【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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眠すぎてろくに書けないので初投稿です


第12話「負傷・電話」

 

 なんとかゴーレムとの戦いを終え、しこたま織斑先生に怒られた後。腕に痛みを覚えた俺とぶっ倒れた一夏は保健室に来ていた。

 

「左腕にひびねぇ。でもこれぐらいならすぐ治せるかな?」

「ほんとですか? 結構時間かかりそうですけど」

「普通ならね。でもここなら最新の医療設備があって……ほらこれ!」

 

 そして取り出される注射器。中には白い液体が入っている。これは見たことがあるな。

 

「ナノマシンですか」

「せいかーい。篠ノ之博士も使ってたのかしら?」

「そんなとこです。それより──」

 

 負傷した腕を差し出しながら、ずっと疑問に思っていたことを口にする。

 

「なんで楯無先輩がここに?」

「今さら?」

 

 そう。さっきから保健室に来た俺達を迎えたり診察したり、今も俺の腕に注射をしたりとごく自然に振る舞っていたが彼女は保健の先生ではない。生徒会長でルームメイトの楯無先輩だ。ついでに当然の様にナース服のコスプレをしている。

 

「だって透くん達()アレと戦ったって聞いたんだもの。しかも怪我までしたなんておねーさん心配で心配で」

 

 説明しながらもスムーズに針を抜いてくるくると包帯を巻いている。慣れてるなー。

 

「ふーん。ところで、『も』ってことは他のとこにも来たんですか?」

「うん。二年と三年の所にも来てたの。どっちも専用機持ちで破壊したわ」

「サラッと言いますね……。俺達結構苦戦したんすけど」

「そう? 経験積んだIS乗りならあれぐらいなんとかなるわよ。複数来てたら危なかったでしょうけど」

 

 あのゴーレムを『あれぐらい』か。さすが国家代表と言ったところか。確か専用機持ちは二年に二人、三年に一人だったか。まだ会ったことはないが三年生も相当の実力者らしい。

 

「はいっ、これでオーケー! ナノマシンが効いてきたら()()痛むけど、明日には普通に動かせるわ」

「ありがとうございます」

 

 少しと言っているが、実際は激痛ということを俺は知っている。早く治療するための副作用だとかなんとか。

 おっと、それよりもう一つ気になることがあるんだった。

 

「……一夏はどうなんですか?」

 

 運ばれてから今に至るまで一夏は目を覚ましていない。特に攻撃を受けていたわけではないが……。

 

「瞬時加速で地面に激突したときの衝撃で、軽い打撲と脳震盪を起こしたみたいね。でもナノマシンも使ったし、ちょっと寝ていれば大丈夫」

「なぁんだ。心配しなくてもよかったな」

 

 あれだけ勢いよくバウンドしてたらそうなるか。まあビーム直撃よりマシだろう。

 

「さっ帰りましょ! ()()()しちゃ悪いしね」

「お邪魔? ……ああ」

「うっ……」

 

 カーテンの向こうには人影が。あの髪型は妹様だな。うん、これは邪魔しちゃいけない。

 

「じゃ、()()()ねー」

「襲っちゃダメだぞー」

「なっ!? このっ!」

 

 ボンッ! と音がして、抗議の念を感じる。きっと向こうでは茹で蛸になっているのだろう。怒られる前に帰ろう。

 

 

「「あ」」

 

 保健室から出てすぐの道。先輩は事後処理があるそうなので先に戻ったところで、今度は凰がこちらへ歩いている。

 

「お前も見舞いか」

「あ、そうだけど?」

 

 うーん、今は妹様がいるからな、少し時間を空けさせるか。

 

「あいつはまだ寝てるよ、怪我はまあ、大したことはないってさ」

「よかった、全開で衝撃砲撃ったから心配で」

「作戦とはいえ、あれはなあ……」

「……うん……」

 

 衝撃砲を瞬時加速に利用するとはな、普通だったら絶対にやらないだろう。ほぼ素人ならではの作戦だろう。

 しかしやけにそわそわしている。すぐにでも一夏の元へ行きたいのだろう。

 

「お前さ、一夏のこと好きなの?」

「へぇっ!? あ、誰があんなヤツ!?」

 

 思わず聞いてしまったがやっぱり正解らしい。真っ赤だ。

 

「いや、隠せてないぞ。安心しろって誰にも言わないから」

「……そうよ! 悪い!?」

「怒んなって。ほら愛しの一夏が待ってる(かもしれない)ぞー」

「ッ~! アンタ覚えてなさいよ!」

 

 捨て台詞を吐いて駆けていく凰に手を振って見送る。後が怖いがなかなか面白かったな。

 一夏との喧嘩も、あいつが起きていれば多分話し合いでもして解決するだろう。

 さて、飯食って帰ろうかなーと歩き出した瞬間。

 

 ピロリロピロリロ………ピロリロピロリロ……。

 

 あの人のそれとは違う着信音。確かこれは……。

 

