【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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17:00に更新したかったので初投稿です。


第45話「EOS・消灯」

 

「倉持技研へ行く? お前が?」

「ああ、今度の週末に行くことになった。だからその日は授業休む」

 

 あの襲撃から一週間が経った夜。珍しく──これが普通のはずなんだが──一夏と二人きりの部屋で、突然週末に用事を告げられる。

 

「何でまた急に……繋がりなんてあったか?」

「いやほら、一応倉持は白式の開発元だろ?」

「そういえばそうだったな。簪の打鉄弐式のとことしか考えてなかった」

 

 簪と専用機の開発をしたのも5月から8月までだったか。結構早く時間は過ぎていくものだ。

 なお、倉持について簪は『特に恨みとかはないし縁を切ろうとも思ってないけど、必要がなければ関わりたくない』だそうだ。受けた扱いを考えれば正しいと思う。

 

「今まで一度もあっちで点検してないし、()()()()()があったなら一度見せてもらいたいって」

「調べたってどうせわかるもんじゃないと思うがな。それこそ束様(あの人)じゃないと」

 

 そもそも【白式】を開発したのだってほとんど束様だろう。ちょっとぐらいは作ってたかもしれないが。

 そんなところでいくら調べたって、出てくるのはよくわからないデータばかりだろう。

 

「だよなぁ。でも点検はしてほしいし、とりあえず行ってみるさ。断る理由もないからな」

「おう、行ってこい。俺には関係ないし」

「そう言うと思った」

 

 俺と倉持には直接的な関係はない。簪を経由すればあるが、少なくとも好意的な感情はこれっぽっちもない。

 

「そうだ、この前愛がどうとか話したろ? 千冬姉にも聞いてみたんだよ」

「は?」

 

 マジかこいつ。

 

「なんだよ、透だって賛成してたじゃんか」

「あぁー……そうだけどさ、まさか本当に聞くとは。でどうだった?」

「すっげぇ驚いてた。それからちょっと考え込んだような顔して……そういうのは同年代の女子に聞けって」

「ふーん」

 

 驚くのはともかく考え込んだ、か。やはり自分の過去を思い出したのだろう。上手く隠したみたいだが。

 

「聞くのか? 篠ノ之さんとかに」

「まさか。さすがに女子に聞くのはちょっとなぁ」

「お、おう」

 

 ここで聞きにいけばちょっとぐらい進展があるかもしれなかったんだが……まあそう勧める義理は無いしな。勝手に進展させてくれ。

 

「後は自分で考えるよ。もしくは、また会った時に」

「ああそうしとけ。その余裕があればな」

「やっぱりあの二人強そうだもんなぁ、シャルとラウラはやられてたし」

「たぶん今度は制限解除(リミッター・カット)してもっと強くなってるぞ」

「うっげぇ…」

 

 これも事情聴取で聞いた話だが、デュノアとボーデヴィッヒが負けた時、先輩二人が連携したのはほんの一瞬のこと。たったそれだけで優勢だったはずの戦況はひっくり返されたらしい。

 今度はその連携がずっと、さらに基本性能もアップした状態で来るわけだ。こっちも強くはなってるが正直相手にしたくないな。

 

「倉持でも何かアドバイス貰えないか聞いてみるか……」

「そうか。向こうで女引っかけてくんなよ? また面倒なことになるからな」

「なんだそれ……透こそまた怪我すんなよ。やめたフリしてこっそり編み物の練習してること楯無さんにチクるぞ

「!?」

 

 いや嘘ついてたわけじゃなくてちょっとこの手じゃ無理かなーと思いつつちょっと練習したらいけるんじゃないかと色々試してただけで……誰にも言ってないのになんで知ってるんだこいつ?

