【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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ゴールデンウィークが終わったので初投稿です。


第38話「ぼっち・スパルタ」

 

「専用機持ち限定タッグマッチトーンナメントサボる方法無いですか?」

「無いわよ」

 

 一夏の誕生日パーティーから数日。今日も自室にて楯無先輩と二人きり。

 久しぶりにイベントをサボろうとする俺を止める先輩の討論が始まろうとしていた。

 

「だっておかしいじゃないですか! キャノンボール・ファストは出るなって言われて、今度は一人で出ろ? どんだけ俺をハブにしたいんですか!?」

「それは本当にごめん! でもこれが学園の決定なの」

「決定って、会議でもしたんですか? バランス調整?」

「確かにそれもあるけど……主な原因はこれね」

「これ……ん?」

 

 差し出された紙切れを受け取り、底に書いてある文言を読む。汚い手書きだ、どれどれ……。

 

『IS学園諸君へ

 

 今度のタッグマッチトーナメントにはとーくん一人で出場させろ

 

 束さんより』

 

 ……ん?

 

「は?」

「会議当日にこれが届いてたの。会議室のど真ん中にね」

「それは……うん、本物の仕業ですね」

 

 そもそもこのトーナメント自体、キャノンボール・ファストの中止を受け専用機持ちの戦力強化のため急遽開催が決定した物。当然学園外に情報は出ているはずがない。なのにそれを知っていて、それなりにセキュリティの厳しい学園の一室にピンポイントにふざけたメッセージを送れる人物は一人しかいない。名前書いてるし。

 

「事情はわかりました。怒ってごめんなさい」

「いいのよ。先に理由を言わなかったこっちも悪いし……」

 

 とにかく、どうして俺が一人で出場しなければならないのかはわかった。同時にサボれない理由も。もしこれに背いたらどうなるか……いや、背かなくても何かする気だろこれ。

 

「何であの人はこんなことを……文句言ってやろうか」

「言って変わるの?」

「なーんにも変わりません」

「えぇ……」

 

 そのうち連絡は取ってみるつもりだが、どうせ何も教えてくれないだろう。これも『お仕事』の一環だろうが……どうして一人で出る必要があるんだろうか。パートナーがいると邪魔なのか? それとも……わからない。

 

「とにかく、一人で出るなら厳しい戦いになるのは間違いないわ。相応の実力が無いと何が起こるか」

「八百長で俺が負けるってのは」

「透君くんがそうしたいなら」

「……やめときます」

「でしょうね」

 

 俺だって無駄に黒星を増やしたくはないんだ。一般生徒も見ているんだし。

 

「そうだ、先輩は誰と組むんですk」

「簪ちゃんよ!!!」

「声がでかい!」

 

 部屋中に響く声。どんだけ嬉しかったんだ。

 

「だって簪ちゃんから私にお願いしてくれたのよ! もう嬉しくって小躍りしちゃうわ!」

「ここでは、いやどこでもやめてくださいよマジで。チクリますよ」

「やめて!」

 

 近所迷惑にも程があるだろ。もし本人に言ったらドン引きされるぞ。

 

「まああなたが組むとしたら簪か、他も……多分予想通りですかね」

「そうねー。これまでの演習やら訓練でお互いの相性はわかってきてるだろうし、すんなりペアは決まってるでしょうね」

「つまりあの人の干渉が無くても俺は……」

「あっ」

 

 うんわかってた。もし自由にペアが組めたところで俺は余るだろうなってことは。だって機体からしてそういうの向いてないもん。

 

「で、でもほら! 一夏くんなら同じ男の子同士がいいとか言って組んでくれかたかもしれないじゃない!」

「あいつはあれで結構考えてるんですよ、本気で勝ちに来てるならデュノアか篠ノ之さん辺りを誘うでしょうね」

「わ、私も簪ちゃんから誘われなかったら……」

「いや、そこまで庇わなくなって……」

 

 ちょっとふざけてみただけであまり気にしているわけではない。全く無いわけでもないけれど、正直今の俺がペアを組んでもそこまで強くなれるかと言われたら微妙な気がする。

 

「結局協力プレーより一人で力押しの方が強そうなんですよ。ここ最近がそうだったんで」

「でもそれは敵も単体か、複数でも同型機しかいない場合でしょ? 専用気持ち二人じゃどうなるかわからないわ」

「確かに……でもなぁ」

 

