数分後、性悪とかわいそうな相方に完全勝利を収めた俺達はピットに残されていた。正座で。
「よくもまあ好き放題やってくれたな」
「申し訳ないと思ってます。反省はしてません」
「なんで私まで……」
頭が痛そうな顔で説教する織斑先生。おかしいな、反省するようなことなどした覚えがない……。
「個人間のいざこざに関しては口出しする気はない。が、やり返すにしても時と場合を考えろ。いきなり拷問ショーを見せられた者の気持ちにもなれ」
「あれぐらいかわいいもんじゃないですか、ねえ篠ノ之さん」
「私に振るのやめろ」
「拳骨落とすぞ」
それだけはやめてくれ本気で痛いから。
「はいはいすみませんでした。お望みならアリーナの中心で土下座します」
「そこまでやれとは言っとらん。もう少し考えて行動しろと言うことだ」
「へーい」
バシンッ!
「わかったな?」
「反省します」
痛過ぎる。校内暴力反対。
しかしあの場でやるには少々過激だったことは事実だ。どうせもう《
「話は終わりだ。次が来るから出て行け」
「はっはい!」
「はーい」
ま、次はそんな小細工が通じる相手じゃないけどな。一夏とデュノアだし。
「てことで観戦しようぜ」
「わかった。後でさっきの解説も頼む」
「さすがだぞ! 次の 相手を しっかり 警戒 しているんだな!」
「殴っていいか?」
……開始前に比べたらだいぶ砕けて話すことができてるんじゃないだろうか。進歩だな!
「う~自販機自販機!」
今自販機を求めて全力疾走している俺はIS学園に通うごく一般的な男の子。強いて違うところをあげるとすれば究極の人類を創る計画の失敗作だったり心臓付近に謎の機械があるってとこかナ……名前は
ふと見るとベンチに一人の若い女が座っていた。
「うわっ、ボーデヴィッヒじゃん」
「…………」
「お、無視」
なんでこんな所に座ってんだこいつ。顔を見れば焦点の合わない目で何もない空間を見つめている。一夏に負けて放心状態にでもなったのだろうか。
「……ああ、九十九透か……私を笑いに来たのか……?」
「いや、飲み物買いに来ただけ」
「…………」
わかったら通りづらい雰囲気出すのやめてもらえないかな。早く戻りたいんだ。
「……何故だ」
「あん?」
「何故私は負けた? 実力が劣っていたとは思えない。なのに、なのに私は負けた。何故だ。教えてくれ、九十九透」
「はあー?」
相当参っているみたいだな。どうして負けたかはまだわかってないみたいだが。
……それにしても「教えてくれ」か。しおらしくなっちゃって……つまらん。
「だからお前はダメなんだ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「何をっ」
「黙って聞けよ、負け犬」
「っ! ……」
よし黙った。正直シカトしたっていいが、今は気分がいい。どうせ後で妹様に解説するんだ。今話してもいいだろう。
「自分を過大評価し、相手は過少評価。このトーナメントがペアでの戦いということを忘れ、一人で全部倒そうとする。これじゃあ勝てるはずもない」
「ペアがどうした? 抽選で組まれた味方など、戦力には──」
「確かに弱いだろうさ、だが弱い駒は弱いなりに利用できたはずだ。囮なりサポートなりな」
「ぐっ……」
「だがお前はそうしなかった。ハナから戦力外と決めつけて放置。そんなんだから直ぐに二対一でボコられるんだ」
あの試合、仮にボーデヴィッヒが相方をうまく使っていれば十分に勝機はあった。
一年生の単独での戦力No. 1は間違いなくボーデヴィッヒだ。デュノアとでも一対一なら勝てた可能性が高い。相方を一夏にぶつけて足止めし、デュノアを処理してから一夏を仕留めればそれで勝てたんだ。
しかし現実は、一夏にご執心の余りデュノアを放置し。その結果あっけなく敗北となった。
「他にも色々突っ込みどころはあるが……取り敢えず一番の問題はそこだよ。ここが駄目な時点でまず勝てない。一夏達は勿論、俺にもな」
「……」
例えば、プラズマ手刀とワイヤーブレードをメインに戦ってたこととか、AICを過剰に信じすぎてることとか。これらはレールカノンをもっと積極的に使うなり、AICの使用はここぞという一瞬に留めておけばもう少しマシだった。とにかくそういう細かい粗が盛り沢山。
「なんて酷い戦いだ。軍人とは思えないないぜ。織斑先生も嘆いているんじゃないか? 教え子がこんなに馬鹿だったなんて」
「! ……違う」
「いや、怒ってるかもな。大勢が見てる前でこんな失態を犯されたんだ、恥みたいなもんだよなぁ」
「やめろっ! あの人はっ、教官はっ!」
必死に否定しているが、明らかに狼狽している。このへんにしといてやるか。
「解説は終わりだ。よーく頭を冷やすんだな、負け犬」
「……違う、違う、私は……」
その後も小さく何かを呟いていたが、聞こえないフリをした。
もう関わりたくないしな。
「……と、言うことがあったので遅くなりました」
「そ、そうか……」
結局戻ってくるまでに一試合終わってしまった。どうせ大した試合でもないんだろうけど、その内当たる可能性があるわけだし見ておきたかったな、と思いながらお茶を投げ渡す。
「言い訳ついでに解説もしちゃったわけだけど、まだわからないこととかある?」
「そうだな……。では、鈴とセシリアが負けたのはどういう理屈だ? いくら連携が取れていなかったとしても、あれ程の差がつくとは思えないんだが」
「あれは初見殺しが原因だよ。もしもう一回戦うことがあれば余裕で勝てるだろうな」
