【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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もう書き溜めが無くなったので初投稿です。
もうちょっと書いとくべきだった


第3話「初日・挨拶」

 

(これは……思ってたよりずっときついぞ…)

 

 今日は四月X日。つまりは高校入学初日。受験を乗り越えて望んだ学び舎へと入学できた喜びや、反対に受験戦争に敗れた失意、束の間の休息が終わってしまった憂鬱など様々な感情が渦巻く日でもある。

 そんな日に、この織斑一夏が抱く感情は「焦り」であった。

 

(マジで俺と()()()()以外女子なんだな…)

 

 何故男子が二人しかいないのか? それはここが、()()女子校であるIS学園だからである。ひょんなことから(受験会場間違えた結果)彼はISを動かし、世界初の男子IS操縦者となった。また、直後に第二の男子IS操縦者である九十九透が現れた結果、その存在を欲する様々な勢力から守るため、もといデータを取るためにこの学園に入学させられたのである。

 それでも昨日まで彼は希望的観測を捨ててはいなかった。もう一人だけとはいえ男が自分一人ぼっちではない。初日に仲良くなって、共にこの学園生活を乗り切ろうと計画を立てていた。しかし、

 

(なんで俺が最前列のど真ん中で、あいつが最後列の窓際なんだ……?)

 

 嫌がらせかと思うほどの距離。これでは気軽に話しかけられない。そうこう考えている内にも多数のクラスメイトの視線を感じる。

 

(助けてくれ箒ぃ……)

「…………」

(無視かよ……)

 

 同じく最前列の窓際、僅かな救いを求め幼なじみである篠ノ之箒へと視線を向ける。が、あっさりと目を反らされる。なんてことだ。まさか六年ぶりに再会した幼なじみに見捨てられるとは。まさか忘れたんじゃないだろうな。

 

「……くん。織斑一夏くんっ」

「へぇっ!?」

 

 突然の指名におかしな声を上げる。周囲からちらほらと笑い声が聞こえ、ますます落ち着きを失ってしまう。

 

(今度こそ助けてくれ箒──お前まで笑ってんのかよ!?)

 

 再び助けを求めるも見事に裏切られる。既にここでやっていく自信がなくなってきたがそんなことを気にしている場合ではない。目の前にいる突然俺を呼んだ緑髪の副担任──山田真耶だったか、は一体何の用だ?

 

「あはは……えっと、ごめんね? 今席順で自己紹介してて、丁度織斑くんの番なの。だからえっと、自己紹介、してほしいなって……ごめんね?」

 

 普通に自己紹介だった。そういえばさっきまで何人かやっていた気もする。

 

「は、はい。わかりましたから謝らないで……」

「本当ですか!? じゃあ早速どうぞ!」

「え。あ、はいでは──」

 

 大丈夫だ。昨日のうちに内容は考えてある。あとはその通りに言うのみだ。

 立ち上がって後ろを振り向く。背中で感じていた視線を正面から受け止める。さっきよりもっときついが、これぐらい耐えられなければここで生きられない。跳ね上がった鼓動を無視し、自己紹介を始める。

 

「織斑一夏です。ISについてはわからないことだらけですが色々教えてくださると助かります。

……以上です!」

 

 盛大にずっこける女子数名。それを見て一瞬自分もやるべきか悩む箒。お前そんなノリよかったっけ?

 これは仕方のないことなのだ。しっかり覚えてきたつもりだったがこの緊張でほとんど吹き飛んだ。俺は悪くない。強引に紹介を終えた俺は一層強くなった視線を背に再び席に着いた。

 

(皆、俺もうダメかもしれない)

 

 今では別の高校へ進学した友人達の顔が、もう何年も会ってないかのように懐かしく思い出された。

 

 

 

(えっ短っ)

 

 何だあの自己紹介。名前以外全く情報がないじゃないか。話しかけるための参考にするつもりだったがこれではどうしようもない。大方考えてきた内容を忘れたとかそんなところだろうと思うが。

