【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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2019年が終わるまであと20日もないので初投稿です。


第17話「虫②・脅迫」

 

「おかしな噂が広まってるんですけど(半ギレ)」

「私も困ってるんだけど(半ギレ)」

「簪ちゃんは渡さないわよ(全ギレ)」

 

 何でこんなことになってんだよ(半ギレ)。あの後先生に怒られない程度の全速力で帰った俺は未だにイチャついていた二人に噂を説明していた。

 

「簪ちゃんは絶対渡さないわよ(全ギレ)」

「お姉ちゃんそれもういいから……」

 

 ここに修羅がいるぞ。だから噂なんだって。簪はいい奴だし綺麗だと思うが、だからって付き合いたいとかそういう感情はない。あくまで友人だ。

 

「同じく……」

「ほら、ね?」

「そう……」

「いきなり戻ったなぁ」

 

 テンションが安定しない先輩は置いといて、妙な噂が広まったものだ。さすが女子校といったところか。

 

「大して困るようなことでもないけど……ヒソヒソされるのは気分が悪い」

「うわさっき知ったばっかりだけどすっげえ嫌だなそれ」

「いくら生徒会(私たち)でもねぇ……噂までは止められないし」

 

 躍起になって否定するのも余計広がりそうで嫌なんだけどなぁ、何もしないで残り続けるのも面倒だ。ここは早い内に消しておきたい。

 

「やっぱり出所から潰すしかないか……」

「でも噂話の出所なんて簡単にわかるかしら? あまり大っぴらに聞き込みしたら怪しまれるし……」

「いや見当はついてるんですけど」

「? そうなの?」

 

 どうせあいつだろ。最近コソコソしてる虫。

 

「知ってるならいいんだけど、直接言ってどうにかなるかしら?」

「さあ……アレ性格悪そうですし、そもそもクラスしか知らないんですよね。一回しか話したことないですし」

「それ大丈夫……?」

「なんとかするしかない」

 

 他に方法は……先生に頼るとかあるけど無駄に借りを作りたくないしな。ちゃんと対応してくれるか微妙だし。

 

「えーと……じゃあ、任せても、いい……?」

「おう任せろ。簪は堂々としていればいい」

「うん……!」

「心配だわ……」

 

 どうにかなるだろ……多分。

 

 

 

 

 そして次の日。

 

「昨日ボーデヴィッヒにボコられた凰いるー?」

「ぶっ飛ばすわよアンタァ!」

 

 早速情報を集めるため、俺は二組へ来ていた。と言っても知り合いは凰しかいないためそこから聞くことになる。

 

「元気そうじゃん。で、聞きたいことがあるんだ」

「何? わざわざあたしのとこに来るなんて……」

「二組のことだからな。クラス代表のお前なら知ってるだろ。人探しなんだけど」

「誰を探してんのよ」

 

 特徴を言えばすぐわかると思うが、なるべくわかりやすく伝えるには……そうだな……。

 

「すっごーく性格が悪くて、全力で男を見下してる、目つきと性格の悪そうな女子知らない?」

「性格二回言ったわね」

 

 探してるのは先週、合同実習でゴチャゴチャ文句を言っていたあの面倒くさい女のことだ。おそらく噂を流したのはこいつ。根拠もあるが、ここでは言わないでおく。

 

「そんなのいるわけ……あ。一人いるわ」

「やっぱりな」

「ほらあそこ……角の席で本読んでる」

「お、あいつだあいつ。サンキュー」

 

 ここにいることだけ確認したかったんだ。軽く例を言いながら教室へ入り、困惑する他の女子を横目に近づいていく。あちらも気づいたのか、こちらを見て嫌そうな顔をしている。

 

「えっちょっ……何する気?」

「なに、ちょっと話すだけだよ」

 

 何もこんなところで喧嘩するつもりはない。軽い注意みたいなもんだ。あちらはどう出るか知らないが。

 