実際に見てわけではないから断定はできないけども。後は挑発に乗せられて頭に血が上ったとかそんなところだろう。どちらにせよ、次はない。
「今日は後何試合だっけ?」
「ここでは四試合だな。もう始まるぞ」
解説も済んだし、今日はもう観戦だけ。二回戦進出を決めた特権として、高みの見物と行こう。
「お、簪と布仏さんじゃーん」
「簪……知り合いか?」
「友達」
がんばえー。
「お」
「あ」
夜。何となく寮の廊下を彷徨いていたところ、共有スペースに人影を見る。
次の対戦相手、一夏だ。
「よう」
「おう」
「……座れよ。ちょっと話そうぜ」
誘われるままに、少し離れてベンチに座る。一夏は自販機でお茶を買い、こちらに差し出す。奢ってくれるらしい。
「サンキュ」
「ああ」
キャップを開けて一口。一夏新しく買って飲んでいる。
一息。無言。誘いに乗ったはいいが、特別話すことがない。えーと……。
「デュノアとはどこまで進んだんだ?」
「急に何言ってんだお前」
いかん唐突過ぎた。凄い顔してこちらを見ている。
今まで誤魔化していた対人経験の少なさがバレる。
「今のなし」
「おっおう」
「…………」
「…………」
……静かになってしまった。普段はくだらない話ができるが、こういうなんとなく真面目な雰囲気は慣れない。
「……見たよ、透の試合。
「そうか? お前はああいうの嫌いだと思ってたから以外だな」
我ながら《
「いや、実は俺知ってたんだ。透の対戦相手のこと」
「へぇ」
「先月だったか、いきなり絡んできてさ。俺に色々まくし立てられたんだ」
「それはそれは」
こいつも被害者だったのか。本当に男が嫌いだったんだな。
「だからまあ、あの試合は正直スッとした。シャルルはドン引きしてたけど」
「はははは。そういう武器だからな、SAN値判定狙い」
「……明日も使う気か?」
「さぁなぁ。状況によりけりだな」
「やめてくれよ……」
こんな反応されると使いたくなるな。一個は入れとこう。
「お前の試合もよかったぞ。いい連携だったな」
「練習したからな。勝ててよかった」
「篠ノ之さんともあれぐらい連携できるといいんだけどなー。少し武士道重視しすぎてるとこあるよな」
「確かに……ってそうだ。なんで箒と組んでるんだ? 仲よかったっけ?」
「今更かよ」
確かに言ってなかったけどさぁ。幼馴染なんだからもっと話しておけばよかったのに。
いや、避けられてるんだったっけ。
「俺から頼んだんだよ、締め切りぎりぎりにな」
「本当か? 脅したりしてないか?」
「ねえよ」
こいつ俺を何だと思っていやこの間脅したばっかりだったごめん。
「相方の話はともかく……明日はよろしくな」
「ああ……よろしく」
「手抜くなよ」
「そっちこそ」
それだけ交わしてベンチから立つ。なかなか楽しい話ができた。
……明日の試合、お互い不完全燃焼だった代表決定戦のリベンジがかかっている。負けられない。負けたくない。
最初は適当に流すつもりだったが、今では俄然やる気が出ている。目指せ優勝俺が最強だ。
「……寝るか」
翌日。再びBピットにて。
「さて、一応作戦の確認でもしておこうか」
「ああ、私が一夏、九十九がデュノアの相手をする。片方を倒したらもう片方に集中。でいいんだな?」
「そうそう」
分断しての一対一。個人の戦力差と連携のレベルを考えての作戦だ。二対二では間違いなく歯が立たない。かと言って一方を放置しては後ろから撃たれるのがオチだ。妹様の性格を考えてもこれが一番適している。
「しかし、これではボーデヴィッヒと同じではないか?」
「あっちは連携放棄、こっちは作戦。ちょっと違うのさ」
「そうか……?」
納得していない様子。まあ予想内だ。勿論ちゃんとした理由もあるけどな。
「まず向こうのコンビネーションは中々練られてる。俺達もいくらか練習したと言っても所詮は付け焼き刃。下手に挑めば速攻で崩される」
「むぅ……」
「その点、一対一かつ相性を考えてぶつかればそれなりに戦える。篠ノ之さんも一夏の動きはある程度知ってるだろ?」
「ああ。だが一夏には零落白夜が……」
「そこは問題ない。篠ノ之さんには使われないから」
零落白夜は脅威だ。まともに当たれば一撃必殺。掠っただけでも大ダメージは免れない。近接タイプの妹様なら警戒するのも当然だろう。
「あれは確かに強いけどリスクがでかすぎ。下手に使えば相打ちどころか自滅する。たぶん負けるギリギリか、片方墜とすまでは取っておくと思うよ」
「ならお前はどうする気だ? デュノア相手では不利なのではないか?」
「おっ、篠ノ之さん冴えてんじゃん」
この指摘は大正解だ。俺とデュノアに対して相性が悪い。火力も耐久も完全に負けてるからな。おそらく勝率は半分、いや三割もないだろう。
「でも篠ノ之さんじゃもっと不利になる。得意の近接は完全に封じられるからなー」
「この組み合わせが一番マシだと?」
「経験の差まで考えたらね。それに俺だって無策で突っ込む気はないし、いざとなれば
「あれ本当に使うのか……?」
当然俺だって、時間稼ぎなり倒す方法なり戦う算段はついている。
「九十九くーん! 篠ノ之さーん! 準備お願いしまーす!」
「はーい!」
山田先生の声だ。今日の担当はこっちらしい。
「さぁー出撃だ。大丈夫高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応すればいけるって」
「要するに、行き当たりばったりということではないか?」
へーきへーきなんとかなるって!