 そんなことを言われても、今から対専用気複数の練習なんてできるわけがない。本番前に作戦明かす馬鹿はいないからな。

 

「そこで楯無ズブートキャンプよ! 丁度怪我も治ってるし、トーナメント当日まで徹底的に鍛えるの!」

「ああ~……はい、そんな名前でしたね」

「?」

 

 そういえば、クッソダサいネーミングの特訓をするとか言ってたっけ。

 先日の怪我も大体……というかほぼ治ってしまった。この流れも三度目ともなると慣れてきたな。

 

「ふぁあ……すいません」

「あら、眠い?」

 

 そんな話をしていると、唐突にあくびが出てしまった。油断しきっていた姿を見られるのは少し恥ずかしい。

 

「もうこんな時間だものね。詳しくは明日話すから、今日はもう寝ましょうか」

「はい。じゃあ、お休みなさい」

「うん。お休み!」

 

 先輩は心なしか少し嬉しそうに微笑み、そのまま寝る態勢へ。そんなに嬉しいことがあったのか、簪と組めることとか?

 

「……うふふっ」

「?」

 

 よくわからないまま、その日は眠りについた。

 

 

 

 

 次の日の放課後。楯無ズブートキャンプのため第六アリーナに呼ばれた俺は、軽く伸びをしながら説明を要求する。

 

「で、何するんですか? 徹底的に鍛えるとか言ってましたが」

「うん、その前に……今の透くんの欠点って何だと思う?」

「欠点……ですか」

 

 いきなり言われてもなぁ、うーん……。

 

「愛想が悪い」

「…………」

「ごめんなさい」

「はい」

 

 ちょっとしたジョークのつもりだったんだが、今はそういう雰囲気じゃなかったか。一夏だったらもっと良い感じに言えたのかな。

 

「あなたの欠点は大きく分けて三つ。まず一つ目は自分でもよくわかってると思うけど、高出力の反動に耐え切れていないこと」

「そりゃもうばっちりわかってますとも。文字通り痛いほどに」

 

 それを克服するためにここへ来てるんだしな。

 解決策は単純に鍛えるか、低出力でも戦えるようにするか、負担を受けにくい動きを身につけるかってとこか。

 

「二つ目はその反動がないと本気を出せないこと。ぶっちゃけ一番の問題はこれね」

「あー……」

 

 死に近づき、死を感じ取り、死から逃れるために全力を発揮する。そうだよなぁ。先日の戦いでは丁度いいや〇気スイッチみたいな物と考えていたが、傍から見ればただの自殺行為。毎度やっていては身が持たない。

 しかしこれはやっと見つけた俺のスイッチであることも事実。何か代わりになる方法でもないだろうか。

 

「三つ目は一度本気を出すとブレーキが効かなくなること。つまり自滅するまで戦っちゃうことね」

「それもかぁ……」

 

 学園祭といいキャノンボール・ファストといい、本気になれた途端思考がぶっ飛んでしまった感じがあった。前者は動かなくなるまでダメージに気づかなくなってたし、後者も止めてもらわなければそうなっていた。確かに危ないな。

 

「欠点の確認はOKね。以上三点を踏まえて、今日の所は私と模擬戦してもらうわ。アリーナ使用時間が終わるまでずーっとね」

「はい?」

 

 俺が先輩と模擬戦だと? それも使用時間終了まで? そんなことをすればまた病室送りだぞ。

 

「なにも全力で戦うわけじゃないわ。透くんには出力に制限をつけて、それをオーバーするかどちらかのシールドエネルギーが6割切った時点で戦闘終了ね。上限をどのくらいにするかは今決めるけど」

「あー、なるほど。ギリギリで何度も戦って、上限を上げていこうってことですか」

「それと、ダメージ管理を身につけてもらうのもあるわ。比較的軽いダメージから意識させておくの」

 

 なぁんだよかった。てっきりまた死にかけなきゃならないのかと思った。先輩がそんなこと考えるわけ無いか。

 この方法なら、確かに出力上限を引き上げられる可能性が高く、自滅も防げる。相当キツい物にはなりそうだが。

 

「でも、この方法だと一つ目と三つ目は問題なさそうですけど、二つ目はどうするんですか?」

 