「もしもし、九十九です」

「私だ」

「ああ織斑先生。お疲れ様です」

 

 そうだ織斑先生だ。入学準備の時に連絡先を入れたんだったな。で、何の用だろうか。

 

「今話せるか? できれば、人に聞かれないようにしてもらいたいんだが」

「大丈夫ですよ。それで、お話とは?」

 

 わざわざ人に聞かれないようにしろと言うことは、間違いなく機密事項だろう。タイミングを考えれば、恐らく今日のことだ。

 

「単刀直入に聞こう。 お前は、()()()()()()()()()()()()()()な?」

「!」

 

 鋭いな。一応これまではあれについて何も知らない様に振る舞っていたつもりだが、この様子じゃバレている。それも疑問ではなく、確信で。

 となると……これ以上隠しても余計に不審を持たれるな。言ってしまおう。

 

「……アレの名は【ゴーレム】。篠ノ之束が作り出した、世界初の無人機ISです」

「やはりな。では今日あの試合で、その無人機が来ることは知っていたのか?」

「そこまでは知りませんよ。俺はただ、近いうちに()()()()()をかけると連絡されていただけですよ。むしろいきなり来て驚いたぐらいです」

()()()()()、か。あいつの言いそうなことだ」

 

 電話越しでも呆れた様子が伝わる。先生は束様と同級生らしいし、これまで何度も苦労させられてきたのだろう。まだまだ苦労すると思いますよ。

 

「それで? あいつの、いやお前らの目的は何だ? 世界征服とか言い出すんじゃないだろうな」

「まさか、あの人の目的なんて誰にもわかりませんよ。仮に教えられたって理解できるわけがない。あなたも知ってるでしょう?」

「…………」

「あと、俺にはそんな大それた目的なんてありません。強いて言うなら『生きる』ことですかね」

 

 それが全てだ。ここへ来たのもあの人の命令だから。学校生活はそれなりに楽しんではいるが、何も言われていなかったら来るわけがない。

 

「……まあいい。とにかく、お前が知っていたのは無人機の存在、束が何かしらのアクションを取ること。だな?」

「はい。他にはありませんよ」

 

 手足として動いていると言っても、知らされていることなんてこれぐらいだ。態度ではこちらを気に入っているように見せかけているが、実際の扱いはぞんざいだ。事実今日も下手すれば死んでいたし……うん。考えるのはよそう。

 

「話はそれだけですか? これ以上聞かれても大した情報ないですけど」

「ああすまん。最後に一つ」

「なんでしょう?」

 

 まだ何かあるのか。敢えて話せることを挙げるなら俺の出生についてぐらいだ。ん? この人にとっては衝撃かもしれない。

 

「次会ったら覚えとけよ」

「っ!?」

「と、束に伝えといてくれ。ではな」

 

 絶句するこちらを尻目に通話が切られる。俺に向けた言葉ではないとはいえ本当に怖かった。血の気が引いたぞ。

 

「……飯行くか」

 

 

 

 

「ただいまでー……誰もいないな」

 

 大分遅くなってしまったが、楯無先輩は帰っていない。さっき言っていた事後処理が大変なのだろう。だったら保健室なんて来ないで仕事していた方がよかったのでは……?

 

「暇だなぁ……」

 

 今日の騒動で対抗戦は中止。授業もなくなったため特に予習・復習も必要ない。トレーニングしようにも腕を痛めている今はできない。たった今飯は食ってきたし腹は空いていない……。

 うん、何もすることがないな。

 束様の所では暇になることなんてなかったからなぁ。基本うるさい天災がいたし、空いた時間にはクロエと話したりと何かしらすることがあった。

 この機会に趣味でも持とうか、そうだ、束様に拾われる前、研究所では本を読んでいたな、あの頃は他に娯楽も何もなかったからだが。

 

「どんな本がいいかな、ゲームもいいなぁ」

 

 誰かにお勧めの趣味を聞いてみるのもいいかもしれない。一夏とかいい感じの趣味知ってそうだ。

 こういうこと考えるのも結構楽しいな。これだけで暇が潰せそうだ。

 思い立ったが吉日。一夏ももう起きているだろうし、早速聞いて──

 

 てれててて

 

 今日は何かと電話する日なのだろうか。さっきのこともあって正直出たくないが、何度も鳴らされるのも癪なのでワンコールで出る。

 

「もしもし」

『いえーい!! 乗ってるかーい!?』

「さよなら」

 

 やっぱり今日はやめておこうか。きっと疲れているだろうし、妹様とか凰と話しているかもしれない。事情聴取もあるだろうし、そっとしておこう。

 思い立ったがとか言ったが、すぐ聞かないと死ぬわけでもない。よく考えたら俺も疲れが溜まっている気がしてきたぞ。よし今日は早く寝──

 

 てれててててーん、てれてててーん。てれててててーん、てれてててーん。

 

『ごめんなさい』

「はい」

 

 いい加減最初にふざけるのやめてほしい。毎度鼓膜が破れそうになるんだ。

 

