【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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 地獄を見ているので初投稿です。


第53話「最強・不全」

 

 最下層。黒く大きな繭を前に、俺たちは困惑していた。

 一夏と妹様が倒してきたはずの無人機。十機以上あったはずのその残骸は欠片一つ残っていない。

 

「一応聞いておくけど、倒した無人機はどう処理してきたんだ?』

「……全部粉々にしたかったが、数が多くて時間がかかりそうだったからコアだけ破壊してきた。一つ一つ確実に壊したから漏れはないはずだ」

「そうか。つまり無人機が勝手に動いて逃げたわけではないと……』

「てことはまあ……こいつだよなぁ……」

 

 残骸が綺麗さっぱりなくなっている原因。それは間違いなくこの繭のせい……恐らくは束様の言う『最後のおまけ』だろう。

 俺はこれによく似た現象を知っている──というか、俺自身が体験している。夏休みの襲撃のときやったアレだ。

 

「つまり残骸は、夏の俺みたいにぜーんぶこいつ()が取り込んじまったってわけだ。クソ面倒なことにな』

「透と同じ……ってことはこれも二次移行(セカンドシフト)の準備形態って感じか?」

「だろうな……正直俺もどんな感じだったかはおぼろげなんだが』

 

 あの時は、俺(2)との対話やら全身ボロボロで若干トンでたからな。今話しているのも後から(2)と楯無さんから見聞きした記録が中心だ。

 

「ならば今のうちに攻撃すべきではないか? 動かない内に仕留めた方がいいだろう」

「いや、今は刺激しない方がいい。反撃が飛んでくるかもしれん』

「こんな状態でか?」

「もし俺と同じなら、攻撃したやつを逆に取り込んじまうらしい……それは困るだろ?』

「う……それは、嫌だな……」

 

 もちろん完全に俺と同じとは限らない。適当に攻撃したらそれで終了という可能性も考えられる……が、こいつが取り込んだ無人機は十数機。俺の三機に比べたら最低でも四倍以上になるわけで、その分強力な反撃能力を持っている可能性が高い。

 非常にもどかしいが、今は余計な刺激を与えずに待つのが賢明だろう。

 

「今の内に出てきたらどうするか考えないとな」

「つってもどんなのが出てくるか……俺みたいに元とは全然毛色の違う機体が出てきそうだしな……』

「やはり『零落白夜』で決めるのが一番か。私と九十九はサポートで」

「要はさっきと同じじゃ……いや、結局それが最善か」

 

 やることは大体一緒。あとは相手の変化次第……頼むから、もっと速くなるとかはやめてくれよ?

 

「あっ」

「むっ」

「おぉ……』

 

 びき、びき、びしり。薄く固い殻のように変質した繭の表面に罅が入る。

 罅は徐々に繭全体に広がっていき、中身が完成したことを知らせる。

 

「出てくるぞ、構えろ』

「「了解!」」

 

 さて。大きいか小さいか、固いか柔いか、速いか遅いか……いずれにしろロクでもないものが出てくることは間違いない。

 何が出てこようと取り乱さないよう心を落ち着かせ、羽化に備える。

 割れた隙間から中身が覗く。出てきたものは。

 

 ばしゃり。

 

「は?』

 

 ドス黒い液体だった。

 

 

 

 

 とうに更地と化したIS学園の作戦本部。そこらのIS乗りなら近づくこともできない暴風が吹き荒れる。

 

「……なるほど、厄介だな分身(これ)は」

「半分千冬のために作った能力だからネッ!」

「ほほう? なら打ち破るのが礼儀だな」

「そんな礼儀はいらんのサ!!」

 

 千冬を取り囲む風の分身。どれだけ斬ってもアリーシャの指先一つで復活し、再び嵐のような激しさで攻撃を仕掛ける。

 

「風の実体に『零落白夜』は関係ない。そして複数展開することで本体狙いを難しくする……よく考えたものだ」

 

 『零落白夜』はあくまでエネルギー無効化攻撃。風──つまり空気の操作によって形成された分身にいくら当てようが本体のシールドエネルギーには何の影響も無い。

 再形成の手間と消費はあるが、それも完全に能力を制御したアリーシャからすれば微々たるものだ。

 そういうわけで、格好つけて発動した『零落白夜』は結局解除しているのが現状である。

 

