「はい今日の特訓終了ー。片付けするわよ」
「えっ? 早くないですか?」
タッグマッチトーンナメントの開催が明後日に迫った放課後。明日は開催準備でアリーナが閉鎖されるため、本日で一旦特訓は終了となる。
ならばより一層激しい特訓になるかと思いきや、アリーナが閉まるまでに一時間以上も残したまだ日も暮れていない時間に終わっている。
「言ってなかったっけ? 今日はこれから検査するのよ」
「何のですか」
「透くんのよ」
「えー」
勿論全く聞いていない。というかわざと話さなかったな、知ってたら逃げてるけど。
「どうせやっても何もわかりませんってー。これまでもそうだったでしょう?」
「それはそうだけど……」
俺が
原因は言うまでも無く束様。検査をする度に機器に細工でもしているのだろう。こちらとしても余計なことを知られずに済むので助かっているが。DNA鑑定なんてされたら出生がモロバレだからな。
「でも今回は、今回こそはわかるかもしれないじゃない?」
「ギャンブラーみたいな思考やめませんか?」
何度調べたってわからない物はわからないんだ。俺だって気にならないわけじゃ無いが……束様にお願いすれば教えてくれるだろう。面倒事と引き替えに。
「とにかくやってみるの! ほら検査室行くわよ!」
「はいはい……」
ということで検査室へ移動。仕方なく俺はスキャンフィールドに立ち、楯無先輩はコンソールでスキャンの準備を開始する。
「準備完了、透くんは?」
「いつでもオーケーです」
「はーい、ポチッとな」
ピッ、と起動音が鳴り、スキャナーから緑色のレーザーが全身に当てられる。このまま数分じっとしていれば検査が終了し、結果が出力される……普通なら。
「ふう、どうでした?」
「身長が少し伸びてて、体重も義足分引いて考えても増えてる、たぶん筋肉付いたのね」
「……他は?」
「変な顔文字で埋め尽くされてるわ」
「おっ新しいパターン」
今まではSNSのフォロワー数が少ない病み垢が流してそうな閲覧注意画像か、文字化けしてるだけだったりしたからな。このパターンは面白い。何もわかってないことには変わりないのだが。
「やっぱりダメじゃないですか」
「ぐぬぬぬ……もう一回! もう一回だけやらせて!」
「諦めが悪いなぁ……」
この後ももう一回もう一回と繰り返し、六回目にカレーのレシピが出力されたところで先輩が折れて終了した。
ちなみにレシピの作成者はクロエだった。絶対に作らないぞ。
「…………」
「…………」
時刻は23時を回った頃。本日も深夜編み物部は活動中。そこそこ作業に慣れてきた俺たちは黙々と手を動かしていた。
「あっそうだ、ちょっと聞きたいんですけど」
「なあに?」
静かに作業するのは好きだが、ずっと黙っているのもつまらない。軽く雑談でもしようかと、ちょっとした疑問を投げてみる。
「先輩は、どうして俺を気にかけてくれるんですか?」
「? 変な質問するわね?」
「いやほら。今思い返すとかなり気にかけてもらってるなーって」
軽く挙げるだけでも学校の案内、特訓、体調管理……入学当初から色々とお世話になっている。初めは俺も鬱陶しいだけだと思っていたが、今となってはほとんど受け入れている。
「嫌なわけじゃないですよ? でもなんでかなーって」
「んー……なんでか、ねぇ……」
「答えづらいですか?」
「ううん、大丈夫」
手は動かしたまま、少し考え込むような表情を浮かべる先輩。やっぱり変な質問だっただろうか、聞くべきじゃなかったかな。
「まぁ
「……ですよね」
知ってた。そりゃこの人の仕事考えたら当たり前だ。特訓だって怪我だって、死なれたら困るとかそんなところだろう。
「実を言うと、結構感謝してるんですよ」
「そう? 大したことしてないけど」
「俺ってあまり社交的じゃないんですよ。学園にもそこそこ馴染めてきたと思ってますけど。こうして気楽に話せたり、心配してくれるような間柄の人はほとんどいないんです」
「透くん……」
友人がいないわけじゃない。簪に本音は間違いなくそうだと言えるし、一夏や篠ノ之さん、オルコットもそうだろう。デュノアとボーデヴィッヒは……そんなに好きじゃないけど、仲が悪いわけでもない。
それでも楯無先輩といる時が一番落ち着くというか、楽しいんだ。どうしてかはわからないけど。
「それってもしかして」
「なんか小っ恥ずかしくなっちゃいましたね……あ、何か言いました?」
「……ううん、よかったってだけ」
「そうですか。じゃあえっと、そんなわけでこれからもよろしくお願いします」
「ふふっ。任せといて」
改めて、色々とお世話になるであろうお願いして頭を下げる。先輩ひ優しい微笑みでそれを受けた。
さて、他に何か話すことは……ん?
