【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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公式から最終巻発売までのお茶濁し小説が出たので初投稿です。


第39話「スイッチ・伝言」

 

「そこっ!」

「甘いわっ!」

「っぐあ……」

 

 楯無ズブートキャンプ(ダッセェ名前の特訓)開始から数日、今日も今日とて模擬戦の日々を送っていた。

 今は見ての通り俺が追い込まれた状況。いつも通り突撃して、避けられたところに機関銃。槍の一突きで態勢が崩され、そこに蛇腹剣の薙ぎ払いがあっやばい避けられねぇ──

 

「──参りました」

「……はい、じゃあ補給行きましょうか」

「へーい」

 

 負けが確定した瞬間にさっさと降参。まだエネルギーに余裕はあったが、スイッチの入っていない俺ではあの状況から返せない。みっともなく足掻いたところで勝てるわけでもなし、それくらいなら少しでも速く一戦終わらせて回数を増やした方が良い。

 問題は、その増やした試合数の中で一度も勝てていないということだ。全戦全敗。とっくに三桁は超えているだろう。

 

「動きは良くなってきてるけど……イマイチね。透くんはどう思う?」

「上限ギリギリでの動きは慣れたんですけど、どうしてもそこで止まってる感じですね。あの時の勢いがない」

 

 現在の上限は数日前から1%上がって73%。数字で見れば微々たる差だが確かな進歩だ。一つ目の課題は順調に解決へと進んでいると言える。

 しかしもう一つの課題である例の状態……単純、鋭敏、直感的、暴力的なそれには至れていない。

 

「やっぱりそうなのね。困ったなぁ」

「もう少しで入れそうなんですがね。何かこう、きっかけみたいなものが欲しい」

「きっかけかぁ……」

 

 死を感じ取ることに関してはかなり進んできた。進んでいるのだが……それだけ。感じ取った死が頭の中に溜まって、膨らんで、そのまま戦いが終わって萎むのくり返し。あの何かが弾ける感覚が無いのだ。

 結局何らかのトリガーがなければ全力は出せないままなのだ。以前までは大きなダメージを負うことがトリガーだった。しかしそれは使えない。

 

「何か無いのか……弾けさせる何か……」

「弾けるって……知らない人が聞いたら薬物でもやってるのかと思われるわよ、その表現」

「こっちは真面目なんですよ……もう」

 

 言われてみるとその通りだが。

 

「となると、何かスイッチみたいなものがあればいいんじゃない?」

「スイッチか……」

 

 確か決まった動作とか、習慣とかそんな感じの意味だったか。スポーツ選手とかがやる、集中力を高めるためにするようなやつ。

 集中力を高める所を置き換えれば良い感じのトリガーとして利用できる……のか?

 

「どんな動きにしましょうかね。いい感じの癖とかあったかなぁ……」

「それは追々見つけていきましょ。ほら補給終わったわよ」

「はーい」

 

 休憩は終わり。十分にエネルギーが回復していることを確かめ、再びアリーナへ。互いにISを展開し、いつでも始められる態勢を整える。

 それでは本日何戦目か、おそらく二桁超えた辺りの模擬戦開始だ。

 

「準備はいい?」

「『オーケーです。今度はこっちから──」』

 

 ()()()

 

「『行きますy「ちょっと待って!」!?」』

 

 急にどうした? 何か問題でもあったのだろうか。

 

「今の! 今のそれ何やったの!?」

「『え? これですか?」』

「それーーーっ!!!」

 

 凄い剣幕で詰め寄る先輩に困惑しながらもう一度指の骨を鳴らす。ぱきりと軽い音が響き、何とも表現しづらい感覚が走る。

 

「その指……というか関節を鳴らすの、よくやってるわよね? 何の意味があるの?」

「『いや別に何となく、思考が変わる気がして……ん?」』

 

 んんん?

 

「これだぁ!!」

 

 昔からの、それこそ束様に拾われる前からの癖。大した意味もなかったこの癖がこんなところで活用できるとは。

 

「喜ぶのはまだ早いわよ。ちゃんと使えるかは確定してないんだから」

「『そうでした。で、ここからどうすればいいんでしょう?」』

「さぁ? そもそも透くんのスイッチだから、私があれこれ口出ししてもどうにもならないのよね。結局自分でやってもらうしかないわ」

「『独学かぁ……」』

 

 その通りなんだけども。初めてのことだからできる自信が無い。

 だからといって、逃す手はないが。

 

「『まあ、手探りでもやれるだけやってみますか」』

「そうね。じゃあもう一回鳴らしてみて」

「『はい。えーと……」』

 

