今回調教する単行本はIS4巻っ。夏休みの日常と、特に原作とは絡まない透くん。まだ15歳のこの少年は、私の調教に耐える事が出来るでしょうか?それでは、初投稿です。
「ん~」
「あー……」
「んむむ……」
ここは第二整備室。夏休みも始まったというのに俺たち三人はここで唸り続けていた。
「機体はできたけど……」
「やっぱり中身……」
「俺たちの稼働データだけじゃどうにもなぁ……」
あれからも開発は続き、どうにか形はできあがった。しかし今だOSは完成していない。基本動作は問題ないが、戦闘用のプログラムが残っている。
俺たちのデータをいくら流用しようとも、結局は打鉄弐式に最適化する必要があり、また独自のプログラムも開発しなければならない。例えば──
「『マルチ・ロックオン・システム』が足を引っ張ってる。でもこれがないと……」
「《山嵐》が使えない、と」
「主力武装が使えないのはちょっとねぇ……」
打鉄弐式を第三世代機たらしめる特殊兵装、それがマルチ・ロックオン・システム。全四十八発の高性能誘導ミサイルの制御を行うプログラム。
「無くてもミサイルは撃てるんだろ? マニュアルとかで」
「それだと手間がかかりすぎる……今の私じゃ半分制御するので精一杯……」
「ミサイル撃つ度に一々やってたら頭が沸騰するわよ……」
「そうかぁ……」
本来なら倉持技研が開発チームが組むはずだったもの、それを人手はあるとはいえ学生が組み上げるのは容易ではない。半ばお手上げ状態だ。
ピピピッ、ピピピッ……
「あ」
「鳴っちゃった……」
「はい今日は終わりよー、片付けて片付けて」
「はーい……」
今鳴ったアラームは簪が無理しないように楯無先輩が設定した物。鳴ったら作業は終わり。文句を言ってもお片付けだ。
初めは簪も嫌がっていたが、こうでもしないとまた保健室行きになりかねなかったため仕方なく受け入れている。
「はぁー……」
「なんだため息なんか吐いて」
「えっと、また進まなくなっちゃったから心配で……」
「少しずつでも進んでるんだからいいのよ。また頑張りましょ」
「うん……」
とは言っても進みが遅くなっているのは事実だ。あと一歩。しかしその一歩が遠い。簪もまた焦りが見え始めている。
……これはよくないな。どうしたものか……。
「遊びてぇ……」
「え」
「あら?」
「ん?」
今なんて言った俺。完全に無意識で言葉が出ていた。
「遊びたいって」
「マジ?」
「ポロッと出てたわね」
「えぇー……」
恥ずかしい。二人は真剣に話しているのに俺だけ夏休み気分とは。いや夏休みだしおかしくはないけど。
「……ふふっ。あはは……」
「うふふ。『遊びてぇ……』って……」
「え? 何ですか二人して」
やめてくれ。羞恥で顔が熱くなる。しょうがないだろここ数日ずっと整備室に缶詰だったんだから!
「ごめん、でも透の言う通り息抜きしようかな」
「そうねぇ。じゃあ明日にでもどこか行く? お買い物とか」
あれ? 意外と二人が乗り気だ。
「いいね。透も来るでしょ?」
「え? あ、うん。行くけど……いいのか?」
「「何が?」」
「……何でもない。じゃあ時間とか決めましょうか」
唐突に決まってしまったが、いい息抜きの機会だ。思えばこれまで遊ぶために外出したこともなかったし、楽しむとしよう。
「……暇だ」
次の日、集合場所。俺は待ち合わせ時刻の一時間前にここへ到着していた。遅れては失礼だと早く出発した結果早すぎる到着となってしまい、見事に暇を持て余している。
というか何故学園外で待ち合わせなのか。どうせ全員寮住まいなのだから学園のどこかでよかったのでは?