 

「バラすなよ!? 絶対バラすなよ!? おやすみ!」

「わかったわかったって、おやすみ」

 

 

 

 

 数日後。今日は一年生合同IS実習の日。

 グラウンドには一年生全員が整列し、織斑先生の指示を待っている。

 腕組みした織斑先生の後ろにはISが何機か入りそうなほどの大型コンテナ。しかし訓練機ならこんな保管方法ではないはず。一体何が入っているのだろう。

 

「織斑! 九十九! ……以下専用機持ち! 前へ出ろ!」

「「「「「「はい!」」」」」」

「全員呼ぶのめんどくさくなったんだな……」

「早く来い」

 

 専用機持ちも一年生だけで七人。合同実習となればその全員が揃うわけで、一々名前を呼んではいられないのだろう。なら最初からまとめて呼べばいいのに。

 

「先日の襲撃事件で、お前たちのISは深刻なダメージ負ったか要検査となった。……九十九は除く」

「速攻で予備パーツ届きましたからね。誰かさんから」

 

 一夏と妹様のISは例の異常によって検査にすることが決まり、他の専用機持ちはその損傷からオーバーホールと自己修復の両方を行うことになった。よって、今専用機を使えるのは俺だけ。

 当日の時点では俺のISもかなりのダメージを負っていたが、次の日には束様から予備パーツが届き、シールドバリアも元に戻っていたためすぐに修理が完了してしまった。

 

「……続けるぞ。当分ISの使用は禁じられたが、今日はその代わりとなるもので実習を行う。山田先生、お願いします」

「お任せください! オープン・セサミ!」

「古っ」

「やめて……やめて……」

 

 世代差に震えながら手元のスイッチを押す山田先生。同時に巨大なコンテナが展開し、中からはISより少し小型の装甲が現れる。

 

「これは……」

「えーっと……そうだ『EOS(イオス)』! 先週授業で言ってた!」

「ほう、よく覚えていたな織斑。出席簿(これ)を構えていたんだが」

「しまってください」

 

 しっかり授業内容を覚えていた一夏が出席簿アタックを回避。褒められているのかどうか怪しいところだが、ちゃんと勉強しているようで何よりだ。

 で、目の前に現れたこのEOS。確かこれは……。

 

「正式名称は『Extended(エクステンデッド) Operation(オペレーション) Seeker(シーカー)』災害時の救助活動、平和維持活動などを目的として作られた国連開発の外骨格攻性機動装甲だ」

「ふーん……今日はこれに乗れと」

「そういうことだ。こいつの実稼働データが必要だと上層部から通達があってな。要はレポートに協力してもらいたい」

「代わりとか後付けの理由じゃないんですか……? まあやりますけど」

「ああ……」

 

 どうせ拒否権もないし。俺を除いて専用機が使えないのは事実だし、先生に協力ぐらいはしておくか。

 後ろでは山田先生が一般生徒向けに指示を出している。どうせ全員がEOSを使えるだけの数も時間も無い。大方訓練機でも使って模擬戦でもとらいったところか。

 

「じゃあ……乗ってみるか?」

「ま、楽勝でしょ。だってあたしたち普段からIS使ってるんだし!」

「その通りですわ。代表候補生たるわたくしたちが、この程度の兵器使いこなせないわけがありません」

「それ、フラグ……」

「ど、どうかな……?」

 

 久しぶりに鈴とセシリアが調子に乗った発言をしている。簪とデュノアは感づいているが、この見るからに重そうな外骨格を装着したならば……。

 

 

「ぐえ……」

「うぐ、おおお……」

「いやーきついっす……」

 

 めちゃくちゃ動きづらいわけだ。

 

「ひぃーもう無理、脱ぐわ」

「ぼ、僕も……」

「全身インク塗れですわ……」

 

 手っ取り早くデータを取るため、EOSを装着しての模擬戦を行った俺たちは全員揃って(ただし俺とボーデヴィッヒは除く)倒れ伏していた。

 それもそのはず、見た目通り鉄の塊であるEOSには、ISと異なりPICもパワーアシストもない。補助駆動装置はあるがISに比べたら微々たるもの。しかも最新の大型バッテリー──これもめちゃくちゃ重い──を以てしても悪い燃費では最低限しか使えない。

 他にも動作性がカスだとかそもそも飛べないとか色々と違いはあるが……要するにISが凄すぎる。流石時代を先取りしすぎたマシンだ。

 

「でもお前は乗りこなしてたよな」

「ドイツ軍にも似たものが存在してな。主に装備の運用試験でしか使わなかったが」

「ほぉー、だから慣れてたと」

「ああ……というか、お前こそなんで平気なんだ。初めて使ったはずだろう」

「え、だって俺ほぼ動いてねーもん」

 

 模擬戦の内容をざっくり説明しよう。まず全員が動きながらチマチマと攻撃。しかし反動(リコイル)のせいで全く当てられず、近づけば少し触れただけでバランスを崩し転倒。中々起き上がらない内に連射を浴びるのを今倒れている人数分繰り返したという感じだ。途中某鳥類倶楽部のごときお見合いや、友情の裏切りなどしょうもないドラマもあったが割愛する。