「やあ」

「…………」

「無視かぁ」

 

 傷つくなぁ。急ににこやかに対応されても気色悪いけど。

 

「じゃあ勝手に話すが……俺と簪が付き合ってるとかいう噂流したの、お前だろ」

「…………」

「そんな噂考えるのは、俺の周りウロチョロしてたお前しかいないもんなぁ」

「……だったら何?」

 

 パタンと本を閉じ、不快な態度を隠しもせずにこちらを睨み付ける。やっぱり目つき悪いな。

 

「何が目的だ? おかげでこっちは大迷惑なんだが」

「べっつに、ただの嫌がらせよ。調子に乗ってるアンタに制裁? みたいな」

「制裁って、簪を巻き込んでるのはいいのか? 同じ女子として」

「一緒にしないで。どうせアレも、男に媚び売ってる古い女でしょ」

 

 酷い言いようだ。先輩に聞かれたらどうなることやら。後でチクってみよう。

 しっかし酷い思想だな。男嫌いはわかっていたが、気に入らなければ女子でも敵と見なすのか。

 

「見たのよこの前。アンタがアレを抱えて歩いてたの」

「あー……そのことね。それは……」

「どうせいかがわしいことでもしてたんでしょ。汚いわね」

「いやだから……」

「男の話なんて聞きたくないわ」

 

 こいつ全然話聞かねえ。そして思いっきり間違っている。脳みそピンクかよ。

 とりあえず、撤回だけお願いしてみよう。頷いてくれるとは思えないが。

 

「……とにかくさ、大嘘広めるのはやめてくれないか? あと周り嗅ぎ回るのも」

「嫌よ」

 

 どういう神経してんだこいつ。一応こっちが被害者なんだけど罪悪感とかないのか?

 ……おかしいのはどう考えてもこいつだ。何だって俺が頼み込まなきゃいけない? もう十分我慢したよな?

 

 ばきっ。

 

「……ちょっぴり下手に出れば随分つけ上がるな、カス」

「何ですって!?」

「カスにカスといって何が悪い? 優しくしてりゃつけ上がりやがって。何様だよお前」

「なっなっなっ……何よ急に!」

 

 予想外の展開か、狼狽えるカス女(名前聞いてなかった)。そんなことはどうでもいい。最近ずっとらしくないことばかりでうんざりしてたんだ。ここらでささやかなストレス発散といこう。

 ……凰には申し訳ないが。

 

「本気で自分が優れてると思ってる? 代表候補生でもない、授業でしかISを触ったこともないお前が? 笑わせるな」

「……っ」

「やってることはバレバレのストーキングと下らないデマ流し、これのどこが優秀な人間のすることなんだ? 陰湿の間違いだろ」

「黙りなさいっ!」

 

 少し突っついただけでこれか。決闘挑んできた時のセシリアの方が遙かにマシだ。比べるのも失礼なほどに。

 

「おいおいムキになるなよ。男の話なんて聞き流せばいいだろう?」

「このっ……」

 

 ま、無理だろうけど。

 

「本当は勝てる気しないから陰でこそこそやってたんじゃないか? お前のちっぽけな自尊心ならそれで満足か?」

「うっ……」

「言い返せないか。図星か? だからお前はカスなんだ」

 

 正体見たり! って感じだな。つまんない奴。

 

「じゃあな。今度からはもう少し考えて行動しろ」

「待ちなさい! このっ!」

「待たないね、もう言いたいことは言った」

 

 罵倒を背に悠々と教室を出る。困惑と敵意の入り交じった視線が向けられるが全く気にならない。スッキリだ。

 

「どうすんのよこれ……」

「あ、悪いな凰。お騒がせした」

「もう遅いわよ!」

 

 

 

 

「……とまあ、こんなもんですよ」

「悪化しそうじゃない……?」

 

 さっそく報告。確かに悪化しそうな気もするが、きっと大丈夫だろう。あれだけ騒いでまだ広めようとするやつがいるとは思えないし。

 

