【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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(にん◯んっていいなの替え歌で予約を忘れた旨を説明しようとしたが規約違反なので断念した)どうも初投稿です。


第41話「開会式・蟷螂」

 

『またDか、千冬ならばAだったのだが……』

『処置も失敗ばかり、何も進展がない。本当に基準をクリアしているのか?』

『これではまるで、失敗作だ』

「──うるさい」

 

 頭の中で声がする。酷く耳障りな、思い出したくもない記憶の声。

 四六時中止むことのない幻聴に精神を擦り減らし、怒りと悔しさに身を焦がす日々。

 だが、それも今日で終わる。

 

『それがまどっちの新しい力。(狩られる者)の姿を捨てて、生まれ変わった新しいIS』

「これさえあれば……遂に、私が失敗作などではないと証明できる」

 

 あの女に渡された黒い結晶を握りしめる。掌から伝わる冷たく硬い感触が、自身の望む姿を表すようだ。

 

『──エム? そろそろ作戦開始よ』

「わかっている。邪魔はするなよ」

『ええ、それが博士の指示ですもの。存分に暴れなさい』

 

 あと少し、あと少しで、奴に会える。戦える。殺せるんだ。

 

「来い──【Insecta Rex(王殺蟲)】」

 

 その名を呼んだ瞬間。視界に黒が広がり、全身が飲み込まれた。

 

 闇の中。幻聴とは違う、何かの声が響く。

 

『──力ヲ欲シマスカ? 何ノタメニ?』

「……欲する。勝つ(殺す)ために」

 

 決まっている。だから私は生きているのだから。

 

『デハ、()()()()()()()()()()

「何……?」

 

 何を差し出すかだと? 代償が無ければ使えないとでもいうのか?

 ……いいだろう。

 

「勝利以外の全て、何もかもを差し出そう。……だから、私に力を寄越せ!」

『……イイデショウ。デハ──始メマショウ』

「!」

 

 黒い何かが私に流れ込む。余計なものが消え去り、欠けていたものが埋められるような、不思議で心地よい感覚が全身を駆け抜けていく。

 そして──

 

「──アハッ」

 

 私は力を得た。

 

 

 

 

 

 

「それでは更識楯無生徒会長より、開会の挨拶を行います」

 

 司会進行の虚先輩が下がり、替わって楯無先輩が前に出る。

 今日は専用機限定タッグマッチトーナメント当日。生徒会メンバーの俺たちは司会の後ろに整列している。

 

「ねむむ……ぐぅ……」

「寝るな寝るな、教頭先生見てるぞ」

「ぅぃー……」

 

 ふらふらと左右に揺れながら意識を保つ本音。朝からずっとこの調子だが、簪によれば昨夜の就寝時間は二十二時。別に寝不足でも何でも無くただ眠いだけらしい。教頭先生がおっかない顔で見てるので早くしゃんとして欲しいものだ。

 

「どうも皆さん、本日は専用機持ちのみの大会となりますが、試合内容は皆さんにとっても──」

「よう透、調子はどうだ?」

「まあまあだな。一夏、お前はどうなんだ? 篠ノ之さんと組んだんだろ?」

「俺もぼちぼちだな。精一杯やるさ」

 

 楯無先輩の挨拶を聞き流しながら一夏と小声で会話する。こいつのペアは妹様。零落白夜の消耗を絢爛舞踏でカバーできる。束様のデザインコンセプト通りの組み合わせだ。

 欠点を挙げるなら二人の技術面だろうか、それも最近は驚異的な速度で上達しているから侮れない。

 

「楯無さんと特訓してたんだろ?」

「ああ、お陰で随分鍛えられた……と思う」

「思うって……本当に大丈夫か?」

「先輩以外と戦って無いからな……本番だとどうだか」

 

 成長した実感はある。間違いなく強くはなれている。しかし相手は楯無先輩だけで、それも負け通し。今日の戦いでどれだけ活かせるかはちょっと自信が無い。

 

「では、対戦表を発表します! ご覧ください!」

「おっ」

「どれどれ……」

 

 先輩の背後に現れた空中投影型ディスプレイ。そこに表示された対戦表を見る。さて、最初の対戦相手はっと……。

 

「「あっ」」

 

 第一試合、九十九透 対 織斑一夏&篠ノ之箒。

 初戦から男子対決が決定した。

 

「当たっちまったなぁ……」

「初っ端男子を当てるとか何を……ああこれもか」

「? 何が?」

「なーんでも」

 