「何回も分身かき消しといてよく言うのサ!」

「そりゃあこちらも全力だからな。すぐやられるわけにはいかんっ!」

「っまた……ああもう作り直し!」

 

 しかし彼女は織斑千冬。いくら対策(メタ)が張られていようと、その程度で屈する存在ではない。

 ただのブレードに戻った《雪片》で、自身を囲む分身を纏めて薙ぎ払う。

 

「斬り放題だ! 心が踊る!」

「……イカレてるって言われたこと無いカイ?」

「生まれる時代を間違えてるとは言われたなぁ!」

 

 学生時代。一般人から微妙に距離を取られていた頃を思い出しながら剣を振り続ける。普段の凛とした大人の姿とはまるで違う、まるで戦闘狂だ。

 だが、そんな戦闘狂に執着するアリーシャもまた同類と言えるだろう。

 

「そうらもっと速くだ! いけるだろ!」

「だったらお望みどおり、今度こそ最高速(マックススピード)サ!」

 

 そしてアリーシャの速度は限界へ達し、本体と分身の速度はISでも捉えきれない域へ。

 本体、風の分身、本体の残像、分身の残像。出鱈目なスピードが為せる四種のアリーシャが千冬に襲いかかる。

 無数の像に惑わされ、もはや回避は不可能。目に見えて【暮桜】の装甲に傷が増えてゆく。

 

「はははっ……目で追えん。ここまでとは──」

「もう落とす気はないよっ! これでどうだっ!」

「──なら、見るのは止めるか」

「は──ぐぁっ!?」

「よし当たった」

 

 『見るのは止める』と言う言葉がアリーシャの耳に入った瞬間。本体の装甲に深く斬撃が通る。

 目で追えず、残像の区別すらつかないはずのこの状況で、的確に本体。捉えたこの一撃。一体何をしたのか。

 

「目を、閉じてる……」

「む、止まった……気づいたな? まあそういうことだ」

「ほんっと、めちゃくちゃだネ……!」

「ふふん。達人っぽくていいだろう」

 

 目を閉じる。正確にはISの視覚関連の補助を全て断ち、それ以外の全ての感覚に頼るということ。

 心の目、心眼とも言うべきか。聴覚、嗅覚、触覚。さらに予測を交えてこの反撃を実現した。

 

「そんな漫画(コミック)みたいな解決法がっ……!」

「教え子に勧められて読んだのを思い出したんだが……意外と馬鹿にできないものだな」

「え、マジで漫画……?」

 

 当たり前だが、心眼なんて物はそう簡単なことではない。視覚を断った分それ以外の感覚が鋭くなるとはよく言われるが、一般人がいきなりそうしたからと言って得られる変化は微々たるもの。

 例えば特殊な訓練を受けていたり、生まれつき或いは幼い頃からそうしているなら常人離れした感覚を備えてもおかしくはない。しかし、この場で突然目を閉じたからといってここまで変わるなんてことはありえないのだ。

 ただしそれは普通なら。

 

「だったらこれならっ!」

「──ここだっ!」

「なっ、ぁぐっ!」

 

 だが千冬なら、人間を超えるために造られた織斑千冬ならそれができる。暴風に飲み込まれた本体の出す音と気配を感じ取ることが。

 

「ぅ……エネルギーが……」

「『零落白夜』を使った。刃が当たる瞬間だけな。……さぁどうする? お前の本気はこれで終わりか?」

「っ……」

 

 『零落白夜』によって強制的に絶対防御を発動し、大幅にシールドエネルギーが減らされたアリーシャ。今すぐ強制解除されるほどではないが、もしもう一度あのエネルギー無効化の斬撃が擦りでもすれば、即座に敗北が決定するだろう。

 

「……っぐ、ぅぅ……」

 

 ……だが敗北が見えているのは、相手も同じ。

 すれ違いざま。刃が触れて絶対防御が発動した瞬間。完全に攻撃の体勢となった千冬にアリーシャは、咄嗟に風のナイフを作れただけ刺していた。

 咄嗟ゆえ一本一本は小さく、攻撃力にも乏しい。しかしあれだけの数を一度に食らえば、堪らず膝をつくこともあるだろう。

 

