからさ、一緒に食べないかなーって思って。なんか予定とかあったか?』
「えっ、……いいえ。予定は何も無いけど、貴方今回は何買ったのよ」
彼はいつも突拍子も無いものを買う。それが食材であったなら呼びに来るか私の家で振舞ってくれる。調理道具ならそれを生かした料理を作ってくれる。どれも美味しいのは事実だし、私としても迷惑とかそんなことは無いので苦でもなんでもないのだが、彼はいつも私を驚かせる。
この前は包丁を買ったかなんかで私を家に呼んだ。行ってみたら物凄く光り輝く包丁が……包丁立て?か何かに置かれていて思わず目をつぶってしまった。聞くと、本焼のオーダーメイドで作って貰った包丁らしく、お値段は諭吉さんが50人以上居なくなった程らしい。
思わずは?って首を傾げてしまった。本焼と言えば言わば刀。刃が付きにくいし刃こぼれしやすいものだがその切れ味はそこら辺の包丁と比べるまでもないほどの切れ味。柳包丁のようで、刺身の盛り合わせを食べさせて貰ったが、前食べたものよりも舌触りが全く違った。
思わず空いた口が塞がらなかった。本焼の包丁を中学生の身で買うのも驚きだが、50人以上の諭吉さんを使える彼の財力に私は驚きを隠せない。……あなたその前は大量にフォワグラ買ってなかった?いつも作ってくれるお弁当にフォワグラらしきものが入っていたのを私は覚えているんだからね?あの後の教室は私達のお弁当の匂いで満たされてみんなお腹鳴らしてたんだから。
ともかく、彼はそんな思いがけない事を色々としてくるので私の(主に心は)毎週毎週ビックリして寿命が縮みそうよ。
『……なんだよ、なんかお前今日は冷たいな』
「……そりゃ、毎回毎回驚かされてるんだもの。少しはこっちの身になって見なさいよ」
『大丈夫だって。今回はそんなに値が張るものでないし、最近言ってだろ?パスタ食べたいって』
「まぁ言ったけど……。なに?パスタでも打ってくれるの?」
『この前買った自動パスタ打ち機が再び火を噴くぜぇ!!……まぁ今回はパスタがメインと言うより、ソースがメインなんですけどね』
「何よ、一体何を買ったのよ?」
『オマール海老』
「……オマール海老?何よそれ」
オマール海老、と検索してみる。どうやら西洋料理で多く使われる巨大な海老のことらしい。
今回はどうやら普通らしいわね。何故だか緊張していた自分が馬鹿らしくなり息を吐いた。
『オマール海老。ヨーロッパとアメリカ辺りで取れるエビの事だよ。伊勢海老よりも弾力とかあって海老界の中でもトップクラスの海老だぞ。ソースにしてもよし、カツレツにしてもよしなんでもござれの海老さんだぞ?食べたいだろ?』
「ええ。パスタを作ってくれるって言うなら食べに行くわ。今日は親が出かけてるから」
少し話を逸らすが、この時私は知らなかった。これが親の優しさだとは。毎週決まってお呼ばれする私を見て、この日は好きにさせてあげようと両親なりの気遣いがあったのだと。剣道の才能があった私は親やお爺様の期待を背負って剣道に励んでいたため、自由が無いに等しかった。でも彼が私に料理を振るってくれるようになってからある一定の日は何も言ってこない。全く気が付いていなかったが、彼が私の親に何かを言ったらしく、決まった日だけはやる事やれば自由にさせてくれたのだ。この話を知ったのはもっと後になるのだけれども。
『リョーかいった。今ソース仕込んでるからなるべく早く来いよ。稽古終わって腹減ってるだろ?』
「ええ、勿論。楽しみに待ってるわ」
一言二言言った後、通話を切り立ち上がる。
クローゼットを空け、服を取り出そうとする……が、ピタッと手が止まってしまった。
……何を着ていこうかと。
私はいつもここで踏みとどまってしまう。
私はオシャレというものに物凄く疎い。というかほぼジャージしか持っていない。中学校の体操服を普段着こなしているが、同級生がオシャレしている姿を見ると私もそうしたいと思ってしまう。だけど、私は剣道があるのだから、と心に言い聞かせて何時も納得させている。
彼が異性に余り興味がないのは知っているし、私がジャージだけしか着ていない事にもお前はお前だと言ってくれたが、やっぱり気にしてしまう。今度香織に服を見繕って貰おうかと考えるが、全然言い出せない。単に恥ずかしいのもある。が、私には似合わないと思ってしまう。
……今回もジャージでいいかとジャージを手に取る。
が、再び手が止まった。何故か。それは、手に取ったのが体のラインがハッキリとしたピチピチのジャージだったからだ。別にこれを選んだわけではなく、無意識にとったのだ。そう、無意識に取ってしまった。だから私は悪くない。そう、胸が強調されてタイツ型の足が細く見える上が白下が黒のジャージなんて好きで選んだ訳ではない。
でも少し心の中で期待してしまう。
私を意識してくれる彼の事を。少し恥ずかしそうに私と会話する彼の事を。
そう思うと、自然と心が晴れる。期待は裏切られると言われるが、きっと彼はそんなことはないだろう(フラグ)。そう思いながら、シャワーを浴びてから着ている色気のない黒地のタンクトップの上から羽織って無意識にスキップしながら家を飛び出す私であった。
数十分後。
「お邪魔します」
「おう、待ってたぜ……って、なんて格好してんだよ!!」
「(やった!!これで勝つる)えっ?何か変かしら?」
「今日は赤いソースでパスタなのに白いジャージ着てきてどうするんだよ。飛び跳ねてシミになっても知らないぞ」
「………エエ、ソウネソウダッタワネ」
「取り敢えず脱げ。下はTシャツかなんかだろうからそれにしとけ」
「……………コレデイイワ」
尚無理矢理脱がされて拳をぶち込む模様。
さて、どうやって原作と絡めていこうか……。