【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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寒すぎてサムになったので初投稿です


第18話「一回戦・卵塊」

 

 六月も最終週、学年別トーナメント開催当日の月曜日。学園全体が慌ただしくなり、一回戦が始まる直前のIS学園では、至る所で生徒と教員が慌ただしく動き回っている。

 一方の()()は待合室にて開始を待っていた。

 

「こりゃすげぇな、対抗戦の倍は来てる」

「……そうだな」

「一夏とデュノアは第一試合らしい。俺達は第二試合だから、あいつらが出てきたらすぐピットに移動だってさ」

「……ああ」

「……もうちょっと愛想よく返事してくれると嬉しいなぁ。せっかく一緒に戦うペアなんだし」

 

 隣に立つ相方。無愛想な、しかしどこか上の空な表情でモニターを見つめる彼女。

 

「篠ノ之さん」

「……すまない」

 

 そう、妹様だ。

 どうして俺達が組んでいるのか、それはペア決めの締め切り当日まで遡る。

 

 

 

「待て、九十九透」

「何かな、ボーデヴィッヒさん」

 

 昼休み、暇を持て余し、フラフラと校内を彷徨いていた俺に背後から声がかかる。

 振り返ればここしばらく一夏にビンタしたり専用機持ち二人を叩きのめしたり、授業を抜け出して寸胴にカレーを作ったりと事件ばかりの転入生、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

「単刀直入に言う、月末の学年別トーナメント、私と組め」

「えー……」

 

 いきなりどうした。今まで俺に興味があるような素振りはなかったが、一体どういう風の吹き回しなんだ。

 

「一応理由を聞いても?」

「ふん、ただの消去法だ」

「消去法ねぇ……それで俺が残ったと?」

 

 専用機持ちは無理でも、探せば他にも相手はいただろう、組んでくれるかは別として。

 

「他は論外だ。意識も実力も低い、私は弱者と組む気はない」

「……否定はしないけどさ、なら俺のどこがいいんだ?」

「勘違いするなよ。他よりはマシというだけだ。ISをファッションと勘違いしている連中よりはな」

「ふーん」

 

 確かにこいつの言うことには一理ある。実際この学園にも、ISが本質を理解できていない者は多い。

 ……まあそれが悪いとは思わないけど。

 

「後は……織斑一夏の手の内を知っているからな。実力は当てにしていない」

「ひっどいなぁ」

「私が戦えば優勝は確実だ。貴様は邪魔にならないようにしていればいい。損はないだろう?」

 

 消去法とか言っていたが、まともな理由もあったのか。思いっきり見下されてるけど。

 でもまぁ、答えは決まっている。当然、

 

「お断りだな」

 

 嫌に決まってる。誰がこんなのと組むか。

 

「……何だと」

「俺がお前と組んだってなーんのメリットもない、他を当たれ」

「私の話を聞いていたのか? 勝ちたければ私と──」

「勿論勝ちたいさ。でもそれはお前とじゃない。俺が組むのは()()()だ」

 

 物陰から出たポニーテール。一瞬それが跳ねる。隠れてたつもりだろうか

 

「出てこいよ! 篠ノ之さん!」

「…………」

「貴様は……!」

「というわけで、俺と組んでくれない? 篠ノ之さん」

 

 本当は放課後にでも声をかけるつもりだったが丁度いい。今お願いしよう。

 

「理解できん。私の誘いを蹴ってまで選ぶ相手には見えんぞ」

「それはお前が節穴なのさ。わかったらどっか行け」

「……後悔するぞ」

「ボーデヴィッヒ様の今後の活躍を心よりお祈り申し上げます」

 

 捨て台詞を吐き、足早に去って行くボーデヴィッヒ。あいつ絶対抽選だな。

 さて後は、こっちと話をつけないと。

 

「何故だ? 専用機のない私より、奴の方がずっと──」

「専用機の有無なんてどうでもいいよ。勝てればな」

「だが私の実力はっ」

「自分では気づいてないだろうけど、近接戦闘に限っては篠ノ之さんの実力は一年でも上位だ。そりゃ総合的には専用機持ちには劣るけど」

 

 そもそも訓練機で一夏といい勝負できてるんだ。妹様は決して弱くはない。

 

「オルコットも凰も出場できないしなー。あれ、そう考えると俺も消去法で決めた様なもんか」

「おい」

「ごめんごめん。でも、ペアで戦うトーナメントなら、俺はボーデヴィッヒより篠ノ之さんが優れてると思ってる」

 

