ぼくは受験生じゃないのでニヤニヤしながらTwitter見てますね。
臨海学校二日目。今日の予定は夜まで各種装備の試験運用とデータの採取だ。特に国家代表候補生達は大量の装備が届いており、休む暇はなさそうだ。
勿論国家とはなんの関わりもない俺にはそんな物は届いていない。
「何ですかこれ?」
「【Bug-Human】の新装備! その名もっ《No.13
「はあ……」
その箱を持ち自慢げに説明するは昨日も会った天災篠ノ之束様。つい先ほど本日の予定を通達され、いざ作業開始となった瞬間に現れたこの人は周囲の目線を気にすることなく堂々と振る舞っている。この肝の太さはどこで買えるのだろう。
それにしても
「なんとなんと! これはただの武装ではなぁい! 【Bug-Human】だけの機能特化専用パッケージ、『オートクチュール』なのだっ!!」
「へえ」
「反応うっす!!」
「いや、このタイミングで渡すんですからわかりますよ。どうせ水中機動用とかでしょ?」
「ぎくっ」
なんでISで水中戦を想定しているのかは知らないが。
「ぶー、つまんないの。じゃあ
「はいはい。データはどうします?」
「今回はいっくんから取るからいいや! 後でレポートにでもしといて! じゃ!」
「了解で……早っ」
返事も待たに飛んで行ってしまった。やっぱり妹様のことになると早いな。
……さて、あちらではまた騒ぎが起きているが知ったことではない。新装備のテストといこう。
「量子変換……完了。よし」
「なになに~?」
「オートクチュールとか聞こえたけど……?」
簪と布仏さんが寄ってきた。自分の作業はどうした、あの騒ぎで進んでいないのだろうか。
……別に見られて困る物じゃないしいいか。
「水中機動特化パッケージらしい。俺も起動するのは初めてだ」
「見たい見たーい!」
「わ、私も……」
「オッケー、じゃあ見てな」
【Bug-Human】を展開、と同時に問題なく量子変換されていることを確認。いつも通り装備の名を叫ぶ。
「《No.13
全身を黒い粒子が包む。普通の武器なら手元に集中するそれが全身に広がっているという点が大きな違いだろう。
粒子が全身に追加装甲を形成。手には鎌を、背には羽を、口元には針を。
「これは……」
「なんというか……」
「「ダッサ」」
「何を言う!?」
確かに奇抜なデザインだが、ダサくはないだろう? 昆虫──タガメ──のフォルムを取り入れたこのプロポーション。機能的と言ってくれ。
「シルエットがコロッケみたい」
「コロッ……!?」
いきなり揚げ物扱いは酷すぎる。ちゃんとこの形にも意味があるはずなのに。
「大事なのは性能だ! さっさと海行くぞ海!!」
背中に付いた羽を動かして海へ飛ぶ。なかなか楽しい……けど遅いなこれ。水中戦特化だけに他方面の性能は期待できなさそうだ。
そんなことはどうでもいいんだ。早く水中へ!!
あくまでこれは試験運用とデータ取りだ、レポートも書かなきゃいけないしな。
……別に遊び足りなかったとかではない。ないったらない。
「Foooooooooo!!!!!!」
「うるさっ」
この後めちゃくちゃ
「水中での機動力は凄かったな……ちょっと早すぎて慣れるまで大変だった」
勢い着けすぎて海底に激突するとはな。もっと深いところでテストすべきだった。そんなアクシデントはありつつも、とても楽し、有用な装備だと確認できた。お土産も見つけたし、束様に感謝だ。
「お陰で置いてかれたけどな!!」
時刻は十二時、ついつい時間を忘れて二時間近く泳いでいた。戻ってみれば集合場所には誰もおらず、通知を切っていたメッセージファイルには大量の招集命令が貯まっている。
……やばい殺される。とにかく招集場所。旅館の意志何時へ急ぐ。
「ただいま戻りました……ん? 一夏と箒h」
「遅い!!」
「すいませんでしア゛ッ!!」
やっぱり折檻を喰らった。俺の自業自得だがこれは痛い。
と。そんな痛みは置いといて。招集場所に一夏と妹様がいない。いや妹様は専用機持ちではないし当然だが、こういう場にはいるものだと思っていたから不思議だ。一夏も、専用機持ちなのだからいて当然のはずだが……。
「篠ノ之は今日から専用機持ちとなった。詳しくは今送ったファイルを見ろ」
「へー……【
「驚かないんだな」
「あの人ならやるでしょう」
「……そうだな」
今頃第十二世代機とか考えているだろう。流石にそれはないか。
しかし、まだ二人がいないことの説明にはなっていない。
「それに関してはこれを見ろ」
「ふーーん……【
「そういうことだ」
手渡された資料に目を通す。大雑把に纏めるとこうだ。
アメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS【
「それで二人がいないんすね。で、この暗ーい雰囲気は何です? 誰か死にました?」
「
「……なるほど」
だから空気が終わっているわけか。織斑ではなく一夏と呼んでいることで織斑先生も動揺していることが感じ取れる。
「では今は待機と。部屋戻っていいですか?」
「ああ。状況が変わるまでは各自現状待機、今度はいつでも招集に応じられるようにしておけ」
「りょーかいですっと。ああそうだ、その一夏がいる別室ってどこです?」
「……そこを出て突き当たりを右だ」
「どうも」
別に瀕死の一夏に用はない。用があるのは妹様の方だ。
「いたいた。うーわマジで瀕死じゃん」
「…………」
「篠ノ之さんもいるな。よしよし」
幾つもの管が繋がれ、包帯でぐるぐる巻きの一夏が布団に横たわり、その側にリボンを外した妹様が項垂れている。
その背には今の彼女の気持ちを表現しているようだ。
「やあ、君はピンピンしてるんだな」
「…………」
「どんな戦い方してこうなったんだ? 負傷のレベルが違いすぎるだろ」
「…………」
「だんまりか」
折角距離が縮んだと思っていたんだがな、また離れてしまったかな。
「【紅椿】の乗り心地どうだった? 凄かったろ? 楽しかったろ? こんな事態を招くくらいだ」
「っ!」
「あ、慰めとか期待してた? 悪いけど、そういうのは期待しないでくれ」
する意味もない。
「……私のせいだ、わたしが、一夏の役に立ちたくて、そのための力を望んで……」
「
望んだ、ね。いきなり束様が来たのはそういうことか。福音の暴走もマッチポンプといったところか。
この状況もあの人の計算内? またろくでもないことを考えているな。
「ま、死なないだけよかったじゃないか。 君も、一夏も」
「……何もよくない! こんな大怪我をしてっ……」
「そうかな? 重傷だろうが軽傷だろうが関係ない。生きていられるならそれで十分だろ」
死んだら終わり。もう何も感じることはできず、ただ無になるのみ。
それにこうして治療も受けられている。一夏の出自を考えれば恐らく治る。
「さて、俺はこれで失礼するよ。君はそこで自分の愚かさを後悔し続けているといい。一夏も心配して起きるかもしれないぜ?」
「……」
「言い返す気も無いか、じゃあね」
さて、後は……。
「ああ凰、さっき篠ノ之さんに好き放題行ってきたからあとよろしくな」
「言われなくても行くけどさぁ! あんたねぇ!」
ちょっとだけフォロー頼んどくか。一応な。
数時間後。
「……さて、どうしてこうなったか教えてもらおうか」
「えー、なんのことだかわかりませーん」
「待機を命じた専用機持ちが勝手に出撃していることだっ!!」
おお怖い怖い。元気戻ってるじゃないか。
「知りませんって、こっちはナチュラルにハブられてて泣きたいっていうのに」
「知らないはずがないだろう! お前が手引きしたのか!?」
「マジで知らなかったんですよねこれが、俺嫌われてるのかな」
「……すまん」
「謝んないでください」
これに気づいたのは数分前、そろそろ話終わったかなーと待機用の部屋に戻ったら紙切れ一枚しか残されておらず、それには『私たちより強い奴と戦ってくる』の一文のみ。意味がわからなかった。
自業自得の自覚はあるけど、なんか泣きそうだ。
「それより、あいつらはどうなんです? 出発した時間から考えたらそろそろ戦闘開始してんじゃないですか?」
「丁度今、接触したことを確認した。現在戦闘中だ」
「ふーん……俺はどうします? 出撃しますか?」
「いや、まだ待機だ。ここで全戦力を出し切るのはまずい」
まあ、妥当な判断だろう。どうせ俺が行っても大した貢献はできない。
フォロー頼んどいてあれだが、凰は何を言ったんだ? さっきまでしょぼくれていた妹様がまた出撃するなんて。てっきり『ISには乗らない』とか言い出しているものかと。
「女の友情か……」
「何の話だ……?」
俺はどうするかな。どうせ待機なら
「大変です!!」
「今度は何だ!?」
「織斑君がいません!」
「何!?」
「えっ」
一夏がいない? まさかあいつまで出撃した? いくら何でも早すぎるだろ。いやそれより……
「また置いてかれてるじゃねぇかふざけんな!!」
「切れるとこそこじゃな待てどこに行く九十九!!」
「こんな所にいられるか! 俺も戦いに行く!!」
「待て馬鹿! そのハンバーグみたいな装備はなんだ! おい!!」
また食い物扱いされてる……じゃなかった急げ! もう蚊帳の外はごめんだ!!