「そういえば、さっき
「あっ」
あっとは。
「それはその、ほら、あれよ……あれ!」
「あれとは」
「あれはあれよ! えっと……私も透くんといるのが楽しいから!! はいこの話終わり!」
「あっはい」
かなり強引に打ち切られてしまった。この慌て様は……まあいいか。先輩も嫌じゃないみたいだし。
「そっ、そんなことより! 体の調子はどう? スキャンでもわからなかったから教えて欲しいなっ!?」
「調子はいいと思いますよ。疲労も溜まってないし、痛みもない。トーナメントでもいい戦いができそうです」
「ならよかった。特訓付けた甲斐があったわ」
現在の出力上限は77%。ブートキャンプ開始時点では72%だったので、たった一週間程で5%も上げられたことになる。無傷で一回死にかけた時と同じぐらい伸びているのはかなりいい調子だ。
「単純に耐久力が上がってるのもあるけど、一番大きいのは出力上昇による負荷を受けにくい動きができるようになってることね。それも筋肉一つ一つの動きを無意識で」
「やっぱりスイッチのおかげでしょうか。あれもかなり効果出てきましたし」
あの状態に入るための、骨鳴らしのスイッチ。初めこそ入り具合にムラがあったが繰り返すごとに少しずつ安定し、今日なんかはほとんど完璧に入れていたと言っていい。オンオフもスムーズにできるようになってきた。
いいところまで行けることも増えてきたし……結局一度も勝ててはいないんだが。
「ま、いけるとこまでいってみましょうか」
「あら、優勝狙わないの?」
「……いや、あなた一人に勝てない時点で無理では?」
「そんな弱気じゃダメよ。当たって砕けるつもりで」
「砕けてるじゃないか……」
先輩と簪のペアは間違いなく優勝候補の一つ。いつ当たるかはわからないが、避けられない相手なのは間違いない。つまり優勝はかなり難しい。
「でも」
「?」
「やるからには本気でやりますよ、先輩」
「〜〜うん! ぶっ飛ばしてあげる!」
「ちょっと待って」
てれててててーん、てれてててーん。てれててててーん、てれてててーん。
折角いい雰囲気で纏まりそうなところで響く着信音。いつもこの人は変なタイミングでかけてくるな。
「あら」
「すいません俺です。ちょっと外しますね」
さすがに内容を聞かれるのは不味い、急いで部屋から出てっと。
「もしもし」
『やあとーくん。 ご機嫌いかが?』
……何だ? 何時になくまともな感じ。いつもなら開口一番切りたくなるようなノリだったはずだ。
「まあまあですよ。用件はなんですか?」
『いやあ? ちょっとしたお願いだよ』
「うぇー……」
このタイミングでのお願いは間違いなくろくでもないことだ。少なくともちょっとしたなんてことはあり得ない。
『最近調子よさそうだからね、しばらくやってなかったし』
「それ以外で大迷惑被ってるんですけど……まあいいや。で、俺は何をすれば?」
『うんうん。実は、とーくんたちに戦ってほしい子がいるんだよねぇ』
「はぁ……?」
戦ってほしい、か。これまでのお願いで直接戦闘を指示したことはあっただろうか。大体ちょっかいだのお邪魔だのと誤魔化していたはず。
更に態々俺たち──俺以外が誰かは知らないけど──を指定しているってことはそのメンバーが必要ってことか。
「ちなみに、その子が誰かってのは……」
『それを言っちゃあつまらないでしょ。会ってのお楽しみ』
ダメ元で聞いてみたがやっぱり無理か。言い方からして束様のお気に入りで、多少なりとも俺が驚くような奴みたいだが……わからんな。
クロエは戦闘向きじゃないはずだから違う、となると他に誰かいたかな?
