なんと(プロローグ含めて)50話目らしいですよ。つまり50人ぐらい評価してくれてもおかしくありませんね(承認欲求)
「おい、織斑」
「……何でしょうか」
「九十九はどうした?」
「どこにもいませんでした」
「そう、か……」
俺が倉持技研に検査へ行って、IS学園がハッキングを受けてから一週間が経過した授業中。幸いシステムの復旧は一日で終わり、何事もなかったかのように授業は再開され、こうしていつも通りの学園生活を送れている。
……ただ一点、あれから透が一度も登校していないことを除いては。
「部屋には戻ってるんだな?」
「えっと。ベッドで寝た形跡とか、放課後は部屋にいたりするんですけど……朝になるといなくなってます」
「来ない理由は聞いたか?」
「聞こうとしてるんですが、いざ話そうとするといつのまにかどこかへ……」
少なくとも学園の敷地内にはいることは確認できている。なのに登校することはなく生徒会にも顔を出していない。また食堂やアリーナ、運動場など、人目につくようなところには姿を表さなくなった。
それでもなんとか透を見かけた人が理由を聞いたり捕まえようとしたらしいが、結果はこの通り。何もわからないまま、一週間が経過したことになる。
「……わかった。もし何かわかったら教えろ。一週間程度では決まらないが、あまり休まれると留年の可能性もあるのでな」
「……はい」
「よし、では授業を始める。まずは教科書の──」
「…………はぁ」
俺たちがこうして授業を受けている間、あいつはどこかで何をしているのだろう。
あの日の顔といい、急に雰囲気が変わったことといい、明らかにおかしな変化が起きている。
そして、ほんの少しだけ嫌な予感も。
「……り斑、織斑!」
「はいっ!?」
「ぼーっとするな。131ページ8行目から読め」
「すいません!」
やっべ。透のことは心配だけど、あんまり物思いにふけっていると出席簿の一撃が飛んでくる。今は授業に集中する時だ。
「えーっと……あれ?」
「……逆さだ。馬鹿者」
「ぐはぁっ!」
結局出席簿は食らった。
「透くん見つけた!」
「……あぁーあ、見つかった」
IS学園倉庫。今日も授業をサボった俺は、適当なコンテナの上でただ寝転がっていた。
すぐ目の前に海があるこの場所は気に入っている。静かで人気が少なく、こうしてコンテナの上に登ってしまえば探しにきた先生方に見つかることもない。
……たった今楯無先輩に見つかってるけどな。
「何してるのよこんなとこで。みんな心配してるわよ?」
「先輩こそなんでここに……あーやっぱいいです察しました」
大方俺を探してこいとでも言われたか、もしくは生徒会長権限で勝手に探してるとかだろう。聞くまでもなかった。
「……別に、何となく行きたくないなーと思っちゃいまして」
「ご飯は食べてる? 食堂にも来てないみたいだけど」
「最低限は。あんまり食欲もないので」
そういえば、あの日からろくな食事を取っていない。大体は部屋に置いていた携帯食料とか、誰もいないときに売店で買ったパンとかばかり。全く腹が減らないわけでもないが、何か食べたいという気が起きない。ただ腹が鳴るのも不快なので適当に口に入れているだけだった。
「何か悩みでもあるの? 私で良ければ聞くけど」
「いやぁ、悩むのはもう終わってますよ。今は、その先を考えてました」
「?」
選択の先に待つ運命。頭では受け入れて、今さら変えるつもりも無いが……それでもきっぱり割り切るのは難しい。
いくら心配されようと、誰にも話すこともできず……ただこうして海を眺めていた。
「……逆に、俺から先輩に聞きたいんですけど」
「え、何急に」
「大したことじゃないですよ。例え話というか、よくある心理テストみたいな、クラスメイトとの雑談で出るようなやつです」
「ならいいけど……」
悩みはない、ないけれど。もし選択をするのが俺じゃなくて、他の誰かだったならどうしただろうか。それは少し気になっている。
と言ってもこれはあくまで例え話だし、その例え方も適切かどうかもわからないんだが。
「目の前にボタンがあって、『押せば大切な人々が消える』、『押さなければ自分が消える』としたら、先輩ならどうします?」
まあこんなところだろう。これならよくある話だし、間違った例えでもないはずだ。
「随分不思議というか、例え話ならではって感じの質問ね」
