【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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年内最後の初投稿くれてやるよオラ!(弐撃決殺)


第20話「一閃・✕」

 

 ──戦うためだけに作られた存在が、戦いですら役に立たなければどうなる?

 

(負けた。負けた。負けた。無様に、惨めに、教官の見ている前で)

 

 『事故』でトップの座から転落し、出来損ないの烙印を押された私を救ってくれた光。

 教官がいればどんな訓練も、部隊員の疎みも苦にならなかった、ただ側にいられるだけで、その強さと凜々しさを感じられるだけで強くなれる気がした。

 

(私もこうなりたい。この人のように、強く)

 

 だが一つ。大きな不満があった。

 

「私には、弟がいる」

 

 時折見せる優しい笑みと、気恥ずかしそうな表情。それを浮かべるとき、教官は決まって弟の話をしていた。

 その笑顔を見るのが何よりも嫌だった。

 教官は私の憧れ、私の理想、私の全てだ。それを汚す存在を、私は絶対に認めない。

 

(だから、敗北させると決めていたのに)

 

 結果は私の敗北。完膚なきまでに叩き伏せられたのは私だった。

 

『織斑先生も嘆いているんじゃないか? 教え子がこんなに馬鹿だったなんて』

 

「──違うっ……」

 

『大勢が見てる前でこんな失態を犯されたんだ、恥みたいなもんだよなぁ』

 

「私は──あ」

 

 当てもなく、ふらふらと彷徨い歩いて辿り着いたのは整備室。昨日の戦いで大きなダメージを負った【シュヴァルツェア・レーゲン】が収められた場所。

 

 そこからは無意識だった。()()()()()()()()()()()()()()扉を開け、修理中のレーゲンの前に立つ。

 私の奥底で何かが蠢く。目の前のそれが語りかけてきた。

 

『──願うか。汝、自らの変革を、より強い力を欲するか……?』

 

 力が手に入る。なら答えは言うまでもなく。

 次の瞬間、この身は変形した装甲に包まれていた。

 

Damege Level ……D.

Mind Condition ……Uplift.

Certification ……Clear.

 

《Valkyrie Trace System》……boot.

 

 

 

 

「……で、何だよありゃあ」

「俺が知りてえよ……」

 

 爆発から数秒後、ピットから降り立ったそれは、のっぺらぼうの頭で静かの様子を窺っている。

 先ほど一瞬中身を見ていなければ、それがボーデヴィッヒだとは思わないだろう。

 

「まともな様子じゃないね。乱入してきてまともも何もないけど」

「そうだな……どうする? こうなっては応援を待つか?」

「そうしたいけど……でもなー」

 

 これは完全に非常事態。それを告げるアナウンスも流れているし、観客席の保護シャッターも降りている。直に教師部隊が送られるだろう。

 ──が、あちらはいつの間にか生成したブレードを構え、臨戦態勢を取っている。

 

「完全にやる気っぽいぜ。奴さん」

「あれは……」

 

 刹那。一夏の元に飛び込んだそれが剣を振るう。どこかで見た、しかしそれよりも遙かに洗練された一撃がかろうじて構えられた雪片弐型を弾き飛ばす。

 これは……織斑先生の動きか? 記録でしか見たことはないが酷似している。

 

「ぐうっ!」

 

 大きく体勢を崩す一夏。敵はすぐさま上段の構えに移る。このままじゃ真っ二つだ。

 

「一夏!」

「箒!? ……うわあっ!」

 

 またギリギリで箒がカバー。しかし完全には防げず、二人まとめて強烈な一撃をもらう。

 シールドエネルギーが底をついたか。白式が粒子となって消える。

 

「デュノア!」

「うんっ!」

 

 これで一夏は戦闘不能。妹様もまともに戦えない。なら俺達が時間を稼ぐしかない。

 

「理由はわからんが死ねっ!」

「物騒すぎない!?」

 

 どうしてこんな所に来ているのかは知らん。あの様子じゃきっと自我もないんだろう。

 だがそんなことは知ったこっちゃない。あいつは間違いなくこちらを殺しに来ている。ならばこちらも相応の力で対抗しなければ殺される。

 《Centipede》を振るう。しかしそれは容易くいなされ。再び構え直される。デュノアの銃撃も同じ。ほとんど効果がない。

 

「待ってくれ!」

「今度は何だ!?」

 

 もう一撃入れようとした瞬間、背後から一夏の声。何故呼び止める?

