ありふれた……は?料理人ですけど何か?(威圧   作:黒姫凛

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料理人は半端な事に苛立ちを感じてる

 

 

 

 ーーーガキンッ!!

 

 

 

 

何かが激突した。火花散らばる光景に、あるのは拳銃と光の刀剣。

馬鹿正直に眺めていた生徒達含め、周りにいる全員がその激突に唖然とした。

 

拳銃を握るのはソフィア。対する光の刀剣は雫。

拳銃を扱っているソフィアは所持していたからどうやって抜いたかはさておき、手元にあるのは分かる。が、雫が握る刀剣は説明が出来ない。

 

無意識に抜刀、その後躊躇いもなく振り抜く。それと合わせて拳銃を敢えて軌道を逸らす為に接触させて回避。

当事者だけが見えた世界。一瞬、刹那の時。殺気が満ちる2人は、誰もが手を出せない空間を作っていた。

 

「ーーーふぅん。その手に握る得物、それがカタナというものですか。存外、脆そうな外見ですわね」

 

ソフィアは雫の握る刀剣に目を向け鼻で笑う。その言葉に苛立ちを覚え雫は眉間に皺を寄せ、刀剣の握る手に力が籠る。

 

「……確かに刀は脆いわ。武器ではあるがすぐ鈍になる代物。でも、刃の切れ味と美しさはどんな武器にも負けない」

 

「悲しい武器ですわね。使い手がどうであれ、すぐにボロボロになるなんて。まるで、誰かさん見たいですわ」

 

「………何?私みたいだって言いたいの?」

 

「あら?あらあらあら??誰も貴方とは言っておりませんわ。まさか、自覚しておられるのでーーー」

 

瞬間、光の軌跡が目の前を横切る。咄嗟の勘で後ろに飛んだソフィアは、続く光の軌跡に対して受身を取れる状態で躱していく。

一定距離を離れ、相手の間合いから抜け出す。拳銃を握り直し、銃口を雫に向け発砲。数発の撃鉄音と共に光の軌跡がひたすらに描かれた。

 

「……銃弾を切った。そんな芸当、初めて見ましたわ」

 

「ーーーシネ」

 

全体重をかけた心臓部を狙った刀剣の突き。それをさも当然かのように受け流し、懐に潜り込むソフィア。それに対処しようとする雫は体を反転、後ろから斬り込む形で刀剣握り直した。

 

「ーーーっ」

 

どちらの呼吸か。荒々しくされた呼吸が聞こえた刹那、ソフィアと雫の視線が交差する。

 

「ーーーふっ」

 

雫が刀剣を振り抜くと同時に、ソフィアは胸元からバタフライナイフを引き抜き刀剣を受け止める。

 

「ーーーなっ」

 

「ーーー油断しましまわね」

 

受け止められた事に唖然とし、雫は一瞬気を緩めた。そこを一気に畳み掛けるように、ソフィアは腕を交差させて拳銃を突き出し、引き金を引く。

 

「ーーーっ!!」

 

雫は無意識に眼に力を入れていた。それは銃弾を見切ろうとしたのか、負けると無意識に思い涙を堪えたのか。定かではないが、雫はこの無意識の行動に、更に無意識に集中していた。

 

見える弾丸。飛び出したのは3発。今の位置からだと当たる場所は眉間と右頬と鼻辺り。斬ることは、不可能ーーー。

 

ならばと、雫は次に全身に最速で指令を出した。ほぼ空中を舞う雫の頭の中では、何百通りの回避行動が浮かび上がる。思考が完全に容量オーバーしているが、今の雫には気にする余裕すら残っていない。

 

 

(ーーー蓮は、私のものだ!!!)

 

 

ひたすらに思うのは蓮への思い。好きな表情、好きな所、好きな料理、好きな時間。甘く蕩けるような蓮との思いが紙に殴り書きするかのようにつらつらと思考を駆け巡り、雫の思考の大動脈として押し上げていく。

 

そして閃いた思考。臆せず雫は全身を動かす。

交差するバタフライナイフを押し、反動で後ろに下がる。続いて背筋で上体を起こし海老反り。刀剣を前に翳し、命中する弾丸を受け止めた。

 

「ーーーっ、貴方、人間辞めてますわね」

 

思わずそう口にしたソフィア。雫はひと睨みすると、海老反りから体勢を立て直して着地。そのまま刀剣を下段の形からーーー。

 

 

 

「ーーーいやストップストップ!!」

 

 

突然の停止コールに雫は動きを止めた。対するソフィアも動きを止める。

間に入って来たのは、他でもない蓮であった。

 

「……なんで止めるの!?私は、貴方の事をーーー」

 

「ーーーあら、盗まれたから奪い返そうと?私から言わせてみれば、貴方の方が私から盗もうとしたーーー」

 

 

「ーーーいいから黙れ!!」

 

 