「そこ突っ込まないでくださいよ……ああ、壊すとかボタン作った人を殴るとかはやめてくださいね。押すか押さないかだけで」
「そんな捻くれた回答しないわよ。にしても……うーん……」
うんうん唸りながら、真剣に考えている先輩。やっぱり意地悪な質問だよなぁ、一夏から見た俺もこんな感じだったのだろうか。
「押さない、かな」
「へぇ」
正直予想はしていたが、やっぱりな。
「一応聞きますけど……理由は?」
「それはまあ、色々あるけど……もしボタンを押さないで、大切な人がみーんな消えちゃったら、生きてる意味ないなーって思ったの」
「……そうですか」
「あと簪ちゃん見殺しにするとかぜっっったい無理だわ」
「あっはい」
言うと思った。この人シスコンだし、そっちがメインの理由だろ。
もっともそれだけで決めたわけではないだろうし、簪を除外して質問しても結果は同じだったろうが……。
「それにね」
「ん?」
「もし私がいなくなっても、私が存在していた証は残る。そして消えなかった大切な誰かが、きっとそれを継いでくれると思うの」
「……そうですか。誰かが継ぐ、ね……」
それは何かを残せる人の、それを誰かに託せる人の考えだ。何も残せない、誰にも託せない俺とは違う。
「ありがとうございました。だからって何も変わらないんですが」
「えー……残念」
「ま、明日からはちゃんと授業に出席しますよ。生徒会にもね」
「……うん、わかった」
さすがにこれ以上休むのは本格的にまずいからな。そろそろ織斑先生が探しにきそうだし、そうなったら逃げ切れる自信がない。楯無先輩にすら見つかってるし。
「ああそうだ。専用機持ちは明日の放課後、地下特別区画のオペレーションルームに集合ですって」
「会議室? なんでまたあそこで……」
「極秘の作戦があるのよ。私はもう知ってるけどね」
「ふーん……」
「ちゃんと来なきゃダメよ。来なかったら織斑先生に殺されるから」
「おおこわいこわい」
正直あそこに近づくのは先週の出来事を思い出すので嫌なのだが、たった今授業には出ると言っておいて作戦からは逃げるというのも難しい。
にしても極秘の作戦ね……まぁ、あの人の言っていた、『次の機会』とやらに関係していることは間違いないだろう。
つまりは俺の選択は、そこで答えることになる。
「了解です。ちゃんと行きますからご心配なく」
「よかった。もし逃げたら縛っていくしかなかったの」
「えぇ……もしかして、サボりに怒ってたりします?」
「まぁまぁ。せめて出たくないならそれだけでも言って欲しかったわ」
「……ごめんなさい」
いつも通りの笑顔は崩していないが、それだけに妙な威圧感がある。明日からしばらくは真面目に学校生活を送ろう……いや本当に。
それからぽつぽつと何でもない会話をして、放課後のそろそろ日も沈むかというところで俺たちは倉庫を後にした。自室に帰ると一夏が待ち構えていて、避けていた分たっぷりと質問攻めに合うのだった。
次の日の放課後。
「『亡国機業掃討作戦』?」
「ああ。専用機持ちには全員参加してもらうことになっている。専用機の修復も全て完了しているしな」
「やられっぱなしのIS学園も、ついに攻勢をかけるってわけサ」
「にゃあ」
指示通りオペレーションルームへ集合した俺たちは(登校したら思いっきり怒られた)、極秘の作戦について説明をされる。
『亡国機業掃討作戦』。俺たちを何度も襲ってきた国際テロ組織『亡国機業』への攻撃。大きく出たな。
「これまでの調査と協力者からの情報によって、奴らのアジトはある程度絞られてきている。そこで敵地での戦いになるが、これ以上学園に被害を出さないためにもこちらから出撃することになった」
「作戦決行は一週間後。それまで心して準備して欲しいのサ」
「にゃおす」
「一週間後か……早いな」
「あまり時間をかけても敵に察知される可能性もあるからな。最低限の期間だろう」
俺個人としてはもっと早くてもいいんだけどな。もう残り二ヶ月の寿命がすでに一週間減っていて、そこからさらに一週間はまだ猶予があるとは言え少し心配になる。
とまあ決行日の話はどうでもよくはないが置いといて、もっと気になることが一つ。
「で、あんた誰ですか? あとその猫」
「…………あ、私?」
「少なくとも、俺の知ってる眼帯の女はボーデヴィッヒだけですよ。猫は知らん」
「え、私の認識それなのか?」
「フ、フフフ……」
だって銀髪だとクロエと被るし……いや軍人とかレーゲンとか他の印象もあるからな?