「踏み込みが深すぎたか……いや、そこまで読んでいたか?」

「ヘヘッ、達人っぽくていいだろう?」

「こいつ……!」

 

 いくら解答を見つけられたからといって、そのままやられるわけにはいかない。何よりさっきの意趣返しをしておきたかった。

 

「でも……うん。そろそろ、だネ」

「ああ……残念ながら」

 

 意趣返しも済んだところで、二人きりの決勝戦も残りわずか。アリーシャの人生で最も幸福で、千冬の人生で最も血沸く時が終わる。

 

「千冬! 貴女に見せたい技がある。あの日──決勝戦で使うはずだった、とっておきの最強の技が!」

「随分と大きく出たじゃないか。ハッタリのつもりか?」

「そんなので臆すような女じゃないでしょう? これは最後の宣戦布告。私の最強をぶつけてやるっていうネ」

「……ふふ、いいだろう。受けて立つっ!」

 

 『世界最強(ブリュンヒルデ)』の名を背負う者として、この宣戦布告に応じない理由などない。

 

「さあいくよっ! これが正真正銘、最後で最強の(テンペスタ)だっ!!」

「……来いっ!」

 

 アリーシャ(挑戦者)の全力は、己の全力をもって斬り伏せる。

 《雪片》を握る右手に力が篭った。

 

 

「──『(calma)』」

「……?」

 

 

 アリーシャが鉄の右腕を掲げる。すると『疾駆する嵐』が解除され、一瞬にして辺りが無風となった。

 

「『そよ風(brezza)』」

「!」

 

 弱い、しかし明らかに自然のものではないそよ風が吹き始める。

 

「『突風(folata)』『旋風(turbine)』『竜巻(tornado)』──」

 

 そよ風は突風へ、突風は旋風へ。旋風は竜巻となって大気を巻き上げ、掲げられた右腕の先に集まっていく。

 

「──『(tempesta)』」

「……!!」

 

 そして竜巻は、嵐となった。

 

 

「『疾駆する嵐(アーリィ・テンペスト)龍槍無尽(ジャヴェロット・デル・ドラーゴ)』ッ!!」

 

 

 右腕を振り下ろす、と同時に解き放たれた大気が龍のごときうねりを起こして襲いかかる。

 

「っ──これは……」

「さぁどうだ! 超えられるものなら超えてみろ! 

 織斑千冬(世界最強)!!」

 

 凄まじい回転と出鱈目な軌道で迫る風の龍。その一つ一つが絶対防御の上から容易に風穴を開ける威力を持つ。

 

「──ははっ」

 

 そんなアリーシャの『最強』を前に、千冬は笑った。

 ただしその笑みは諦めではなく、この窮地の中に勝機を見出したが故だった。

 

「……ふぅ」

 

 《雪片》を納刀。柄に右手を、鞘に左手を添え、姿勢は低く。

 最後に余計な力と共に短く息を吐いて、構えが完成する。

 

「参る」

「──!」

 

 構えを維持したまま推進器(スラスター)を全開、放出したエネルギーを一度内部へ取り込んで圧縮・再放出。そうして得られた慣性エネルギーによって爆発的加速を行う。

 つまりは千冬の十八番、『瞬時加速』だ。

 

「直進だとっ!?」

 

 圧倒的加速度のまま千冬が突入したのは今なお荒れ狂う暴風の槍の発生源。

 中は嵐のように大気が吹き荒れる極限の場所。生身であれば──いやISを纏っていようとも、瞬時にバラバラにされることは必至。

 そのはずだった。

 

「……はぁぁぁぁっっ!!!」

「嘘っ!?」

 

 一瞬だった。全てを破壊するはずの嵐から飛び出した千冬は、全身ズタズタになりながらも固く握りしめた《雪片》を抜刀する。

 白く輝いた刀身が、アリーシャの瞳に映った。

 

「──あ……」

「『零落っ……白夜』っ!!!」

 

 一閃、そして。

 

 

 

 

 

「……負けちゃったのサ」

「勝ってしまったなぁ?」

「こいつ……!」

 