蓮の怒声が2人の言葉を止める。雫ですら聞いた事のない彼の怒った声。思わず目尻に涙を浮かべ座り込んでしまう。

 

「……雫、一体どうした?お前がそんなにも暴力を振り回すなんて信じられない」

 

雫に歩み寄った蓮は、座り込んだ雫と目を合わせる為に膝をおる。

 

「……っ、あ……っ、ご、ごめん……なさい……」

 

「雫、大丈夫。だから、落ち着いてくれ」

 

「………ごめん、ごめんなさい……。蓮……嫌いに、ならないで………」

 

「俺は雫の事、嫌いにならないから。だから、話してくれないか?」

 

そっと、雫を包み込む。背中に手を当てて、ゆっくりと撫で下ろす。

 

「……蓮が、あの女にっ、とられる……かと、思って……。どっかに……っ、行っちゃうかと思ってっ…………」

 

涙を零し、鼻声でゆっくりと言葉を吐く。蓮はそれに対ししっかりとした聞く耳を持って聞く。

 

「心配しなくても、俺はどこにも行かないよ。折角逢えたんだから、ずっと雫ちゃんの傍にいるから」

 

「……ほんとに居なくならない?もう私の前から……、居なくなったりしないで」

 

「大丈夫だから、約束するよ」

 

「……うん、ありがと」

 

腕の中で落ち着いた雫を宥め、蓮はチラリとソフィアに目を向ける。

何だか腑に落ちない表情を浮かべ、拳銃とバタフライナイフをしまうソフィア。2人の間には既に会話を必要としない阿吽の呼吸が存在していた。

 

「……甘過ぎますわ。そんな事だから貴方は……」

 

「残念だけど、これが俺だから。それに、いきなり俺の知り合いがドンパチし合うのを黙って見てられる程、2人に無関心じゃないから」

 

「……フフっ、貴方にそう言われるのなら、悪い気はしませんわ……少しだけですが」

 

「ほんと素直じゃないな全く。……さて、この空気どうしたらいいですか、皆さん?」

 

 

 

 

 

ーーー『えっ、ここで振るの?』

 

 

 

 

突然の振りに全員がそう心の中でツッコんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーでは、改めて。まずは身体を休めましょう。今茶菓子を運ばせております」

 

雫と美少女ソフィアの戦闘が終わり、全員は巨大な机が広がる一室に案内された。一人一人が席に着く中、雫は蓮の膝に座り猫のようにじゃれついていた。最早、今の雫に誰もツッコむ事が出来ず、放置という形で場に留まっていた。

 

暫くして、ドアからカートを引いたメイド達がやってきた。白生地にフリフリの装飾を附けた生メイド。思わず男子達はスタンディング。それぞれにメイドが付き、ティーカップとを置くと紅茶を注ぎ会釈を一つ。それにも思わず男子達は目を輝かせた。

が、それは大半の男子生徒達の話で、まず香織に腕をずっと絡まれているハジメは頭を固定され、香織しか見る事が出来ないようにされており、蓮も蓮で雫に構えと苦笑いでそれどころではなかった。最も、蓮にとってはどの子も娘のような存在なので、単純な可愛いなとしか思えないのだが。

 

「ありがとう」

 

自然と出た感謝の言葉。更に本人は気付いて無いだろうが笑顔がプラス。顔の整った異性が自分にだけ笑顔を向けるというのは心掴まれるものであり、そのメイドも思わず赤面してしまう。それを面白くないと思った雫は更にべったりと身体を密着させた。まるで、自分の物だと言わんばかりに。

 

「……全く、馬鹿な人だ事」

 

ソフィアはチラリと雫に目配せすると紅茶を1口。が、現役英国淑女にこの紅茶は口に合わなかったらしく、つい顔に皺を寄せて渋ってしまった。

 

「口に合わなかったのか?」

 

「……えぇ、注ぐのがド素人ですわ。茶葉を浸しすぎて渋味が強くなって、とても飲めるものじゃありませんわ」

 

「どれ……、確かにこれは何とも……。飲み慣れてる人からしたら邪道かもな」

 

失礼と、蓮は席を立つ。雫は一旦席に座らせる。

 

「……ねぇ、どこ行くの?」

 

「すぐ終わるから待ってて」

 

蓮は近くにあったカートの上にあるティーポットを開け、中を確認。あららと、困ったような表情をする。

 

「……どうかなさいましたか?」

 

突然の事に給仕をしたメイドが問い掛けてくる。

 

「いやね、少し紅茶の入れ方をレクチャーしようかなと」

 

そう言うと、カートに常備されたティーポットを掴むと、蓋を開けて中に茶葉を入れ始める。蓋を占め、軽くティーポットを譲りそっと動きを止めた。

 

「ここにいるメイドさん達は余り給仕をした事がないらしいね」

 

その言葉にイシュタルは眉を顰め、反論する。

 

「……どういう意味ですかな?」

 