日本人女性の平均よりずっと高い長身に、着崩したスーツ姿。右目には刀の鍔を思わせるデザインの眼帯。胸元からは服装に似合わぬキセルが覗く。
肩には白猫を乗せ、真っ赤な髪を揺らしながら女が笑う。
「ご紹介が遅れたネ。この子はシャイニィ、そして私はアリーシャ・ジョセスターフ。第一回モンド・グロッソ準優勝、第二回優勝者……ってら言えばわかるかい?」
「なぜ先に猫を……でアリーシャさんはえー……ああ、イタリアの」
「そうそう、気軽にアーリィって呼んでからでいいのサ」
ISに関わる人間なら知らないわけがない──俺は気づかなかった──この人は、紹介の通りモンド・グロッソ準優勝・優勝経験者。通称『
欧州組なんかガチガチに緊張している。タレントを目の前に固まる一般人みたいだ。
「私としちゃアンタに勝つまでは二位のつもりだけどネ、千冬?」
「…………」
俺はそもそもモンド・グロッソに興味がないから知らないのだが、この二人には何か因縁があるらしい。織斑先生本人に聞いても……答えてはくれなそうだな。知らなくてもいいことだけど。
「こいつは情報提供者兼監督兼戦力としてこの作戦に参加してもらう。少しでも人手は多い方がいいんでな」
「祖国、もっといえば欧州も亡国機業には迷惑かけられてるからねぇ、代表ってことで参加を決めたのサ」
「戦力ねぇ、その身体でですか」
「ちょっと透!?」
「いいって、もっともな疑問だし」
今まで誰も触れていなかったが、彼女の風貌には猫や眼帯なんて気にならないほどの特徴──欠損した右腕と、首元に見える火傷の跡がある。
欠損なら俺の足だったそうだが、俺には待機形態でもある義足が付いている。欠損をそのままにしている彼女とは違う。
「こいつは【テンペスタⅡ】の機動実験でやらかしてネ。バトルに支障はないからご安心を」
「……そうですか。あと……えー、失礼しました」
「いいってば、律義だねぇ」
ISによる事故は珍しいことではない。いくら絶対防御があると言っても過剰な衝撃や不具合でそれが機能しないこともあり得るし、特に開発中の新型機なら尚更起こりやすい。それで火傷を負い、右腕とおそらく眼帯で隠した右目も失っているのだろう。
それはそれとして、こうもちゃんと答えられると聞いた俺の態度が申し訳なくなってきたので謝っておく。
「今日のところは概要を伝えるだけに留める。また詳細を説明するときはここに集合だ。いいな?」
「「「了解!」」」
「……りょーかい」
「よしでは各自準備を怠らないように、解散!」
今概要だけなのはおそらく情報漏洩を防ぐため。特に俺から束様への漏洩を警戒してのことだろう。盗聴盗撮ハッキング……どこから漏れるかわかったもんじゃない。
……たぶん、いや間違いなくとっくにバレてるだろうけど。
とにかく今日はこれで解散だ。寮へ帰る前にしばらく寄ってなかった生徒会に顔を出して──
「ヘイ少年。ちょっと面貸すのサ」
「はい?」
……今日も生徒会には顔を出せないかもしれない。
生徒会には欠席の連絡を入れ、誘われるままに人気のない校舎裏へ移動。ここにいるのは、誘っておきながら何でもないようにキセルを吸う世界二位と警戒するおれだけだ。
「それで、わざわざこんなところで何をするんです?」
「いんやぁ? ただ二人目の男の子がどんな子か知りたかっただけサね」
「えぇー、
「彼とはもう話したよ。君は知らないだろうけど、私は一昨日から来てたからね」
確かにさっきは俺以外誰もこの人に突っ込んでいなかったっけ。あれは触れたくないんじゃなくて、もう知ってるからだったのか。やっぱりサボりはよくなかったな。
「ふんふーん。なるほどねぇ……キミも、相がよくないネぇ」
「相? そりゃ一夏ほどいい顔してませんけど……」
「違う違う。ちょっとした占いみたいなものサ、直感だけど」
「スピリチュアルは求めてませんよ」
「だから違うって」
世界二位でも霊感商法に手を出すのかと思ってしまった。生憎俺は現代っ子なんでな、そういうのは信じてない。
「山あり谷あり……しかし谷が深すぎる。雨のち曇りのち、晴れかけて台風って顔に出てる」
「はいその通りです」
今日から信じます。と冗談は置いといて、ここまで的確に当ててくるってことは──直接言ってるわけじゃないけど──、俺の事情を知っているのか?
それとも本当にただの勘?