 まあ理由の半分くらいはあいつが気に入らないからなんだけど。

 

「そ、そうか……」

「どうせまだ組む相手いないんだろ? 友達少なそうだし

「このっ……いや、そうだが……」

 

 かなしいなぁ…………。

 

「じゃあ決まりで。よろしくな」

「あっああ。よろしく」

 

 

 

 ……ということがあったのだ。

 

「対戦相手がボーデヴィッヒだからってそんなに一夏が心配? 大丈夫だって安心しろよー」

「そう……だな。うん」

 

 先程発表された対戦表によれば、二人の対戦相手はボーデヴィッヒと知らない女子。やっぱり抽選で決められたらしい。

 俺達の対戦相手は知らない女子二人。多分余裕。

 

「おっ出てきた。ほら移動移動、始まっちゃうぞー」

「ちょっ待ってくれ!」

 

 ……篠ノ之さんのコンディションが気になるけど。

 

 

「失礼しまーす!」

「失礼します」

「来たな」

 

 織斑先生だ。どうやらこの人がこちらの担当らしい。

 

「篠ノ之が使う訓練機はもう用意されている。打鉄だったな?」

「ありがとうございます。それで一夏の試合は……」

「試合はあのモニターでも中継されている。観ながらでいいから準備しておけ」

「はいっ」

「乙女だなぁ」

 

 打鉄を装着しながらもモニターを凝視している。よっぽど心配なんだろう。

 

「しかし意外だな。お前らがペアを組むとは」

「色々あるんですよ、色々」

「ほう」

「…………」

 

 俺は既に準備オーケー。後は待つだけ。選手紹介のアナウンスも終わり、アリーナは試合への期待感で満ちている。

 

「ああそうだ篠ノ之さん。今は一夏とデュノアの動きだけ見てればいいよ」

「何? しかしそれではボーデヴィッヒが……」

「大丈夫、あいつは負けるから。始まるよ」

「……?」

 

 なぜならこれは、タッグマッチだから。

 ブザーが鳴って、試合が始まった。

 

 

 

 

 そして、試合が終わって。

 

「……これは」

「予想通りだなぁ」

 

 画面に映し出された、多くの予想を覆す結果。

 一夏とデュノアの圧勝だった。

 

「よかったね、一夏が勝ってさ」

「そうだな……。いやまて、なぜこれがわかった? 始まるまではこんな予想なんてできなかったぞ」

「それは俺達の試合の後で。ほら戻ってきたぞ」

 

 ゲートが開く。一夏と、追ってデュノアが戻ってくる。

 

「一回戦突破おめでとう! 俺は信じてたぞ!」

「あ、サンキュー……うーん」

「ありがとう……」

 

 二人とも圧勝してきたにしてはスッキリしない様子だ。あの試合内容ならそれも当然か。

 

 この試合、初めこそボーデヴィッヒが押していた。AIC─慣性停止能力(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)─の停止結界とワイヤーを駆使した戦法で一夏を追い詰め、このまま決着かとも思われた。が、あっという間に訓練機の女子を下したデュノアが加勢し二対一に変わってからは形勢逆転。ワイヤーは全て切られ、リボルバーカノンは全て防がれるか回避、AICも二人同時では上手く発動できない。苛立ちで徐々に動きが悪くなり、焦って零落白夜を回避したところでパイルバンカーを叩き込まれて終わった。

 全くいいとこなし。予想していた俺も拍子抜けするほど呆気なかった。

 

 まあ、終わった試合をいつまでも考えていたところで意味はない。俺達の戦いに集中だ。

 

「そろそろだな、篠ノ之さん」

「ああ……」

「えっ透のペアって箒だったのか?」

 

 言ってなかったっけ。その必要もなかったしな。サプライズってことで。

 

「そういうことだ。俺達も一応優勝狙いなんで、なあ?」

「その通りだ。当たったときは覚悟しておけ」

「……ああ! 負けないぜ!」

「…………むぅ」

 

 妹様が不機嫌になった。きっと他の男と組んでいるのを嫉妬してほしかったとかそんなところだろう。どうでもいいけど。

 

『第二試合の選手は、アリーナに入場してください』

 

 入場のアナウンスと共に、ゲートが開き始める。その間から多くの観客が目に入った。

 

「さあ行こうぜ。サクッと圧勝してやろう」

「油断するなよ、九十九」

「頑張れよ二人とも!」

「うん、行ってらっしゃい」

 

 少しばかりの緊張が走る。隣を見れば妹様も同じ様子。

 だが問題ない。余裕を持ち、しかし油断はしない。そうすれば間違いなく勝てる。

 

「さあ──お相手はどんな奴だ?」

 

 ゲートが開き、アリーナへと降り立った。

 

 

 

 

「待ってたわよ、九十九透」

「お前かよ」

 

 もういいんだよ性悪(お前)は。この前で決着はついただろ?