 全てのエネルギーを刈り取られ、生身で横たわるアリーシャと、その横で【暮桜】を纏ったまま立つ千冬。誰が見ても勝敗は明らかだ。

 ただしアリーシャは絶対防御と搭乗者保護によりほぼ無傷で、千冬は全身血塗れの傷だらけ、更に【暮桜】もスクラップと見分けがつかないほどボロボロだが。

 

「どうやって、アレを突破した? まず間違いなくバラバラにできる威力だったのに……」

「あぁ、確かにあの風は凄まじかった。だがほんの一点、ちょうど私が通り抜けられるかどうかという大きさの穴があった。その穴が消える前に全速力で突入して、そのまま抜けたんだ。それでもこの有様だがな」

「完璧だと思ったんだけどなぁ、詰めが甘かったか……」

 

 極々小さな、相手が千冬でなければ考える必要もないミス。その一点が勝敗を分けた。

 もしその穴に気付いていれば、いや気付いたところであれ以上の風を起こせたか……きっと無理だ。

 

「……ねぇ、もう一つ聞いていいかい」

「……何だ?」

 

 負けは認めた。それでも最後に一つ、これだけは聞いておかなければならない。そのために今日という日があったのだから。

 

「私は、強かった?」

「……あぁ、お前は強い。この世界最強(わたし)が保証する」

「……そっか、そっかぁ……!」

 

 好敵手に、憧れに、最強に認められた。それだけで全て報われた気がした。

 

「それとあれだ。全て終わったら、また挑みに来い」

「……いいのかい? 私を捕まえなくて」

「なんのことだか。たった今私たちはとんでもなく強い無人機と戦って、激戦の果てにうっかりそいつを消し飛ばしてしまっただけだろう?」

「無茶がないかい? ……ふふっ」

 

 また挑みに来いと言っておいてそれか。あまりにも雑な口裏合わせ(カバーストーリー)に困惑しつつ、思わぬ自由といつかの誘いに笑みが溢れる。

 

「……次こそ私が勝つ、首洗って待っとくのサ!」

「いつでも受けて立とう……あと片付け手伝え。あいつらが帰ってくる前に済ませないと誤魔化しきれんからな。今確認したら着信三桁来てた」

「えっ」

 

 

 

 

 

 廃墟の最下層に黒くドロドロしたものが広がっていく。繭から流れ出るそれは未だに途切れる様子はなく、床一面を覆い尽くそうとしていた。

 

「なんっだこの液体!?」

「九十九! お前の時もこんなのが出てきたのか!?」

「んなわけねーだろ! とにかく絶対触るなよ!』

 

 まだ解析の途中だが、結果を見るまでもなくこの液体がヤバイものであることは察しがつく。ついでにこれの正体も、生み出しているあいつがどうなっているのかも。

 

「っと解析完了……あー、やっぱりそうか』

 

 解析結果に目を通し、概ね予想が的中していたことを知る。全く嬉しくはないんだが。

 

「何かわかったのか?」

「ああ丸わかりだ。これにはあの大鎌についてたナノマシンと同じ機能──つまり、シールドバリアの強制破壊機能がついてる』

「……マジ?」

「マジ。あとこれ楯無先輩の水同様自在に動かせるらしい』

「おいそれってつまりうおわぁっ!?」

 

 説明した側から足元の液体が変形、針のような鋭さで襲いかかる。

 すんでのところで回避した一夏だが、既にこの液体は床一面に広がってしまった以上、安全地帯はないと言っていいだろう。

 そしておそらくは、床以外にも。

 

「な、なぁ。あちこちから変な音しないか……?」

「言われてみれば……もしかして」

「うわやっば』

 

 妹様が気づいたこの音、まるで圧力をかけて硬いものを押し潰すような音は気のせいではない。

 床から壁、天井に液体を行き渡らせ、この階層ごと俺たちを押し潰そうとしている。猶予は僅か、説明する時間は──ないな。

 

「一夏っ! 篠ノ之さんっ! ちょっと固まってくれ!』

「え? こ、こうか?」

「わわわっ」

「OK。それじゃあ……すまん!』

「「えっちょっとうわぁぁぁぁ!?」」

 

 別にそこまで言ってないのに密着した二人を引っ掴み、まだ液体が潜んでいない比較的脆そうな壁に向かって投げつける。

 ここが地下でなくてよかった。もし地下だったら詰んでいたな。

 