いくら疑ってみても、目の前の余裕は崩れない。聞いてみたところではぐらかされそうだ。
「まあ一人目にも言ったことだけど、とにかく気をつけることサ」
「……覚えておきますよ、一応ね」
「うん、じゃあね。行くヨシャイニィ」
「なーん」
どこかに隠れていた白猫を呼び出し、肩に乗せて去っていく。結局何が言いたかったのか。嘘が本当か、忠告か揶揄いたかっただけか……考えてもわからないな。
意外と早く話も終わったことだ。欠席と連絡したが、ちょっとぐらい生徒会に顔を出す時間はあるだろう。再び校舎に入ろうとして、足を止める。
「『雨のち曇りのち、晴れかけて台風』……か」
本当に上手く言ったものだと、そう思った。
「いよいよ明日か、例の作戦」
「そうだな。準備はできてるか?」
「バッチリだ。そっちは?」
「……まあまあ」
「なんだそりゃ」
亡国機業掃討作戦の決行を明日に控えた夜。流石今日はトレーニングも控えめで、しっかり整備をこなして部屋に戻ってきた。
「まだ作戦の詳細は教えられないんだな」
「千冬姉聞いても『まだ教えられない』の一点張りだったしなぁ、このまま明日になるまで言わないのは勘弁してほしいけど」
「ありえなくもないな」
初めてこちらから仕掛けるとあって、情報伝達はかなり慎重に行っているらしい。何せ実行する俺たちにするこんな状態なんだから。
とはいえ、あの人には筒抜けなわけだが……。
「気楽に……はできないけど、連絡来るまで待つしかねーな」
「だなぁ……」
「「…………」」
「「暇だな」」
待つとは言ったが、ただぼんやりと過ごすのは落ち着かない。しかし今から特別何かすることがあるわけでもないし、余計なことをして疲れたくもない。
二人揃って微妙に潰しきれない暇を感じていた。
「「……なぁ」」
「「んっ?」」
「「どうぞ」」
「「えぇ……」」
とりあえず適当な話題を振ってみるかと口を開けばタイミングが被り、では譲ろうかとすればまた被る。変なところで一体感が出た。
「じゃあ
「いや俺のも大したことじゃないけど……まあいいか」
それからはお互い何でもないような雑談をして、連絡が来るまで時間を潰していた。俺がサボってる間にあったこととか、授業のここがわからないとか。普通の高校生っぽい話で。
「お前も相がどうこうって言われたのか?」
「ああ。『女難の相が見える』だってさ。よくわかんねぇな」
「あの人の本職占い師なんじゃないのか?」
「まさかぁ」
「えっ榊原先生また彼氏に振られたのか!?」
「そうなんだよ、丸一時間泣いててみんなで慰めた」
「かわいそう」
「お前サボってる間は倉庫にいたって聞いたけど、ずっとそこにいたわけじゃないんだろ? 他にはどこにいたんだ?」
「えー……校舎の中庭とか、時計塔のてっぺんで寝てたよ」
「中庭はともかく、時計塔ってあの高さで……?」
そして、そろそろ話すネタも尽きてこようとしたところで、ISにメッセージが届く。
差出人は織斑先生。ようやく作戦の詳細が伝えられるのか。
「来たな」
「読もうぜ」
簡潔に必要な情報だけが記載された先生らしいメッセージを読み進める。時間、場所、主な動き……うん、だいたいわかった。
「何チームかに分かれて向かうのか。全員一緒は無理と」
「それとアリーシャさんと織斑先生が作戦指示と学園の防衛、緊急時の応援だってさ」
「俺と同じチームは……透と箒か、よろしくな!」
「ああ、うまくやろう」
やはり戦力は分散させられるか。
襲撃チームは全部で三つ、俺と一夏と妹様で一つ、楯無先輩と簪、山田先生で一つ、オルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒで一つ……どういう基準で割り振ったのかは知らないが相性は悪くないはず。
山田先生は戦えるのか? 技術面での心配はないが、いかんせん普段の様子がなぁ……しかしこうして参加しているのだから間違いはないだろう。
「ちょっと不安だけど、一人じゃないなら心強いな」
「そうだな。何かあってもISならすぐに合流できる距離だし」
多少の懸念はあるが、作戦内容に異論はない。
結局やることは殴り込みだ。ごちゃごちゃ考えるより思い切り戦うほうがいい。大事なのはその後なんだから。
「この通りに進めばいいんだけどなぁ」
「大丈夫だろ……たぶん」
「なおこれまでのIS学園」
「やめろぉ!」
不安なんだよな、すっごく。
第49話「欠席・二位」
暑すぎてあつもりになったわ(持ってない)