 普通に考えれば俺たち男子の試合は相当注目されるわけで、一回でも多く戦わせようとするだろう。しかし対戦表では一回戦第一試合で当たる、いきなり片方が脱落するわけだ。

 学園は興行的にもデータ収集から考えても、いきなり男子が脱落するのは望んでいないはず。つまり学園外からの干渉によるものと考えられる。

 間違いなく束様だけど。

 

「まさか最初からとはなー……」

 

 そして束様がこの組み合わせを指示したのだとしたら、一昨日の電話で告げられた襲撃は間違いなくそのタイミングで来る。試合中か、開始前か、それとも終わった後か。何れにしろこの大会が初戦で潰されることは確定した。

 

「それでは、選手は各ピットに移動してください」

「じゃあ、俺は行くぞ。また後でな!」

「おう。後で……はぁ」

 

 何も知らない一夏が張り切ってピットへ駆けて行った。その張り切りが無駄になると知ったらなんて言うだろうか。束様が悪いとはいえ申し訳ない気持ちになる。

 

「俺も移動しないと」

 

 完全にやる気を失ったが、試合開始までの時間は残り少ない。さっさと移動して、ISスーツの上に来た制服を脱いで、いつ襲撃がきてもいいように覚悟を決めないと。

 ……それにしてもだ。

 

「今日くらい行事を楽しみたかったなぁ……」

 

 

 

 

 

「ん?」

「お?」

「あん?」

 

 第四アリーナ通路。ピット入口のすぐ目の前で、初対面の女生徒二人とエンカウント。一方は 高い身長にうなじで束ねた金髪、露出の多く何というか、色気がある。もう一方は反対に背は低く、太い三つ編みを垂らした気怠げな雰囲気だ。

 この二人は誰だったか。確か前に名簿を見て、楯無先輩にも聞いたことがあったな。えーと……

 

「ダリル・ケイシー先輩とフォルテ・サファイア先輩、でしたっけ」

「正解! そういうお前は九十九透だな? 評判は聞いてるぜ」

「お初っスね。よろしくー」

「あ、こちらこそ……」

 

 この二人がまだ会っていなかった上級生の専用機持ち。対戦表ではペアを組んでいて、聞くところによると強力なコンビ技を持っているらしいりもし当たることがあったなら強敵になっていただろう。

 

「何か御用ですか?」

「いや、ちょっとした挨拶回りだよ。次に当たる相手は気になるだろ?」

「うちらはシードで、君たちの勝った方と戦うんス。さっき織斑一夏にも会って来たけど……先輩が変なことするから篠ノ之さんに追っ払われたんスよ」

「おいそれは言わないって約束だろ」

「何時したんスかそんな約束」

 

 何だ何だ、目の前で喧嘩か? ぶっちゃけ邪魔だから早く退いてほしい……ん?

「んんん?」

「どうした? オレの顔になんかついてるか? それとも惚れたか?」

「惚れたらダメっスよ。火傷するっス」

「いや違いますけど……気のせいか」

「「?」」

 

 なーんかダリル先輩の顔、見覚えある気がしたんだが……やっぱり気のせいか。金髪の知り合いなんてオルコットとデュノアしかいないし。

 

「っと、邪魔したな。んじゃ頑張れよ一年!」

「上で待ってるっスよー」

「はぁ……どうも」

 

 適当な激励を残して去って行く二人。変な人達だったな。

 多少時間は食われたが、これぐらいなら大丈夫だろう。

 

「さぁーてとっ」

 

 ピットへ入り、制服を脱ぎ捨ててISスーツ姿へ。入場まであと少し。軽く深呼吸して心を落ち着かせる。

 

「ふぅー……」

 

 身体も機体も好調。テンションは若干落ち気味だが支障はない。

 余計なことは考えるな。邪魔が入るまでのほんの少しの間でも、この戦いを集中しよう。

 

『試合開始まで残り一分です。選手は入場してください』

「『── 【VenoMillion】」』

 

 IS展開。ゲートが開き、光が差し込む。

 アリーナへと飛び込みながら、装甲を部分解除した左手を鳴らす。

 ばぎり。

 

「『──……」』

 

 独特の感触と音が死のイメージを呼び起こす。スイッチ・オン、これで準備は整った。

 

『両ペアは位置についてください。試合開始まで、5、4──』

 

「『……やるか、なぁ?」』

「「おうっ!」」

『──1──試合開』

「待テ」

「『「「!?」」」』

 

 そして、()が落ちて来た。

 

 

 

 