『どうせわかってると思うけど、タッグマッチトーナメントだっけ? その日にやるから』
「えっ」
『んー?』
そういえば、俺が一人で出場する羽目になったのはこの人の所為だったっけ。このためだったのか、特訓で忙しくて忘れていた。
しかしトーナメント当日かぁ……。
「あの、延期とかってできませんか?」
『は?』
「っ!」
思わず言ってしまった。通るはずがない、無駄な希望を。
「いや、何でも。了解しました」
『……ま、いーや。寛大な束さんは聞かなかった事にしてあげるよ』
「……ありがとうございます」
『わかってると思うけど、誰にも言わないように。じゃまたねー』
釘を刺すように注意をして通話が切られる。危なかった、まさかこんな失言をする日が来ようとは。
文句や要望なら何度も言ってきた。でもそれは向こうにある程度予測された上での発言であって、今回のそれとは訳が違う。反抗的と見なされたっておかしくなかった。
「……はぁ」
ダメだ。最近弛んできてる、夏が終わった時に再確認したばかりだというのに。ただ生きることに集中していたあの頃俺が見たら嘆くぞ。
俺の目的は生きること、そのためなら何だってする。忘れるな。
なのに、この胸のモヤモヤは何だ。
「ただいまです……」
「おかえりー……ってどうしたの? 何かあった?」
「……いや、何でもないです。そろそろ寝ましょうか、日付変わりそうですし」
「え、うん。おやすみ?」
「……おやすみなさい」
そのモヤモヤを鎮めるように、冴えたままの目で無理矢理床に就いた。
「ふぅーん、まさかとーくんがねぇ。情でも移っちゃったかな?」
通話を切った携帯を投げ捨てながら、たった今告げられた予想外の台詞を分析する。危険視するほどじゃないけど、好ましくないあの態度。何だかんだ忠実だったとーくんも随分変わってしまったものだ。
「でも、あんな弱い考えじゃ困っちゃうね? くーちゃん、まどっち」
「はい」
「…………」
肯定と無言。くーちゃんはそういうだろうと思ってたけど、まどっちはどうしたのだろう。何か言いたげで……あ、そっか。
「もしかして、耳のことでも聴きに来たのかな?」
「……ああ」
「いやぁ待ってたよ! もう機体は完成してる、いつでも教えてあげるから!」
初めて会った時、まどっちは酷い幻聴に悩まされていたみたい。原因はバッチリ視てたから知ってるけどね。その幻聴の止め方を教えてあげようとしたんだっけ。
「教えろ、どうすればこの耳障りな声を消せる? 私は強者であれる?
「そんな迫らなくたってちゃあんと教えてあげるからさ、ほら座って?」
「くっ……」
余程追い詰められていたのか、必死の形相で詰め寄るまどっち。面白いなぁ、弱者はこんなにも余裕が無いんだ。
「消す方法自体はとーっても簡単! 明後日には達成できるよ、まどっち次第だけどね」
「本当か!?」
「原因は知っての通り、二度の敗北と自身の喪失。ならそれを吹き飛ばすような経験で上書きすればいい」
胸元から取り出した小さな小さな結晶。なんの装飾もない、全てが吸い込まれそうな漆黒を放つそれを手渡す。
「それがまどっちの新しい力。
「これが……私の」
「明後日の作戦で早速その力を振るってもらうよ、何をすべきか……言わなくてもわかるよね?」
まどっちの敗北は彼から始まった。眼中に無かったはずの存在から、最も恨めしい敵へと変わった者。そいつを消せば、間違いなく幻聴は消え去るだろう。
「とーくん、殺しちゃって?」
「…………!!」
数分後。スコー…スコーン? に呼ばれてまどっちが去っていった。先ほど追加武装の在処を伝えたから、それの回収と作戦の打ち合わせでもしているのだろう。
部屋に残ったのはくーちゃんと私だけ。久しぶりの二人きりだ。
「よろしいのですか? 透さまを殺せなどと」
「んー? 心配しちゃった? くーちゃんは優しいなー」
「いえ。少々意外だったもので」
「そっかそっか。じゃあ教えてあげよう!」
日頃から私が指として扱っていたとーくんを殺せということは、自分の指を潰せと言っているようなもの。理解できないのも仕方ないか。
「まず私自身は本気でとーくんを殺したいとか思ってないよ? 殺しかけたことは何回もあるけど」
「では何故……?」
「これはね、選別なんだ。私の計画に使えるだけの、より強く大きな存在のね」
「選、別……」
「必要なのは一人だけ。予備として取っておくのもいいけど、どうせならもっといい使い方をしようかなって」
つまりは殺せと言ったのは本気にさせるための煽りみたいなものだ。生きるために殺されたくないとーくんと、前に進むため殺したいまどっちなら間違いなくやる気になってくれるだろう。別に一方が死んでも何の支障も無いが。
……今回はついでだけど、もし
さて、私に相応しいのはどっちかな?
「……私も、いつか選別されるのでしょうか」
「くーちゃんが? どうして?」
「私には、透さまの様な力はありません、束さまがくださったものしか……」
「なぁんだそんな心配してたのかぁ」
急に不安そうな顔をしていると思ったら、自分も選別にかけられると思ったのか。全くくーちゃんはかわいいなあ。
「大丈夫。とーくんとまどっちはどっちかだけでいいけど。くーちゃんは一人だけなんだから」
「束さま……!」
「最近寂しくさせちゃたから心配になっちゃったのかな? ごめんよう」
優しくくーちゃんを抱きしめ、不安を落ち着かせるように囁く。くーちゃんは大事な大事な私の娘。代わりなんていない特別な鍵。箒ちゃんみたいにね。
「さっ、今日はもう寝よっか! この束さんが子守歌を歌ってあげよう!」
「あ、束さまの子守歌は眠れなくなるのでお気持ちだけでいいです」
「あれー?」
第40話「調子・選別」
ソシャゲと課題で書く時間がありません!!!