「何をする──って九十九! 上見ろ上!」

「大丈夫、わかってる』

 

 妹様が指差す先、俺の真上から垂れる黒い刃。もう天井まできてたか。一瞬遅れてたらアウトだったな。

 

「だからお前らを逃したんだ──ここをぶっ壊すためにな』

「! 伏せろ箒!」

「……《Bonbardier》、最大出力!』

 

 がちり。と真上に向けた右腕が音を立て、爆風が廃墟を突き抜ける。その衝撃は全ての壁と天井を破壊し、見事な瓦礫の山を築いた。

 

「これはまた派手にやったな……」

「と、透? 生きてるか?」

「生きてるよっ……けどやっぱり、これぐらいじゃダメかぁ……』

 

 真上に向けた狙い通り、俺に当たる瓦礫は最小限で済んだ。それもシールドバリアならほとんど消耗なく防げるレベルで、軽くセンサーが乱れたぐらい。

 しかし瓦礫の直撃が少ないのは敵も同じ。むしろこの衝撃で完全に繭が割れ、その変異した全体像を露わにしていた。

 

「う゛あ゛、ううう……」

「うっ……なんだアレは……」

「昔あんなやつ映画で見たな……」

 

 あちこちに泥のように液体がへばりついた醜い姿。とても形態移行をした後とは思えない。

 

「あーあ。やっぱり()()してたか……』

「失敗って?」

「言葉通りの意味だよ。こいつは形態移行に失敗した。ごちゃごちゃした理屈は省くが一言で表すなら……『器』じゃなかったってところだな』

 

 俺が二次移行した時は、病的なまでの生への執着と、ほんの少し──うん、ほんの少しだけ先輩と簪を助けたいという思いで一杯だった。

 生きるためにありったけかき集めて、この《Bug-VenoMillion》を生み出した。

 だがこいつはどうだ、俺たちへの殺意はほとんど束様によって植え付けられたもの。自我すらもあやふやで、形態移行の引き金(トリガー)はみっともなく逃げた先でまた束様によって強制的に取り込ませられた無人機の残骸。コアごと取り込んだかそうでないかも影響しているのかもしれないし、数が多すぎたことも無視はできない。

 だがやはり、最終的な原因は……『器』でなかったことに尽きるだろう。運命は意思の弱いものを選ばないのだ。

 

「ゔぁぁう……ギ、ぐグ……」

 

 苦悶の声を上げ、ぐねぐねと身をよじる姿はまるで芋虫のよう。羽化しても幼虫とは、本当に失敗らしい。

 

「あんな状態じゃいつまで動けるかな。きっと中身の負担は相当だろうに』

「ちょっと待て、それじゃあいつの命が危険ってことか!?」

「その通りだが? 何を今更心配するような言い方を』

「ダメだそんなのっ!」

 

 こいつは最初からずーっと敵だ。命を狙って、散々こちらに害を為してきた。かける情なんてないだろう。

 

「いくら敵でも、目の前で消えそうな命を放っておける訳ないだろ!」

「おいおい、本気で助ける気かよ……』

「……私も助ける。もう二度と、誰かを見捨てるわけにはいかないからな」

「篠ノ之さんまで……はぁ』

 

 二人揃って情の厚いことだ。ついさっき俺に助けられたこと忘れてんじゃないだろうな……。

 仕方ない。

 

「わかった協力する! これでいいんだろもう!』

「ありがとう透! 恩に着る!」

「勘違いすんな! そうしないと戦わねーだろお前ら! クソが!』

「それでもだ。ありがとう、九十九」

「……ちっ』

 

 別に俺だって、好き好んで殺したいとは思ってないしな。

 

「オ゛オ゛ウ゛ウ゛……グアアアァァァ!!!」

「じゃあどうすりゃいいか教えてやるよ! 本体避けながら攻撃してコアぶっこ抜け! 以上!』

「雑すぎないか!?」

「うるせぇ馬鹿! やるかやんねぇかどっちだ!』

「「やる!!」」

 

 全力で殺しにくる敵『を』、殺さないように助け出す。明らかに矛盾した人命救助(時間制限付き)が始まった。

 

 

 

 

 

第53話「最強・不全」

 

 

 

 




 ユウジョウ!
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