「で? 今日は何の用です? またちょっかいとかやめてくださいよ」

『あははー違う違う! 今日の感想とか、近況報告とか色々お話したいだけ。これでも一応保護者だからね!』

「ほんとですかぁ? いいですけど……」

 

 急にそれっぽいことを言われれても信用ならない。しかしこちらに拒否権があるはずもなく、言われるがままに話すしかない。

 

『じゃ、今日のゴーレムはどうだった? そのままじゃつまらないと思ったから()()()()強くしてみたんだけど』

「アレをちょっととは言わんでしょう。俺ら死にかけたんですけど。骨にひびも入ったし」

『あはは! でも勝てたでしょ? ()()()()()()()()()()()

「俺一人が本気出したところで勝てるような性能じゃないですよ。どうせ零落白夜が見たかったとかでしょう?」

『だいせいかーい。花丸あげちゃう!』

 

 そんなとこだろうと思った。あの明らかに過剰な火力と耐久力、上級生はどうやって倒したのか知らないが、少なくともあの場では零落白夜以外に方法はなかった。もしそれが外れていれば、オルコットが来ていたとはいえ勝利は不可能だっただろう。

 

「とにかく、当分はこういうことやめてくださいよ。死ぬのはごめんですからね」

『考えとくそ・れ・で、どう? あれからの学校生活は?』

 

 ダメ元で言ってみたがこの様子では何も変わらないだろう。

 しかし学校生活ねぇ……そうだ、簪さんのことでも話してみるか。

 

「最近新しい友達? ができたんですよ。更識簪っていう子で」

『更識? ……ああ、倉持にほっとかれてた機体の』

「知ってたんですか?」

『半分は私のせいみたいなものだしね、申し訳ないとは思ってない』

 

 そうか。打鉄弐式の開発が中止になったのは白式に人員が取られたからで、人員が取られたのは一夏がISを動かしたから。それもこの人が何かしたであろうことは容易に想像できる。あれ、半分どころじゃなくね?

 

「あいつ、一人でIS組み上げようとしてるみたいですよ。ガワはもうできてて、後は武装と中身らしいです。調子は悪そうですけど」

『へえー。なかなか挑戦的じゃん。でもたぶん無理だね』

「無理ですか」

天災()の発明が、ちょっとできるだけの凡人一人に組み上げられるわけないじゃん。やる気だけは認めるけど』

 

 普段はふざけているが。こういう時は厳しくなるな。いつもこうだったらいいのに。

 

「ま、しばらくは適当に付き合っていきますよ」

『好きなの?』

 

 いきなりぶっ込んで来るのやめてくれよ……。確かに簪さんはいい奴だとは思うけども。

 

「お友達としては。それ以上は別に」

『そうだよねー、とーくんが好きなのは私だもんねー』

「冗談でもありえないですね」

 

 何を言っているんだ。頭おかしくなっちゃったのかな?

 

『そんな……男はみんなマザコンだって』

「いつから母親になったんですか?」

 

 立場上保護者だし感謝もしているがちょっかいで死にかけることしてくる人が母親とか絶対嫌だ。

 ショックを受けた様な声だがどうせ電話の向こうではニヤニヤしているんだろう。

 

『でもさー、せっかく学校行ってるんだし恋人でも作ってみたら? 楽しいかもよー?』

「あなたは作ったことあるんですか?」

『ない!』

 

 だろうな。この人が誰かを好きになるとか想像できない。少なくとも普通の人じゃ相手にされないだろうし、一生独身の可能性もあるな。

 

『そうそう、いっくんと箒ちゃんはどう? そろそろ告白とかしてた?』

「はい?」

 

 あれ? 確か二人は将来を誓い合った仲じゃなかったか? 束様が言ってたことだぞ。

 

「……離れ離れになる前から付き合ってるんじゃないんですか?」

『え? あの頃の箒ちゃんがそんな大胆なことできるはずが……あ』

 

 なんだ『あ』って。おいまさか……。

 

「嘘なんですね?」

『ごめん』

 

 絶対悪いと思ってないぞこれ。今までずーっと付き合ってること前提で接してたぞ。一々妹様の反応がおかしいのはそのせいか。

 束様はさぁ……どうしてこんな嘘をつくんだい?

 

『あははははっ。じゃまたね!』

「あ、ちょっと待ってください。伝言がありまして」

『なあに?』

 

 頼まれついでだ、揶揄われたお返しとして、伝言をちょっと誇張してやる。

 

「織斑先生からですね……」

『ちーちゃんが?』

『次会ったらその巫山戯た頭を握り潰してやる』だそうです」

『……じゃ、じゃーねー……』

 

 ……切れた。効果あり、やっぱり織斑先生は怖いみたいだな。

 さて、今度こそ寝てしまおうか──

 

「ただいまー!」

 

 ……もうしばらく起きていることになりそうだ。

 

 

 

第12話「負傷・電話」

 

 

 




また書きためますよ〜ためため

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