「場所合ってるよな? ……心配になってきた」
どうせ合っているというのに何度も場所を確認。皆こうなるのだろうか、それとも俺だけか。……挙動不審だと思われてないよな?
「透くん?」
「何してるの?」
「うぇっ? ああ、何だ二人か……おはよう」
「「おはよう」」
そうこうしているうちに二人が到着。あれ?でも集合時間まではまだまだ……
「……なんか落ち着かなくて、来ちゃった」
「同じく……」
「俺と同じかぁ……」
やっぱり皆同じなのかもしれない。
「全員揃いましたし買い物行きますか。『レゾナンス』でいいですか?」
「すぐそこだしね。簪ちゃんもそれでいい?」
「賛成……」
駅前──というか駅と直通した大型ショッピングモール、『レゾナンス』一夏曰く「ここになければ市内にない」と言うほどの品揃えを誇るらしい。俺は初めて来たので知らん。
「どこから回る? かさばる物は後回しね」
「俺は全然わかんないんで、任せます」
「アニメショップ行きたい……」
「えーと……三階ね。行きましょ」
最初は簪の希望で三階のアニメショップへ。特に目的があるわけじゃないが定期的に来たくなるらしい。
「よくわかんないんだけどさ、目的決めないで買い物行くのが普通なのか?」
「ショッピングってそういうものよ? 晩ご飯の買い出しじゃないんだし」
「掘り出し物を探す……!」
「ふーん……」
そういうものか。ならしょうがないのか。うん。
「おおー……意外と広いんだな……」
「このお店は私も初めて来たけど、色々あるのね……」
「あれ? 簪は?」
「あら? 確かここに……」
二人で内装に驚いていると簪がいない。行きたがった本人だしもう中に言ったのだろうか……。
あ、ショートメッセージ。
「えーと……『しばらくここにいるから他回ってていいよ、具体的には二時間ぐらい』だそうです」
「……そ、そうなの?」
「はい」
これぐらい直接言えばよかったのに。しかし二時間、今からだと昼までか。謎の時間設定だ。
どうせ呼びに行っても無駄だろう。悪いことしているわけでもないし放置するか。
「じゃあ……俺たちも行きますか?」
「え゛っ!?」
「いや、簪もこう言ってますし……ここで二時間待つのも暇ですし……」
「……そ、そうね! いっ、行きましょうか!」
「? はい……」
そんな驚くことか? 確かに急にこんなことになるとは思わなかったが……。
まあ、後で合流できるならいいだろう。こちらはこちらで楽しむとしよう。
「簪ちゃんってば……そういうのはまだ早いのに……」
「楯無先輩、どこ行くんです?」
「応援してくれてるのかしら……でもでも……」
「あ、聞こえてねーなこれ。待ってくださーい」
何やら呟きながら歩いて行く先輩。そっちは電気屋だ。絶対用無いだろ。
「と、いうわけで私たちは二人を尾行します」
「いきなり呼びつけて何してるのかんちゃん」
透とお姉ちゃんの後方、柱の影に隠れた私は呼びつけた本音と合流していた。
「さっきメッセージで伝えたでしょ。今から二人を見守るの」
「ただのストーキングじゃない?」
「大丈夫本音、友達と姉が対象ならストーキングにならないの」
「かんちゃんこそ頭大丈夫ー?」
失礼な。ただ私は二人がどんなデートするかじっくり眺めたいだけなのに。
「でも本音だって気になるでしょ? 最近あの二人怪しいし」
「えー? 確かにたてなっちゃんは意識してそうだけどー、つづらんはふつうじゃなーい?」
「いや、私の見立てなら透もお姉ちゃんを意識してる。だって明らかに他の人と対応が違うもの」
「そうかなぁ……」
臨海学校以来、透は時々お姉ちゃんを目で追ったり整備中にお姉ちゃんが何してるかを気にするようになった。お姉ちゃんも、透から貰った貝殻を眺めてにやにやしたり、何気ない接触で過剰に反応している。