 姉の織斑千冬があれだけ堂々としていたのだからてっきり弟のあいつもそうだと思っていたが……姉弟でも中身まで似るとは限らないか。

 

(しっかし、思ってたより退屈だな)

 

 入学式からずっと大量の視線を向けられて来たが、誰一人話しかけてこなかった。別に束様の言う青春とやらを楽しむために来たつもりはないが、一人ぐらい話しかけて来たっていいと思うのだが。

 

(さっさと順番回ってこねーかな)

 

 織斑一夏の後も自己紹介は続き、委員長とか向いてそうな女子、イギリスの代表候補生だとか自慢げに語る女子、長いポニーテールの武士感のある……ああ、あれ束様の妹様だ。どれも半分聞き流しながら俺の番を待つ。

 思わずあくびが出そうになるが何とか噛み殺す。袖の長い女子──布仏本音だったかに見られ、くすくす笑われた。

 

「最後ですね、九十九透くん」

「はーい」

 

 順番が回ってきたらしい。席を立ってクラスを見渡す。先ほどまで織斑一夏に向かっていた視線が集中する。しかしこれぐらいどうということはない。早速、()()()()()自己紹介をするとしよう。

 

「九十九透です。漢字は九十九(つくも)ですがこれでつづらと読みます。あとは……えーっと……」

 

 ごくり。クラスメイトの喉が鳴る。今か今かと続きを待ち構えている。続き? 続きは───

 

「以上です!!」

 

 忘れました。待ち時間長すぎても逆に忘れることってあると思う。

 

「満足に挨拶もできんやつが二人もいるとはな」

 

 この凜とした声は、

 

「げえっ、関羽!」

「いや呂布!?」

「三国志で例えるな馬鹿共!」

 

 スコパァン! と連続で頭を強打する音と何者かに投げられた何かが直撃がした音が響く。足元にはボールペン。まさか入り口からここまで投げたのか、いやそれよりこの人は、

 

「「千冬姉!?/織斑先生?」」

 

 パァンッ! 今度は一回。見ると織斑一夏だけが頭を押さえている。今度の得物は……出席簿か。

 

「織斑先生、会議は終わったんですか?」

「ああ山田君。クラスの挨拶を押しつけてすまなかったな」

「いえいえ、副担任ですし。これくらい任せてください!」

 

 さっきまでの慌てた様子はどこへやら、副担任は憧れを含んだ目と熱っぽい声で応える。そのまま織斑先生の紹介が始まる。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち受精卵を一年で卵まで持っていき、ヒヨコか目玉焼きか選べるようにしてやるのが仕事だ。私の言うこと見せることを全て脳に刻みつけ理解しろ。やる気があろうとなかろうと関係ない。IS操縦者として最低限恥ずかしくないレベルまで伸ばしてやる。逆らってもかまわんが、すぐに無駄とわかるだろう。いいな」

 

 やべぇここブラック学校だ。これが織斑千冬か。

 しかしこの恐怖政治宣言に震える男子二人(俺たち)をよそに、教室は黄色い歓声で沸いた。

 

「キャ──────────! 来たわ! 本物の千冬様ぁ!」「生まれたときからファンですぅ!」「千冬様のご指導を受けられるなんて!」「私のご主人様になってください!」

 

 うるせぇ! よくもまあこれだけ騒げるものだ。何人かやばいやつが混じっているし。それも彼女の持つカリスマ性というやつなのか。しかし当の織斑先生(カリスマ)は鬱陶しそうな様子を隠しもせずにクラスを眺める。

 

「……何故毎年こんな馬鹿騒ぎになる?  私のクラス分けにだけ嫌がらせされているんじゃないだろうな?」

 

 なかなか辛辣だな。毎年続いてるのが本当なら同情するが。再び黄色い歓声が湧き起こるも耳を塞ぐ。

 

「それで? まともに挨拶もできんのか貴様ら」

「いやあ、考えてたのを忘れてしまいまして」

「そうそう千冬姉、俺も忘──んぐっ!」

「学校では織斑先生だ」

「……はい」

 

