学生デビュー決定から約半年後、突如ISを起動できる男性が発見され、世界は大きく動いていた。
(表向きの)一人目は織斑一夏。俺が生み出された織斑計画の成功作、そのつがいとして創られた人外。つまり俺の兄弟とも言える存在だ。どっちが上かは知らないが。
二人目(ホントは一人目)は俺。織斑一夏の存在が世界に発表された直後に束様が公共電波をジャックして発表した。なんとも迷惑な方法だが、あの天災が発表しただけあって疑う者はおらず、世界中が血眼となって捜索するも一切消息が掴めない存在と化している。実際は束様と一緒に飛び回ってただけだがな。
そんな世間の情勢をガン無視して俺は
俺は何もかも初めてだから詳しくは知らないが、束様は「だいじょーぶだいじょーぶ! ちーちゃんに話つけといたから!」と言っていたが大丈夫だろうか。あの人のことだから一方的に事情説明している気がする。とかすかに不安を感じながら辺りを見渡す。本当に話がついているなら、織斑千冬という人がいるはずだが……あの黒髪の人か。
織斑千冬。俺と織斑一夏を生み出した織斑計画の成功作にして、その計画を捨てて弟を取った姉。世間的にはISの世界大会である【モンド・グロッソ】の初代ブリュンヒルデ。今尚最強として一部では熱狂的なファンもいるらしい。
……しかし、一応は俺の姉にも当たる存在なわけだが、目の前にしても何も感じないな。これが初対面だというのもあるが、救われなかった側として何か感じるだろうと思っていた。まあこれからの生活を考えたら一々余計な感情を抱いても意味がないだろう。とにかく話しかけるか。
「すみませーん、貴女が織斑千冬さん…ですよね?」
「ああ、確かに私が織斑千冬だ、君が──っ!?」
「どうしました? 何かついてます?」
気づかれたか? 整形したといっても若干面影が残っているからな。共通する何かを感じたのだろう。
「いや、何でもない。君が九十九透君だな?」
「ええ、俺が透です。今日は入学準備に来ました」
「束から話は聞いている。早速だが色々することがあるのでな、ついてきてくれ」
「はい。よろしくお願いします」
挨拶もそこそこに、門を通って学園を移動する。ちゃんと話はついているようだ。束様に感謝しておこう。
「それにしても、聞いていたよりずっとまともな様子で安心したよ」
「そうですか? 因みにあの人は何と?」
「ああ、要約するとちょっとマシな束だったな」
「は?」
さすがに心外だ。俺自身あまり性格がいいとは思っていないが、あの人と一緒にされるのは絶対に嫌だ。
……これを知られたら怒られるな。
「気を悪くしたか? だが私は少し嬉しいんだ。あの対人スキルが壊滅的だったあいつが他人と関わることができているとわかったのだからな」
「はぁ……、そんなに酷かったんですか?」
「ああそうだな、例えば……おっと、話の途中だがここが目的地だ。」
彼女が立ち止まったのは更衣室。ここで着替え? 制服でも仕立てるのか?