ならなきゃ負けるだけだよ。
ぼきっ。
アリーナへ入れば、昨日よりも遙かに多い観客。誰しもが今か今かと試合開始を待ちわびている。
数少ない男子三人と、あの天災の妹が戦うとなればそれも当然か。
「よお、調子はどうだ? 便所行ったか?」
「絶好調。そっちこそ漏らすなよ」
「あはは……。よろしくね篠ノ之さん?」
「……ああ」
『両ペアは位置についてください。試合開始まで、5、4──』
「作戦通りに、ね」
「わかっている!」
「頼むぜ、シャルル!」
「任せて!」
『──1──試合開始』
開始のブザーと同時に一夏が瞬時加速。狙いは俺、しかし問題はない。なぜなら──
「篠ノ之さん!」
「はあっ!」
「箒!?」
突撃する一夏を正面から受け止める妹様。このまま抑えといてくれるとありがたい。
「一夏っ!」
「行かせねえ、よっ!」
カバーに入ろうとするデュノアへ銃撃。合流なんてさせない。させれば終わりだ。
「お前の相手は俺だ」
「……仕方ない!」
互いにブレードを展開。正面からぶつかり合う。
一先ず分断は成功。後はどちらかを倒すまでもう片方は耐え凌げばいい。
「やっぱり篠ノ之さんから狙いに言ったなぁ! 予想通りだぜ!」
「くっ! バレちゃってたか!」
《
「負けないよっ!」
「うおっ!?」
デュノアがアサルトライフルを展開。両手で構えた銃口が火を噴く。
「ちいいっ!」
「まだまだっ!」
二丁のショットガンを展開。連射しつつ距離を詰められる。おそらく再びブレードを展開する用意もしてあるだろう。やばいな、このままじゃペースを握られる。
これが『
「け・れ・どっ……突破口はあるっ!」
「うわっ!?」
《
「それは昨日──」
「ああ見せた。だから今日も使うとは思わなかったよなぁ!」
一瞬の隙を突いて一撃。慌てて装備を切り替えるまでにもう一撃。そして離脱する。
「っく。吃驚した。君って意外と大胆なんだね」
「まあな。縮こまってちゃー勝てない」
いったん距離を取り、互いに呼吸を整える。
軽く一夏と妹様の方を見れば、なかなかいい勝負している様だ。さすが、選んで正解だったな。
だがこのままじゃジリ貧だ。長引けば長引くほど俺は不利になるし、いつ一夏が零落白夜を使うかもわからない。とっておきを使うなら──
「今だよ篠ノ之さん!」
「……了解! 一夏、悪く思うなよ!」
「はっ? ……うおおおおお!?」
指示を受けた妹様が引き、俺が構えたのは白い球体。一夏と向かって投げられたそれは昨日の試合を見た者なら誰でもわかる。
「透てめええええ!?」
「一夏ぁー!?」
「あっははははは! 隙ありぃ!」
たちまち球体からあふれ出した虫まみれになる一夏。事前に情報があったところで、実際に食らえばそんなものは全て吹き飛ぶ。それが不快感全振り武器の強みだ。
そうして生まれた特大の隙に妹様が切り込み、向こうに気を取られたデュノアに俺が一撃を加える。
否、加えようとした瞬間。
ッドォン!
「うおっ!?」
「今度はなんだぁっ!?」
「なっ!?」
「わあっ!?」
背後に起きた爆発。誰かの武器が暴発した? いや違うらそんなはずはない。
爆発の起きた地点、たった今外から突き破られたばかりの遮断シールドを見る。
そこには、
「アア゛ア゛アアア゛ーッ!!!」
「何だよ、あれ……」
身が裂けるような絶叫をあげるボーデヴィッヒと、その身を包む黒い粘土細工のような何かがあった。
第19話「負け犬・二回戦」
嘘ですもう一話あります