 また織斑一夏が叩かれている。卒業までに何センチ縮むかな。しかしこの発言でクラスがどよめく。こいつら二人が姉弟なの知らなかったのか。

 しばらくこの騒ぎは続きそうだな。正直姉弟がどうとか今の俺には関係のないことだ。こっそり席に着き、残りの話を聞き流す。織斑先生が睨んでいるが気にしない。一時間目まで少し寝よう。

 

 

 

 

 寝て起きて、一時間目のIS基礎理論を受けて休み時間、一つ感想が浮かんだ。

 

 簡単すぎる。これでエリート校か。

 

 そもそもISは歴史が浅い上に解明されていない部分が多いわけだし、入学初日に教わる内容としてはこれで十分かもしれない。が、それでもここへ来るまで開発者から直接授業を受けていた俺にとっては易しすぎる。教科書捲っても大体理解できたし。束様(あの人)どんだけ詰め込んでたんだ。うーん、この状態はどうにかならないものか。

 

 廊下に目を向けるとびっしり並んだ女子達。他クラスから上級生、教師も何人かいるな。こそこそ話している声も聞こえる。よっぽど俺たちが珍しいのだろう。動物園のパンダの気持ちだ。行ったことないが。

 しかしいつまでも座ってこの状況に耐え続けてもしょうがない。ここはひとつ二人へご挨拶といこう。そうして席を立とうとしたところ織斑一夏は妹様と一緒に教室を出てしまった。

 まああの二人は将来を誓った恋人でありながら、ある事情で六年も会えなかった(束様情報)そうだし、積もる話もあるだろう。切り替えてクラスメイトと交流してみようじゃないか。

 

「ちょっと、よろしくて?」

「ん」

 

 ドリル、或いはコロネを思わせる金髪。ブルーの瞳に白い肌。外人か。確かこのお嬢様っぽい高慢な雰囲気の女子は──そう。

 

「君は……オルコットさんだっけ?」

「あら、HRでは上の空でしたがしっかり聞いていたようですわね」

 

 正直あやふやだったが何とか正解する。怒らせると面倒くさそうだし、ここは下手に刺激しない方向で行こう。

 

「そりゃね、イギリスの代表候補生なんでしょう? エリートって感じだな」

「! そう、わたくしはエリートなのですわ!」

 

 適当に褒めたらすごい嬉しそうだ。単純なのかな?

 

「男と思って少々見くびっていましたけど、少しは知的さもあるようですわね。そうでなくてはクラスメイトとして相応しくありませんもの」

 

 好き勝手言うなぁ。まあ機嫌が良さそうなことに越したことはない。さっさと用件聞いて席に戻っていただこう。

 

「光栄だな。それで、オルコットさんは俺に何の用だ?」

「ええ、それですが……あなた、わたくしにISについて師事を乞うつもりはございませんこと?」

 

 師事? なんで? 呆気に取られる俺を無視し、頼んでもいない自慢が続けられる。

 

「わたくしは優秀ですから、あなたのような凡人にも情けをかけようというのです。悪い話ではないでしょう? 何せわたくしは入試で唯一教官を倒したエリートなのですから」

 

 唯一ねぇ、それが本当ならすごいな。相手は誰なんだろうか。榊原先生(俺と同じ)ならこの自信も納得だが。でもまあ、態々こいつに教わる必要はないかな。

 

「あー……折角だけど、こういう勉強は自分でやるさ。人から教えられてばかりじゃ身につかないからな」

 

 これなら機嫌を損ねることはないだろう。なんで俺がこんな接待みたいな真似をしなければならないんだ。

 

「あら、でしたら仕方ありませんわね」

「まあどうしてもわからないことがあったら相談させて貰うさ、いいだろう?」

 

 これは本心だ。代表候補生となればある程度俺の知らないことも知っているだろう。たぶん。

 

「……ええ! お待ちしていますわ。それではまた」

「ああ、また」

 