 いくら怪我無く戦えるようになっても、本気が出せないようなら意味が無い。寧ろ変に耐えられる上限が上がったせいで死の感覚が失われる可能性すらある。

 

「ああ、それなら問題ないわ。言ったでしょう? 時間が来るまでずーっとやり続けるって。つまり延々と戦い続ければ──死なんて何度も見えてくるわ」

「っ!! ……スパルタですね」

 

 刹那。ぞっとするような冷たい視線に貫かれる。その威力たるやはっきりとした説明がなくとも、俺に全てを理解させるには十分すぎるものだった。

 

「毎日やれる訳じゃないけどねー。アリーナが空いてない日だってあるし、私は簪ちゃんとも特訓しなきゃいけないし」

「そっか、先輩は簪と組んでるんですもんね」

「そうなの! もう簪ちゃんから持ちかけてくれたときは……」

「あ、それはもう聞きました」

 

 一瞬話が逸れると、そこには何時もの雰囲気で笑う先輩。この温度差、風邪引きそうだ。

 

「ごほん、早速始めましょうか。まずは今怪我しないギリギリの出力を教えてもらえる?」

「了解です。えーと……」

 

 ここで決めた上限がこの訓練で得られる結果に直結する。もし低すぎれば楽に終わるが何の意味も無く、高すぎれば訓練で大怪我する馬鹿になる。丁度いい所を見極めなければならない。

 確か前回の訓練では67%、80%ではまだ無理。その間で、今の感覚が示す値は……。

 

「……70%ぐらい?」

「本当に? サバ読んでない?」

「読んでません。……たぶん」

 

 何せ実際に動いてみない限りは全然わからないんだ。下手に試せないし、勘で決めるしかない。高すぎってことは無いと思うけど。

 

「……とりあえず、70%で一戦やりましょうか。その後調整しましょ」

「あ、はい」

 

 ISを展開しながら上限の設定。といってもそんな優しい機能は無いので、70%付近になったら警告するように設定しただけだが。

 

「そうだ! もしオーバーしたらペナルティでも与えましょうか。緊張感出るし」

「えっ」

「何がいいかな……とりあえずオーバーした%×5分間マッサージでもしてもらおうかしら!」

「ちょっ」

「はい、よーいスタート!」

 

 うおおおお!!!!

 

 

 

「はい、今日の特訓は終わり。お疲れさまでした」

「あ、ありがとうございました……」

 

 数時間後。涼しい顔で終了を告げる先輩と、地面に這いつくばってそれを受ける俺。

 本日の結果は見事全敗。総試合数は二桁に突入してからは数えていない。大体予想は付いていたが酷い結果だ。

 

「もう勝てる気しねぇ!」

「何度か危ない所もあったけどね、自分でも気づいたんじゃない?」

「あー……まあ、一応」

 

 戦いを繰り返す内、何度か例の状態と同じあるいは近い動きができた。どれもごく一瞬のことだったが、確かにあの何かが弾けるような感覚を覚えている。

 この調子で特訓を繰り返し、あの感覚を完全に身につけることができれば俺はもっと強くなれる。

 ……けど。

 

「戦ってるときの先輩超怖いんですけど、どうにかなりませんか?」

「えー?」

 

 そう、模擬戦の相手をしてもらっている間の先輩が怖すぎるのだ。表情というか雰囲気が。

 例えばアクア・ナノマシンによって爆破されたあの時。蛇腹剣で滅多切りにされた時。全ての水流を集めた槍を突き立てられたあの時。

 

「マジで殺されると思いましたもん、お陰で死は見えましたけど」

「何言ってるの、初日でへばってちゃこれから大変よ?」

「やっぱり続けるんですか、これ」

「当前よ。次からはもっと厳しくいくから、そのつもりで」

「うへぇ」

 

 そりゃあブートキャンプと銘打っているのだから一日やそこらで終わるとは思ってない……けど辛いなぁ。

 

「それに透くんだって怖かったわよ。何回叩き落としても突っ込んでくるし、とんでもないパワーで攻撃してくるし」

「いやぁ、そうするのが一番なんで……」

「というか、本当は私より透くんの方が強いんだからあれぐらいで丁度良いのよ。下手に手抜いたらこっちが負けちゃうわ」

「俺が先輩より? 冗談を」

 