『全生徒は地下シェルターに避難を開始してください! 繰り返します、全生徒は──ザ─ひな───さ──』

 

 突然の襲撃者、明らかな異常事態の起きたアリーナに緊急警報が鳴り響く。

 にも関わらず防壁の展開は中途半端、避難を呼びかけていた放送は途切れ途切れになり、おそらく何かしらの妨害を受けていることが察せられる。

 だがそんなことよりも、問題なのは目の前のこいつだ。

 

「グぎッ、あアあアア……」

「『クソッ……」』

「何なのだこいつは!?」

「黒い……IS?」

 

 たった今落ちてきた、真っ黒な全身装甲(フルスキン)の機体に身を包む敵。生身は一片たりとも露出していないが、苦しむような唸り声で無人機ではないことがわかる。

 しかしこの……何だこの妙な感じ、また親近感か?

 

「『応援は……無理そうだな」』

「ああ、おそらく敵はこいつだけではない」

「誰とも連絡がつかない、俺たちでやるしかないな」

 

 ここから少し遠く、他のアリーナがある方角からも煙が昇っている。間違いなく敵は複数、それぞれ専用機持ちがいるところに散らばっていると考えるのが妥当か。

 これは間違いなく束様の仕業。電話で言ってたのはこいつのことだろう。いくら何でも初戦開始直後に送ってくるとは思わなかったが。

 しかし本当にこいつがアリーナのバリアを破ったのか? 確かにそこそこの大きさだが、手足は細くパワーに特化した機体には見えない。二本の捻れた角飾りかセンサーだろう。特に武装も出していないはずだが……。

 

「ァ──九十九、透」

「『あ? 俺がどうし──いぃっ!?」』

 

 不意に名を呼ばれ、問い返したその時。一瞬にして目の前に飛んできた敵の()()が迫る。いつの間に取り出した──ってそれどころじゃない!

 

「『っぶねぇ!!」』

「ガッ……」

 

 その刃が首に届こうかというギリギリで躱し、カウンターの蹴りをお見舞いする。危ない危ない。スイッチ入れてなかったら今のでお陀仏になるところだった。

 

「大丈夫か透!?」

「『平気だ! それより気をつけろ! こいつ強いぞ!」』

「九十九ッ、九十九透ゥゥ……」

「『また俺ぇっ!?」』

 

 今度は両手に大鎌を構え、とんでもないスピードで飛びかかる。たった今蹴られたばかりだってのに、どうしてまた俺に来るんだ。

 さっきは一本だけだったから何とか躱せたが、今度は二本。このスピードじゃ片方弾くので精一杯、やばい避けきれ──

 

「死ね」

「止めろぉっ!」

「グッ……」

「『っサンキュー一夏!」』

 

 割って入った一夏がもう一本を弾き、何とか直撃は避けられた。

 今度はこちらの番と攻勢に移ろうとした瞬間、エネルギー表示の変化に気づく。

 

「『チッ、掠ってたか……あ?」』

 

 僅かなエネルギーの減少。どうやら弾いたつもりで、ほんの少し掠っていたらしい。それだけなら大した問題じゃないが、おかしいのはそこじゃない。

 

「どうした九十九、異常か?」

「『ああ、とんでもねー異常だ。たった今掠ったとこ、その部分だけシールドバリアが削られていやがる」』

「何だと!?」

「きヒッ」

 

 シールドバリアに損傷アリ。修復不可。と、警告表示が映し出される。これってつまり、

 

『原理はわからんが、奴の攻撃が当たった部分だけシールドバリアが剥がされている。俺が試しても直せない。次同じとこに当たったら装甲で受け止めるか、絶対防御か、最悪中身ごとぶった斬られるな』

 

 マジかよ。しかし(2)が言うならその通りなんだろう。

 これが敵の単一仕様能力? それとも武器の仕様? どちらにせよ、かなりの脅威、警戒すべき能力なのは間違いない。

 戦いに最適化された頭で、必要な情報を纏め上げる。

 

「『一夏、篠ノ之さん! こいつに攻撃されると、そこだけシールドバリアが無くなる! なるべく攻撃されるな!」』

「そんなことが!?」

「『理屈は知らん! それと、こいつは俺にご執心みたいだ。引き離すのも厳しそうだし、まずは俺が前に出る。二人は援護してくれ!」』

「「了解!」」

 

 正面に俺、少し引いて一夏と妹様が構える。即席の三人組(スリーマンセル)だが、一人で挑むよりはマシだろう。

 

「ぎぃッ、殺す、殺スッ!」

「『うるせぇな、こっちがぶっ飛ばしてやる」』

「シぃッ!!」

 

 再び高速で飛びかかる敵。またこの直線的な動き、ならばもう一回カウンターだ!