「早速中に入ってISスーツに着替えてくれ。……持ってきてるよな?」
「ええ。というかもう着てます。ISスーツってことは……戦闘ですか」
「それもあるが、とりあえず君がどれだけISを動かせるかの確認だな。一通り基本的な動作をしてもらった後、ここの試験官と軽く戦ってもらう。とはいえこちらも本気ではないし、勝とうが負けようが今後に影響することもないが……大丈夫か?」
「もちろん。幾らか訓練も受けてますから、何時でもいけますよ」
そう言って俺は左足首に巻き付いたそれを指差す。このアンクレットがISの待機形態だ。
基本的な動作なら問題ないだろう。ここへ来るまでの半年間、束様による無茶ぶりだらけの訓練で身につけている。となると戦闘だが……こちらは少し不安だな。無人機相手の訓練は何度かやったが対人経験は無い。このIS学園の教員ともなれば実力も確かだろうし、いくら手加減されていても俺では勝てないかもしれない。
それでも、初戦ぐらいは篠ノ之束の名に恥じない戦いとしようじゃないか。
さあ行こう。
「……そっちは試験官のピット、君のピットはこっちだ」
「あ、すみません」
第2アリーナBピット。俺は上着を脱ぎISスーツ姿となって待機していた。さっき逆方向に「さあいこう」とやらかしたのが若干精神にダメージを与えているが気にしないこととする。
そろそろ指示があってもいい頃だと思うが…
『──九十九君、聞こえるか? 準備ができたらISを展開してアリーナに入ってきてくれ、後は試験官が説明する』
「了解しました。今行きます」
丁度アナウンスが入ったな。こっちはとっくに準備OK。
「行くぞ、【
黒い光が全身を包む。手に、足に、胸に、背に。集まった粒子は装甲へと変化し、ISを形作る。光が消え展開が完了し、そこには一般的なそれよりも小柄な黒いISが立っていた。
触角型のヘッドギア。人型に近い手と逆関節の脚には鉤爪の装甲。本体に対して更に小さいカスタム・ウィングには、効率的に配置されたスラスターが見られる。
まさにこの虫と言える特徴はない。しかし一目見れば誰もが【虫】と形容するそれは、ゆっくりとゲートから飛び立った。
アリーナに着地。辺りを見渡すと遮断シールドを挟んだ先に何人も人がいることが確認できる。観客席の格好を見るマスコミや政府の役人だろうか。やはり二番目の情報はどこも欲しているのだろう。それにしてもいきなり大人数に見られていると何というか……落ち着かない。
そんなくだらないことを考えていると、反対側から和風の武者鎧を思わせるIS──【
「お待たせしました。えーと、貴女は?」
「私は榊原菜月。君を担当する試験官よ」
「榊原さんですか、ではよろしく」
「はいよろしく。じゃあ早速歩行から──」
挨拶もそこそこに試験を開始する。まあこれぐらいならどうってことないが、少し動く度にあちこちから声が上がるのはどうにかしてほしい。珍しいのは自覚しているが赤ん坊じゃないんだから足を上げたぐらいで叫ぶないでもらいたい。
喧しいギャラリーに耐えながらも一通り動作を終えて、残すは試合のみとなった。予想より簡単だったな。もっと高度な動きを要求されると思ったが、まあ他の新入生のレベルに合わせたと考えればこれが妥当か。
「最後は私と戦ってもらうけど大丈夫? 休憩挟む?」
「いえ、不要です。いつでもやれます」
「そう? だったら一旦離れて──始めましょう」
空気が変わる。先ほどまではどこか軽い雰囲気だった試験官は、真剣な表情でこちらを見つめている。ギャラリーからの視線もハイパーセンサー越しに鋭く刺さっている。
『両者、試合を始めてください』
ブザーと機械的なアナウンスが響く。これ織斑千冬の声だな。
「先攻は譲るわ、君のタイミングでいいわよ」
「いいんですか? なら──遠慮なく」
「は──っ!?」
言うが早いか、即座に近接ブレード《No.1
「中々手慣れてるわねっ!」
「厳しく鍛えられたんでね」
「ああそう、でもっ!」
だが当然、いつまでも避け続ける気はないようで、あちらも近接ブレード《葵》を展開する。
「
「!? ぐっ!」
試験官の反撃。俺の攻撃とは違い、一撃一撃が重く、まともに受けて吹っ飛ばされる。大きいダメージは……ない。セーフ。しかしこれが続くのは厳しい。ここは戦法を変えよう。
「《No.2
一度距離を取り、ニードルガンを
「《No.4
《No.4
「くっ、このっ! 鬱陶しい!」
「おわあ!?」
後ろに引きながら《葵》を
ここは凌いで体勢を整えよう。先ずは盾だ。
「《No.7
「……沢山武器があるのね、博士の趣味かしら?」
「さあどうでしょう? まだまだありますよ!」
こいつは小さいが耐久力は折り紙付きだ。量産型のアサルトライフルぐらい簡単に受けきれる。このまま隙を探して…
絶え間ない銃撃。
探して……
絶え間ない銃撃。
隙を……
「全然隙がねぇ!」
いやマジで隙がねぇ。弾切れしても一瞬で
「得意なのは近距離じゃないんですかぁ!?」
「
「ああクソっそうでしたね!」
これは本当に不味い。なんか二丁目の《焔備》を取り出してるし、そもそも手加減はどこいった?いくら盾が堅くても防ぎ続けるのには限界がある。
……あまり手を見せる気はなかったが、もう出し惜しみしている場合じゃないな、
軽く首を傾け、ごきりと鳴らす。そして思考を切り替える。
「榊原さん、でしたっけ。ちょっとお尋ねしますが」
「どうぞ、何かしら?」
「虫は得意ですか?」
「はぁ? ──って、ええ!?」
「《No.11
展開と同時に手から飛び立つソレらは自律式追尾爆弾。目標を感知し、張り付いて自爆する。知る者なら誰もが嫌悪感を覚える、その黒光りするフォルムは。
「これって、ご、ご、」
「吹っ飛べ」
「ゴキブリィィィィ!!!!」
爆発音と共に響き渡る悲鳴。さながら花火だ。音も絵面も汚いが。
「あっはははははは!!追撃いきますよ!」
「ちょっ、待っ」
「待たない! 《Centipede》!」
すぐさま武器を持ち替えて滅多切り。もう逆転はさせない。今度こそ押し切る。
「これでぇ、獲ったぁっ!」
とどめの一撃を振りかぶった瞬間、少し前に聴いた覚えのあるブザーが鳴り響く。
『試合終了。両者はピットに戻ってください』
「は?」
初試合は、勝敗着かずの不完全燃焼で幕を下ろした。
数分後、ピットに戻った俺と榊原さんは二人そろって正座していた。
「まず榊原先生」
「はい……」
「事前に伝えられていましたよね?