 

「酷かったなー、ほらみろ顔面インクお化けがいるぞ」

「ぷ、ふふっ。やめろお前……はははは」

「これやったのラウラでしょお!?」

 

 裏切られた側のデュノアが抗議する。あの裏切りは酷かった。共闘面して後ろから引き倒すのは鬼だろ。

 因みに俺はほとんど動かず、最後にボーデヴィッヒに狙われるまで一発も撃ってない。だってこんな動きづらい装備でまともに動けるわけがないし。

 

「でも結果は時間切れだし? 負けじゃないけど勝ちでもないって感じだな」

「嘘つくなその顔は勝ち誇ってるぞ……!」

 

 誰か一人を決めるなら俺が勝者だろう。被弾数0、疲労最低限。ただし命中も0だが。

 

「それにしても、これが本当に使い物になるのでしょうか?」

「ここまで重いとな……」

「数に限りがなく、また性別も関係ないという点で、救助活動などでは大きなシェアを得るだろう。最も、『戦闘』に関して言えば例え千機あろうがIS一機にも及ばんがな」

 

 まあ、そうだろうな。ISを使える俺たちだから過剰に弱く見えているのかも知れない。性能の低さは数と目的の違いで補えば、それなりに優れたものとして見れるだろう。

 ……俺は一生使わなそうだけど。

 

「よし、では全員これを第二格納庫まで運べ。カートは元々乗っていたものを使うように」

「うえー、これを?」

「安心しろ、カートに積むのは山田先生がやる」

「カート押すのはあたしたちじゃないですか……」

 

 結局全員が指示通りに動き、重いカートを押してEOSが格納庫に運ばれる。

 そこからはいつも通り。訓練機を色々と動かして、今日の実習は過ぎていくのだった。

 

 

 

 

「暇だなぁー……」

「暇だねぇー……」

 

 週末の放課後。久々の生徒会室で仕事中──なのだが、俺ができる仕事はほとんどない。

 こんな体になったもので俺の部活への貸し出しは一時休止。他にここでやってたことなんてちょっとした雑用ぐらいのもので、それがなければもう完全に暇になる。

 ……本音はやればやるほど仕事増えるから元々やってないけど。

 

「私は書類に押しつぶされそうなのに……うごご……」

「手伝いたいのは山々なんですがねー、会長印が必要なやつは無理ですよ」

「くぅぅ……」

 

 ほとんどは大した内容じゃなくとも、会長である楯無さんは全てに目を通し、その印を押さなければならない。その苦労はお察しするが……俺には手伝えないな。

 それでも半分以上はもう終わっているのだから、やはり楯無先輩の手腕はは相当なものだ。

 

「お茶が入りました、休憩にしましょう」

「ぃやったぁ虚ちゃん愛してる!」

「はいはい。ほら本音、適当なお茶請け持ってきて」

「はぁーい! 今日はクッキーの気分!」

 

 ほとんど仕事してない俺が休憩というのもアレだが、同じく仕事してない奴がノリノリだしまあいいだろう。部活へ貸し出しに行ってる一夏には申し訳ないが。今日は料理部らしい。

 

「このクッキーはねぇー、さっくさくでとっても軽くていくらでも食べられちゃうんだよ〜もぐ」

「へぇ……わあ高そう」

「経費で落としたわ」

 

 それはセーフなのか……また生徒会長権限とやらだろうか。一体どこまで無茶が効くのか気になりつつ、差し出された紅茶とクッキーに手をつける。うん、うまい。

 うまい紅茶を楽しみながら世間話に花を咲かせ、少し時間が過ぎていったところで一つ気になることを思い出した。

 

「そうだ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「気になること?」

「ほら、先日の襲撃でトーナメント中止になったじゃないですか。あれどうなるんですか?」

「あ、まだ知らなかったんだ」

 

 今の今まですっかり忘れていたからな。確かクラス対抗戦では、中止になっても一回戦だけはやってたから今回もそうだろうか。

 

「うん。大会としては中止だけど、全員のISの修復が終わり次第組み合わせをシャッフルして一回戦だけやることになってるわ。観客付きで」

「なんでシャッフル……ああ、対戦相手わかってたら対策するからか」

 