「一夏っ! 一夏なのだな!? 怪我はっ……」
「俺は大丈夫だ。だから、もう泣くな」
「なっ、泣いてなどいない!」
強がりながらも涙を流す箒。やっと、何時もの調子に戻ってくれたな。しかし、リボンが焼かれてほどかれた髪がどうにも気になる。
だから、これを。
「丁度よかった。ほら、これ」
「これは……リボン?」
「今日は七夕。お前の誕生日だ」
「あっ……」
「誕生日おめでとう。使ってくれ」
すっかり忘れていた、といった表情の箒に誕生日プレゼントを贈る。何を買えば良いかわからないものだから、シャルに頼んで選ぶのを手伝ってもらったリボン。きっと似合うはずだ。
「じゃあ、俺は行くよ。──終わらせる」
折角なら俺が着けてやりたいところだが……そうも言ってられない。こちらに向かう福音に《雪片弐型》を構える。
「さあ、リベンジマッチだ!」
『……!』
こいつのスピードは剣一本じゃ捉えられない。それを補うのがこの左手だ。
「《
「逃がさねえ!」
五本の爪が福音の装甲を切り裂く。シールドエネルギーに纏おうが関係ない、零落白夜はそれを貫通する。
『敵機の情報を更新。攻撃レベルAへ移行』
近接では分が悪いと判断したか。素早く距離を取り、大きく展開したエネルギー翼から掃射反撃を繰り出してきた。
「何度も食らうかよ!」
もう避ける必要は無い。雪羅をシールドモードへ変形。これまで攻撃に使っていた零落白夜を防御へ転用。これが《
……消耗は激しいが。
「うおりゃあああっ!」
増設・強化されたウイング・スラスターを持つ【白式・雪羅】は
『状況変化、対象急接近。《ショテル》を使用』
「なあっ!?」
背中の翼から取り出した
何がまずいって、霞衣じゃ実体兵器は防げない!
「一夏っ!」
無防備な首筋に刃が迫り、今度こそ死を覚悟した瞬間──
「追いついたぁっ!!」
──全身茶色の、ダッサい装備を纏った男が海中から飛び出した。
「追いついたぁっ!!」
いやー間に合った。これでもう終わってましたとか退学も視野に入るからな。
丁度今ピンチだったらしいし、良いタイミングだ、ヨシ!
「あんたその
「スコーンでは?」
「エクレアじゃない?」
「芋だろう?」
「…い、いなりか?」
「カレーパンじゃないか?」
「打ち合わせしてたんじゃねえかお前らぁ!」
何でだかっこいいだろ! 全員食い物で例えやがって許さんぞ!
「まあいい。来たんなら力を貸して貰うぞ、透!」
「了解した、でも後日この装備の良さを語り尽くしてやる」
「怖っ」
絶対に認めさせてやるからな。
「ぜらああああっ!」
零落白夜の一撃が翼を切り落とす。しかし追撃は躱され、その隙に再構築、強力な弾幕を張る。
「くっ! 浅いか!」
「あんたも攻撃しなさいよ!」
「
さっきから上空でビュンビュンやられてはどうにもならない。これを装備してると他はほとんど使えないからだ。手が鎌になってるせいで。
「さっさと
「そんなこと言われてもっ! こっちはもうエネルギーが……」
「……くそっ!!」
もうガス欠、いくら俺が遅れてきたと言っても早すぎじゃ……そうか、
このままじゃ直に一夏は戦えなくなる。そうなりゃ俺たちに勝ち目はない。やばいぞ……!