 散々土を付けておいてお前の方が強いとは。生身でも勝てた試しがないし、買いかぶり過ぎだ。

 

「マジよ。忘れたの? 夏休みのこと」

「え? いやあれは……」

「たった二体でも透くんと簪ちゃんの助けを借りなきゃ倒せなかった無人機を、あなたは一人で四体、それも虫を潰すようにあっさりとね」

「……相性がよかったんですよ。現に今日は負けてますし」

「どうかしらね、案外あっという間に追い抜かれちゃうかも」

 

 まさか。他の連中に負ける気はしないが、さすがに楯無先輩は無理だ。まだまだ超えるべき壁であってもらいたいしな。

 

「そ・れ・よ・り! 今日のペナルティも忘れちゃダメよ。3%オーバーだから十五分マッサージね」

「げ」

 

 スタートは70%だったが、何度か調整して上限は72%に設定された。しかしいきなり上限を設けられても守るのは難しく、途中何度か熱くなった結果微妙にオーバーしてしまったわけだ。

 

「俺なんかがやっても効かないでしょうに……」

「いいの。帰ったら早速よろしくね?」

「……期待しないでくださいよ」

 

 このあと滅茶苦茶マッサージした。

 

「いったい! 今押したツボは何!?」

「だから下手って言ったでしょうが……」

 

 ……その内一夏にやり方聞いておこう。

 

 

 

 

「んんー……」

「何してるの?」

「ん、ちょっと編み物を」

 

 マッサージ(ペナルティ)に食事シャワー課題その他諸々を済ませ、後は寝るだけとなった夜。ここ数日触れていなかった編み物に手を着けていた。

 

「透くんがやってるのは初めて見るわね。前からやってたの?」

「いえ、これは学園祭の後からですね。何となく趣味にしようかなって」

 

 そういえば先輩の前、というか手芸部以外の人前でやるのは初めてだったか。自室にいるときは一人の時にこっそりやってたからな。

 ……そもそもこれ始めたの、先輩ができないからっていう不純な理由だったな。すっかり忘れていた。

 

「今は何を作ってるの?」

「一応マフラーのつもりです。苦戦中ですが」

「へぇ~……誰かに教わったの?」

「手芸部の部長さんに。ほら、部員の貸し出しで」

 

 半ば強制的に行かされたキャンペーンだったが、中々良い経験になったと思う。あれ以来足を運べていないのが惜しい。

 

「先輩もやりませんか? 意外とハマりますよ」

「……苦手と知ってて勧めるのはどうかと思うわ」

「そんな警戒しなくても……」

 

 少し前だったら揶揄いで誘っていただろうが、趣味となった今では純粋に仲間を増やしたいだけなんだけどなぁ。

 

「つっても、俺も人に教えられるような腕じゃないですからね。一緒にやれたら面白そうだと思ったんですが……」

「やるわ。糸を頂戴」

「!?」

 

 何だこの切り返しの速さ。まあ、仲間が増えてよかったと思おう。

 

「最初は何から始めるのがいいのかしら?」

「俺はコースターからでしたね。ほらこれ」

「ああ、このピンクのやつ! 女の子から貰ったんだと思ってた!」

「まっさかぁ」

 

 一夏じゃあるまいし、俺は女子に何かを貰えるような人気者じゃあない。そうなりたいとも思ってない。

 

「……よし! じゃあ私が作ったのは透くんにプレゼントしちゃおっかな?」

「えー、コースターは一つでいいんですけど」

「他の物だって作るもん! 見てなさい、すっごいの編んじゃうんだから!」

「はいはい、期待してますよー」

 

 数少ない苦手なことから真っ先に挙げられた編み物。何を渡すつもりなのかは知らないが、まともに完成させられるのは何時の話になるのやら。

 いつかその時が来たら、こちらからも何か送ろうかな。

 

「ぬぐぐ……」

「うぅ~ん?」

 

 こうして、初心者二人の深夜編み物部が結成されたのだった。

 

「あれ? あれれ?」

「先輩、そこ逆」

「????」

 

 

 

第38話「ぼっち・スパルタ」

 

 

 

 




前回の後書きにも書きましたが不定期更新になります。
できれば1〜2週間置き、遅くても一ヶ月以内には更新したいと思っているので見捨てないで……

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