「いやぁ、九十九君が思ったよりもやるもので、つい」
「ついで本気を出さないでください。怪我をしたらどうするんです?」
「それは……あはは……」
やっぱ本気出してやがったのかこの人。ほんと一時はどうなるかと思ったぞ。それと織斑千冬怖え、怒られてない俺までビビってしまう。
「君もだ、九十九君」
「はい?」
訂正。俺も怒られるわ。
「はい? じゃない。君にそのつもりはなかったかもしれんが、十分やり過ぎだ。榊原先生が大体悪いがな」
「いやこっちも必死だったので……すみません」
「ハァ……まあいい。後はいくつか聞き取りをして、書類に記入してもらう」
「はーい」
若干納得のいかない部分もあるが、触れるだけ無駄だろう。さっさと帰って休みたいし後は大人しくしていよう。一旦荷物を取りに更衣室へ戻る。
「まったくあの試験官は……俺もやり過ぎたけど」
「そうねぇ、でも面白かったわよ?」
「外野は気楽でしょうねぇ、
「わかるわー。私も時々叱られるもの」
「へぇーえ。で、貴女誰です?」
背後から自然に独り言に紛れ込んだ謎の存在。その正体を確かめる為に振り向くと、そこには悪戯っぽさを含む笑みを湛えた、水色の髪に赤い目の女子が立っていた。手には扇子を持ち、余裕たっぷりの、しかしこちらを品定めするような視線をこちらに向けている。
まさか敵か? いや、ここの制服を着ているのを見るに生徒か。しかしいきなり背後に回ってきたことを考えて警戒は緩めない。
「いやん、私はここの生徒。一応あなたの一つ先輩よ」
「じゃあ暫定先輩。俺なんかに何の様です?」
「うふふ、ただ顔が見たかっただけよ、すぐに出るわ」
「そーですか、ならさっさと出て行ってください」
「ええ、
そう告げて彼女はあっさり更衣室から出て行った。一体何だったのか、というかまた後でってどういうことだ。
「おーい、九十九君。まだかかりそうか?」
「あ、はーい。すぐいきます」
いっけね、待たせちまったか。ひとまず謎の先輩は頭の隅に追いやって準備をする。早く用事を済ませたいものだ。
数時間後。
「よし、これで書類は終わりだ。ご苦労だったな」
「どーも。はー疲れた。今日はもう帰っていいんですか?」
「ん? 束に聞いてないのか?」
「え? 何がです?」
「今日から君は寮生活だぞ」
「……は? え? 寮?」
どういうことだ、全く聞いてないぞ。
『じゃあねー、
あれそういうことかぁ!?
「もう
そう言って織斑千冬が見せる一枚の便箋。腹立つシールと落書きでデコられた読みづらいことこの上ないそこには、
『とーくんの青春はここからはじまる! がんばれ!
ついしん:箒ちゃんによろしく』
「……憶えてろよあのバカ!!」
寮生活が決定した。
第1話「入学準備・初陣」
書き溜めがあまりないのでそのうち間隔空くようになりますね