……どうしてそうなってるのかはお互い気づいてなさそうだけど。
そこで、今日のお出かけで一気に距離を縮めてもらおうという訳だ。
「でもでもー、このストーキ、見守りって具体的に何するのー? まさか本当に見るだけ?」
「それに関しては考えがある……。これを見て」
もちろんノープランではない。こっちにも考えはある。ポケットから紙を取り出して本音に見せる。
「何これ? 『おすすめデートスポット』?」
「そう、これに書いてある場所をデートスポットということを伏せて二人に教えてある。最初は買い物してても、二時間もあれば暇な時間ができる。そうなれば二人は自然にそこへ行くってわけ」
なお、尾行中特にこちらからは何もしない。見守りに徹するのみだ。
「なるほど……お節介の極みだねかんちゃん!」
「……もしかして怒ってる?」
「早朝に叩き起こされた割に私必要ないんじゃないかとは思ってる」
「……ごめん」
……流石に一人で追っかけるのはどうかと思って。つい。
「あっ、動き始めたよ」
「! じゃあ行くよ、隠れて」
「……はーい」
さあ、
『ねぇ、最初はどこ行こっか?』
『そうですねぇ……服屋行きたいですね。秋物とかもう出てるでしょ』
『いいわね。でも荷物増えないかしら?』
『宅配サービスとかあるでしょ』
移動すること数分。どうやら二人は服を買いに行くらしい。ここでお互いの服をコーディネートなんかしちゃったらいい雰囲気になるのでは……?
因みに、会話内容は持ち出した打鉄弍式で盗ちょ、こっそり聴いている。まだ未完成とはいえ、これ程度の機能なら問題なく使える。
「う〜ん、大丈夫かなぁー?」
「何が?」
「なんでもな〜い」
「?」
変なの。まあいいか。
『ねぇねぇこれなんかどう? 似合いそうじゃない?』
『……いいと思いますよ。その色先輩に合いますね。かわいいですよ』
『かわっ……あ、ありがと……』
『? ……あ、これも合いそうですね』
くぅ〜! お姉ちゃんかわいい〜! 写真撮ろ。
「かんちゃんのキャラそんな感じだっけ……? でもいいなぁ、楽しそう」
「わかる? この良さ」
「ちょっとだけ」
もうこれだけで十分。ずっとここでもいい。
『ねぇ透くん、これ着てみてよ』
『パーカー……いいですねちょっと試着してみます』
『あとこれとこれとこれも!』
『そんなに持ち込めません』
あぁ〜理想的展開〜! 求めていたものがあそこにある!
「これかわいい〜。ちょっとレジ行ってくるね!」
「あ、うん」
『いっぱい買っちゃった。透くん大丈夫? 私が選んだやつばっかり買ってたけど』
『俺こういうのはわかんないんで、むしろ助かりましたよ』
『そう? えへへ……』
買い物が終わったらしく再び移動。今度はどこへ行くのか。
『次どうします?』
『う〜ん、まだまだ時間はあるし……小物でも見ようかしら』
『雑貨屋は……二階ですね、行きましょう』
「行くよ本音!」
「かんちゃん待って〜」
『あっこれかわいい』
『何ですかそれ……』
『ファッショングラス。縁が猫みたいでかわいいでしょ?』
『んー? 本当だ。猫好きなんですか?』
『実家で飼ってるのよ』
雑貨屋に移動して買い物の続き。未だ距離感はそこそこだが見ていて面白い。
「かんちゃんはーい」
「……何これ」
「変な帽子」
「……飽きてる?」
「うん」
本音は完全に遊び始めているがまあいいや。見つからないようにしてもらえればいい。
『透くーん』
『はい? ……これは』
『うんうん似合うじゃない! 一緒に買いましょ?』
『……お揃いですか』
『……う、うん……』
おッおッお!? なんて恋愛力だッッッ。これが見たかったッッ!