「一夏! これをっ!」
「箒!? お前ダメージは!?」
「大丈夫だ! それよりも早くこれ手をっ!」
金色の光を纏う妹様が一夏に触れる。その光が白式に流れ込んでいく。
「エネルギーが……回復!? これは……」
「説明は後だ。行くぞ一夏!」
「おう!」
「俺もいるぞ」
微妙な疎外感を感じつつ、回復した二人と俺で戦闘を再開。これなら勝てる。
『最大攻撃力を使用。全門開放する』
「それはもう効かん!」
『!?』
開店と同時に前進を覆った翼から嵐のような弾幕。だが効かない。エネルギーの回復した今、一夏にはこうかがないようだ!
そして福音は近接ブレードを展開。さっきみたいに迎撃する気か。だが──
「箒!」
「任せろ!」
──こっちには妹様がいる。とっくに先回り済みだ。速すぎない?
「【紅椿】! 見せてみろ、お前の力を!」
「えっ」
「《
妹様の呼びかけに応じて肩部ユニットが変形、それはまるで巨大なクロスボウ。
……ちょっと待て、マジで何アレ。
「いきなり生えてきたが使えるからヨシ! 両腕もらったぞ!」
『!??!?』
真紅のエネルギー・ビームが福音の両腕を捉え、その装甲を吹き飛ばす。凄い威力だ。
その衝撃で落下する福音。もう滅茶苦茶だがこれはチャンスだ。態勢を立て直されるギリギリで水面から飛び出し。両腕の鎌で動きを封じる。
「今だっ一夏! 俺ごとやれっ!!」
「うおおおおおおおっっっ!!!!」
全身にエネルギー弾を浴びながら取り押さえ、一夏へ合図。これで詰みだ!
「おりゃあああっ!!」
「ぐうっ……」
『っ?!?…!?!!??!?』
互いにブースターを全開、突き立てた刃が抜けないように、更に深く食い込ませる。ただし
押されながらも全力を出し続け、福音の抵抗が徐々に弱まり──
『……』
「やっ……た?」
「それフラグ。だが……俺たちの勝ちだ」
その機能を停止させた。
「……なあ、どうして俺が全員運ばなきゃいけないんだ?」
「ちょっとセシリア、もうちょい詰めて」
「これ以上は無理ですわ。ボーデヴィッヒさんにお願いしてくださいまし」
「私も無理だな」
「聞けよ」
激闘から数分後。俺は背に専用機持ちと福音の搭乗者を乗せながら宿へと引き返していた。
《Lethocerus》で多少装甲が増えてはいるが、そもそも小型のISなため背中はかなり窮屈。そして重い。
「仕方ないじゃない。私たち全員のISがエネルギー切れなんだから」
「そうですわ。まだ余力を残しているのですから、これぐらいはやってもらいませんと」
「遅れてきたしねー」
「乗り心地は悪くないぞ」
くそう。遅れたのはハブられたからなのに。というかさっき妹様はエネルギー回復とかしてたじゃないか。
「また試そうとしたらなんか使えなくなっていた。すまんな」
「畜生……」
こういうときには役に立たないのかよ。
「……すまん」
「……いいよ」
達成感からか、それともこれが友情か、不思議と背に感じる重さは不快ではない。
「ははははは……」
「何が可笑しいんだオイ!」
「いやすまん、なんだかおかしくなってな」
「……はぁ、ったく……」
何だか吹っ切れた表情の妹様。こっちの気も知らないで……。
でもまぁ、今はいいか。
「あっやべえ、俺もエネルギー切れそう」
「はぁ!?」
「ちょっと待って、宿まで後何キロ!?」
「こんな距離泳げませんわ!?」
「えっ僕たち死ぬの!?」
「いざとなれば嫁は私が!」
「うおおお沈む!?」
「……ん、ここは……?」
「うわぁ今起きるなややこしくなる!」
そうして全員で宿まで泳ぐこと数キロ、何とか帰還することに成功したのだった。
第22話「臨海学校二日目・福音」
このタイミングでタガメの売買禁止は笑う
あとお気づきの方もいらっしゃるでしょうが三巻はほぼギャグ回かつ短めになります(今更)