「言葉通りの意味ですよ。普通、お客さんに飲み物を出す時は道具を使って正しくティーカップに注ぐのが基本。でもここにいるメイドさん達は道具を上手く扱えてない。しかも、熱湯の量ですら分かってない。これで、慣れてるなんて言わせないで下さいよ?」

 

鋭い視線がイシュタルを突き刺す。その目は冷たく、全てを凍らせる絶対零度。イシュタルの表情は至って変わらないが、脂汗を滲み出していた。

しかし、ソフィアを抜いた全員は何故蓮がここまでイシュタルを睨みつけているのか理解出来ていなかった。

 

「……お、おい。あんた、何そんなに怒ってんだよ……?」

 

全員を代表して、龍太郎が蓮に恐る恐ると言った感じで問う。

ソフィアは呆れの篭ったため息を吐き、その姿を見た蓮はやれやれと言った感じでソフィアの心情に同情する。

 

「俺達は突然ここに飛ばされた。そしてさっきの話を聞いた限り、戻る手段は今の所はない。そうだよな?」

 

「あ、ああ。イシュタルの爺さんがそう言ったから……」

 

「そうだ。俺達は勝手に呼び出されて人間種の為に戦ってくれと言われた。帰るという選択肢を消し、戦う事を半ば強制しようとして」

 

「ちょっと待ってくれ!!イシュタルさんは強制しようなんてーーー」

 

「ーーー強制しようとしたのはあんただよ。聞いた話だと、相手の情報も分からずに感情に任されて全員の心を揺れ動かした。まぁ俺の言い方が悪いが別にそれに対してが悪いとは思ってない。そういう選択肢もあったって言うだけの話だ。で、今全員の心には戦うしかないという気持ちが強い人が多いはずだ」

 

その言葉に全員が顔を見合わせる。確かに、男子の大半と女子の一部では戦う事を決心しようとしていた生徒が多く見られている。

が、これとさっきの紅茶の話は全く関係無いと全員が首を傾げた。

 

「まぁ言うなれば俺達は強い力を持った人間だ。これから俺達は戦士か兵士か、それとも勇者になるのかは知らんが、俺達は状況はどうであれ、招かれた人間だ。強さに関係無く、外部から呼ばれた客人だ」

 

「だから、一体なんのーーー」

 

 

「ーーー気付かないのか?俺達が馬鹿にされている事に」

 

 

その言葉に全員の表情が唖然に変わる。

生徒の中で誰一人とてその言葉を理解出来ているものはいなかった。

 

「いいか?まず、客人に飲み物を出す。これは相手に対して『遠い所から御足労』『まずは一息つけましょう』と外部の者をもてなすに当たっての最低限のマナーだ。これがこの世界でも共通してるかは分からないが、俺は飲み物が出されたから敢えてそう考えよう。そして、今俺たちに出された紅茶は失敗作だ。こんなもの、よくも客前に出せたなと投げ付けていいぐらいのな」

 

咄嗟に全員が紅茶に口をつける。確かに思っていたよりも苦い。紅茶自体も何だか濁っているように思える。が、それはあくまでこの世界の物がこの出来だと考えるのが普通ではないのかと、全員がまた疑問に思う。

 

「たとえその出来だとしても、それがたとえ高級品だとしてもだ。普通は異世界から来るんだから口に合いそうに無いものは出さないだろ。そういう気遣いがそちら側にはないのかって言いたいんだ」

 

「……それは、ただの妄言でーーー」

 

「ーーーそれと、なんでこんなにも美形で距離の近いメイドが用意されてる?大方ハニトラ目的で男子を悩殺させてこの世界に縛るなりなんなりしようとしたんだろ?まるでこの程度でコロッと行くと思われてる事に俺は馬鹿にされてるとしか考えられない」

 

蓮は茶漉を手に取りティーポットを傾けて紅茶をティーカップに注ぐ。モワモワした湯気と茶葉の心地良い香りが部屋中を包み込む。

 

「……ほら、こんなにも色の薄い紅茶が出来ました。さぁ、御賞味あれ」

 

ソフィアと雫、そして蓮の給仕をしたメイドにティーカップを渡す。先程のものと見比べてみると違いは明らか。ソフィアと雫は迷うこと無く1口。次いでメイドも恐る恐る口元にティーカップを近付けた。

 

穏やかな香りが鼻からすぅーっと入り込み、身体が自然とリラックス。次いで口の中に広がる香りと程よい液体の温度がそっと、身体を温めていく。

 

「……お、美味しい」

 

「フフっ、流石ですわね」

 

「……ふぅ」

 

それぞれが満足気な表情で紅茶を飲み干し、そっと、ティーカップを置いた。蓮はその表情を見るや満足気に笑みを浮かべるとすぐにイシュタルに目を向けた。

 

「……どうやら、俺の妄言ではなかった見たいですね。さぁ、俺達をコケにした事、どう落し前つけますか?」

 

鋭い眼光で、蓮はイシュタルを睨みつけた。




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