 

「そいつは、俺がやる」

「馬鹿言うな、お前はもうエネルギー切れだろうが」

「見ろ、あいつは俺を狙ってる。だから、俺がやらなきゃいけない」

「はぁ? ……あー、なるほど」

 

 言われてみれば確かにその通り。奴は一夏に攻撃した後はこちらに向かってくることはしていない、俺達が攻撃してもいなすだけだった。

 こちらが動きを止めた今も、飛びかかって来ることはない。静かに剣を構え、一夏を見ている。目ないけど。

 まるで『今度はお前から来い』と言わんばかりだ。口もないけど。

 

「確かにお前を狙ってるな」

「だろ?」

「だがお前が生身なのは変わらんぞ、第一ISも無しにどうする気だ?」

 

 そうだそうだ言ってやれ妹様。待っていれば教師部隊が来るんだ。後は任せればいい。

 

「っそれは──」

「無いなら持ってくればいいんだよ。ね?」

「シャルル……!」

 

 ふわりと側に降り立つデュノア。『持ってくる』? エネルギーを? 今補給する方法なんて──

 

「普通は無理なんだけどね。僕のリヴァイヴなら、コア・バイパスでエネルギーを移せる」

「……そーいうことね」

 

 なるほどな。そんな手があったか。確かにそうすれば満タンとまではいかずとも、一撃入れるぐらいにはなるだろう。

 だが……。

 

「待て待て! さっきはまともに反応もできなかったことを忘れたか? 今度は死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

 だよな。チャンスがあってもそれを者にできるかは別。こんな危なすぎる賭けには賛同しかねる。

 

「負けないさ。ここで負けたら男じゃない。信じてくれ、箒」

「!」

 

 さっきまでの焦りの混じった表情が嘘のよう。真剣に、冷静な瞳で妹様を見つめる一夏。結果。

 

「わ、わかった……」

 

 妹様がデレた。もう少し食い下がってくれ。

 

「だがっ! 負けたら承知しないぞ! 女子の制服を着せてやる!」

「はぁ!?」

「いいね、僕も手伝うよ」

「おいおい……」

 

 酷い罰ゲームが課せられたが、張り詰めた雰囲気がほぐれている。あれ、反対してるの俺だけになった。

 

「わかったよ。危なくなったら助けてやる。昨日のお茶の分だ」

「じゃあ決まりだね。一夏、白式を出して」

「ああ。頼む」

 

 エネルギーの譲渡を開始する二人。作業は順調らしい。

 

「できた。一極限定なら、これで展開できるはずだよ」

「それで充分だ」

 

 右腕装甲と、雪片弐型のみを具現化。ゆっくりとボーデヴィッヒに歩み寄りながら、居合いの構えを取る。

 

「一夏っ!」

「ん?」

「死ぬなっ! 絶対、絶対に勝ってこい!」

「……行ってくる!」

 

 ……この応援に意味があるかは知らないが、一夏の集中力が格段に上がっている。これが青春パワーか。

 

「零落白夜」

 

 エネルギー刃を展開。必殺の威力を持つ刃は、普段の大きさから少しずつ小さく、鋭く変形し、日本刀に似た形へ集約される。

 

「……!」

 

 黒い刃が振り下ろされる。おそらくは、織斑先生と同じ技。常人なら何もできずに切り裂かれるだろう。

 だがしかし。

 

「猿真似だ」

「!?」

 

 横一閃。腰から抜き取られた白い刃がそれを弾く。

 そしてすぐさま上段に構え、縦に真っ直ぐ的を断ち切る。

 

「一閃二断、かーっこいい」

「じゃあな。偽物野郎」

「ぎ、ギィ……がッ……」

 

 紫電が走り、ぱっくりと敵が割れる。中からは無傷のボーデヴィッヒ。気を失う一瞬、赤い右目と眼帯が外れた露わになった金色の左目が見開かれる。

 

「……まぁ、このくらいにしといてやるよ」

 

 一夏はそのまま崩れ落ちるボーデヴィッヒを抱きかかえ、ひとりそう呟いた。

 

「女装は無しか」

「おい」

 

 ちょっと見たかったんだよ。

 

 

 

 

「『トーナメントは事故により中止。但し今後のデータ指標とするため全ての二回戦は行うものとする』……だとさ、俺達はもう終わった扱いらしい」

「ふーん。あ、七味取って」

「はいよ」

「ありがと」

「聞けよ」

 

 事情聴取から解放され、終了時刻ギリギリの食堂。シャッターの内側で何があったのか聞きに来た女子達を宥めてから俺達は食事中。

 重大な告知があると言われてテレビを見ると先ほどの内容。結局アレは事故で通すらしい。

 ……どう見ても何者のかの仕込みがあった気もするが。それは裏で処理がなされるのだろう。

 