「良い感じだねー」
「写真写真……」
これは永久保存版。きっちり保存して夜な夜な眺めなくては。
『つ、次行きましょうか……』
『? はい』
「っ行くよ!」
「これ買ってからいくねー」
「あ、うん」
『あ、先輩。ここ寄りませんか?』
『クレープ? お腹空いたの?』
『ちょっと小腹が。あとここ有名らしいんで』
『ふーん……まあお昼前だけどいいかもね』
「っしゃあ! あそこ行ったぁ!」
「かんちゃん声大きいよー」
「ごめん」
ついに『おすすめデートスポット』の一つへ向かった。あそこはカップル割にカップル限定メニューなどサービスが豊富! ここでデートする人の八割が訪れると書いてあった!
「それどこ情報?」
「クラスメイトが持ってた雑誌」
さあ二人が注文に入った。頼め! 限定メニューを!!
『ストロベリーあずき一つ』
『私バナナチョコで』
普通のメニューでした。
『おいしー』
『うまーい』
「……」
なかなか思い通りに進まない。普通に楽しんでいるので十分ではあるけれど。
「あとで私も買ってくるねー、何がいいー?」
「抹茶スペシャル」
「あいあーい」
そろそろ二時間が経過する。そうなれば私たちは合流しなければならない。尾行もこれで終わり。
「はいこれ」
「ありがと」
『そろそろ合流ですね、どこか行きたいところあります?』
『んー、これといって無いかなぁ。透くんは?』
『俺は……いや、無いですね。少し早いですけど戻りましょうか』
「あっやばい」
「早く戻らなきゃ……」
そして私たちは急いでアニメショップへと戻ったのだった。
「あ、いたいた。……ってあれ? 布仏さんじゃん」
「や、やっほーつづらん! ……ふぅ」
「さっきそこで会ったの。偶然ね……ハァ……」
「そそ、偶然!」
「ふーん……」
やけに疲れてんな。それも仕方ないか。ずっと俺たちを追った後に走って戻ったんだからな。二人とも体力自慢ではなさそうだし。
ああ、勿論尾行には気づいている。普通に下手だったし楯無先輩も当然気づいていたが、お互いそこまで困ることは無かったので一旦放置することに決めた。会話が聞かれていそうだったので目配せでな。
というか布仏さんの顔にクリームが付いているし簪から抹茶の香りがする。さっきまで同じ所にいたのが丸わかりだ。
「じゃあ飯行くか、俺たちは途中でクレープ食ったから軽めでな」
「あそこのハンバーガーショップにしましょ、二人もそこでいい?」
「うん……」
「はーい」
「たてなっちゃんはねー。昔オーダーが来ると思ってずっと座ってたんだよー」
「ちょっ!? 昔の話はやめなさい!」
「ナイフとフォーク探してたこともあった……」
「簪ちゃん!?」
「えぇ……」
とんでもないお嬢様エピソードが飛び出す中昼食をとる。先輩弄りに参加している簪がピクルス抜きを注文していたのは触れないでおこう。
「ふふっ……」
「どうしたの?」
「いや、楽しいなって」
「……うん、よかった!」
気づかぬうちに笑みがこぼれていた。それほど俺は楽しんでいたと言うことなのだろう。
「さあ行きますか。ゲーセンとかどうです?」
「賛成……、腕前を見せるとき……!」
「プリクラも撮りましょ!」
「クレーンゲームしよー」
「順番にですよ……?」
最もまだまだ外出は終わらないけどな。今日一日、目一杯楽しむとしよう。
「あっそうだ、後でさっきの写真くれよ」
「バレてたの!?」
「ほらやっぱりー」
「ふふ、簪ちゃんもまだまだってことよ」
「もうやるなよー」
それはそれとして、今後の為に釘は刺しておこう。
第24話「レゾナンス・尾行」
透くんは服とか褒めなさそう。