 思考の切り替え、何となくで行っていたそれを意識して行う。音と感触を死のイメージとリンクさせ、あの感覚を呼び覚ます。

 …………。

 

「どうしたの?」

「『いやその……いざ意識してやると、痛い奴みたいで恥ずかしいなって」』

「さっさとしなさい」

「『はい」』

 

 軽く叱られながらも今度こそ左手に力を込める。

 古くからの癖、あの時は何時も近くに死があった。過去と今。二つのイメージを思い起こして──ばきり。

 

「……どう?」

「『……わかりません。けど、悪くない感じです」』

 

 完全に入ったかと聞かれたら違う。しかしさっきまでと同じか言われればそれも違う。何というかとにかく不思議な感覚だ。

 

「ならこのまま一戦やってみましょうか。その後も毎回鳴らす感じで」

 

 「『了解です。……では、お願いします」』

 

 互いに構え直し、正面に浮かぶ相手を見据える。先輩は既に臨戦態勢に入っており、数日前よりいっそう冷たく鋭い眼差しをこちらに向けている。

 さっきまでなら怯んでいただろうが、今の俺は違う。

 

「『…………行きます!」』

「……!」

 

 何が変わったのか、本当に変わっているのか、今日一日で見極めてやる。

 

「『オラァ!」』

「っ、甘い!」

「『ちいっ!」』

 

 勢いに任せた右腕の大振り。当然躱され、返しの蛇腹剣を副脚で受け止める。

 

「『はあっ!」』

「無駄よっ!」

 

 今度は左足の蹴りと尻尾の同時攻撃。当然これも躱される。それを覚悟で放ったのだから。

 

「『まだまだぁっ!!」』

「何度来ても同じよ!」

「『んぐっ……」』

 

 左足、右腕、ネット、砲撃。全身の武器を余すことなく使い攻撃を仕掛ける。その全ては躱され、流され、返しの一撃を食らう。

 

「ほらどうしたの? 変わったのは気のせいだったのかしらっ!?」

「『っ……まさか」』

 

 シールドエネルギーの残量は71%。そろそろ強制終了のラインが見えてくるころだ。

 何十回も繰り返した模擬戦の中で、このパターンは何度もあった。こういうときは大体捌かれ続けて、少しずつダメージが蓄積。慌てて守りに入ったところで間に合わず終了。

 そう、今までは。

 

「『ここからですよ」』

 

 ハッチを展開、害虫爆弾を射出しながら先輩の周りをぐるぐる回る。ゼフィルスの操縦者相手にやった攻撃の応用、追尾機能任せでは簡単に振り払われてしまうが、発射台である俺自身が動けば全て捌かれることはない。

 予想通り機関銃によって大半は迎撃されているが、何割かは届いていた。

 

「これなら躱せないっ……けど!」

「『ナノマシンで吹き飛ばせる、でしょ?」』

 

 そこで先輩が繰り出す手はナノマシンの起爆。周囲に浮かしていた水が炸裂し、一面蒸気と黒煙に包まれる。

 通常ISはハイパーセンサーによってあらゆる感覚が強化・拡張されている。ただ煙や蒸気が撒かれた程度では、すぐに視覚補正機能が働いて、クリアな視界に戻される。

 そう、通常ならば。

 

「!? 見えなっ」

「『今だっ!」』

「なっ!?」

 

 攻撃を捌かれ続けた間、触れた瞬間に武器から機体に《VenoMillion(ナノマシン)》を移動させていた。それでも付着させられたのはごく僅かだが、それでも対IS用のジャミング機能によって一瞬視覚補正が止められる。

 当然こちらの視覚補正は何の問題も無く機能し、戸惑う先輩を鷲掴みにする。

 

「『捕まえた」』

「このっ……離しなさいっ……!」

「『だぁめです、よっ」』

 

 掴んでいるのは右腕。内蔵された《Bonbardier》を起動し、超超至近距離でも砲撃準備に入る

 ようやくの初勝利、派手にぶちかましてやる───

 

 ピーーーーーーーー

 

「あっ」

「『え?」』

 

 いざ発射、というところで突然のアラーム。どうしてだ、まだまだ俺のエネルギーは残ってるし先輩も同様だ。だとすれば……あああ!?