「もう気にするだけ無駄だろ。すぐにみんなトーナメントのことで頭がいっぱいになるさ」

「そうかなぁ……」

 

 そうでなくとも、すぐに新しい話題で上書きされるだろう。噂とはそういうものだ。

 

「それよりさぁ。簪はトーナメントには出られるんだろ? まだペアが決まってなかったら俺と──」

「あっそれは……」

「私でぇ~す!!」

「わああ!?」

 

 びっくりした布仏さんかぁ。今まで隠れてたのか。

 

「私がかんちゃんと組みまぁ~す! いぇいいぇい」

「と、いうことで……」

「そうかぁ」

 

 二人は幼馴染だし、気が合うのだろう。しばらくまともに話せていなかったしな。

 

「ごめんね?」

「いや大丈夫。まだ期限まで日もあるし、最悪抽選でも決まるしさ」

「頑張ろー!」

 

 布仏さんは元気だなぁ。よっぽど一緒にいられるのが嬉しいのか、抱きついて喜びを表現している。簪も少し嬉しそうだ。

 うん。これは邪魔できない。

 

「それよりも、だ。先ずは専用機(こっち)を進めようぜ」

「うん……!」

「わぁ~い!」

 

 簪の体調も回復し、作業を開始する。今日はまだ三人だけだが、明日からはどんどん人手を増やしていくつもりだ。

 念のため簪に『どうやって集める?』と聞いたところ、ニヤリとした笑みと共に『お姉ちゃんの人脈を使う』と言っていた。強くなってくれて何よりだ。

 

「人手はどうにかなるとして、稼働データがまだ足りないんだよな」

「新型だからねー。たくさんデータがほしいなー」

「お姉ちゃんの機体のデータはあるけど、ちょっと足りない……訓練機のデータは定期的に初期化されるし」

「Bagのデータは合わないしなぁ……」

 

 幾らデータがあっても、全てが使えるわけじゃない。極端な例になるが、射撃特化機体の開発に近接特化機体の稼働データがあったところで大して使えないようなものだ。【打鉄弐式】と【Bug-Human】も同様に、こちらにクセがありすぎてイマイチ相性がよくなかった。

 

「他に使えそうなデータかぁ……」

「高機動の機体とか、武装の豊富な機体が望ましい……」

「う~ん……」

 

 両方を満たす機体は今のところ知らない。片方だけならどうか……うーん……。あっそうだ。

 

「ちょっと待ってろ、心当たりがある」

「本当!?」

「マジ!?」

「本当マジマジ。今話つけてくる」

 

 高機動と豊富な武装。それぞれを備えた機体ならついこの間見たばかりじゃないか。早速携帯を取り出し、電話をかける。

 

『もしもし九十九? どうした?』

「よう一夏。今話せるか?」

 

 まず一人目は一夏だ。こいつの【白式】なら高機動の稼働データを得られる。開発元も同じ倉持技研だし、きっと弐式にも合うだろう。マリアージュだマリアージュ。

 

『今か? 職員室に呼ばれてんだけど……』

「まあまあ、じゃあデュノアはいるか? 代わらなくていいから」

『シャルルか? 丁度一緒にいるけど……』

「よしよし」

 

 二人目はデュノア。こいつの【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】には大量の武装が搭載されている。本人の技量も相当なものだったし、いいデータが手に入るだろう。

 しかし一夏ならすぐデータをくれるだろうが、デュノアは難しい。下手すれば素性がバレる可能性もあるわけで、そう簡単に渡してはくれないだろう。まあ無理にでもぶん取るが。

 

「急で悪いんだが、第二整備室に来てくれ」

『え? だからこれから職員室に……』

「デュノア、男装」

『ッ!? ……何でそれを』

 

 そのためのネタならある。脅す様な真似をするのは心が痛むがこれも必要なこと。事情を説明すればわかってくれるはずだ。

 