 ……いや、このトーナメントの組み合わせはクジだ。これはただの不運と割り切ろう。

 

「知り合いか?」

「熱い議論を交わしたカスだよ」

「……ふ、ふん。そんな煽りは通じないわよ」

 

 こめかみがピクピクしていることは黙っておこう。後ろでオロオロしている子がかわいそうだし。

 しかしこいつはよくペアを組めたな。抽選かもしれないけど。

 

『両ペアは位置についてください。試合開始まで、5、4──』

 

「あ、篠ノ之さんは奥の子お願いね」

「へぇっ!?」

 

『──1──試合開始』

 

 スタートと同時に展開される弾幕。全ての弾丸はこちらを狙い、妹様には一発も飛んでいない。

 撃っているのは性悪。これは完全に──

 

「やっぱり俺狙いか」

「そうよ! だってアンタは()()()()()()()()んでしょ?」

 

 困る、か。確かに俺のBagは耐久が低い、だから攻撃を受け続けるのは不利だ。基本は回避する必要があるし、これまでもそうしてきた。

 

「まあ、なー」

「対戦表が発表されたときっ、無理を言って装備を変えたたのよ!」

「ちょっとジャッジー」

 

 回避し損ねた弾が数発装甲を掠める。余計なこと許可しやがって、おかげで面倒くさい相手になったじゃないか。

 今も弾を吐き続けているアサルトライフルは弾切れまでもう少しかかりそうだ。

 ……しかしなかなか嫌な戦法だな。まあまあ上手いのも腹立つ。

 

「弾切れを待つ気なら無駄よ! 拡張領域には限界まで銃と弾を入れてるからっ!」

「ふーん、すごいすごい」

 

 それはいいことを聞いた。適当に凌ぐつもりだったが、銃ばかり持ってきたなら丁度いい。

 少々強引なやり方になるが偶にはいいだろう。

 

 ごきごきっ。

 

「強がりをっ!」

「もういいよお前、《Grasshopper(グラスホッパー)》《Ant(アント)》」

「え? ──ぶ」

 

 展開(コール)と同時に手足に装着、これで一気にパワーアップだ。精密さはなくなるけど。

 未だに止まない弾幕を()()して一直線に突撃。ぽかんと口を開けた間抜け面へ勢いを乗せた拳を振り抜く。

 

「あ、がっ──」

「次ぃっ!」

「ぉえっ!」

 

 のけぞった腹にかかと落とし。回避は不可。勢いよく地面へ叩きつけられ、蛙が潰れたような声を発する。吐くなよ。

 

「──ぁこ、のっ」

「三コンボ!」

「がぁっ」

 

 自分がどうなってるか認識できたか、文句でも言いたげに口を開く。

 でももう一発。バウンドして浮いた背に思い切り蹴り上げ。高く上空へ飛ばされ、ようやく抵抗したのか少し離れた位置に着地、というより落下する。

 

「はぁっ、はぁっ……」

「お前さ、勘違いしてるよ」

「な、何を」

 

 まだわかってないか。もう一発いっとくか──いや、これでわかる頭ならそもそも気づけるか。

 

「俺が耐久不足なのは正解、弾幕張るのもな。でもなぁ、お前一人じゃ足りないよ」

「足りな、い……?」

「そう、威力も密度もね、威力はまあ、所詮学園で支給される物だから仕方ないとして、密度がダメだ」

 

 多少は練習してきたみたいだが、まだまだだ。この程度じゃ今みたいに突っ込んでも大したダメージにはならない。一発の威力を考えると、えーと……榊原先生ぐらいの技量がないとな。

 

「今まで回避ばかりだったのは回避より被弾する方がリスクが高かったから。オルコットの時は一発貰えば連鎖的に複数被弾の可能性があったし、先月の──アレは、一発貰ったら即終了だったからだ」