 

「出力オーバー、透くんの負け!」

「『あああああああああ!!!!!!」』

 

 視界の片隅に光る数字は74%。1%のオーバー、つまり俺の反則負け。

 

「反省会、しましょうか」

「『はい……うわあああああああとちょっとだったのにぃぃぃ!!!」』

 

 こうして、また黒星が増えた。ペナルティ(マッサージ)も確定した。

 

 

 

 

「……はい、今日の特訓終わり」

「オツカレサマデシター……」

 

 そして夕暮れ。あれから何度も骨を鳴らし何となく変わった状態で挑み続けたものの、いいところにまで行けたのは最初の一回だけ。それ以外は惨敗とまでは行かずとも特に有利に立てたわけでもなく終わってしまった。

 

「昨日までに比べたらかなりよくなってたわよ? 予想以上の効果ね」

「本当ですか? 結局負けっぱなしなんですけど……」

「本当本当。私も全力出しかけちゃったもの」

「まあ、いつもより強いなとは思ってましたけど……」

 

 この人の全力が出かけていたのなら確かに効果はあったのだろう。逆に今までずっと全力出すまでもなかったということになるが。

 

「うーん。今までが半分ぐらいで、今日は七割以上出してたって言ったら伝わる?」

「めっちゃ上がってますね」

「そうなのよ」

 

 想像以上の強化だ。まさかここまで上がっていたとは驚き、スイッチ様様だな。

 

「とりあえず、効果は確かめられたからこれからも続けていきましょうか。目標は自由にオンオフできるようにすることね」

「関節痛が怖いなぁ、一夏に突っ込まれそうだ……」

 

 何回繰り返せばできるようになるのやら。

 あの健康星人にバレたら確実に面倒なことになりそうだ。前にも一度咎められたっけ。

 

「今日の所は一戦ごとに鳴らしてたけど明日から何戦か間隔を空けるからね。そうすれば大丈夫でしょ」

「適当だなぁ……」

「あれだけ大怪我繰り返されたらこの程度どうでもよくなるわよ」

「……いやほんと、すいませんでした」

 

 何度も心配掛けてきただけに、それを言われると弱いんだよ。

 とにかく課題解決の方法は見つかった。それが有効であることもわかった。後は反復するだけだ。

 

「今日のペナルティも忘れないでねー」

「う゛……はーい」

 

 今日の出力オーバーは1%を二回、つまり十分間のマッサージだ。よくもまあ先輩も変なペナルティもを設けた物だ。毎日下手なマッサージを受けて何が楽しいのかわからんな。

 ……そもそもオーバーするなって話だが。調子が出てくると制御が甘くなってしまうんだ。

 

『変な制限つけやがって、そもそもこんな制御なんていらないんだよ。1や2超えたぐらいで大した怪我するわけでもあるまいし』

 

 (2)はこんな調子だし。もっとしっかりやって欲しいところだ……少しは同意するけどな。これも課題と言えば課題になるのかもしれない。

 

「透くーん? もう帰るわよー?」

「はーい……」

 

 少しずつ進んでいても、まだまだこの特訓は続きそうだ。

 

 

 

 

 

「ふんふーん、ふふっふーん」

「……随分とご機嫌だな」

「まあね!」

 

 スコールの金で借りられたスイートルームを魔改造した開発室で鼻歌を歌う束。傍らのマドカと会話しながらも、目の前のコンソールを弄る手は止めない。

 

「機体もほぼ完成したし、とーくんも良い感じになってきたし、面白くなってきたねー」

「そうか……いや待て、もうそこまで進んでいるのか?」

「? そだよー」

 

 平然と進捗を告げる束に驚くマドカ。いくら【サイレント・ゼフィルス】を改修する形を取っているとはいえ、今日までにかけた作業時間は精々一週間かそこら。そこらの開発ならば数ヶ月はかかる。

 

「あとは最終調整だけだね。それも一日あればできるけど」

「…………」

「流石は篠ノ之博士。仕事が早いことで」

「そうでしょー! もっと褒めろ!」

 

 今更驚くことも無くなったのか、適当に讃えておくスコール。その笑みには散々束に振り回された疲労が浮かんでいる。

 

「いやあ、作業始めたら結構乗っちゃってさー。原型無くなったけどいいよね?」

「えっ」

「へーきへーき。まどっちにはこの方が合うからさ!」

「本当に大丈夫か……?」

 

 不安になる情報をペラペラと語る束。いくら平気と言われても言う人間が彼女だけに余計不安が増す。

 

「そんなことよりさぁ、束さんとしてはまどっちの方が心配なんだけど。毎晩やたら魘されてるし」

「っ……貴様には関係の無いことだ」

「えー?」

 

 二度の敗北を経てから、マドカは毎日の様に幻聴に悩まされている。自身の弱さと()()()を想起させる幻聴は酷く耳障りで、まともに睡眠を取ることもできない。

 