 流石にお互い完全に対策して試合に臨んでも観客は面白くないだろうからな。正しい措置だろう。

 

「そう、ただし……えーと」

「ただし?」

「透くんは出場停止です……」

「またですか」

「うん……」

 

 理由は聞かずともわかる。一般生徒を前にしてこの状態で戦わせるのはアウトという判定が下されたのだろう。何度も行事が中止になった一般生徒の気持ちを考えるとお前らは見るなとも言いにくい。

 

「アレですね。やる気なかったのにいざ出るなと言われるとちょっと悔しい」

「あうっ」

「熱心に特訓していたものね」

「元気出してつづらん、クッキーあげる」

「元々みんなで食うやつだろ」

 

 なんだかなぁ。キャノンボール・ファストといい、俺とイベントは縁が無いのかもしれない。

 

「まあ実戦はできたし、観戦するのも特訓の内と思って、ね?」

「そうしますよ、残念ですが」

 

 今のあいつらの動きをしっかり見ておくこともこれからにとって大事なことだ。最近ずっと楯無先輩と模擬戦してたし、どれだけ実力をつけたのか確認してやろう。

 

「さて、休憩はこのくらいにしてお仕事しましょうか」

「私片付けますね」

「手伝います、他にやることないし」

「もうちょっと食べる……うまうま」

 

 紅茶が空になり、そこそこ時間も経ったところでお仕事再開。と言っても俺と本音にはもう仕事はなく、やることは雑用の手伝いか休憩続行ぐらいだ。

 そこで──

 

「あと半分もないから完全に日が落ちる前に──」

「失礼します! 追加の書類をお持ちしました!」

「ああああああああ!!!!!!!!」

 

 ──追加の生徒会長しかできない仕事が追加され、残業確定の悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 そして日が経ち、週末が訪れた。

 

「あー……かったるい」

「ふふ、一夏がいないから?」

「んなぁっ!? 違うわよ何言ってんの!?」

「なんだなんだ……珍しい組み合わせだな」

「あ、九十九だ」

 

 合同授業が終わり、片付けを済ませて教室へ帰る途中で珍しい組み合わせを発見する。凰とデュノア……いつもはそれぞれオルコットとボーデヴィッヒといることが多い二人だ。

 確か今は専用機持ちは二人以上での行動が義務付けられていたんだっけ。俺は見ての通り一人で彷徨いてたけど。

 

「かったるいって話よ……てかあんた、一人で行動してていいの?」

「俺はセーフ。もうISの修復は終わってるからな」

「そっか、じゃあパーソナルロックモードも解除してるんだね」

「ああ、見ての通りな」

 

 傷ついたISの自己修復を促すため、俺と一夏、妹様以外の専用機持ちはそれぞれの専用機をパーソナルロックモードにして携帯している。普段のアクセサリー型の待機形態は極薄のシールのような状態で身体に貼り付けられている。凰だったら腕、デュノアだったら……うん、あの場所。

 俺はさっさと修復が終わったのでロックしていない。したらどうなるのかは気になるが……足一本丸ごとシールになったら困るな。

 

「盗まれないためとはいえ、これ結構困るのよねー。緊急保護が遅れるし、展開も遅いし」

「あと数日もあれば元に戻せるだろ。それまで我慢するんだな」

「くぅ〜自分は平気だからって……!」

「まあまあ落ち着いて……」

 

 ISが使えないからか、それとも一夏がいないからか、いつもより凰が荒れている。どうせ夜には帰ってくるのだから気長に待てばいいのに。

 

「……ったく一夏め、早く帰ってきなさいよね」

「うんうん、やっぱり鈴は心配なんだねー」

「ちょっ……だから違うって! あたしはただあいつが悪の組織に改造手術とか受けてないかとか……」

「それ結局心配してるのでは……?」

 

 やけに心配の内容が正義のヒーローっぽいがそこには突っ込まないでおこう。

 そして、優しく宥めるデュノアに凰が声を荒げようとしたその時──

 

 ばつん。

 

「は?」

「え?」

「ん?」

 

 ──廊下の、いや、全ての灯りが一斉に消えた。

 

 

 

第45話「EOS・消灯」

 

 

 




結局この時間だ! ってタイミングはよぐわがんにゃいままですがとりあえず17:00〜22:00ぐらいで更新するかなーと

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