「お前に質問する権利はねぇ。とにかく先生にチクられたくなかったら今すぐ第二整備室へ来い。二人でな」

『くそっ! ……今行くから待ってろ!』

 

 いやあ本当に心が痛む。本当に。

 

 

「透いるか!?」

「ここだよ」

「おわぁ!?」

 

 約五分後。全速力で走ってきましたと言わんばかりに息を荒げた一夏が飛び込んで来た。少し遅れてデュノア。こちらも息は上がっているが、顔色が悪い。

 

「お疲れー。結構早かったな」

「そんなことはいい。で、いきなりどういうつもりだ? 何で知っている?」

「そうカッカすんなよ、なあ?」

「ううっ……」

 

 すっかり警戒されてるなぁ。一夏も、デュノアを庇うように立ってこちらを睨み付けている。まるで騎士様だ。

 

「落ち着けって。電話じゃああ言ったけど、実際チクるかはお前ら次第だ」

「……何が望みだ」

 

 どうせとっくにバレてるしな。

 

「簡単なことだよ。お前らの稼働データよこせ」

「えっ」

「えっ」

 

 予想外といった表情の二人。

 

「データだよデータ。わかるだろ? さっさとよこせ」

「そっその前にいい?」

「何だよ」

 

 まさか渡し方知らないとか抜かすんじゃないよな? 一夏は知らなそうだけど。

 

「えっと、そんなのでいいの? もっと、ほら……」

「金でも出しますってか? それとも体?」

「からっ……違うよ!」

 

 まさかそんなもん要求するとでも思ってたのか? 失礼なやつらだな。

 

「安心しろ、データさえ寄越せば男装のことは先生に言わないし、もちろん悪用もしない。約束する」

「……わかった。でも一つ教えてくれ、これを何に使うつもりなんだ?」

 

 やっぱり気になるか。まあ悪いことしてるわけじゃないしな。話したっていいだろう。

 

「ああ、それは──」

 

 

 

「──ってことだ。これで満足か?」

「そんなことならすぐに渡したのに……」

「おいおい……要求した側が言うのもアレだが、専用機の稼働データなんてホイホイ渡す物じゃないぜ」

「えっそうなのか?」

 

 知らなかったのか……こいつにもっと危機管理能力を持たせろ織斑先生。

 

「そうだよ一夏。普通は厳重にプロテクトかけて保護する物なんだよ」

「マジか……」

 

 デュノア先生のわかりやすい授業が始まろうとしているがここではやめてくれ。さっさと終わらせたいんだ。

 

「理由は説明したし、もういいだろ? 使ったらすぐ消すから早くよこせ」

「あっああ……こうか?」

「そうそう。お前も早くしろ」

「うっうん……」

 

 ちゃんと来たな。ウイルスもない。OK、きっと役に立つだろう。

 

「よしもう帰っていいぞ。職員室行くんだろ?」

「えっ、あ、おう。……あれ、シャルル? どうした?」

「いや……なんていうか……。男子のデータ取って来いって命令されてるのに逆に取られてるこの状況がちょっとね……」

「ああ……」

 

 やっぱりそういうことだったのか。今となってはどうでもいいが。

 

「まあ、いつまで続けるかは知らんが頑張れ。手伝いはしないけどな」

「あ、うん……」

「それと一夏はもう少し腹芸を覚えた方がいいな。またこうやって利用されたくはないだろう?」

「……考えとく」

 

 電話でもしらばっくれるとかやりようはあったんだ。正直なのは美徳だが、これでは間抜けだ。

 

 

「じゃ、そういうことで」

「ああ……」

 

 さて目的の物は手に入った。これで開発を進められる。簪も喜ぶこと間違いなしだな!

 

 

 

「嬉しいけどこれバレたら織斑先生にしばかれるんじゃない?」

「しーっ」

 

 

 

第17話「虫②・脅迫」

 

 

 




言わない(もうバレてるから)

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