「ねえ。幻聴(それ)止める方法、知りたくなーい?」

「何……?」

「ふふふ……」

「うっ……」

 

 怪しい笑顔で迫る束を前に言葉に詰まる。素直に聞くのか拒否するのか、どう答えるのが正解なのかわからない。

 

「……それは…………」

「ま、どちらにしても機体を完成が先だけどね! その時になったら教えてあげる」

「あっ、ああ……」

 

 そして再び作業に戻る束。こうなってしまうとしばらく手を止めることはない。

 

「なあ、やっぱり私たちには何もねーのかな。あんだけやりたい放題されてエムだけ強化とか割に合わねーぞ」

「しーっ、余計なこと言わないの。……確かにそうだけど」

 

 放置されたスコールとオータムが小声で愚痴る。今のところ、束が手をつけているのはマドカのISの改造のみ。宣言通りではあるが、部隊全体の戦力強化を狙っていた二人からすれば正直不満が残っている。

 何せ束が来てからというもの、毎日彼女の気まぐれによって大変苦労させられている。あまりの忙しさにスコールのもげた左手を直すまで三日もかかったぐらいだ。

 

「例え振り回されようと協力を得られただけで十分すぎるほどの利益よ。想定外が過ぎるけど」

「チッ、わかったよ」

 

 まだ不満は残っているが、取り敢えず納めておく。確かに、ここで催促して今の作業すら放って逃げられたらもっと大変だ。

 

「そのことについてお話が」

「おわぁ!?」

 

 そこで背後から声をかけたのは銀髪の少女。閉じたままの目を二人に向けている。

 

「……あなたは、篠ノ之博士の……」

「はい。束様の娘的存在、最近放置気味でちょっぴり暇なクロエ・クロニクルです」

「はぁ……」

 

 親的存在譲りの珍妙な自己紹介をするクロエ。放置気味なのはマドカに構うので忙しいからである。

 

「お二人の戦力強化について、束様に言伝を預かっています」

「言伝? そんなの直接言えばいいのに」

「束様は興味のない相手とは会話しませんので……」

「なんで誇らしげなんだこいつ」

 

 普通に考えればかなり社会に向いてない点の筈だが、クロエはまるで自慢のように語る。自分は興味を持たれている側の人間だからか。

 

「……じゃあ、内容を聞きましょうか」

「はい。えーっと…ん゛ん゛っ『はいはいー。えっとー、スコーンとビーダル? だっけ? がそろそろ不満を漏らす頃だと思って、やっさしーい束さんが特別に武装を用意してあげちゃいました!』」

「おい名前めちゃくちゃになってんぞ」

「注目するのそこじゃないわオータム」

 

 微妙過ぎる声真似と酷過ぎる名前の間違いは置いといて、まさかの武装提供。願ってもない話に驚きを隠せない。

 

「続けますね。『で・も! すぐにはあげませーん! 二人にはしばらくお預けー』」

「はぁ? じゃあいつなんだよ?」

「『じゃあいつとか言ってそうだから教えてあげまーす』」

「あ、はい……」

 

 完全にこちらの考えを見透かされている。何を言っても応答が用意されていそうだ。

 

「『あげるのはまどっちと新しい機体のお披露目の直前ね。うーん、来週ぐらい?』」

「来週……てことは、()()()()でやるつもりか」

「『そういうこと。細かいことはその時説明するから。それが嫌なら爆破するね、以上!』……だそうです」

「……わかったわ」

 

 さらりと脅しもかけられたが、大人しく待っていれば悪いようにはされないはず。次の作戦には使える様だし、当初の目的を達成できると考えれば文句はない。

 

「それでは私はこれで」

「ええ。博士によろしく」

 

 用が済めば話すことはなく、すぐに去っていくクロエ。また作業中の束の側で待ち続けるのだろう、健気なことだ。

 

「おい、大丈夫か?」

「……少し休むわ。はぁ……」

 

 一先ず望み通りに事が進められそうだが、今日までの無茶振りとこれからのそれに頭が痛む。彼女のと何年も行動を共にしていたらしい九十九透はどうやって過ごしていたのだろうか、尊敬すら覚える。

 

「おい」

「……どうしたの、エム? 見ての通り私は休みたいのだけれど」

「いやその……(アレ)からの伝言だ」

 

 またか。

 

「今度は何?」

「『夕食はカレーがいい』だそうだ」

「……オータム、お願い」

「おう、そこらで買ってくる」

 

 極々普通の内容に安心するが、動く気力は湧かず。おつかいを頼むので精一杯だった。

 

 

 

第39話「スイッチ・伝言」

 

 

 




もうここに書くことがないですね……
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