「……だったら、いま、のはっ」

「お前を殴るまでに食らうダメージなんか屁でもなかったってこと」

「そんな……」

 

 ショックを受けた様子だが、同情する気にはならないな。いい気味だ。

 

「でもノーダメじゃないのも事実だ。だから──その分はお返しする」

 

 《Grasshopper》《Ant》は解除、どうせもう攻撃はしないからな。

 代わりに展開するはバスケットボール大の白い球体。()()()()()()()()()、優しくそっと抱える。

 

「ひっ」

「安心しろ、もう殴ったりなんてしない」

「え……」

「けど……」

 

 一瞬安堵の表情を浮かべた性悪女へ、ゆっくりと球体を放り投げる。

 この武器の名は《No.12 Egg Sack(エッグ サック)》。ざっくり和訳すると卵塊。秘密兵器にして最悪の切り札。

 白く脆い球体はただの殻。着弾と同時に割れ、中に仕込まれた多種多様な虫型ロボットが溢れ出す。

 

「あ、ひあっ、ああああああ……」

「とびきりの苦痛は味わってもらう」

「いやあああああああああああっっっっっっ!!!!」

 

 解放された虫たちは全身を這い回り、絶叫が響く。

 バリエーションはクモ、サソリ、ムカデ、ヤスデ、ゲジ、ケムシ、コオロギ、シデムシ、ウデムシ、ヒヨケムシ……両手じゃ足りないな。

 こいつらに攻撃機能はない。もし生身にぶつけたってちょっとチクチクするぐらいだ。耐久力もISならば軽く叩けば破壊できる程度。一応発信器の機能はあるけれど、この場で意味はない。

 総じて、そこまで強力な武器ではない。ただ見た目の気持ち悪さを除いては。

 

「うーわ、やっぱり気持ちわりー」

 

 いくら嫌いな女相手でも、全身に虫(型ロボット)が這い回っているところを見るのは……いや、笑える。

 

「とって! これとってよぉ!!」

「やーだね、はい二個目」

「あああっ、やめて! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 必死の懇願を軽く流して追加を放り投げる。錯乱した状態で回避ができるはずもなく、あっさり着弾。更に大きな絶叫をあげる。

 どんな感覚なんだろう。今度一夏に使って感想聞こうかな。

 

「な、何をしている……」

「あ、篠ノ之さん。早いね」

「まあこれくらいは……じゃない。何だこれは?」

「あー……八つ当たり兼お仕置き?」

「ひぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁ……」

 

 日々の鬱憤と俺を舐めた罰……とでもしておくか。

 せっかくだし録画しておこう。さっきまでうんざりしていた顔もこうして見たらなかなか面白い。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだけど。

 それにしても妹様もなかなかやるね。まだ五分かそこらだろうけど、もう相手を伸している。

 しかし、ここまでやれば中断されるかと思ったけど、まだ続行していいんだな。好都合だが。

 

「さてそろそろ……」

「おい、今度は何を……」

「ずっとこのままでも可哀想だし、トドメ? ってとこかな」

 

 未だにのたうち回る性悪に近づき、首を……変な汁でべとべとだ。やっぱり腕を掴み、無理矢理体を起こさせる。

 

「ひっ、ひゃあ、あ?」

「ほうら見てみろ、みんなの顔を」

「あっ……あああ……」

 

 クラスメイト、同学年、先輩、教員。世界各国から集まった様々な企業、軍隊の要人達。

 アリーナにいる全ての人々がこちらを見つめている。

 

「これがお前の評価だ」

「あ……」

 

 ISならよく見えるバリアーのその先。こちらに向けられた顔にはいずれも嫌悪感が滲んでいる。この場でそんな顔を向けられた、ということはつまり自身がそれだけ無様な有様ということ。

 ……まあ半分ぐらいは、俺に向けられたものだろうけど。

 

「…………ぁ」

「はい、終わり」

 

 そのまま手を離し、支える物がなくなった体は再び倒れこむ。

 戦意はもうない。続行は不可能。よって──

 

『……試合終了。勝者──九十九・篠ノ之ペア』

 

 ──俺達の勝ちだ。

 

「これに懲りたら、二度と俺に近づくなよ。えーと……あー……」

 

「名前、何だっけ?」

 

 

 

第18話「一回戦・卵塊」

 

 

 




サムって誰だよ

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