「ごちそうさま。やっぱりここの料理はうまいなぁ」

「そうかそうか。で、あっちはどうする? おやつもらえなかった犬みたいな顔してるけど」

「犬……?」

 

 さっきまでこちらの話が聞けるのを今か今かと心待ちにしていた女子が、今では名探偵〇カチュウの様にしおしおの顔になっている。生きるのに疲れてそうだ。

 ……理由は大体察しがつくが。

 

「優勝……交際……」

「ペロペロ……クンカクンカ……」

「ご奉仕……」

「……うわああああああんっ!」

 

 バタバタと数十人の女子が走り去る。怒られるぞ。

 

「どうしたんだ?」

「さあ……?」

「ほっとけ」

 

 どうせ勝手に流れた噂だ。もう考えたって意味はない。無効になってるし。

 それよりも、残った一人を気にするべきだ。

 

「…………」

「あ、箒」

 

 FXで在り金全部溶かした様な顔になっているが、おそらくこちらも一夏に用があったのだろう。

 きっと優勝賞品(そんなものはない)の話か。

 

「じゃ、俺はこれで……」

「あっおう」

 

 これから起きることを察し、そそくさとこの場を離れる。別に気を利かせたわけじゃない、どうせろくなことにならないに決まっている。

 織斑一夏は朴念仁だ。

 

「──、────」

「──────」

「────。……!!」

「ぐはぁっ!!」

 

 ……ほらな。

 

「あ、九十九君。さっきはお疲れ様でした」

「山田先生もお疲れ様です。それで、何か用でも?」

「はいっ朗報です! なんと今日から男子の大浴場が解禁されます!」

「おおー。あれ? 来月からじゃありませんでしたっけ?」

「それがですねー。今日はもともとボイラー点検で使えない日だったんですけど、予想より早く終わりまして。なら男子に使って貰おうという計らいになったんです!」

 

 へー。一夏が聞いたら喜びそうだな。あいつ湯船に浸かりたいって毎日の如く言ってたし。

 俺? 別にどうでもいい。ぶっちゃけシャワー派だし今日は……ん? 男子に使わせる? てことはデュノアも入るのか?

 まずくね?

 

「……じゃあ二人には俺から伝えときますよ。鍵も預かります。あがってたら返しますね」

「いいんですか? じゃあ、お願いします! 肩まで浸かって百数えるんですよ?」

「はーい」

 

 すたすたと歩いていく山田先生を見送り、渡された鍵をくるくる回す。こっちはカードキーじゃないのか。

 

「……さーて、どうすっかなー」

 

 

 

 

「……で、鍵だけ二人に渡して戻ってきちゃったの?」

「そりゃそうでしょう、女子と風呂入れるわけないでしょう」

「でも一夏くんは生け贄にしたんでしょ?」

「はい」

 

 どうせあいつなら間違いは起こらないだろう。今頃全裸で背中合わせしながら会話とかしているよきっと。

 

「そうだ。そろそろ今月も終わりますけど、デュノアの男装の件はどうなったんです? 強制送還? それとも残留?」

「んー。それについては、明日のお楽しみってことで」

「……大体わかりました」

 

 この様子だと残留かな。てことはまた部屋替えするのか壊れるなあ。

 

「山田先生には頑張って欲しいわね……」

「……今度労ってあげよう」

 

 鬱病で休職だけは避けなければ。

 

「…………」

「…………」

 

 話題が途切れてしまった。正直俺に話すことはないのでもうシャワー浴びて寝てもいいんだが……。

 

「……、………」

 

 先輩はまだ何かある様だ。わかりやすくモジモジしながらこちらを見ている。

 仕方ない。こっちから聞こう。

 

「「あのっ」」

「「あ」」

「「そっちからで」」

「「……じゃあこっちからで」」

「「…………」」

 

 完全に被った。再び沈黙が部屋に満ちる。いつもなら雰囲気にはならないというのに。

 

「……話さないならもう寝ていいですか?」

「待って! 言う! 言うから!」

 

 慌てるぐらいならさっさと話してくれ。大したことはしてないけど疲れてるんだ。

 これでふざけたことだったら怒るぞ。

 

「……ありがとう。簪ちゃんのこととか、本当に。感謝してます」

 

 ……こういう時は素直だな。

 

「どういたしまして、じゃあ俺はシャワー浴びます」

「あっ……もしかして、照れてる?」

「ちーがーいーま-すー。疲れちゃっただけですー」

 