 ……よし。何とか機嫌よく追い返せたな。いつの間にか織斑一夏も妹様も戻ってきている。二時間目も始まる頃だ。とりあえず退屈はしなかったが、なかなか面倒だった。後は楽に過ごせればいいのだが……。

 

 

 

 

 二時間目が終わり、再び休み時間。授業中織斑一夏が叩かれたり山田先生が妄想したり織斑先生がお説教したり山田先生がこけたりしたが全部どうでもよかったので無視した。

 廊下を見れば先ほどと変わらず生徒がびっしりと並んでいる。さて今度こそ織斑一夏と妹様のところへ行こう。

 

「やあ初めまして、織斑一夏君に篠ノ之箒さん」

「む……?」

「おお、えーっと君は九十九透だっけ?」

「そうだよ、ちょっとご挨拶でもと思ってな。折角二人しかいない男が一緒のクラスになれたんだ。仲良くしようじゃないか」

 

 猫を被ったが嘘ではない。今の内に親交を深めておけば何かと役に立つこともあるだろう。

 

「そうか、よろしくな! 俺のことは呼び捨てでいい」

「こちらこそよろしく一夏。俺のことも透でいいぞ」

「……よかったではないか一夏。同じお・と・こがいてな」

 

 なんか妹様が不機嫌になってしまった。一夏に放っておかれたのが不満だったのだろう。しかしこちらにも挨拶しておかねば。

 

「篠ノ之さんもよろしく。()()()()()()よろしくって頼まれてたんだ」

「姉さんが? お前姉さんとどういう関係だ!?」

 

 急に眼を釣り上げて大声を出す妹様。束様から姉妹仲がうまくいっていないと聞いていたがここまでとは。この様子じゃあ詳しく話すのは不味いか。適当にぼかしておこう。

 

「テレビで見なかった? 君のお姉さんにはここに来るまで色々お世話になっててな、それで頼まれたんだ。ほんとそれだけ」

「……そうか。いきなり声を荒立ててすまなかった。」

「大丈夫。じゃあ、挨拶も済んだしこの辺で」

「あっああ……」

「おう! またな!」

 

 一時はどうなるかと思ったが何とかなったな。一旦席に戻ったが席にまだ時間あるな、どうしようk「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」──どうやらオルコットがさっき同様一夏に絡んでいるらしい。無視して授業の準備でもするか。

 

 

 

 三時間目。また退屈な授業が始まるかと思いきや。

 

「授業を始める前に、再来週行われるクラス対抗戦の代表を決める」

 

 クラス対抗戦かぁ、模擬戦でもやるんだろうか。まあパスだな。面倒だし。

 

「クラス代表とはそのまま対抗戦以外にも生徒会や委員会などの会議への出席、諸々の雑務……要は学級委員だと思ってくれ。一度決まれば変更はない。クラス対抗戦は現時点での各クラスの実力を測るものだ」

 

 ざわざわとクラスが騒がしくなる。どうせ俺には関係ないことだ。こんな雑用なんて望んでやるものか。

 

「自薦他薦は問わん。誰かいないか?」

 

 おいおい、他薦アリってそれは──

 

「はいっ! 織斑くんを推薦します!」

「じゃあ私は九十九くんを!」

 

 やられた。さすがにこれは困る。先生に頼んで止めてもらおう。

 

「ちょっと待「待ってくれよ! 俺はそんなのやらな──」

「他薦された者に拒否権はない、選ばれた以上は覚悟するんだな。わかったら座れ。九十九、お前もだ」

「そんなぁ……」「……はい」

 

 抗議しようとした瞬間黙らされた。クソッやっぱり恐怖政治か。ここは何とかして一夏に押し付けるか。作戦を練ろうとしたその時、

 

「納得がいきませんわ!」

 

 先ほど聞いたばかりの甲高い大声が響き渡った。またオルコット(お前)か、どうやら今日はまだまだ面倒事が起こるらしい。

 

 

 

第3話「初日・挨拶」

 

 

 




今さらですが各キャラクターの設定が変わってたりします

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