 

「『単調なんだよっ──!?」』

「──ぃヒッ」

「『はぁっ!?」』

 

 刹那、確かに目の前にいたはずの敵が消えた。顔面へ叩き込むために繰り出した拳は空を切る。一体どこへ──

 

「後ロ」

「『何だとっ!?」』

「九十九っ!!」

 

 反射的に振り返れば、そこいたのは大鎌を振りかぶる敵の姿。

 馬鹿な、俺の高感度センサーすら振り切って移動したというのか? どんな化け物だ。

 

「『がはっ!」』

「ハハはははハ!!! 切れた! 切れた!」

「『野郎っ……!」』

 

 あまりのスピードに反応が追いつかず、袈裟斬りの一撃を食らう。そして通常のダメージに加え、シールドバリアが破損。一層苦しくなった。

 

「もウ一回」

「させるかっ!」

 

 追撃は一夏が叩き落とし、体勢を整える。また助けられてしまった。

 

「『ただのイカレかと思ったが、ここまでレベル高いとは」』

「作戦変えようぜ、俺も前に出る」

「『すまん。頼んだ」』

 

 まだまだエネルギーは残っているとはいえ、バリアに異常をきたし、現状相手の動きを捉えきれていない俺だけで前衛を張るのは無茶だ。様子見はやめて、一夏を前衛に加えよう。

 どうやらこいつはある程度動きを追えているらしいしな。

 

「私もできる限り援護する。回復が必要になったら教えてくれ」

「『……《絢爛舞踏》って自由に使えたっけ」』

「特訓した!!」

「『えぇ」』

 

 あの単一仕様能力って特訓で自由に使えるようなものなのか? だったら相当やばいことだと思うんだが。実質燃費効率を無視できるし。

 ……まあ、いくらエネルギーを回復しようが、敵の能力の前では分が悪いか。

 

「ムぐっ、ッッ……」

「うわっ!? ……羽根か??」

「『……なるほどな」』

 

 一度動きを止め、身を震わせる敵。背部の装甲が割れ、ドス黒い羽根が展開される。こいつであの異常な機動力を発揮していたのか。

 これで漸く初めの親近感の正体がわかった。両腕の大鎌、背中の羽根、黒い装甲と独特のシルエット。

 この機体は蟷螂、つまりは()と一緒なんだ。シルエットも性能も全然違うし、蟷螂には角なんぞ生えちゃいないがな。

 

「織斑、一夏っ! オ前は、後だっ!」

「こいつ、また透の方に!?」

「『だぁークソッ! 恨みでもあんのかっ!?」』

 

 一夏が前衛に入っても未だ目標は俺のまま。四方八方から滅茶苦茶な軌道で飛んでくる攻撃を捌きながら文句を叫ぶ。

 

「今だっ! ……これも避けたぁ!?」

「今度は私がっ……くそっ!!」

「ギヒ、あはハはハハ!!」

 

 こちらもタイミングを見計らって攻撃を仕掛けるが、馬鹿げたスピードによって全て躱される。こちらのダメージが蓄積していくばかりだ。

 

「『……足りねぇ」』

 

 今の出力は77%、つまり無傷で戦えるギリギリの値。それでも追いつけないってことは、敵の性能はもっと上だ。

 もっともっと、力がいる。

 

(おい、終わったら特大の筋肉痛で済むぐらいの、ギリギリ戦闘続行できる出力はどれくらいだ?)

『82%、それ以上は保証しない』

 

 上昇幅は5%。それで通用するかは一か八か、やるしかない。

 

「『すみません先輩、ちょっと無理します」』

「……九十九?」

「お前まさか!?」

「『ああ、そのまさかだ」』

 

 ……後で、また謝んないとな。

 

 出力強化、同調率規定ライン突破、単一仕様能力解放。

 機体と全身に力が満ちていくのと同時に、今日の試合用に設定していた警告音(アラート)が鳴り響く。

 さて次。この痛みと死の感覚をもって、鎮まりかけた闘争心を蘇らせよう。

 

「『82%……さあ、続きだ」』

 

 ば ぎ り 。

 

 

 

第41話「開会式・蟷螂」

 

 

 




ぼくは黒騎士が出るなんて言ってません
不定期投稿らしい投稿間隔になってきましたね
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