 本当に切り替えが早い人だ。素直に返したのは間違いだったかもしれない。

 

「やーだ透君かわいいー! お姉さんが背中流してあげよっか?」

「やってみろ織斑先生召喚するぞ」

「すいませんでしたっ!!」

 

 

 

 翌日。朝のホームルームが始まるも、クラスには一人足りない。デュノアとボーデヴィッヒだ。後者は負傷とかだろうが、前者は……何だろう。

 まさか強制送還? いやそれはないか。きっとこれから答え合わせなのだろう。

 

「今日は……転校生を紹介します……。でも紹介は済んでて……えーと……もう入ってきてください……」

 

 昨日はそこそこテンションが高かった山田先生がフラフラしている。

 クラスメイトも先生の苦労を察してか、茶化すような言動はなくなったが騒がしくなる。

 

「失礼します」

 

 この声は──ああ、そうなったか。

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん改めてよろしくお願いします」

「デュノア君はデュノアさんでした! 終わり! 閉廷! 以上! これから寮の部屋割りを組立て直します!」

 

 山田先生は頑張ってくれ。いや本当に。

 

「え? は? 女?」

「美少女じゃなくて美少年だったのね!」

「逆だ逆」

「もう八割描き上げちゃったんだけどどうしてくれんのよ(逆ギレ)」

「そのまま出せ(懇願)」

 

 言いたい放題だな。しばらくこの喧騒は収まらなそうだ。

 授業の準備をしつつ、この後起きるであろう更なる騒ぎの為に耳栓を装着する。と同時に教室の扉が吹き飛ばされる。

 

「死ね!!!」

 

 耳栓を貫通する殺意を放つのは二組の凰。専用機はもう直ったのか、今にも衝撃砲を発射しようとしているけどおいまてこんな狭いとこで撃ったら俺も巻き込まれるだろやめ──

 

「……はっ、生きてる!」

 

 へっ雑魚が効かねぇんだよ! しかし何故無事なのか……と、前を見てみれば、いつの間にか凰と一夏の間に割って入っていたボーデヴィッヒ。

 その小さい体には専用機【シュヴァルツェア・レーゲン】。AICで衝撃砲を止めたか。昨日の件で大破したと思ったが、予備パーツで組み直したか。

 あ、キスした。ん、キス?

 

「!?!?!!!?」

「お前……嫁……ん!」

 

 耳栓してるから全然聞こえない。が、大体わかった。一夏が嫁入りするんだな!

 さて、予想を遙かに超える衝撃的な告白? を見たところで、衝撃砲どころでは済まない惨劇を予想し目を閉じる。

 

「もっといい耳栓、探すか……」

 

 三秒後、教室が揺れた。織斑先生はキレた。

 

 

 

 

「だから違うってばー。完璧で十全なこの私が……VTシステムだっけ? そんな不細工な物作らないよ」

 

「そーそー。あと、それ作ったとこはさっき潰しといたから。あれくらい朝飯前……って、私まだ朝食食べてないや」

 

「はーいちーちゃん。()()()()()()()()

 

「ダメって言われても行きまーす。ばいばーい」

 

「うふふ。あはは。あっはははははははっうえげほっ」

 

 ありとあらゆる機械部品で埋め尽くされた部屋。その中心で一人笑いちょっとむせる。

 確かにVTシステムなんて模倣しかできない物は作っていない。作ってはいない、が。利用はさせてもらった。

 ……思っていたのとは少し違った流れになったが、それもまた面白い。この天()の頭脳でも、人の心はわからないことがわかった。

 

「さぁーて、そろそろかな」

 

 キンキンキンキンキンキンキンキン! キンキンキンキンキ──

 

「きたきたぁ!」

 

 ピッタリ予想通りにかかってきた電話。酷すぎる着信音に設定していたことを忘れて一瞬びっくりしたが刹那で忘れる。

 この着信音が鳴るのは初めてのこと。しかし相手はわかっている。

 

「やあやあ箒ちゃん! ビックバンの前から待ってたよ!」

 

「……うんうん。皆まで言うな皆まで。勿論用意してあるよ。オンリーワンにて代用なきもの(オルタナティブ・ゼロ)最高性能(ハイエンド)にして規格外仕様(オーバースペック)。箒ちゃんのためだけの専用機。白と並び立つもの。その名は──」

 

 

 

 

「──【紅椿(あかつばき)】」

 

 

 

第20話「一閃・兎」

 

 

 




次回は来月半ばか、それ以降になると思います。
企画用の短編書いてるせいでこちらはまだ一文字も書いてないもので……

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